【完結】とある再起の四月馬鹿(メガロマニア) Ⅱ   作:家葉 テイク

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今日はお昼にも更新しているので、未読の方は要注意です。


第二章 それぞれの最善 Good_End.
scene 1


   第二章 それぞれの最善

Good_End.

 

 

   1

 

 ふと気付くと、見知らぬ家の一室だった。

 起き上がりあたりを見渡すと──どうやら俺達はソファの上で寝転んでいたらしい。右を見ると背の低いテーブルがあり、そこに何やら書類が幾つか積み重ねられていた。

 拾い上げてみると……特に何かの研究資料とかではなく、ただのチラシのようだった。なんか安売り情報とかが載っている。かなり所帯じみた感じだ。

 

 

「んー……」

 

『あら』

 

 

 あたりを見渡すと、そこには浮遊霊状態のこの時代の俺とこの時代のレイシアちゃんがこちらの様子を伺うように漂っていた。

 

 

『どこのどちら様かしら?』

 

「あ……ごめん。俺達、過去の時代のシレンとレイシアちゃんなんだ」

 

『過去の!』

 

 

 この時代のレイシアちゃんの問いかけに答えると、この時代の俺は驚いたような声を上げた。

 おおー……なんというか、凄く普通のリアクション。いやいや、今までのリアクションがあまりにもアクが強すぎたといえるのかもしれないけど、逆に言うとここまでアクが強い中でアクが強くないのはそれだけで異常ともいえる。

 

 

『過去の私とはね~、いや~、珍しいこともあるもんだ! もう「そういうの」からは遠のいたと思ったけど……あ、そうそう。自己紹介しないとね』

 

 

 ……あ、この時代でも俺は『私』になっているのか。……『私』率高いなあ。俺もいずれはそうなるんだろうか。

 ちょっと警戒していると、この時代の俺はにニコニコしながら自己紹介を始めた。

 

 

 

()()()()()()()。よろしくね、シレン=ブラックガードくん』

 

 

 

 …………は?

 

 

 

   2

 

 

 ──たぶん数秒ほど、気を失っていた。

 

 それくらい、衝撃的だった。いや……え? 馬場? 苗字変わって……結婚……え、馬場ァ!?!?!?

 

 

『──あっはっはっは! その顔が見たかったんだよねぇ! そうだよね、そりゃあそう驚きもするよねぇ』

 

『驚く気持ちも分かりますわ。あの頃のわたくし達は当麻のことしか見ていませんでしたからねぇ。まさしく芳郎はダークホース。馬だけに』

 

「芳郎……」

 

 

 馬場さんの下の名前、芳郎って言うんだ……。

 あとこの時代のレイシアちゃん、ちょっとそれはあんまりだと思うよ。

 

 

『じゃあまぁ、冷静さを取り戻してもらう為にもなんでこうなったのかについて、ちょっと話そうかな』

 

「ぜひとも!! ぜひとも聞かせてくださいまし!!!!」

 

『……反面教師にする気満々だね。……こっちはレイシアちゃんか』

 

 

 あのレイシアちゃん、仮にもこの時代の俺達は馬場さんのことを伴侶として受け入れているんだから、あんまり旦那さんのことを悪く言うような態度はよくないよ……。

 

 

『あはは、昔の私もあんまり気にしないで。こっちのレイシアちゃんも最初に私が打ち明けたときはめちゃくちゃ慌ててたから』

 

「そこですわ!!!!」

 

 

 レイシアちゃんはビシ!! とこの時代の俺を指さして言う。

 

 

「いったい、どこでどうそんなことになってしまったんですの!? あの『冬』からどうすればそこまで転がりますの!?」

 

『どう……って……まぁ、まず暗部抗争の話からしないとかなあ』

 

 

 シレンは腕を組みながらぼんやりと天井を見上げて回想を始める。

 

 

『まず、俺達の世界で暗部抗争は起こらなかった。垣根さんはあの時ちょうど結晶化した林檎ちゃんを元に戻すことの方に夢中でね。同時進行でアビニョンのアレが起こっちゃったから、垣根さんは準備不足と判断して学園都市の暗部で起きた多発クーデターには参加しなかった』

 

 

