男の取り合いで負かした女が嫉妬に狂って悪戯してくる 作:あいだ子
百花に後ろから拘束された香澄は、部屋の中央、愛咲が立つところまで連れて来られた。
運動部の百花の力は強く、比較的小柄で非力な香澄では振りほどくことができない。
「やめてよ百花っ。さっきわたしと仲良くしたいって言ってたのに、どうしてっ」
「香澄ちゃん、さっき教えてくれなかったよね。昨日岸本に告白されたこと」
百花は暗い声音で耳に息を吹きかけるように囁いた。
「なんで知って――」
気づけば
香澄はその衝撃的な光景を見て恐怖が一気に全身を駆け巡った。
じたばたと暴れながら、まさに死に物狂いで慈悲を乞う。
「や、やめてやめてお願い、お願いします。し、死んぢゃう。ごめん。ご、ごめんなさい。謝るから。あ、謝るっ。ゆ、ゆるして。おねがいゆる――」
「――べ、べつにこれで殴ったりなんかしないっての! 机に置いてあったから棚に戻そうと思っただけっ!」
愛咲が珍しく焦りを見せながら、香澄の叫び声を上回る大声を出した。
香澄は暴れる手足の動きを止め、百花に完全に体重を預ける格好になる。
恐怖のあまり腰が抜けて立てない。
「でもそれ以上叫ぶと——これから藤崎さんにする酷いことが、痛いことになるかもね」
愛咲の言い方から判断するなら、酷いこと、というのは痛いことではないらしい。
トイレで愛咲の取り巻きに振るわれた暴力を思い出し、香澄は無言でコクコクと頷いた。
愛咲は玄翁を棚に置くと、香澄の前に立った。
「ひ、ひどいことって、な、なにする気……?」
「あーなんて言えばいいかなあ。ま、ちょっとした悪戯か。これからあたしたち、藤崎さんに性的な悪戯をしちゃおうって思ってんだよね」
愉しげに言いながら、愛咲は香澄のスカートから淡く青みがかった夏服のブラウスとキャミソールを引っ張り出し、まとめて胸元までたくし上げた。
香澄の飾り気の少ない水色のブラジャーが露出する。
先ほどのハンマーを片手に持った愛咲の衝撃がようやく抜けてきて、香澄は今の状況を把握し始める。
性的な悪戯って、何?
なんのために?
疑問は尽きないが、死の恐怖からの落差で、香澄は逆に落ち着いてしまった。
性的な悪戯という言葉から香澄はこれからされることを想像する。
愛咲と百花は一体何を、いや、どこまでするつもりなのか。
正直に言えば、今のこのブラを見られている程度なら香澄にとっては許容範囲内だった。
ここで終わるなら黙って受け入れよう。
そう思ったのもつかの間、愛咲にブラを上にずらされ、香澄の小ぶりな胸が外気にさらされた。
「ちょっ、やめてっ! やめてよ。こんなことしたらただじゃすまないんだからっ!」
叫ぶなと脅されたばかりなのに、愛咲が本気で香澄を辱めようとしていることが伝わり、香澄は必死で抵抗する。
しかし、百花に羽交い絞めにされて身動きが取れなかった。
愛咲は続けて香澄のスカートのジッパーを降ろし、スカートを膝の下まで引き下ろし、露わになった水色のパンツのゴムに指をかけた。
「まっ。そこはだめっ」
さすがの愛咲も、ここにきて躊躇したのか、動きを止めて香澄の目を見た。
意外にも、彼女は、不安そうに瞳を揺らしていた。
彼女を止めるならここしかないと思い、香澄は精一杯哀れっぽさを滲ませ、上目遣いで懇願した。
「お願い、やめて。青山さん……」
愛咲は目を見開き、ほんの一瞬表情が固まる。
やめてくれたんだ、と思った次の瞬間、愛咲は悪戯気な笑みを浮かべ、香澄のパンツを一気に引き下ろした。
香澄の懇願が逆に背中を押してしまったようだった。
香澄は悲鳴を上げる。
大事なところを隠したくても、後ろから百花に拘束され、腰を引いて内股になるしか術はなかった。
「離して百花! わたしたち友だちだったんじゃないの!?」
「今でも友だちだよ。でも友だちのかわいいところをもっと知りたくなっちゃったんだ。ごめんね香澄ちゃん」
耳元で聞こえる百花の声は優しいままで、それがかえって狂気を感じさせた。
「待って百花、もしかしてこれって百花の仕業? 百花が考えたことなの?」
「そうだね。青山さんが香澄ちゃんを懲らしめたいみたいだったから、私がこの方法を提案したんだ」
「な、どうしてっ!」
「言ったでしょ? 小学校の頃から香澄ちゃんのこと、ずうっとかわいいと思ってたって。クラスが違ってもずっと見てたよ。香澄ちゃんが恋愛に興味が無いことも知ってた。香澄ちゃんは誰から告白されても、ずっと断ってたよね? 断ってたのに……」
百花の口から吐露される心情に、香澄は呆気にとられる。
つまり百花は香澄が岸本にとられるのが嫌でこんなことをしているのか。
でもそれってどういうことだろう。
恋愛感情?
