【完結】とある再起の四月馬鹿(メガロマニア) Ⅱ   作:家葉 テイク

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 ふと気付くと、今度はアパートの一室だった。

 この時代の俺達の自宅──ではないだろう。ざっと見た感じ男物の調度品が多いし、僅かに男性用の制汗剤の匂いがする。レイシアちゃんはこういう制汗剤はあまり好まないので、この家の家主が使っているのだろう。

 

 

「……ええと、この時代のわたくし達はどちらに? いらっしゃいますわよね?」

 

 

 もう慣れたもので、俺が状況把握をしている間にレイシアちゃんはこの時代の俺達に呼び掛けていた。

 程なくして、すっと横合いから二人の霊体──この時代の俺とレイシアちゃんが現れた。

 

 

『随分と手馴れているね。これで三、四回目くらいといったところかな?』

 

『まったく、なんなんですの急に。で、何年前から来ましたの?』

 

 

 ……は、話が異常に早い!!

 

 

『簡単な推論だよ』

 

 

 この時代の俺──というにはちょっと知能レベルが高すぎる気がする──は本当に簡単そうに言って、

 

 

『開口一番にそちらのレイシアちゃんは「この時代」と言った。つまり比較対象である「別の時代」を知っているってことだ。続いて「いらっしゃいますわよね?」と聞いたけど、「いるだろう」と思いつつも言葉に自信がなさげなのは、存在は確信しているがそのセオリーは知らない、という人間の言動だからね。たぶん何回か時間旅行を経験してるんだろうなって』

 

「完璧に当たってますわ……」

 

 

 なんだなんだ、この時代の俺は探偵にでもなったんだろうか。

 

 

『あとはまぁ、言動の幼さから言って過去の時代だろうな──とレイシアちゃんは考えたんだと思うよ』

 

『そんなところですわ。あと、わたくし達現役大学生なので探偵ではなくってよ』

 

「大学生!」

 

 

 そっかー、大学行った場合のルートなんだねこっちは。今なんかナチュラルに思考を読まれた気がするけど気にしないぞ。

 っていうか、大学行くだけでここまでインテリジェントになる俺も凄いと思うが……。

 

 

『正確には実業家兼大学生、ね。それで、次の時代に移動するための条件とかも教えてもらっていいかな? それともまだ条件までは掴めてない?』

 

「……後者が正解ですわ」

 

 

 俺は正直に答えた。

 しかし、実業家兼大学生かぁ……。なんか凄い、『いそう』なラインの肩書になってるなあこの時代の俺達。めちゃくちゃ頭が回る実業家でお嬢様で二重人格の、大学生。うむ、なんかとってもラノベっぽい肩書だ。

 

 

「前の時代では時間経過の線を考えたのですが、まだケース数が足りなくてなんとも言えないんですの。前回と前々回、長くとも三〇分くらいで時間が来てはいますが、微妙に経過時間にもばらつきがありますし」

 

『うーん、これは私達の時代も含めて、あと一回くらいは移動を挟む必要があるかなあ』

 

「……ああ、そうですわ! 今までの時代の共通点。すべての時代で、『その時代の現状』を聞かせてもらった直後に移動が始まっていたような」

 

 

 ふと気付いて俺がそう言うと、二人は渋い顔をしてみせた。あんまり自分語りをしたくない……というよりは、これは……。

 

 

『……明らかに人為的な干渉。ってことは何らかの条件で作動しているのではなく、自由な条件で時間旅行を発動可能な「何者か」が黒幕ってことではありませんの……』

 

『無用な知恵を与えようとしているはずの私達が排除されていない以上、こちらの干渉は歯牙にもかけていないか、干渉の結果すらも呑み込める自信があるか……。一番困るのはこうして私達と交流を重ねることが黒幕にとって予定通りって線だけど』

 

「その手の黒幕はだいたいその予定通りで余裕ぶっこいた結果大逆転されるから問題ないのではなくて?」

 

『そこでコケるのはアレイスターのアホくらいでしてよ』

 

 

 あ、アレイスターをアホ呼ばわり……。やっぱり伊達に四年経ってないな。

 

 

『君達もあと三か月もする頃にはボロクソにアレイスターのことを叩き始めると思うよ。……ともかく、そうなると私達の時代の現状を説明した方がいいね。……ええと、まず、学園都市は解体されました』

 

「はァ!?!?!?!?」

 

 

 学園都市が!? いったいどうして!?