 ……林檎ちゃん……っていうのが誰かは分からないけど、何となく思い当たるふしはある。

 大覇星祭。わざわざ垣根さんがあの一件に首を突っ込んできた真意は知らないけど、その理由に『女の子を救うため』というものがあったというのは……結構自然な流れだと思う。と同時に、垣根さんもそういうヒーローめいた部分があったんだな、と意外に思った。まぁ、小説でも白帝督が最終的に勝ったあたり、垣根さんの内面では善性がかなり強かったってことなんだろうけど。

 

 

『ただ、当時の俺はてっきり暗部抗争が起きると思って慌てちゃっててね。ちょうど子飼いの組織になっていた「メンバー」の指揮権を、統括理事会から奪ってやろうと画策した』

 

「わぁ……」

 

 

 それはたぶんやる。

 というか、俺もやろうと思ってた。馬場さん達がこのままだと死んでしまうのはまずい、もちろんやってきた悪行についてはいずれ償わないといけないだろうけど、それを命で以て償うのは間違っているし……って思うから。

 

 

『まぁ、もちろん「メンバー」の連絡役はそんなこと許さないから、バトルになった。……そこで雇われたのが垣根さん達「スクール」でね……』

 

 

 ……Oh。

 まさかそこでこう繋がるとは……。

 

 

『大変だったよ。何故か私達のことを執拗に狙う弓箭さんとか、凄い形相で襲ってくる獄彩さんとか……。そうこうしているうちに「ブロック」が反旗を翻すんだけど、それにも巻き込まれちゃってさ』

 

「それ、結局暗部抗争起きてませんか?」

 

『うん。起きちゃった』

 

 

 結局起きてるんじゃん!!!!

 

 

『いや、「暗部組織が大抗争を巻き起こす」って意味だと起こらなかったよ? 最終的に「ブロック」の件は上条さんがぶん殴って解決したし。ただ、道中でショチトル──徒花さんが離脱してエツァリさんを倒しに行ったせいで「グループ」と戦うハメになったり、なぜか「アイテム」も首突っ込んできたから、登場人物はあんまり変わんなかったなって』

 

「うわぁ……」

 

 

 なんというか、想像ができる。

 

 

『で、その騒動の中で芳郎さん的には私達に対して好意が生まれた、って言ってた。まぁその時点では恋愛感情じゃなかったっぽいけど』

 

「えぇ~? 本当に『その時点』ですの? 馬場のヤツ、今の時点でだいぶわたくし達に心を開いている気がしますけど」

 

『で、それで晴れて私達の子飼いになって「暗部」という指揮系統からは外れることができた「メンバー」なんだけど、まぁ暗部という存在を認識しちゃった以上、放っておくのもなんか寝覚めが悪いから、私達は第三次世界大戦で握った学園都市の弱みを交渉カードにして暗部解体に精を出していくことになるんだ』

 

 

 ああ~……浜面さんが使ってたようなのを積極的に使うことにしたわけね。

 そして、一応ここでも『冬』までの共通ルート(?)は通っている、と。

 

 

『そうしているうちに、芳郎さんの中で私達に対する好意も膨らんできて……でも当時の私達は当麻さんにお熱だったからさ。芳郎さん的には大分切ない気持ちだったって言ってた』

 

 

 あー……切ない。それは切ないよ馬場さん。そしてこの時代の俺達はだいぶ罪作りなことをしているね!?

 そして察するにこの流れはたぶんこれまでの時代の俺達もやっているんじゃないかな!?

 

 

『そんな折り、博士が開発した惚れ薬を私が間違って飲んじゃって……』

 

「SSスレの展開かよっっっっ!!!!!!!!」

 

 

 ……ハッ、しまったついツッコミが出てしまった。

 

 いや、急だな!? 急に変な展開ぶち込まれたな!?

 

 

『まぁ、あとは分かるよね。私たちはそこで馬場さんに惚れちゃって……これ幸いとばかりに手籠めにしようとした芳郎さんだったけど、直前で効力が切れた私がビンタしてその場で絶縁宣言』

 

「分かるかァッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 ……あ、今度はレイシアちゃんがキレた。

 

 

「その流れで!! なんで手を出そうとしてしまいますの!? バカですのあの男は!! 好意を持っている相手が薬の効果で自分に惚れたら、それでもグッと我慢して男を見せるものでしょう!?!?」

 

『まぁ……芳郎さんだから』

 

 

 か、悲しすぎる……。

 

 

『でも、そこで本当に反省した芳郎さんは、心を入れ替えたんだ。接触禁止の約束を守って、毎日詫びの手紙を直筆で送り続けてきた。キモイからやめてって言ったらピタリと止まったけどね』