同性に対して?
異常なほどの百花の執着を香澄は処理しきれないでいた。
「ふぅん。そんな理由だったんだあ。それっていわゆる、レズってやつ?」
愛咲が嘲笑する。
いつの間に取り出したのか、スマートフォンを左手に構えている。
香澄がまずいと思った時には、カメラのシャッター音が鳴っていた。
「やめてっ! 撮らないでっ」
香澄の訴えを無視し、愛咲は距離を詰め、しゃがみこんだ。
「藤崎さーん、良く見えないんだけど。脚開きなよ」
「そんなことできるわけ――」
「――開かないと今撮った写真ばらまくけど」
低い声で凄まれ、香澄は委縮する。
目の前のスマートフォンに心理的な抵抗を覚えながらも、香澄はゆっくりと脚を開いた。
「初めから素直に従いなよ」
愛咲はパシャ、パシャ、と角度を変えて何度も写真を撮る。
音が鳴るたびに香澄の心はすり減っていく。
「んー? なにこの痕」
指摘されたのは、愛咲の友人たちがトイレで香澄を殴ったときにできた脇腹の痣だった。
あれは愛咲の指示によるものとばかり思っていたが、痣を見る彼女に
「まあいっか。なんかいまいち上手くとれないなあ。光の問題かも。――ねえ藤崎さん、仰向けになってくれない?」
指示を聞いた百花が肩に手をかけ、香澄は木造の床に座らされた。
半ば諦めの境地で仰向けに寝転がると、愛咲に脱げかけのスカートとパンツを脚から引き抜かれた。
「脚閉じてちゃ見えないよ? 膝立てて脚広げてよ」
「い、嫌だ」
「ま、いいけど。あたしが代わりにやってあげるから」
香澄の両脚の間に愛咲が強引に入ってくる。
膝の裏を手で押し上げられ、香澄の中心が丸見えになった。
香澄は股間に手を伸ばして隠そうとするが、頭の上から百花の手が伸びてきて、押さえつけられた。
「へ、へえ。ちゃんと見るとこんな風になってるんだあ。意外と……」
「や、やだ。見ないで……」
愛咲が香澄のそこをまじまじと見つめる。
香澄は羞恥と屈辱に顔を覆いたくなるが、それもまた後ろの百花によって阻まれる。
愛咲の視線が質量を持っているみたいに、さらけ出された部分がひりつく。
彼女はしばらく見つめるだけで、それ以上は何もしてこなかった。
見られ続けたせいか、お腹の下が気持ち悪い感覚に襲われ、股の間に何でもいいから挟みたい衝動に駆られる。
しかし、脚を閉じようにも愛咲が間にいる限りそれは適わない。
「菱川さん、ここからどうする?」
愛咲はようやく香澄の股から視線を外し、百花に尋ねた。
「どうするって、何のこと?」
「何って、だから、レズならなんか知ってるんじゃないの?」
「べつに私レズじゃないんだけどな……。うーん、指を入れるとかどうかな?」
「は、はあ? あたしが藤崎さんの中に? やめてよ、気持ち悪い。やるんだったら菱川さんがやりなよ」
「わかった」
「はあ? 本気で言ってんの?」
「うん。場所交代して」
香澄の意思などお構いなしに話が進められる。
他人の指が入るのを想像し、恐怖が恥ずかしさを上回り、香澄は身体を震わせた。
愛咲が香澄の脚の間から抜け出し、百花と場所を交代し、香澄の二の腕のあたりを後ろから軽く押さえた。
もうすでに抵抗することを諦めた香澄にはそれで十分だった。
「も、百花。冗談だよね? 怖いよ、わたし……」
百花はバッグからシュガースティックのようなものを取り出した。
「何それ?」
愛咲が百花に問う。
「ローション」
