【完結】とある再起の四月馬鹿(メガロマニア) Ⅱ   作:家葉 テイク

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第一章 未だ恋路の途中 Normal_End.
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   第一章 未だ恋路の途中

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 ふと気付くと、そこは倉庫の一室だった。

 反射的に己の身を見てみると……流石に牛柄ビキニ、ではなかったが、何やら良く分からない制服のようなものを身に纏っていた。……というか……これは、修道服か?

 

 

《今度はコスプレではなさそうですわね……》

 

 

 同じく現状を確認したらしきレイシアちゃんの言葉に、俺も内心で頷く。

 なんというか、生地の感じとか『着慣れ具合』が違うのだ。たぶんこの世界の俺達は、この服をよく着用しているのだろう。だが、そうなるとさらなる疑問が生まれる。この世界の俺達はいったいどうして、こんなコスプレとしか思えない衣装を常用しているのか──

 

 

『それはまぁ、()達、一応必要悪の教会(ネセサリウス)の一員だからね』

 

 

 そんな俺の思索に答えを出したのは、やはりというべきか、『もう一人の』……いや、『この時代の俺』だった。

 いやいやいや、なんとなく分かるんだよ。この身体、俺達の時代のレイシアちゃんよりもちょっとだけ成長してるしさ。主に身長と、胸が。

 

 

『自己紹介しよっか。私は必要悪の教会(ネセサリウス)女子寮・寮長のシレン=ブラックガード』

 

『で、わたくしが必要悪の教会(ネセサリウス)女子寮・総味見係長のレイシア=ブラックガードですわ』

 

 

 …………総味見係長とかいう胡乱極まりない肩書はさておくとして。

 そっか、うん。いやいやいや、この時代の俺は、もう完全に()()生きる決心を固めてるのね。

 

 

『あーっ! あーっあーっ! あっちのシレンも無視しましたわ!? シレン! あっちのシレンてば、わたくしの打ち頃超どストレートボケを見送りましたわよ!!』

 

『レイシアちゃんのボケはいちいち危険球だからなぁ……』

 

「あの」

 

 

 このままだと無限にコントを始めそうだと判断した俺は、二人のやりとりを遮るように声を上げる。

 とにかく今必要なのは、現状が『何が起きているどういう状況下なのか』、だ。……俺達に起きていることという意味でもそうだが、それよりもまず『この時代で何が起きているのか』を把握する必要がある。

 まぁ、この時代の俺達が魔術サイドに行ったというのは分かるが……。

 

 

『あ~、ごめんごめん。まずはこっちの用事を終わらせないとね。儀式場の準備はできたし、レイシアちゃん、体の方に。術式の制御は私がやるから』

 

『了解ですわ、っと』

 

 

 スウ、とこの時代のレイシアちゃんが俺達の身体に入り込むと、体の制御がそちらの方に移る。

 特に抵抗する気もないのでするがままにしていると──

 

 ズズン、と。

 地面に『亀裂』が走ると同時に、そこから間隙を補強するように巨大な古めかしい剣が()()()()()()()

 

 

()()()()()()()

 

裂跡は即ち斬撃の証(ACIAPOS)斬撃は即ち振るう剣の証(SIAPOAS)

 

 

 透き通るような剣の幻は、詠唱に伴ってまるで絵具が塗りたくられるように存在感を増していく。

 

 

火のないところに煙は立たず(SDNRATFP)因って裂跡在るところに剣は在り(IOWTIAWATPWSIH)

 

「聖剣抜出・フラガラッハ」

 

 

 そして気が付くと、『それ』は錯覚ではなくなっていた。

 現れた聖剣・フラガラッハはいつの間にか完全に『実物』となっていて、この時代のレイシアちゃんがそれを重みを感じさせない動作で振るう。

 ブゥン、軽々しく大剣を振り回したこの時代のレイシアちゃんは、そのままハンマー投げみたいな調子で剣を投げてしまう。普通なら、そのまま一メートルも飛ばなさそうな大剣だが──予想に反して、剣は大リーガーの投球のような速度を保ったまま空の向こうへと消えて行った。

 …………何アレ?