 

 

 なんなんだこれは。結婚しているからにはラブコメ展開があったんじゃないのか? なんでこんなひどすぎる事態に陥っているんだ……。

 

 

『その後三か月くらいは顔も合わせなかったんじゃないかな? 色々あって新たな敵の企みを砕く為に上条さんとロスに行った帰りに、ロスで慈善活動をしている馬場さんとバッタリ遭遇したんだ』

 

「なぜに慈善活動……?」

 

『私達に詫びたかったけど、接触しようとすることが負担になるから仕方なく代わりに他の困ってる人を助け続ける人生を送ろうって決めたんだって』

 

「反省の度合いが重すぎますわ……」

 

 

 馬場さん、かなり面白い人だったんだな……。知らなかった……。

 

 

『流石にそんな感じで人生を捻じ曲げるほど反省してほしかったわけじゃないから、私も許してあげて、それで馬場さんとは仲直りってことになったわけね。まぁ一生負い目にさせ続けるけど』

 

 

 …………まぁ、それはしょうがないね。

 

 

『で、性根を入れ替えた馬場さんは皮肉屋なところはあるけど本当に優しい人で……上条さんにフラれた後も、私のことを慰めてくれたんだよ』

 

「それ絶対後釜狙いですわよ」

 

『知ってる。本人からも言われたし』

 

 

 言ったんだ!! 馬場さん素直だな! ……いや、モロバレだからこそあえて隠さず言うのが誠実だと思ったってことなのかな? 男心なのでちょっと分かる。女心としてはたとえ誠実であろうとしてもそこは隠してほしいところなんじゃない? と思ったりもするけど。

 

 

『で……まぁ……』

 

「見事に後釜になられたと」

 

『そんな感じです』

 

 

 ……波乱万丈すぎる……。

 なんというか親の馴れ初め話を聞かされたような気まずさがあるんだけど……本当にこの世界の俺達は馬場さんと結婚したんだなぁという奇妙な実感が湧いてきた。

 

 

『で、今度はそちらの話を聞かせてくださいまし。今、いったいどういう状況なんですの? どんな術式に巻き込まれたら()()()()()()()()()()()()()()使()()()()なんて状況になるのかしら』

 

「……へ? 並行世界改変のトリガー???」

 

 

 レイシアちゃんが首を傾げる。

 俺も首を傾げた。なんだそのセカイ系みたいな概念。

 

 

『当時の学園都市でも研究されてたと思うけどね。……まぁ私達も知ったのは中二の冬のころだったからなあ。ってことは君達はまだ秋くらいか』

 

「もう! 勿体ぶらないでくださいまし!」

 

 

 レイシアちゃんの声に、この時代の俺はハハハと苦笑しながら頬を掻く。こういうリアクションも久しぶりだ、なんて思っているのかもしれない。なんか隣にいるこの時代のレイシアちゃんは、凄く大人びているもんなぁ。

 ……幾つくらいだろう。少なくとも警備員(アンチスキル)の俺達よりは年上のような気がするけど。

 

 

『時間に対する干渉の考え方だよ。過去や未来といった別の時間軸上の地点に干渉する場合、そのイメージはコルクボードに取り付けられた一本のゴム紐として考えると分かりやすいってこと』

 

 

 要領を得ない……。

 

 

『並行世界っていうのは、こう……ゴム紐を引っ張ってコルクボードの別の地点に固定した、このピンのこと。「本来とは異なる場所に位置している」ってことは、「本来とは異なる事件が起きる」ってことだからね』

 

「……位相とは、違う話なんですの?」

 

『似てるようで違う。位相操作はなんというか……「ジャンル」を変えるやり方。時間操作は「イベント」を変える。……って言ったら分かるかな?』

 

「なんとなく分かりましたわ」

 

 

 まだいまいちピンと来てはいないけど、似て非なる技術、ってことは分かった。

 そして俺達は、その『時間操作』のトリガーとして利用されている、と……?

