最強に成りたい、王子(偽)   作:獣耳もふり隊

8 / 10
※挿絵アリ




コレは魔術師マーリンが「のこした」もの。

花の魔術師マーリンのお話。







Episode."花"の魔術師

 

 さて、

 

────王の話をしよう。

 

 

 かの王はブリテンに生まれ、数々の困難に呑まれつつもブリテン統一を成し遂げた上で、世界を救って居なくなった。泣いた。

 

 ンンッ、そこまで辿り着くことができたのは単に努力の人であったからだ、といえる。もちろん運や才能のお陰ででもあるが、彼の努力なしでは彼を語ることが出来ないだろう。

 

 

 

 また、努力とは別に常日頃、彼はナニカを見据えていた。

 それが「とある未来の可能性」というのは彼の脳内に与えた魔術、人生の軌跡とも言える記録型完全記憶式を写し取る最後まで気づけなかったけれどね。あれ私の杖の容量が圧迫されるから、なかなかやらないんだよねぇ。

 

 ま、もう絶対に消さないけど。

…コレは私だけの英雄譚だよ。誰にも知られない私だけの物語。

 

 

 

 

 

 話を戻そう。

 私が彼を努力の人というのには、それ相応の理由がある。その理由とは、…ひたすらえげつない量の努力を重ね続けるからだ。というか、生きている間はほぼ常に何かしらの努力をしてたんじゃないかな?

知ってるかい? 彼は魔術の操作性、持続性、威力、魔力消費量を極める為に彼の言うYAMAとやらで昼夜関わらず、年中無休で遠隔操作の魔術発動し続けていた。

 魔術を知ったその日から。

 

 

 これがどれだけ異様なことか分かるかい? 発動し続けてるんだよ? 一度発動して遠隔操作で終わり、じゃなくて、発動、消滅、痕跡から再発動、消滅の繰り返し、莫大な負荷がかかるのは分かるだろう。王だって魔力と肉体以外は基本的にスペックは人より高いくらい。その脳で生涯、発動の連続を記録し続けた。

 

 

 本人は並列思考とか言っているが、

────そんなわけ無いだろう。

 そもそも並列思考ってのはそんな楽なもんじゃないんだ。完全に全く別の思考が出来るわけではないし、思考は全て一つの脳に収まっているため、全体での情報処理容量に絶対的な限りが存在する。

 

 

 本来なら出来ないはずのそれですら「努力」の一言で片付ける精神は正直異常だ。

 

 

 だが、それらの超えられないはずの壁を着実に超えていった王には世界からの見張り(抑止力)が付くようになった。それのせいで私は自由に動けなくなってしまったんだけどね。申し訳ない。

 

 

 

 こんな事、愚痴愚痴言ってても意味ないね。うん、じゃあ彼──アーサーと私の物語を教えてあげようか。とは言え何処から話したもんか、…時間はたくさんあるし順番に巡ってみようか。それじゃ、始めるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの発端はアーサーの前王、ウーサーだった。

 彼は自身の子を自身の理想の王として育てるために最適な妻を探して遺伝子の操作をしつつ、私へ竜の因子を埋め込むように命じた。

 

 

 この頃の私はまだ、まともな感情と呼べる物が形成されてなくてね。アーサーの知っている「可能性」と同様に、絵に描いたようなハッピーエンドというものを信じていたんだ。その為に、出来る限りの時間を費やしてアーサーの誕生に手を尽くしたよ。今となっては嫌な思い出だね。いや、そのおかげでアーサーと出逢えたんだけども。

 

 

 そうして生まれてきた赤子を私が世話した。ウーサーは多忙だったし、嫌々結婚した母親は世話するほどの愛情すら注げなかったらしいし。

 

 

 で、特に手を煩わせることもなく育っていくアーサーに読み聞かせなどで知識を与えながらも、本当にこれで良いのか、とやったことない子育てに右往左往していたよ。

 

 

 四歳頃からかな? 彼が魔術を発動させた。やり方を分かってからは魔術を鍛えるように発動し続けたりしてたんだ。ちょうどさっき言ったようにね。

 

 それに加えてアレンジもしようとしていたんだ。でも、危なっかしくてねぇ。直ぐ暴発しそうになるんだ、でも結局はなんとか収まるんだけど。これに関しては生まれ持った直感を使いこなせたことが要因かな? 読み聞かせに正しいアレンジの方法についても加えることにしたよ。

 いやぁ、今考えるとここで危険性についての説明を選ばない所は私の長所であり短所でもあると思うね。

 

 

 ちなみにこの頃の私は、この成長速度が普通なのかな? …とか思ってたけど、全然そんなことなかった。もうちょっとしっかりしててもいいんじゃないかなぁ。自分のことだけど。

 

 

 そこから更に背が伸びて木剣を振らせるようになる。ただ、この段階で肉体を鍛えると身長が伸びにくくなり、将来的に間合いが小さくなるので技術だけを伸ばすことにした。まあ、うん、その前に身長は止まったけどね。

 

 

