男の取り合いで負かした女が嫉妬に狂って悪戯してくる   作:あいだ子

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第13話

 

 百花をどう説得しようかと考えていた愛咲は、香澄の思わぬ援護射撃に救われて安堵したが、その反面、香澄の、まるで悪戯されることを望んでいるかのような振る舞いに違和感を覚える。

 思えば、体育の授業の前に、愛咲に見せつけるように下着姿になったのだって、悪戯を本気で嫌がっている人間がすることではない。

 実際、あれで焚き付けられなければ、愛咲は再びこの部屋に足を踏み入れることはなかっただろう。

 

 もしかしたら。

 本当にもしかしたらだけど、香澄もこの関係を続けたいと思っているんじゃないか、と愛咲は都合の良い願望を思い浮かべ、目を瞑ってすぐにその考えを追いやった。

 相手も関係を望んでいると思った、なんて、性犯罪者が言いそうなセリフだ。

 愛咲本人がまさに性犯罪者そのものなのだから、笑えない。

 

 百花は吹っ切れたのか、 ベッドの足側へと移動した。

 香澄はベッド(ふち)に座ったままだ。

 あくまで、自分からは動かないつもりのようだ。

 

 

「藤崎さん、始めるよ」

 

 

 香澄が悪戯に協力する筋合いなどあるはずもないが、この一方的すぎる関係に少しだけやるせなさを覚え、言葉だけで香澄が動いてくれるのを期待した。

 香澄の身体だけ虐めていた最初の頃と異なり、心までも支配しようとしている。

 愛咲は徐々に自分が欲張りになっていることを自覚する。

 

 香澄は首を横に振るだけで、動こうとしない。

 愛咲は小さくため息を吐いて、香澄の脇の下から腕を回り込ませた。

 ふに、と柔らかな感触が腕に伝わり、愛咲は思わず力を緩める。

 

 

「ちょ、ちょっと藤崎さんっ、なんでノーブラなわけ?」

 

 

 愛咲は焦って問い詰める。

 香澄はまるで動じずに、ゆっくりと振り向く。

 

 

「なに? もしかして脱がしたかった?」

 

 

 自分ばかり動揺してしまい、愛咲は顔に血が集まるのを感じた。

 どうせ脱ぐのだから制服から部屋着に着替える際に先に外しておいたというだけのことなのかもしれない。

 しかし、愛咲からしたら想定していない感触を肌で感じてしまったのだから、取り乱すのも無理はなかった。

 

 香澄の胸はすでに何度か(じか)に見ているし、ブラだって外したこともあるが、直接触れたことはまだ一度もなく、今のように薄いTシャツの布一枚越しで触ったことすらなかった。

 美術室や自室で一人でいるときに、その感触を想像することは幾度かあった。

 それは決してやましい気持ちからではなく、デッサンをするとき、描き始める前に素材の質感を触って確かめたいと思う気持ちと似ていた。

 しかし、ここ最近は、香澄に対する自身の思いに答えが出せず、香澄の胸の質感を想像することはしなくなっていた。

 いや、できなかった。

 性的な意味で触りたいと思ってしまったら、愛咲のアイデンティティが重大な危機に(ひん)することは目に見えていたからだ。

 悪戯によって悶える香澄を見て楽しむのと、香澄に触りたいと思うのでは、大きな違いだ。

 今日爪を整えてきたのだって、香澄に触りたいからではなく、香澄を虐めて楽しみたいからのはずだ。

 そうでなければならない。

 そうでなければ、まるで自分が香澄のことを——。

 

 愛咲は余計な考えを振り払うように、香澄を力任せに引きずり、前のときと同じように後ろから抱きしめるような体勢になった。

 

 

「痛いって、青山さん。酷いことはしても、痛いことはしないって約束したじゃん。それくらい守ってよ」

 

 

「そんな約束して——もしかして部室のときのあれのこと?」

 

 

「うん。ハンマー持ってたときの」

 

 

