俺の師匠は月島さん! 作:花枯
こんな小説が投稿されたのも……全部、月島さんが居たからじゃないか……!
俺は転生者だった。
生前、愛読していたBLEACHの世界に転生……といっても、尸魂界は死後の世界だから、転生というのかは微妙だけど。
俺はそこで、分不相応なまでの力を与えられた。
でも、そうーー
多分、致命的に遅かったんだ。
俺が瀞霊廷に辿り着いた時には、もう原作は始まっていた。
藍染の陰謀が渦巻く尸魂界で、死神になったばかりの俺は、あまりにも力不足だった。
いくら高い霊圧、恵まれた能力を持っていたところで、使えるのは始解のみ。
死を身近に感じるような戦場も、格上との戦闘も……多少強いだけの『新兵』が、まともに経験なんてしているはずもなかった。
それなのに、そんな俺に未来なんて変えられるわけもないのに。
俺は、少しだけいい夢を見たいと思ってしまったんだ。
己の力を盲信して、調子に乗って……そこで、致命的に間違えた。
多少力を与えられたところで、実践経験なんてろくにない身で、そんなことをすればどうなるか……少し考えればわかることだったのにな。
とっさに部下の『俺』を庇った小さな影が、真っ赤に染まった日のことを。
俺は一日たりとも忘れたことはなかった。
そう、あの日を境に、歴史は歪んでしまったのだから。
「……僕に記憶を『挟ませて』、師匠がわりに使おうとする人間、ましてや死神だなんて……まったく、君が初めてだよ」
目の前の青年が、銀城でもそんなことは考えなかった、とため息をつき、傍のオールバックの男……その銀城に窘められている。
無造作な黒髪にサスペンダーのこの男は月島秀九郎、いわゆる月島さんだ。
原作で読者と一護のヘイトを一身に集めた悪役ではあるが……すべてを失った俺にとって、最後の希望が彼だった。
「君が本当に、生まれた時から僕を知っているのなら……多少強引な記憶も挟めるだろうけど。変えられるのは君と僕の過去だけ。既に起きた悲劇を、なかったことには出来ないよ」
そう答える月島さんの表情は、訝しげだ。
それもそのはず、完全に手遅れになる前に、俺は『斬魄刀の能力』も使って月島の場所を死に物狂いで探し出し……そしてつい数時間前、書籍版も含めた原作知識を利用して脅し、彼に交渉を持ちかけた。
知るはずのないことを知っている『死神』というのは、『XCUTION』にとっても、銀城にとっても、きっと無視できない存在だろうから。
彼らの慎重さをも利用して、ようやく話し合いの場まで漕ぎつけられた。
ところで今俺たちがいる、彼らが俺との密談に選んだ場所は、郊外の古錆びた廃工場だった。
死角も多く、もうすぐ日暮れということもあって、中はかなり薄暗い。
俺の前にいるのは月島と銀城の二人だけだが、俺の霊圧知覚は、工場のいたる所で息を殺しているXCUTINONの面々の気配も感じ取っている。
これだけ戦力も揃っているなか、彼らにとっての爆弾を握っている上、死神でもある俺が殺されていないことが不思議にも思えるが……彼らからすれば、俺のバックに何がいるかわからない。
無闇に殺すぐらいなら、尋問でもしたほうがマシだろう。
そして、月島の完現術は、相手から情報を抜くのにも最適の性能だ。
尸魂界に喧嘩を売るなら、気軽に使い潰せる戦力も欲しいだろうしな。
「わかってるさ。それが出来るなら、あんたらは殺された仲間の死をなかったことにしてるはずだ」
過去の件を例に出すと、露骨に殺気が向けられる。
わかりやすい理由とはいえ、もう少し気を使って話すべきだったかな。
ひとまず話を戻そう。
チートにも思える月島の能力だが、実は完璧じゃない。
過去改変といっても、無条件にどんな過去も挟めるわけではないし……彼の言ったとおり、変えられるのは挟まれた対象と挟んだ本人の過去だけだ。
逆に言えば、下手な過去を挟まれたとしても、『この世界に生まれ落ちた時から』月島のことを知っている俺なら、洗脳されることはない……はず。多分。
そういった矛盾を抱えている場合、そもそも能力自体が不発に終わることすらありえるし、勿論その場合も俺の目的は達成できない。
ぶっちゃけ賭けでしかないけど、藁にも縋りたい現状、他に切れる手札があるわけでもない。
「それでも、この先、これ以上失わないためには力が必要なんだ。……君なら、わかるだろ」
切実な俺の言葉に、少しだけ眉を顰め……月島は、もう一度ため息をついてから、
「銀城」
「事態の収束後は、XCUTIONへの全面的な協力をすること。対価はしっかり払ってもらうぜ」
銀城のその言葉と共に、月島が刀の鋒を俺に向けた。
今から俺は、これで過去を挟まれるわけだ。
……大丈夫か?
見た目は普通の刀だけど、死んだりはしないだろうか。
急に不安になってきたぞ。
「あぁ、男に二言はない」
そんな内心を完璧に隠して、ついでにいけしゃあしゃあと嘘を吐く。
俺が壊してしまった未来を取り繕えるなら、場合によっては彼らに手を貸すこともやぶさかではない。
そう、場合によっては。
なるべくこれ以上原作を壊さないためにも、基本的には約束を反故にするつもりだ。
悪いな月島さん、あと銀城。
俺は今も昔も、見栄っ張りの碌でなしなんだよ。
「男に二言、か。全く、どうだか……」
そんな悪態が聞こえたが、無視だ無視。
きっと過去の俺なら、月島さんの姿を確認した時点で、何かしら察するはず。
才能だけはそれなりにあるんだ。
転生してすぐに鍛え始めれば、今ぐらいにはきっと、卍解も使えるようになるはず……
……本当に大丈夫か?
能力さえ使ってくれるなら、別に彼らの信頼を勝ち取る必要はないと思っていたけど。
時間さえあれば、いや、早いうちから危機感さえ持てれば。
少なくとも、今のように戦力外になることはなかったはずだけれど。
でも、本当に、その程度で未来を変えられるのだろうか?
俺は何か思い違いを……もう少し、準備をして挑むべきだったのでは……?
「ちょ、ちょっとタン「ーーそれじゃ、挟むよ」
そう言いかけた俺の胸に、あっという間に月島の刀が突き立てられ、その瞬間。
世界が暗転した。