俺の師匠は月島さん! 作:花枯
「……シュウ?」
「やあ、奇遇だね?優太」
それはよく見知った顔だった。
やたらでかい身長に無造作な髪型、そして何より特筆すべきは大人気漫画『BLEACH』ーーその登場人物によく似た外見。
幼馴染にして悪友、保育園から大学まで一緒なら……もはや腐れ縁と言ってもいい。
その見慣れた面があんまりにも『月島秀九郎』に似ていて、名前までニアミスしてたもんだから盛大に吹き出して……それで、いつも気取ったらしいシュウが珍しく呆然としてるもんで、それにも笑ったっけ。
よりによって外道キャラじゃないか……って落ち込むシュウを励ましながら、折角だし全部買おうよって開き直ったシュウと小遣いを持ち寄って古本屋に行ったのは、中学生の時だったか。
そんな感じの日々がズルズル続いて、気がついたら大学生活も半ばまで来ていた。
ずっと続くと思っていた日常、いつものようにシュウと二人で宅飲みをしていて、それなのに気づけば死後の世界、だなんて。
まったく、人生わからないもんだなあ。
今の俺は、訳もわからないうちに六十何地区?かなんかの『花枯』とやらに連れて行かれて、何も持たされず放り出された哀れな子羊。
それに手を差し伸べるシュウは、さしずめ救世主……はないか。
こいつナチュラルに性格悪い時あるし。
閑話休題。
「あーホント、お前がいてくれてよかったよ。このまま一人で放置されてたら、俺野垂れ死んでたかも。もう死んでるけど」
「流石に笑えないジョークだね。腹が減る以上、僕たちが死んでるのかも疑わしいところではあるけど」
「たしかに死んでるのに腹減るなんて、聞いたこともないよなあ。変な話だ」
「え?……まあ、それはいいよ。ところで、これからの指針だけど」
「あー、そうだな。これからどうするかー、何もわかんないしな、現状」
横を並んで歩いていたシュウが、ピタリと足を止めた。
「ん?どしたー、シュウ?」
「……優太、それ本気で言ってる?」
まるで残念なものでも見るように、俺を見下ろしてくるシュウ。
何だその顔、やめろ。腹立つだろうが。
「えっと、優太。たとえば、ここが何の世界だとか……」
「あ?わかるわけないじゃん。情報量ゼロだよ?こんな街見んのも修学旅行の映画村以来だわ」
俺の言葉に、目尻を押さえてため息をつくシュウ。
いやだからなんだよ。
なんで俺が可哀想みたいになってんの?
「いいかい、優太。よく聞いてくれ。推測でしかないがーー」
僕らは今、BLEACHの世界にいる。
当たり前のように言い切ったシュウの姿に察した。
ああ、こいつ今ポンコツだわ。
「あのさ、シュウ。お前が最近そういうジャンルにハマってたのは知ってるし、俺にもちょくちょくオススメして来てたけど……流石にないだろ。だとしたら、もっとこうチートとか何とかあるんじゃないの?テンプレ的に。神様転生どころか、普通に整理券渡されただけなんだけど」
「空腹を感じるってことは、霊圧があるってことだよ。つまり僕たちは死神の適性が……」
「いや、だから何でBLEACHの世界って前提で話が進んでるわけ?なんか自分の願望入ってない?月島さんよ」
「月島さんか、なつ……折角だからこれからは月島秀九郎と名乗ろうかな」
「ああもう、話が進まねえ!お前がボケてどうすんだよ!しっかりしてくれ!」
ダメだ、俺がしっかりしないと。
一旦状況を整理しよう。
俺は栗花落優太。21歳大学生だ。身長は158……いや、今そんなことを思い出してどうするんだ。
とりあえず、こいつは何を根拠にここがBLEACHの世界だと判断したんだ?
「あらあら、新入りだと思ったが……随分お仲がよろしいようで。お二人さん、恋人かなんかなの?」
あぁ゛?
いきなり背後から話しかけてきたのは、黒い着物の不審者。
何だお前は。正気か?出会っていきなり地雷踏んできたんだけど。
身長と女顔に触れるのはやめろ。
「……は?俺は男だが?殺すぞ誰だお前」
「おお、怖い怖い。右も左もわからねえ新入りに、色々教えてやろうと思ったのに……」
「逃げるよ、優太」
ちょっ……!?
いきなりぐん、と腕を引かれる。
米俵のように担がれ、屋根の上に跳躍……は?サラッと何やってんだこいつは?
というか!
「おい!折角の情報源だぞ!」
「わからないかい?……囲まれてたよ。きっと、新参を狙った追い剥ぎか何かだ。あのまま留まっていたら、トラブルになっていたかな」
「いや、わかんねえよ!お前こそなんでわかるんだよ!」
「……こういう時のために鍛えてたからね」
「え?厨二病が高じてそんなことになってんの?スタートライン違いすぎて落ち込むんだけど……」
俺を小脇に抱えながら、屋根の上をヒュンヒュン飛び回るシュウ。
俺には無理だな、これ。
シュウの転生特典?的なやつか……いや、素の身体能力かも。
よくよく思い返してみると、こいつのフィジカルはガキの頃からおかしかったわ。
体育祭とかでも毎年無双してたっけな。
キャーキャー女子の声援浴びて……うん、やっぱムカつくわこいつ。
「……っはー、マジ落ち込むわ……。つーか、まずタッパが違いすぎるんだよな」
「昔は優太の方が高かったけどね」
「いつの話だよ!小学校上がった時もうお前の方が高かったじゃん」
「保育園の時の話だけど」
「三日天下にも程があるわ!なに?バカにしてんの?」
「うん」
「やっぱお前嫌い!!!」
声色だけでもニコニコしてるのが伝わってくる。
ほんっと、楽しそうに煽りやがって!
許せねえ、高身長イケメンは滅びろ……いや、今滅びられたら困るけど。
自慢じゃないが、この魔境で一人で生きていける気がしない。
だが、本当にここがBLEACHの世界だっていうんなら……卍解さえ出来れば、こいつにも追いつけるのか?
ずっと後ろから眺めることしか出来なかった、こいつを?
そんな淡い思いを抱きながら、俺は……俺を俵抱きにしたまま駆けるシュウを、死んだ目で見つめていた。
案の定プランAがネタ被りしたのでプランBでいきます。脚をためておいて正解でしたね。