【完結】とある再起の四月馬鹿(メガロマニア) Ⅱ   作:家葉 テイク

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scene 2

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 ──ふと気付くと、何かの機械の中にいた。

 

 

「はっ!?」

 

 

 慌てて当たりの様子を確認してみると……何やら狭い。両腕も広げることもできないような場所で、寝かしつけられているような体勢になっていた。

 目の前はガラス張りになっていて外の様子を伺うことができるが……どうもその外は何かの研究施設(?)のようになっているようだ。……とすると……ひょっとしてこの時代の俺達、実験体になってる!?

 

 

『…………ちょっと失礼』

 

 

 と。

 

 これはヤバいのでは!? と思っていた俺達をよそに、そんな声と共に俺達を閉じ込めていた実験器具はバラバラになって破壊されてしまった。

 ガラガラと外殻は崩れ、新鮮な空気が肌に触れる。

 ……あれ? 今のこの時代のレイシアちゃんだよね? 能力、使えるんだ……いや使えるか。白黒鋸刃(ジャギドエッジ)はレイシアちゃんのものだしね。浮遊霊状態でも使えておかしくない。

 

 

「あー! 何するんですかぁレイシアさん!」

 

 

 そこで自動ドアが開き、一人の青年が文句を言いながら入ってくる。

 栗色の短髪。三日月のような笑みを口元に張り付けた、白衣の男。一目見て研究者と分かる格好をしているのに、何故か『チンピラのような』という形容をしたくなる──そんな雰囲気を持つ青年だった。

 

 

『シレン。わたくしこのおばかを叩きのめしてきますので、そちらの()()()()()()()()に事情を説明してさしあげて』

 

『がってん』

 

「ちょ、ちょっと待ってください? ちょっとした茶目っ気じゃないですかぁいやだなぁまさかまた切断即接合チャレンジとか言い出しませんよねあのときは運よく生還できたけどそもそも切断即接合は無理って結論に至りましたよねぎゃあああああああああああ!!!!」

 

 

 ……青年はそのまま部屋の外へと引きずられてしまった。

 っていうか、あの状態で引っ張れるんだね……。……ああいや、違うな。アレ引っ張ってるように見えて超音波振動の物質運搬だ。あんな自然にこなせるのか……。

 

 

「……で、えーと」

 

『あはは……ごめんね。バタバタしちゃってて。じゃあまず、自己紹介からしよっか』

 

 

 残されたこの時代の俺は頬を掻きながら、ちょっと言いづらそうにこう言ったのだった。

 

 

『私達の戸籍上の名前は、レイシア=()=ブラックガード。私はシレン=K=ブラックガードね』

 

 

 …………K?

 

 

『Kが何か分からない、って顔だね。レイシアちゃんの方は若干感づいているみたいだけど。うん、そうだよ。想像通り』

 

 

 この時代の俺は頷いて、

 

 

『レイシア=「木原」=ブラックガード。……ここまで言えば、この時代の私達の状況が何となく把握できると思うな』

 

 

 ………………。

 

 ……馬場エンドを見てなければ即死だった。

 

 

 

   4

 

 と、いうわけで。

 どうやらこの世界では俺達と相似さんが結婚しているようなのだった。さっきの青年は未来の相似さんということらしい。ほんと俺達の未来、何でもありだな。

 いや馬場さんはまだちょっと分かるよ? 凄い人だし、相棒みたいな立場だし、そういう未来もあるのかなって思ったよ。

 でも相似さんはちょっと……ないでしょ。あの人今のところ俺のこと実験動物としてしか見てなくない?