 

 

『ただ、単なる時間操作なら私達と初対面なのはおかしい。だって、ここまで来る前に()()()()()()()()()()()()()()()()()? それなら私達には会った分の記憶がないと筋が通らないことになる。それにそもそも、私達の体質的にこんな程度の改変じゃあ早晩()()()()はずだしね』

 

「……その、わたくし達の体質って部分がよく分からないのですが」

 

 

 なんか他の時代の俺達も似たようなこと言っていた気がするけども。

 俺は顎に指を当てながら続ける。

 

 

「そんなにわたくし達の体質って万能なんですの? 単にそれより強い相手から干渉を受けたというだけの話では?」

 

『いや~……少なくとも幻想殺し(イマジンブレイカー)よりは強力なんだけどなぁ……』

 

 

 えっ!? そんな強力な体質なの!? それはそれでヤバくない!? というかそんな強力な体質だというのにこれまでの時代の俺達が全然利用してなかったの、ひょっとしてこれまでの時代の俺達はその本質を知らなかったとかなんだろうか……。

 

 

『まぁ、考えてもしょうがない部分ではあるか。で……たぶん君らは中二の秋の私達だよね。とするとこの時代に来るまで幾つかの時代を介していると思うけど、そろそろ黒幕の目的は掴めてきた頃かな?』

 

「いえ……それが全然……」

 

 

 黒幕の目的。

 そもそも黒幕が誰かも分かっていないのが現状だ。俺達を色んな時代の色んな可能性の俺達と遭遇させて何がしたいのやら……。

 

 

『それが分からないとなると……黒幕の方も終わらせようがないのではなくて? ありていに言うと、このままでは無限に色んな世界を渡り歩くハメになると思うのですが。条件もそうですが、いい加減原因を止める必要があるのでは』

 

「うぐ……」

 

 

 確かに。

 移動の条件は確かに重要だけど、そもそもの『なぜ移動が起きるのか』という部分を抑えないことには、黒幕の企みを潰すことはできない。

 一番最初に思い浮かぶのは、当麻さんに俺達のことを触ってもらうことだけど──、

 

 

 と。

 

 そこまで思考を進めた瞬間、ぐにゃりと世界が歪みだした。

 

 

『……あら、()()()()()()

 

 

 ぐっ、と。

 歪んだ世界に強引にねじ込むように、この時代のレイシアちゃんが言葉を差し挟んだ。

 

 

『……あー、これはダメだね。俺達程度の練度じゃ介入できないや。ごめん、これでも臨神契約(ニアデスプロミス)は結構精錬してあるんだけどなー』

 

『まぁ、割り込めたということは確定ですわ。この事件の黒幕は──lzukatwpgeazcb』

 

 

 その瞬間、世界に亀裂が走り。

 

 暗転。

 

 


 

 

『……逃げられましたわね』

 

 

 ソファに寝転んだ己の肉体を見下ろしながら、レイシアは小さく呟いた。

 せっかくだし、嫌がらせの為に色々と暴露してやろうと思ったのだが……どうやら黒幕はそういう粋ではないことはしたくないとのことだった。まぁ、らしいといえばらしいか。

 

 

『この現象を解除させたくない。……移動の条件としては、そんなところかな? つまり黒幕の目的は、大量の私達を「観測」させることってことになるけど……いったい何のためにそんなことをするんだか』

 

『さあ? まぁ、最終的にはわたくし達が何とかするでしょう。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 レイシアは適当そうに言って、パンと手を叩く。

 

 

『にしても、騒がしい子達でしたわね。同じわたくし達とは思えないくらい。どこかの時点から分岐した「違うわたくし達」だったってオチとかもあり得ないかしら』

 

『…………ノーコメント。ほら、そろそろ中に戻って芳郎さん起こしに行こう。もうすぐお昼だし』

 

『……あのデブまだ寝てたのか。まぁややこしくならずに済んでよかったですけど』

 

 

 言いながら、レイシアは眼下で横たわる己の身体の中に入り込む。

 直後、馬場家でいつもの喧噪が再開された。

 

 

 

「おらー!! ブター!! ととっと起きろー!!」

 

「俺のことブタって言うのやめろって言ってるだろぉ!?」





■異世界のシレイシア図鑑 ⑤
レイシア=B=ブラックガード(馬場レイシア)
 二七歳。本編中に何故か馬場芳郎とくっついてしまったレイシア。いやなんで?
 本人は語らなかったが、地味に新約期間中に暗部解体を達成している。その後は学園都市統括理事就任・学園都市の政治体制改革と、学園都市上層部に入り込んでいるので社会的地位は最強。
 カカア天下らしく気が強い。馬場くんのことはしっかりと愛しているらしいが、デブだの豚だのと罵ることも多い。馬場くんは本編中にダイエットに成功したらしいが、本編後世界が平和になると徐々に太っていき、今はややデブといったところ。
 馬場家の実質的な主。
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