男の取り合いで負かした女が嫉妬に狂って悪戯してくる 作:あいだ子
「ま、待って二人とも。まさか、またあんなことするなんて、言わないよね……?」
香澄はベッドの上を後退り、壁に背中がくっついた。
両腕で身体を隠そうとする仕草がむしろ煽情的で、愛咲の嗜虐心は一層高まる。
「藤崎さんも不用心だよね。よりにもよって私たちを誰もいない家に上げるなんて」
「そ、それは青山さんが写真をばら撒くって脅したからっ」
「あれ、そうだったっけ? でもこんな薄着でもてなすのは良くないんじゃない? 百花が興奮するのはわかりきってるでしょ?」
愛咲はベッドに上がり、香澄のTシャツの肩のところを軽く摘みながら言う。
「こ、これはいつも着てるやつだから——やっ」
愛咲は香澄の二の腕を強く引っ張り、ベッドに寝転がした。
香澄が不服そうに見上げてくる。
美術準備室のときと同じ位置関係だが、今日はまだ香澄の反骨精神が残っているみたいだ。
「あのね、愛咲ちゃん。この体勢だと私がベッドに乗れないかも」
百花の方を見ると、余っているスペースは確かに百花が収まるには狭そうだった。
「愛咲ちゃんもこっち来る?」
百花がそう提案するが、愛咲は躊躇する。
正面から香澄の悶える姿を見るのはなんとなく恥ずかしかった。
興奮している自分を香澄に見られるのは、想像するだけで屈辱だ。
「ここがあたしの場所だから。藤崎さん、もっとこっち詰めなよ」
「なんでわたしが素直に従うと思ってるの?」
香澄に睨みつけられる。
「あっ、そうだ。香澄ちゃんが愛咲ちゃんにもたれかかるのはどうかな? 香澄ちゃん、一旦起き上がってくれる?」
百花は香澄の足をトントンと叩いた。
「だからさあ! わたしが協力するわけないじゃん。二人が無理矢理やってることなんだよ? なんでそんなカジュアルにお願いできるのか、全然わかんないんだけどっ」
「あっそ。じゃあ望み通り無理矢理ヤってあげるから」
ぶつくさと文句を言う香澄の両の脇の下から手を通し、引きずり上げた。
すると、意図せず後ろから香澄を抱きしめるような格好になり、心臓がドクンと大きく跳ねる。
胸が香澄の背中と密着しているから、振動が伝わったのではないかと心配になった。
動揺を悟られないように、愛咲は無理に強気に、香澄の耳元に口を寄せて言った。
「服脱ぎなよ」
香澄はビクッと肩を震わせる。
「い、いやに決まってるでしょ?」
「しょうがないなあ。なら、あたしが脱がせてあげる」
そう言って愛咲は香澄のお腹の前で両手をクロスし、Tシャツの裾を持ち上げた。
「藤崎さん、ばんざいして?」
「や、やらないから」
「裸の写真。今から結愛にでも送れば、明日には学校中に行き渡ってるかも」
この脅し文句はこれまで
もし香澄がノーと言っても、愛咲は写真を他の誰かに見せるつもりはさらさらない。
それどころか、見せたくないとすら思っている。
クラスメイトたちが香澄の裸を見ているのを想像すると、へその少し上あたりがムカムカとしてきて、気持ちが悪くなるからだ。
愛咲に残る僅かな良心がさすがに痛みを覚えてストップをかけているのだろうか。
香澄は今回も脅しに屈し、おずおずと両手を挙げた。
それを見て愛咲はTシャツをゆっくりと脱がし、枕の脇に置く。
香澄の肩に触れない程度のショートヘアが、Tシャツを脱いだ時の反動でふぁさっと落ちてきて、シャンプーの甘い匂いが漂った。
シャワーを浴びたばかりなのだろう。
距離を詰めると、首筋からは石鹸の香りが愛咲の鼻腔を刺激した。
残るは白のブラジャーのみ。
愛咲は一瞬躊躇ったのち、目の前にあるホックを外した。
「ま、待って!」
香澄はずれ落ちそうになるブラを慌てて抑えた。
愛咲は背後から香澄の両手を掴み、無理矢理胸を露わにさせる。
「百花、下も脱がしちゃって」
「もちろん、そのつもりだよ」
そう言って百花は香澄のショートパンツとパンツをまとめて一気に脱がした。
真っ白な太ももと、それと対照的な黒い茂みが目に飛び込んでくる。