 いやどうやって!? あそこから解体するの、もう日本が爆発四散しない限り不可能でしょ!!

 

 

『なぜ……と言われても、アレイスターが学園都市の外に出て、自分で学園都市をぶっ潰したのですわ。学園都市の技術は幾つかの研究所に分散されて管理され、管理しきれなくなった技術は世界中にばら撒かれました。例えば──『木原』とか。……アレは軽めに世界の危機ってヤツでしたわよ』

 

 

 せ、世界のジャンルがなんか違う……。

 魔術師だった世界も大概だったけど、こっちはこう、なんかクライムサスペンス的な雰囲気にいろいろとコンバートされてる。俺達の未来、ほんとなんでもありだな……。

 

 

『とはいえ、世界の勢力図自体はあまり変わらないけどね。アレイスターはもちろん健在だし(まぁ借金地獄に追いやってやったけど)、今の世界の実力者の大半は「学園都市出身」だ。私達含めてね』

 

「へぇ……。で、当麻とはどうなっていますの? もうフラれました?」

 

『まさか! むしろインデックスと美琴が離脱しましたわ』

 

 

 え……そこが落ちるんだ。

 

 

『当麻さんは今大学三年生だからね。ぼちぼち就職活動を始めるかってところで、私は今その件でバトル中なんだ』

 

「…………バトル?」

 

『操祈さんとね。あの子もまだ確か当麻さんにフラれてなかったはずだから。私達はお互いに当麻さんが就職したい企業を立ち上げて、当麻さんを新入社員として囲い込もうとしてるってわけ』

 

「スケールが違いますわ……」

 

 

 こっちの俺達はなんかこう、魔術とか、世界の秘密とかからは縁遠そうなルートだけど……代わりに人間力的なものが桁外れになってる気がする。

 正直、俺達の時代からこっちに地続きになってる未来が見えないんだけど……まぁ、自分の術式を一から構築している魔術師の未来も大概か。

 

 

『いやいや、ほかの並行世界があるとして、私達と違う未来を歩んだ「私達」がいたとしたら、多分「最弱」は私達だと思うよ。もう前線で戦ったのだって何年前だって話だし。一分も全力で走ったらたぶん息があがっちゃうだろうね』

 

 

 この時代の俺はのほほんと笑うが、その表情に自嘲の色はなかった。……まぁ、そりゃそうだろう。だってこの時代の俺達は、『そういうの』とは違うステージで戦う道を選んだのだから。

 おそらくは……此処にはいないツンツン頭の少年のために。

 まぁ実際、過去の自分とはいえここまで俺達の考えてることを先読みできるような心理学的知見を持ってるなら、運動能力や戦闘能力が仮に弱っていたとしても、口先だけで大分上の方まで食い込めるんじゃないかなって思うし。雲川さんだって心理的誘導だけで土御門をかなり危ういとこまで追い詰めてたもんね。

 

 

『………………』

 

 

 そこで、急にこの時代の俺は黙り込んでしまった。

 あたりを見渡したり、俺達の眼を見たり……何だろう?

 

 

『……()()、起こりませんわね』

 

「あっ!」

 

 

 言われて、俺はようやく気付いた。

 そうだった……そもそも、当初の推測では『敵が身の上話をほどほどのところで切り上げて移動を開始する』っていう説が有力だったんだった。ここまでいろいろと話されたら、流石に移動を開始させようとするんじゃないだろうか。

 

 

『…………そもそも、「前回」の移動のトリガーになった身の上話というのもそこまで重要だったのかな?』

 

 

 ……うーん、そこの価値は俺にも良く分かんないというか……。俺達には分からないけどそこの会話に何かしらのヒントがあった的な感じだったんじゃないかな……。

 

 

『……、今回の現象の犯人なんだけどね。魔術サイドにも科学サイドにもそこまで深く関わってない私には、テクノロジーの原理とかは分からない。でも、目星はなんとなくついてるんだよね』

 

「え、そうなんですの?」

 

 