 記憶を探れば、確かにそんなことを言った覚えがあった。

 美術準備室で愛咲が彫刻用の玄翁(げんのう)を棚に片付けようと持っていたところを、殴るために持ち出したのだと誤解され、取り乱して暴れる香澄に向けて、それ以上叫ばなければ痛いことはしないと約束したのだった。

 男を奪われた腹いせに玄翁で殴りつけてきてもおかしくない女だと思われていたのは心外だったが、果たして今は、どんな印象を持たれているのだろう。

 悪い方向であるのは間違いない。

 悪戯してくる女だとか、同性に対して性的暴行を繰り返す女だとか、きっとそのあたりだろう。

 

 今更ながら、酷い道を選んでしまったものだと、愛咲は自分に呆れる。

 この道の行き着く先は破滅だ。

 今腕の中にある香澄の温かさは、きっと遠くない未来に消え去ってしまう。

 そのとき自分は何を思うのだろうか。

 

 

「乱暴に扱われたくないなら、自分で服脱ぎなよ」

 

 

 香澄のうなじに愛咲の息が吹きかかり、周辺の髪の毛が揺れた。

 香澄はくすぐったそうに身をよじらせる。

 

 

「前にも言ったけど、わたしが協力するわけないよね?」

 

 

「ふぅん。やっぱり無理矢理が好きなんだ。じゃあ、遠慮なく」

 

 

 本当は香澄自ら脱いで欲しい。

 無理矢理だと味気ない。

 そんな本心を愛咲は推し隠し、以前にもやったように、香澄の身体の前に回した手を交差させてTシャツの裾を掴み、上へと引っ張り上げた。

 Tシャツが胸部にひっかかったのか、弾力を感じる。

 香澄の背後にいるせいで、それらが揺れるのは見えなかった。

 正面の百花は食い入るように見つめていたが。

 

 

「百花、早く脱がせてあげて?」

 

 

 愛咲が促すと、百花は香澄のショートパンツの裾を握ったが、その手には葛藤が見えた。

 

 

「藤崎さんいわく、やってもやらなくても変わらないんだから、やらなきゃ損でしょ。早くしなよ、百花」

 

 

 愛咲の最後の一押しを受け、百花は香澄のショートパンツを脱がし、続いてパンツも引き摺り下ろした。

 香澄はやけに静かだった。

 さすがに股の間は恥ずかしいのか、内股になって隠そうとしているが、過去2回の悪戯では多少なりとも抗う意志を見せていたことを思えば、今日はほとんど無抵抗と言って良いくらいだ。

 愛咲たちの操り人形であることを受け入れてしまったのだろうか。

 反応が薄いのはつまらない。

 

 

「苦しいって、青山さん。もう少し緩めてよ」

 

 

 香澄にそう言われて、彼女のウエストに回していた腕に余計な力が入っていることに、愛咲は気づいた。

 前も似たようなことをこの部屋で言われた。

 抱きつき癖などなかったはずなのに。

 このバックハグのような体勢がよくないのかもしれない。

 

 

「それじゃあ、やるね」

 

 

 百花は暗い顔で開始を宣言した。

 

 

 

 

 

 百花による悪戯が終わると、疲れてしまったのか、香澄はベッドに寝転がって動かなくなる。

 今日はいつもより香澄の反応が良くなかったし、時間も無駄に長かったのが原因かもしれない。

 百花が集中できてなかったのも理由の一つだが、香澄もどこか上の空だった。

 愛咲は一旦ベッドから立ち上がり、テーブルを回って百花のいるところまで移動する。

 香澄は仰向けになり、目のあたりを右腕で覆いながら、荒くなっていた呼吸を整えている。

 

 

「あたしにも、やらせてよ」

 

 

 愛咲はいくらか躊躇しつつも、当初の企みを告げた。

 そのために爪を整えてきたのだ。

 展開次第ではやらないつもりだったが、このまま終わるのは不完全燃焼だった。

 香澄は寝転がったまま、目を覆っていた腕をベッドに下ろし、目だけ下に動かして愛咲を見た。

 