「いやいや、なんでそんなもの学校に持ってきてんの?」
「昨日青山さんと計画立てたときに、もしかしたらいるかなあって思ったんだ。親の寝室にあったの持ってきちゃった」
言いながら、百花は香澄の脚の間に身体ごと割って入る。
「ね、ねえ百花。ほんとにやるつもり? 岸本君の告白のことだったら、月曜に断るから。あ、なんだったら今からラインで振ってもいいし。ね? 百花。お願い。百花。痛くしないで」
香澄は涙声で訴える。
こんなことになるなら、岸本と仲良くしなければよかったと強く後悔する。
「ごめんね、香澄ちゃん。こんな格好の香澄ちゃん見たら気持ちが抑えられないの。絶対に痛くしないって約束するから。昨日ちゃんと全部の指の爪整えてきたから」
そう言って百花は香澄の内ももに猫の手の形にして優しく触れた。
爪を整えてきたという言葉通り、内ももという繊細な部分に触れても爪の感触は感じなかった。
百花の指は核心に近づいたり離れたりを繰り返す。
入口の付近を触られると、さっき愛咲にじっと見られていたときに感じた気持ち悪さが再び襲ってきた。
百花はいよいよローションの袋を破り、右手の小指に粘液を塗り付けた。
そして香澄の中へゆっくりと小指を……。
「ひっ。うぐ。お願い。やめて……」
香澄は感情が決壊し、泣きだしてしまう。
愛咲の取り巻きたちの嫌がらせや暴力でさえ、ここまで感情が揺り動かされることはなかった。
百花は香澄を丁寧に刺激し、宣言通り、痛みを覚えることは無かった。
痛むのは心だった。
初めてできた友だちに性的に暴行されるなんて、考えもしなかった。
心地よさが香澄の思考を鈍らせ、百花の行為を自分が本気で嫌がっているのかどうかわからなくなってくる。
鈍化する意識の中、一方で不思議なことに辱められている自分を俯瞰して見るような冷静な思考が、頭の片隅に存在していた。
前を向くと天井がある。
そこから少し視線を上げれば、香澄を押さえつける愛咲の白い顎が目に入った。
そういえば愛咲は、事が始まってから一度も言葉を発していない。
彼女の視線を追うと、自身の下腹部がある。
時折、制服をたくし上げられて露出した香澄の胸にも愛咲の視線が移動するのがわかった。
観察しているというより、思わず視線が行ったり来たりしているみたいだった。
愛咲は下から覗いても綺麗な顔をしていた。
造形の均整が取れていると、どの角度から見ても綺麗に見えるのかもしれない。
そうやって何とはなしに愛咲の顔を眺めていると、ふと彼女の視線が下がり、香澄の視線と交わった。
これまで、彼女の視線はどんなときも、凍てつくような冷たさを湛えていた。
例えば香澄が岸本と話しているときに愛咲の方を見ると、毎度氷の眼差しが香澄を貫いた。
しかし、今はその冷ややかさも鳴りを潜め、一抹の興奮が見え隠れしているのがわかった。
あの青山愛咲が自分の身体を見て昂っている。
その事実は、岸本が愛咲よりも自分を選んだときに覚えた、あの優越感に似ている。
異なるのは、岸本という第三者を介していないことだった。
今彼女の目に熱をもたらしているのは、香澄自身の魅力、香澄自身の肉体だった。
百花の優しくも執拗な攻めに、香澄の腰が浮き始める。
高く昇って行く。
彼女の白く滑らかな喉が、唾を飲んで上下する。
そこを一筋の汗が流れ落ちていく。
心地よい脱力感の中、喉が渇いた、と思った。