 流石名探偵シレイシア……。俺達相手じゃなくてもその高い推理力は機能するんだ。

 

 

『(…………これも違うか)』

 

 

 この時代の俺はボソっと呟いて、

 

 

『といっても、具体的に絞れてるわけじゃないんだけどね。ただ……犯人の「能力」と「動機」を考えると、実行犯は君達にとって身近で、それでいて今まで一度も盤面に登場していない存在ということは分かる』

 

「……それって誰ですの?」

 

『さあ? 流石にそこまでは……。さっきも言ったけど具体的に絞れてるわけじゃないからね』

 

 

 ううむ……。身近で、しかも盤面に登場していない存在? そんな人物いないんじゃないかな……。

 

 

『……うーん、これでもないか。困ったなあ「そろそろ」だから時間がないんだけど』

 

「あら? もしかして取り込み中でしたの? でしたら用事を済ませるまで肉体はお返ししますけど」

 

『ああいや、そういうことじゃなくてね、』

 

 

 と。

 そこで、ガチャリと玄関のドアが開いた音がした。

 

 

「うおっ!? あー、シレイシア、また勝手に入ってきたのか? ご近所さんに誤解されるからやめてくれって言ってるだろー。……っつか、合鍵どうやって作ったんだ?」

 

『…………この家、当麻さんのお宅だからね』

 

 

 …………………………。

 

 あ、なんだか周囲の世界が歪んできたー。

 

 よかったー、この空間に居合わせずに済んでー。

 

 次の世界の俺達は、もうちょいまともだといいなー。

 

 

 


 

 

 ──その数分後。

 

 首から『私は家主に内緒で勝手に合鍵を作りました』という札を下げて寝室にて正座で反省中のシレンとレイシアは、心の中で互いに考察しあう。

 

 

《で、結局誰が原因になっていると思います?》

 

《そりゃあ分からないよ。私達の世界はもう世界の裏側に潜む真実とか、魔術の秘奥とか、そういうのからは縁遠いジャンルになっちゃったわけだし》

 

《その代わり社会に根を張る陰謀とかそういうのに特化しちゃいましたものねえ》

 

 

 科学の闇は、御坂美琴が。

 魔術の闇は、インデックスが。

 

 ずっと前に、そうしようと決めたのだ。

 上条当麻の隣を守れない代わりに、その周りの世界を守ろう、と。そして多分、この先彼の隣を奪い合う戦いに負けた方が、彼をありきたりな闇から守る役割を担うことになる。

 不幸な彼は、きっと『普通』の範疇を大きく超える厄介ごとに巻き込まれるだろうから。

 

 

《でも、何となく想像はできるよ》

 

 

 過去に恋敵たちと交わした約束に思いを馳せながら、シレンはさらに続ける。

 

 

「『臨神契約(ニアデスプロミス)』が本格稼働した私達に時間干渉を行える存在は限られるよね。さらに動機を考えるなら……」

 

 

 多分、それはないだろうと思いつつ。

 魔術にも科学にも精通していないド素人は、それでも当たり前の人間としての力で、真実に肉薄する。

 

 

「……普通なら有り得ない話だけど、()()()()()()





■異世界のシレイシア図鑑③
レイシア=ブラックガード(実業家)
 二〇歳。高校卒業後、大学進学と同時に実家を継いで実業家となったレイシア。
 実業家と言いつつ業務は自分が組んだAIに任せっきりで、だいたいの時間はFランダメ大学生となった上条当麻の家に入り浸るか、ライバル企業の社長である食蜂操祈と会食という名の牽制兼近況報告会を行っている。たまに上条の大学にも通う。
 ヒロインレースは食蜂操祈とのサシ状態となっており、インデックスと御坂美琴はそれぞれのサイドの闇から上条当麻の周りの世界を守る為に世界の裏側で奮闘している。
 前線に出ることはなくなったため、戦闘能力は数多ある可能性の中でも最弱に近いが、一方で心理学的手腕や性格面などでは最も優れている。能力バトルをやらせたら一番強いのがこの可能性のシレイシア。
 反面、恋愛関係の貪欲さではシレンが悪い意味でレイシアの影響を受けすぎた為、全体的に手段を選ばない傾向があり、徳が低い。
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