 

「え、愛咲ちゃんがやるの?」

 

 

 横から百花が聞いてくる。

 目を丸くしている百花に居心地の悪さを感じる。

 

 

「なに。文句ある?」

 

 

「そうじゃないけど、指入れるのは気持ち悪いって前に言ってたでしょ?」

 

 

 最初の悪戯のとき、美術準備室で百花に指による凌辱の提案をされ、確かに愛咲はそう言った。

 女が女にする行為ではない——というと語弊があるかもしれないが、少なくも愛咲はそういったマイノリティに自分が属しているとは思っていない。

 それ故に、あのときは咄嗟に否定の感想を述べたのだが、今は状況が違う。

 これまででもう三度も目の前で香澄の大事な部分が(いじ)られているのを見たせいで、抵抗は薄れていた。

 

 

「べつに。藤崎さんのサれてる顔を正面から見た方が、なんか楽しそうだし。百花、あっち側行ってよ」

 

 

 百花は何か言いたげな顔をしつつも、愛咲がさっきまでいた場所に移動し、香澄の頭の横にぎこちなく腰を下ろした。

 百花が香澄を後ろから抱いて拘束する姿勢を取るのを待つが、彼女は座りこんだまま動く素振りを見せない。

 愛咲は不審に思ったが、すぐにその訳に思い至った。

 この部屋に入る前に香澄と口喧嘩みたいなことがあって、そのせいで香澄に触れるのを気まずいとでも思っているのではないか。

 さっきまで、あんなところを触っていたのに。

 それとこれとは話が別、ということだろうか。

 

 百花が押さえつけていなくても、今日の香澄ならおそらく、このまま始めても抵抗しないだろう。

 そう思って愛咲はベッドに乗り込んだ。

 しかし、ということはつまり、愛咲はさっきまで意味もなく香澄を抱きしめていたのではないだろうか。

 香澄を前後から挟むように位置取るのがルーティーンみたいになっていたから、ごく自然にあの体勢を取ってしまったが、百花がそれをやらないなら、まるで愛咲が香澄に抱きつくのを好んでいるかのようだ。

 恥ずかしさが込み上げてきて、顔が熱くなるのを感じる。

 それを誤魔化すために愛咲は百花を睨みつけたが、その理不尽な視線に彼女は首を傾げるだけだった。

 

 

 愛咲はベッドの上を膝で歩いて、香澄に近づいた。

 両膝に触れると、香澄はわずかに身体をこわばらせる。

 愛咲は外向きに力を入れ、香澄の脚を開かせようとする。

 完全に抗うのをやめているわけではないのか、それとも、単にその部分に関しては無意識に防衛本能が働くのか、愛咲の手に反発する力が加わった。

 愛咲はさらに強い力で押し返し、股をこじ開け、脚の間に肩を割り込ませた。

 すると、香澄のその部分との距離が縮まって、濡れそぼったそれを、正面からまじまじと見つめる格好になる。

 美術準備室で初めて見たときも思ったが、不思議な感じだ。

 自分のものは見たいとは思わないのに、ついつい魅入ってしまう。

 この感覚はおかしいのだろうか。

 それとも、これが普通の女子中学生の反応なのだろうか。

 仮に今の愛咲と同じような状況――つまり容姿の良い同性のクラスメイトのその部位を凝視できる状況に陥ったとして、世の女子中学生たちもやはり、そこに目が吸い寄せられてしまうものなのだろうか。

 

 

「あの、そんなにじっと見られると、さすがに恥ずかしいんだけど……」

 

 

 ハッとして視点を僅かに上にずらすと、両太ももの間から香澄がベッドに寝転がった姿勢のまま、頬を赤く染めて、恥ずかしそうに顔を逸らしているのが見えた。

 香澄に言われなければ、ずっと見続けていてもおかしくなかった。

 対象を長いこと観察してしまうのは絵描きの(さが)だ、と愛咲は結論付けた。

 