 

 

「フラガラッハは便利な剣ですわ。投げれば敵を自動的に切りつけに行く逸話とかありますし。まあ、アレは致命傷を与えないようなストッパーがあるのでそこまで豪快な攻撃にはなりませんが……純度で言えば国宝クラスですし、まぁ並みの魔術師なら戦闘不能でしょう」

 

《いや……え……?》

 

 

 お、思った以上に本格的な魔術だった……。

 何それ、そういうの一から構築したの? 俺達が? 将来的に? ……まじでぇ?

 

 

「なんですのー? わたくしが魔術を使うのがそんなに不思議ですのー? ……わたくし達、これでも一応プロの魔術師でしてよ? 第三次世界大戦も、グレムリンも、魔神軍団も、上里勢力も、その先の事件も……いろんな魔術サイドの大事件を潜り抜けて、魔道図書館たるインデックスの薫陶まで受けてるんですもの。そんじょそこらの魔術師とは格が違いましてよ!!」

 

『……ふー。着弾確認。あとは現地に潜入してる当麻さんが敵術師を連行してからこちらに来るらしいから、私達はそれまで暇だね』

 

 おそらく何らかの術式で本部と通信していたらしきこの時代の俺がそう言って、身体から抜け出たこの時代のレイシアちゃんが話を引き継ぐ。

 

『では、それまでお二人の話を聞かせてもらいましょうか? いったいどの時系列から、どういう術式でこの時代までやってきたのか、とか』

 

 

 

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 といっても、話せることは殆どなかった。

 俺達自身が、自分たちが置かれている状況を把握できていないのだから当然だが……。

 現状分かっていることと言えば、気づいたら第三次大戦後の未来にやってきていて、ある程度話していたら次はこの時代に移動した、ということ。

 いずれの場合も俺達はその時代の『レイシア=ブラックガード』の肉体の中に移動してきていて、幽体離脱(アストラルフライト)とやらはしていない。

 移動前の記憶については曖昧だが、少なくとも九月中だったことは覚えている。

 ……というくらいだ。正直、これらの情報から何かが分かるとも思えない。

 

 

『ん~……これはたぶん、長丁場になりそうですわねぇ』

 

 

 一通りの話を終えた後、この時代のレイシアちゃんはそう言って腕を組んでしまった。

 現状は当麻さんの合流待ちらしく、倉庫の中の俺達はこの時代のレイシアちゃんの身体の中にいる俺とレイシアちゃん、そして例によって浮遊霊状態のこの時代の俺とこの時代のレイシアちゃんの三人で話をしていた。

 

 

『たぶん、わたくし達の時代では決着がつかなさそうです。割り切ってこのターンでは移動の条件を探ってみますか?』

 

『一番ありそうなのは、時間の経過だね。その場合、間隔はだいたい五分から一〇分くらいか……。せっかくだし、この時代の思い出話でも話して時間をつぶそうか?』

 

「わたくしそれが一番聞きたいですわね。何がどうなって魔術師になったりなんてしてるんですの? ……それと、当麻との関係は?」

 

 

 軽い感じで提案したこの時代の俺の言葉に、レイシアちゃんはノリノリで応じていた。危機感のない……いやまぁ俺も気になるけどさ。この時代の俺達の状況。

 

『どうどう、昔のレイシアちゃん。ちゃんと説明するからね。ええと……まず、当麻さんは卒業後、必要悪の教会(ネセサリウス)に就職しました』

 

「……初手で大分レアなルートに入った感がありますわね。いや、薄々分かってはいましたけど」

 

『……色々とあったんだよ。で、私達は後を追う為に中卒で必要悪の教会(ネセサリウス)の特別編入試験を受けたんだ。それがこの間の話で、無事合格したあと幾つか任務をこなしているのが今の状況。ちなみに私は今一六歳』

 

 

 一六歳! ってことは、俺達の時代から今はだいたい二年後か。この間の『第三次世界大戦後』から大分時間が飛んだなー。

 ………………って特別編入試験!? そんなのあるんだ!?