香澄は小さく悲鳴をあげて、恥ずかしそうに身を
「あれ、もしかして香澄ちゃん、自分で整えたの?」
百花の言葉を受け、良く見てみると、確かに毛の長さが短くなっている気がする。
「し、知らない」
香澄が顔を逸らす。
「あ、うん。ごめんね。——それじゃあ、脚開くね」
百花は香澄の脚と脚の間に入り込んだ。
香澄の肩越しに見るその光景は、自分がされている視点のようでもあり、臨場感がある。
羞恥で顔を覆おうとする香澄の手を愛咲が掴み、これから香澄自身に起こることがしっかりと見えるように、ベッドの上に押さえつけた。
「あのね、ここで伝えなければならないことがあります」
百花が突然、真面目な顔をして愛咲たちを見た。
「なに急に。そんな改まって」
いざ始まるというところで水を差された愛咲は、不満げに百花を睨む。
「今日は指の爪を整えてきていません」
「じゃ、じゃあしょうがないよね。今日は無しってこと——」
「——なので今日は口でします」
香澄の声を遮って、百花の口から耳を疑うような言葉が飛び出した。
「えっ」
声を上げたのは自分か、それとも香澄か。
どちらだったにせよ、百花に対する戸惑いという意味において、愛咲は初めて香澄と心が一致した気がした。
「口でって、口でってこと? わたしのそこに百花が口をつけるって意味なら、ちょっとまっ——んっ、嘘っ。そんなとこっ」
百花は香澄の内腿を手で押し、香澄の静止の声を聞かずに、チュッと音を立ててそこにキスを落とした。
事が終わり、百花がテーブルの上のティッシュで顔を拭っているのを、愛咲はぼうっと眺める。
「あの、青山さん……。動けないんだけど」
香澄の声に愛咲は我に返る。
状況を把握して、愛咲は飛び跳ねるように香澄から離れた。
熱中するあまり、バイクの二人乗りのように、香澄のお腹に手を回して、きつく抱きしめていたのである。
そんな愛咲を百花が微笑みながら見ているのに気づく。
「なに、その目は」
「えっとね、香澄ちゃんのかわいさの大勝利だなって思っただけ」
「なにそれ」
百花はまたわけのわからないことを言う。
彼女の香澄信仰はとどまるところを知らない。
ゆくゆくは香澄のかわいさがあれば世界を救えるなどと言い出しそうで、愛咲は少しだけ心配になった。
「ううん。なんでもない。——香澄ちゃん、ティッシュ。あっ、私が拭いてあげようか?」
「いい。自分でやる。ていうか、わたしシャワー浴びるから。用も済んだんだから、早く帰ってよ、二人とも。ママももうすぐ帰ってくるし」
香澄は枕元に脱ぎ捨てられていたTシャツで身体を隠すと、百花からティッシュ箱を受け取った。
あれだけ裸を見られた後なのに、終わった後にはまたちゃんと隠すんだな、と不思議な感じがした。
だけど、裸で堂々としているよりむしろこっちの方が良いと愛咲は思った。
「で、結局藤崎さんは明日学校来るわけ?」
自分で言っておいて、なんて勝手な話だろうと思う。
そもそも今日の訪問の目的は香澄を学校に来させようという話だったのに、欲望のままに再び香澄に悪戯をし、状況をさらに悪化させてしまった。
愛咲は、生まれてから15年弱の間で自分がこれほどまでに愚かだった時期を他に知らない。
「……青山さんが約束守ってくれるなら」
「他の子にいじめをやめさせればいいんでしょ?」
「うん」
「ん。それじゃあ、帰るから」
「か、香澄ちゃん、ばいばい。また明日ね」
百花が別れの挨拶をしても香澄からの返事はなかった。
自分のしたことに罪悪感を覚えているのか、百花は気まずそうにしており、行為中の勢いは今はもう見られなかった。
百花からしたら、今日のことは完全に想定外のことだっただろう。
愛咲が
この女が最初からそういうつもりだったのなら、爪を整えてこないはずがないのだから。
自分のことを理性的な人間だと思っていたが、ここ最近は誰よりも感情に忠実に生きている。
これが本来の自分のなのか。
香澄がそうさせるのか。
自己嫌悪を抱えながら、香澄の家を後にした。