 まあ、技術を伸ばすには実践が1番ということで、私と手合わせすることが日課となった。ルールは自由で、負けを認めるか気絶するまで終わらないやつ。

 

 

 その成果のお陰か、技術的な成長に関しては完全に右肩上がり。途中で魔術も組み込み始めて結構頑張ってきた時、一度負けたんだ。あの時のことは克明に覚えているよ。滅多に無表情なあの顔のまま、ドヤ顔のオーラが激しくて少し笑ってしまったんだ。物凄く印象に残っている。

 

 あれが初めて感情を覚えた時かな? いや、それより前に勝負の時、勝った、と見せかけて負かしてあげたのが初めてだね。初めての感情は愉悦を感じたよ。

 

 

 その後、YAMAという場所で訓練をする許可を取りに来たんだけど、訓練するなら別にいいかな、ぐらいに考えて普通に許可出した。いや、YAMAって凄いんだね。

 

 

 そして彼の誕生日の数日前に固有結界が欲しいとぼやいていたのが何となく聞こえた。たまには親らしいことをしてあげようと、固有結界の取得方法を漁った。ただ、それをそのまま渡すのは面白くない、と私が生み出したものを継承する事にした。アーサーの驚愕に満ちたあの顔は、彼が生まれてはじめての表情だったと思う。私も驚いた。

 

 

 因みにキスは初めてだったが、上手くできた、と安心していた。その時の私はなぜ安心したのか分かっていなかったよ。悪戯でしかないのに、ってね。

 

 

 そして遂に運命の刻がきた。

 アーサーを選定の剣が突き刺さった岩の前に連れて、剣を抜かせた。無意識に本当にそれで良いのかって感じのことを聞いたけど、自分で仕込んだその罪悪感をいつの間にか感じていたんだ。

 

 

 そして彼は即日カリバーンを折った。アレには流石の私も大笑いしてしまった。本人も折れた剣を見ながら、無表情で困惑しているのも相まって物凄く笑ってしまった。その後開き直っていたのも笑った。許して。

 

 

 エクスカリバーとアヴァロンを渡すことで許してもらった。

 とはいえこんな早く渡すことになるとは思わなかったのでまだ子供の背丈で身長が止まるのも完全に想定外だったよ。

 

 

 そんなこんなで王にしては質素な日常を謳歌していたんだ。時には書類を片付け、フェンリルというYAMAから連れてきた従魔にモフられたり、ベットでドッキリをされたり、料理を食べさせて貰ったり、蛮族を駆逐したり。

 

 いや、ベットのアレは本当に恥ずかしい限りだ。そこから芋づる式で色々弱みを握られることにもなった。

まあ、アレのおかげで「好き」という感情を自覚したんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

──────忘れようか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⦅指定記憶欠落魔術式⦆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────、

 

 

 んん、何かあったかい?

 そうだね、彼がヴォーディガーンに遭遇して瀕死になりながらブリテンを守ったんだったね。あの時、彼に目をつけていた世界が滅多に上がらない腰を上げたんだよ。彼は勢いのままソレを了承したらしくてね。

 たしかにあの時の彼はカッコ良かったが、そういうところは直して欲しいね。

 

 

 それでウォーディガーンを倒した彼は、世界との契約どおり、過去諸共世界を救う為、時間逆行を行うこととなった。その直前に僕は彼に願ったんだ、必ず帰ってきて欲しいってね。丁度、僕の願い事なんでも聞いてくれるって言う約束が一回あったからそれを添えて。

 

 

 今ならどう言うだろうね。帰ってきたらまた一緒に過ごそうとか?──解らないや、過ぎたことだしね。

 

 

 そうして過去に飛んだ彼が帰ってきた。半身を悪に染められても尚、それを従える意思を持ってね。体が飛んできた彼に膝枕をしてあげ、上から髪を梳きながら目が開いたのを認識して声をかける。

 

 

 これを読んでいる人がいるかも分からないけど、その後のことはあんまり言いたくないや、でもこれだけは言っておこう。

 

 

 私と彼は両思いだった!

 

 

 いやぁー、内心小躍りしそうなくらい有頂天だったね。想いを伝え合ったあと、彼から指輪をもらって、お別れをしたよ。

 

 

 

 

 

 

──またね(さよなら)、ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ー風が靡く。

 

 

 

 

 

 

 

 手紙はそこで終わっている。

 

 

 

 

 

 簡素な封筒に包まれた手紙。

 

 

 

 

 それは長い年月の間、朽ちることなく、異界と化した風の吹く黄金の花畑にそっと置かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開いた者はいない。

 

 見つかりもしない。

 

 

 

 

 

 

 花々に囲まれて大切そうにされた手紙。

 

 

 

 

 

 花々を守る異界を創り出しているのは手紙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その関係は民を守る王と、王を支える民の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手紙と花畑だけの王の墓は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隔離された小さな永久に遺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




旅に出たマーリンは現代の何処かで今も尚、感情豊かに生き続けている。

花の魔術師、マーリン
・見たくないという方は回避してください。

【挿絵表示】


以下、参考ポーズ元様
https://www.pixiv.net/artworks/33634799

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