 

 

必要悪の教会(ネセサリウス)に入ろうって決めた時には既に幽体離脱(アストラルフライト)も使えたし、レイシアちゃんはまだ学生生活を楽しみたいだろうから、最初は俺一人で行くって提案したんだけどね……。まーそのことで大喧嘩しちゃって』

 

「えぇ……そうなんですの」「まぁそりゃ大喧嘩しますわね。というか、わたくしが激怒しますわね」「えっ!」

 

 

 げ、激怒……? そりゃあ、何の相談もなくこれから別の道を歩みましょう的なこと言ったらブチギレられると思うけども……。

 

 

『……あの時言われた言葉は、今も私にとっては大切な宝物なんだよね。ま、君達も私達と同じ未来を辿るならいずれ分かると思うよ。察しの悪い昔の私はともかく、察しの良い昔のレイシアちゃんはなんて言ったか何となく分かってると思うけど』

 

 

 うぐ……。未来の自分にまでディスられるとは。

 でも俺だってそこまで察しは悪くないと思うんだよなぁ……?

 

 

『そういうわけで、今当麻さんとの恋路を争ってるのは、私達とインデックスの二人だけ。インデックスとはお互いに恋敵として意識してるけど、仲はいいよ。女子寮だと同室だし。そもそもイギリス清教に来ようって誘ってくれたのインデックスだし』

 

「えっ、インデックスが!?」

 

 

 それはちょっと意外だった。いや、でも何となく分かる気がするな。インデックスってそういうこと言いそうな気がする。

 ……いやいやいや、しかしこうやって話を聞いてみると、意外と突飛な可能性でもないというか、むしろ順当な可能性のような気がしてくるから不思議だ。

 これから先、上条さんはどんどん魔術サイドでの地位を築いていくし、イギリス清教との関係次第ではそういう未来もあるかもしれない。まぁ、アレイスターが生きている限りそんなことは許さないと思うけどね。

 

 

「……それにしても、もうすっかり覚悟は決めていらっしゃるんですね」

 

 

 気づけば、俺はそんなことを言っていた。

 

 

「わたくしは正直、まだ自分の気持ちを掴みかねているのですが……。アナタはきちんと見つけられたんですのね。……いや、きちんとアナタの中にそれはあったんですのね」

 

『あ、勘違いしないでね。昔の私』

 

 

 そこで、この時代の俺はぴっと手を前に突き出して俺のことを制止する。

 

 

『これは別に、私の心の中に最初からあったわけじゃない。これから君が、いろんな事件を経ていく中で「育てて」いったものなんだ。別に今の君の中に既にあるものじゃない。……当時のレイシアちゃんもそのへん勘違いしてたみたいだけどさ』

 

『いやぁあああ~~~~勘違いではなかったですわよ? まぁシレンの自意識としてはそうだったのかもしれないですが……』

 

 

 そこからは、この時代の俺とこの時代のレイシアちゃんの言い争いだった。

 なんというか……この時代の俺達は、けっこうぶつかり合うことが多いようだ。そしてレイシアちゃんのテンションがけっこう高い。

 この先時を経て行けば俺達もそうなるのか……いや、この場合は、この時代の俺達が経験したという『大喧嘩』が影響していると考えるべきか。

 確かに今の俺達とこの時代の俺達は同じ『レイシア=ブラックガード』だけど……全く同じ経験を持っているわけでもないしね。

 

「……わたくし達も、あんな風になれるかしら」「わたくしはあそこまでギャースカ喚くような品性のない女にはなりたくありませんわね」

 

 レイシアちゃんそれはもう遅いと思うよ……。

 

 と、そこで不意に、倉庫の外から足音が聞こえてきた。呼応するように言い争いをしていた二人が言葉を止め、そして一斉に振り返る。

 

 

『当麻さん!』

 

 