 

 

『まぁ色々とあったんだよ』

 

 

 この時代の俺は笑いながら言い、

 

 

『世界中に木原のミームが蔓延して地球人類が木原になりかけたり、拡散したミームが一か所に集まって「最後の一人(プライマリーK)」が誕生したり……』

 

「何それこわい」

 

 

 この世界はこの世界で色々とぶっ飛んでるなあ……。

 というか、木原ってなんかそういう……感染したりとかするようなタイプのものなの? 円周さんは確か外部から『木原』を補ってるって話したあったと思うけど、アレみたいな感じで全人類が外部から『木原』を補えば『木原』になったりするのかな。

 

 

『まぁ、最後の一人って言いつつその後も似たような事件が頻発したんだけどね。いやいや、言うなればこの世界は「木原の真相」ルートに行ったってことかな』

 

「……、」

 

 

 さっきから、気になってはいたけど。

 

 

「随分達観した物言いなんですのね」

 

 

 レイシアちゃんもまた同じことが気になっていたらしく、腕を組みながらそんなことを言った。

 いや、ルートとかって言葉遣いが引っかかってるわけじゃない。そこは俺も同じだしね。オタク特有の語彙として、そこは別にいいんだけど……この時代の俺は最初から俺達が過去の自分であるということを認識している節があった。

 それに、この世界とは別の可能性を選んだ世界があるということにも思い至っているようだった。……なんというか、これまでの時代とは明らかに持っている情報量が違う。

 そして、木原。

 

 

『あー、待って待って。なんか妙な誤解をされてる気がする。私達、別に今のアナタの状況の黒幕じゃないからね。ただ「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういうことですの?」

 

『それ説明しようとしたらまた飛ばされるんじゃない?』

 

「!」

 

 

 核心を突く一言に思わず顔が強張る。

 それを見て、この時代の俺は額に手をやってため息をつく。やっぱりか、と言わんばかりだ。……だからなんで分かるんだ?

 

 

『……問題ない範囲で話すか。あー、こういうときはヘッダが足りないときは言語がぼやけるエイワス語が羨ましいなあ。……転生者相手だと世界の拡張子も合致してしまうのが辛い』

 

《このシレン、なんかめちゃくちゃ勿体ぶりますわね。調子に乗ってるときのシレンみたいですわ》

 

《それどういう意味……?》

 

 

 いや流石に俺もここまで持って回った話し方はしない……と思うよ。

 これは多分この時代の俺の個性というやつだろう。いやあ研究者にかぶれるのも考え物だなあ。

 

 

『まず、俺は並行世界を生む性質を持っている。……これは言ってもいいやつ?』

 

「…………並行世界を生む体質? 均す方ではなくてですか?」

 

 

 生む体質でもあるの? 俺? なんだそれマッチポンプみたいだな……。

 

 

『……大丈夫そうだな。というか、本来は「均す」方が副次効果ね。本来の歴史に存在しない俺という異物は、黙っていても歴史を捻じ曲げて並行世界を生んじゃう。でも、その変化の度合いはそこまで大きくない。だから短時間で均されて本来の流れに戻るけど……その時、俺が原因じゃない歴史の歪みについても一緒に均されちゃうって訳』

 

 

 なんか大きな騒音で他の物音もかき消すみたいな話だな……。

 でも、なんとなく得心がいく。確かに今までの俺の経験から言っても、『歪めて均す』というのは説得力のある現象だ。

 なんだかんだ言って、俺が関わった事件って着地点は本来の歴史からそんなに変わらないからね。

 

 

『で、俺達はその「歪めて均す体質」……「臨神契約(ニアデスプロミス)」をけっこう研究してきたわけ。その副産物として、「本来の歴史を知覚する」技術を手に入れることができた。ゴム紐の外郭を認識できる能力って感じかな』

 

 

 この時代の俺は人差し指と人差し指で一本の線を示して見せる。

 多分、自分が小難しい話をしているって自覚はあるんだろう。

 

『んで、その結果、「世界の在り方」っていうのは一つじゃないってことが分かったわけさ。余剰領域とかそういう話じゃなくてね。たとえばほら……指にも「背」と「腹」があるでしょ?』

 

 

 ……ピンときた。

 つまり……、

 

 

「……並行世界がゴム紐を『別の場所』に留めることで生み出されるなら、厳密に言えば『同じ地点』でも別の個所なら違う未来が展開されている。今まで見てきた可能性の揺れはそういうこと……というわけですの?」

 

『ご名答。流石は私! まぁ、私にできるのは知覚までで、過去の自分を別の面に飛ばしたりなんてことは流石にできないんだけどね』

 

 

 でも、とこの時代の俺はにっこりと笑って、

 

 

『君達はこれまで別の面を通ってきたという事実がある。ということは、私達みたいな存在よりも「進みやすい」状態になっていると思う。なら、君達だけを「押し戻す」ことくらいならできるんじゃないかな?』

 

「そ……そんなことができますの?」

 

『うーん、まぁ、自分で言っておいてなんだけど微妙かなぁ』

 

 

 この時代の俺は頬を掻いて言った。微妙なのかよ! ちょっと期待しちゃったじゃん!