 愛咲はおそるおそる手を伸ばし、香澄のそこを、壊れ物を扱うように、そっと触れた。

 しかし、この先どう動かして良いのかわからず、おっかなびっくりつついたり、軽く触れたりを繰り返すだけだった。

 百花がやっているところをずっと見ていたはずなのに、いざ自分でやってみると、勝手が全然違う。

 どれほどの力加減が良いかかなんて、見ているだけではわからない。

 愛咲は段々と惨めな気分になってきた。

 明らかに自分より上手な百花の後だと思うと、余計にそう思ってしまう。

 

 愛咲の戸惑う指先にしびれを切らしたのか、香澄が体を起こした。

 こんな(つたな)い行為のためにわざわざ爪を整えてきたとのだと思われるのが恥ずかしくて、愛咲は左手で拳を作って、深爪してきた中指と薬指を隠したが、一瞬遅かったようだ。

 

 

「その指……」

 

 

 香澄がつぶやく。

 頬や耳が沸騰したように熱くなるようがわかった。

 

 

「あ、えっと愛咲ちゃん? 私が教えてあげ――」

 

 

「手、貸して」

 

 

 見かねた百花が愛咲に助け舟を出そうとベッドから腰を浮かせたとき、香澄が愛咲の左手首をさっと掴んだ。

 愛咲のその手をベッドに置き、手の平を上に向けさせ、何を思ったのか、香澄はその上に膝立ちで(またが)った。

 

 

「藤崎さん、何して——」

 

 

「指立てて。私が勝手に動くから」

 

 

 愛咲の声に被せるように香澄が要求する。

 これまでの失態で弱気になっていた愛咲は、有無を言わせぬ香澄の様子に気圧されて、思わず頷いた。

 百花がよくやる手の形を思い出して、左手の中指と薬指だけを立てる。

 

 

「こ、こう?」

 

 

 自分のものだとは思えないほどの弱々しい声で香澄に尋ねる。

 

 

「そんな感じ。でもこっちの指だけでいいよ」

 

 

 香澄は愛咲の中指を寝かせ、薬指だけを(つま)む。

 そして、ゆっくりと薬指目掛けて腰を沈めていった。

 愛咲の薬指が、湿り気と温度、そして圧迫感を同時に知覚し、その未知の感覚に、肌が粟立つような、怖気に近い何かを覚えた。

 

 

「んっ……、少し指の腹に力入れてみて。壁を押すように。んっ、うん、そのまま」

 

 

 愛咲の目の前で香澄が腰を上下させ、悶えている。

 控えめな胸が振幅の小さい揺れを繰り返す。

 その谷を一筋の汗が流れ落ちていった。

 目を閉じ、頬を上気させ、愛咲の指をその(たぐい)玩具(おもちゃ)のように扱いながら、より質の高い快感を求めて腰を動かし続ける香澄から、愛咲は目が離せなかった。

 

 今この瞬間の香澄を彫刻にして、永遠にしたい。

 昔の彫刻家たちが裸の女の身体を彫ったのは、きっと同じ理由なんだと、愛咲は直感的に理解した。

 その一方で、この香澄を愛咲の脳にだけ記録して、誰にも見られないように、記憶の底に封をしてしまいたいとも願った。

 

 長いようで短い時間が過ぎ去り、やがて香澄は果て、愛咲の方へと倒れ込んできた。

 それを愛咲は、壊れてしまわないように優しく抱きとめる。

 愛咲の肩に顎を乗せた香澄は、愛咲の耳元で荒く息を繰り返した。

 

 呼吸がだいぶ整うと、香澄は愛咲の耳に触れるほど口を近づけた。

 中に入ったままだった愛咲の左手の薬指を右手でゆっくりと引き抜くと、彼女は(なまめ)かしく囁いた。

 

 

「わたしのここ(・・)と結婚しちゃったね」

 

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