 ──その一言が出た瞬間。

 

 また、世界が歪む。

 倉庫の風景がぐちゃぐちゃにかき回された水彩絵の具のように歪み、目の前の物質すらも不確かになる空間で、途切れ途切れになったこの時代のレイシアちゃんの声だけが聞こえてきた。

 

 

『──り────神契(アデスプロ)──となる────は──身か────』

 

 

 ────。

 

 

 


 

 

 

 倉庫内部。

 

 戻ってきた上条当麻を出迎えたレイシアとシレンは、操作権を戻した肉体の中で互いに会話を続ける。

 ほかの可能性のレイシアとシレンでは不可能な、プロの魔術師となった二人だからこそ分かる推察を。

 

 

《……過去から意識を飛ばされたのだとしたら、わたくし達がこの時系列に残っているのはおかしいですわね》

 

 

 預言書の理論というのは、つまるところ未来からの干渉である。

 原理としては『現代』にある術式の核が、取得した情報を『過去』に送るというもの。つまり、預言書というのは『現代から見て未来の情報を獲得した書物』ではなく、『現代から見て現代の情報を過去に送る霊装』なのである。

 ただ、これは意味のないことだが、この理論を応用すれば『過去の情報を未来に送る』ことも当然可能なわけである。この場合は未来予知の効果は生まず、単に過去の情報を(しかも仕掛けた時点以降の情報のみ)獲得できるタイムカプセルでしかないが。

 この時代のレイシアは最初、そのたぐいの術式であることを疑った。

 しかし、その場合は移動先にある『レイシアとシレンの魂』も別の時系列に飛ばされていないとおかしい。御使墜し(エンゼルフォール)と同じである。本来存在しないものが現れると、その分の混乱が発生するのである。

 

 今回は、それがなかった。

 

 魔術の専門家となったこの時代のシレンは、それでも首をかしげならこう返した。

 

 

《単なる預言書の理論とは別種の法則が働いているのかな……?》

 

 

 もっとも、『単なる魔術のプロ』には、その程度しか分からないのだが。





■異世界のシレイシア図鑑①
レイシア=ブラックガード(魔術師)
 一六歳。高校卒業と同時にイギリス清教に就職した上条当麻についていく為に学園都市を出たレイシア。最終学歴は中卒であり、そのこととイジるとムキになる。
 ヒロインレースはインデックスとのサシ状態。ただし関係性は良好であり、女子寮では同室。この世界線のシレイシアはインデックスとのハーレムルートももしかしたらあるかもしれない。
 幽体離脱(アストラルフライト)を利用することで魔術も使用可能になっているらしい。
聖剣術式
 やっていることはアレイスターの霊的けたぐりとマリアンの戦乱の剣(ダインスレーヴ)の複合のようなもの。
 『亀裂』という結果を補助としたパントマイムにより、見る者に『聖剣』を連想させ、好きな聖剣を具現化させる。この際、実際には補助の『亀裂』の際に位相にも切れ目を入れて異世界の力の塊を溢れ出させており、それをパントマイムによって相手にイメージさせた『型』に流し込んでいる。
 つまり術式の主体は『型』をイメージした本人であるため、術者たるレイシアは能力者魔術使用のペナルティを受けずに済む。
 もちろん相手がイメージを正しく受け取れなければ成立しないのだが、シレイシア(魔術師)はこの『観測役』をシレン(霊体)がやることにより、『相手がいないところでフラガラッハ等遠隔攻撃可能な聖剣を生み出して一方的に攻撃する』などのマンチ戦法を好む。もちろん下準備を下っ端に任せた上で近接戦闘用の聖剣を扱うこともできる。
 戦乱の剣(ダインスレーヴ)同様に位相を切断しているので事前に結界で空間を区切らないと御使堕し(エンゼルフォール)レベルの怪現象が発生してしまうほか、パントマイムの精度が低いと『型』に上手くエネルギーが流れず、行き場を失ったエネルギーの塊が暴走する危険もあるヤバい術式。
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