 

 

『というのもね、私の体質、ちょっと色々カスタマイズしちゃってるから……多分「臨神契約(ニアデスプロミス)」っていうよりは「木原」とかみたいな法則系に近い状態になってると思うし』

 

「……?」

 

『木原を「混乱」の象徴とするなら、私は「収束」かな。実際はそうじゃないんだけど、そう再定義したんだ。動的な離散である「木原」に対する「静的な集合」と再定義することで、「木原」の持つ凶暴性を封じることに成功したんだ』

 

「…………??」

 

 

 まずい、全然分かんない。専門家の話を聞くってこういうことなのか……。

 とにかく、この時代の俺達の体質は他の時代の俺達とはちょっと違っていて、ちょっと違うからこそ俺達の事情に感づくことができたけど、それゆえに俺達の状況を改善することは難しそうってことは分かった! それだけ分かればいいや!

 

 

『まぁ、やるだけやってみようか。ちょうどそろそろ──』

 

『あら、まだいましたの? もう移動したかと思っていましたが……』

 

『流石私の半身。ベストタイミングだよ、レイシアちゃん』

 

 

 そう言って、この時代の俺はこの時代のレイシアちゃんと横に並ぶ。

 ……どうやら相似さんはもう倒してきたらしい。こんなさっくり無力化できてるところを見ると、木原の持つ凶暴性を封じることに成功したっていうのもあながち言い過ぎじゃなさそうだ。

 

 

『能力もそうだけど、私の体質もレイシアちゃんの力を使えば増幅することができてね。「木原」を均す要領でパラメータを君達に調整すれば、ひょっとしたらその影響を均して──君達の持つ「均す」力で元の時代に戻れるかもしれな、』

 

 

 ビシリ、と。

 

 唐突に、そこで世界に亀裂が走った。

 

 すべての音が消える。

 

 この時代の俺の声も、隣に立つレイシアちゃんの声も。

 

 

 ──ああ、流石にここまでやられれば分かる。

 黒幕さんよ、どうやらこの時代の俺の推測は正解だったみたいだな。

 でもちゃんと聞いたぞ。俺達に仕掛けられているこの現象を打ち消せば、あとは俺達の体質で元の時代に戻れるって。

 そしてお前はそれをやられたくないんだろ。だからこんな強引な方法で割って入った!

 

 割れ、軋む世界の向こう側。

 

 その隙間から覗いた灰色に澱む景色を睨みつけていた俺は──

 

 

『うーん、惜しい、かなー』

 

 

 そんな、呑気な女の声を聴いた。





■異世界のシレイシア図鑑 ⑥
レイシア=K=ブラックガード
 三〇歳。本編中に何故か木原相似とくっついてしまったレイシア。いやマジでなんで???
 一児の母。娘の名前は木原ネーミングではなく、今のところ普通に育っているらしい。加群先生曰く、『このまま行けば「木原」を根絶できるかもしれない』とのこと。
 従来からあった運命均し体質が『木原』の性質とうまいことマッチしたらしく、いろいろあって『木原』を縛る者としての役割を得た。その副次的効果で、運命均し体質を調節することで人類の『悪意』の分布をコントロールすることができる。これにより、『木原』を抑制するだけでなく、悪意からくる悲劇を未然に防ぐことができるとか。
 『木原』が『加速』ならレイシアは『減速』という関係性で、レイシアがいれば『木原』絡みの事件でも平和に解決するらしい。


次がラストの未来紹介です(最後とは言っていない)。
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