ハイスクールD×D Dancing×Dragons   作:夜魔

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単身赴任している父親の気分

「あー、くそ。本気で容赦なく倒して行きやがったな、あの娘」

 朧は血まみれでズタボロになり、壁に半ば埋まった状態で独り呟く。リリスの本気の拳をまともに受けた結果だった。

「ちょっと前までだったら確実に死んでたな、うん」

 体を揺すって壁から引き抜こうとするが、かなり深くめり込んでいるのか、腕や足さえ引き抜けなかった。

「あ、面倒なことになった」

 壁に埋まった状態で動きを止めた朧の前に、先ほどヴァレリーを連れて逃げたマグニが戻ってきた。

「ヴァレリーは無事か? 後、剥がしてくれ」

 マグニは朧の質問を頷いて肯定すると、朧の肩に手をかけて、壁から力尽くに引き剥がしたが、勢いが付きすぎたせいで床にうつ伏せで突っ伏す羽目になった。

「痛た……そこは受け止めてくれよ」

 朧が咎めるような視線を向けるが、完全な無表情のマグニがどう思っているかは朧にも一切わからなかった。

「……まあいい。もうリリスちゃんもいないようだし、そろそろ帰るか」

 既にリリスの気配がなくなっていることを感じ取った朧は、服を叩きながら立ち上がると、転移用の魔方陣を展開する。

 転移が発動する一瞬前、地下の惨状を見返して、朧は他人事にように呟いた。

「どうして世界ってのは、こうも悪人ばっかり蔓延(はびこ)るんだか」

 

 ―●―

 

「ああ、朧さん、お帰りなさい。長く家を空けるのはいいですけど、連絡ぐらいしてくださいね」

 転移を使って家に帰ると、真っ先に気づいたキッチンで夕食の用意をしていたレイナーレが話しかけてくる。

「ただいま。……何の前触れもなしに数日家を開けた結果のセリフがそれとか、少しは危機感を覚えた方がいいんだろうか」

 朧が一人で生活していた頃には気にする必要もなかったことだが、多人数での生活をする上で自分の存在の必要性に危機感を覚える。

「賢い子たちですから、朧さんの顔を忘れたりはしないと思いますけどね」

「忘れられたら本気で泣くぞ、俺」

 明日からリリスを探しに行くかと考えていた朧だったが、その想像で一気にその気が萎えた。

「もう少し、家にいた方がいいのかな」

「それぐらい自分で考えてください。ただ、私は朧さんがちゃんとこの家に帰ってくるなら、それでいいと思いますよ。……なんですか、その顔は」

 自分のことを妙に優しげに見ている朧に気づき、レイナーレはほんの僅かに戸惑った。

「いや、なんでもない。ただ、俺は程よく優しいお前が好きだって思っただけさ」

「すっ――!?」

 朧の言葉にレイナーレが何か反応する直前、リビングに通じる扉が突然開く。

「父様っ、お帰りなさい……!」

 部屋に飛び込んできた鵺は朧に抱きつき、勢いそのままに押し倒した。

「鵺、ただいま」

 自分にギュッと抱きつく鵺を抱き返しながら、朧は感慨深く呟く。

「いやあ、こうなると自分が所帯持ちってことをしみじみと実感するなあ。この歳で子持ちになるとは思わなかったが」

「あ、朧さん。お帰りなさい」

「おか」

 鵺が開けたまま開きっぱなしになっていた扉から雪花と白羽が顔を覗かせ、朧を見つけると嬉しそうな顔をして駆け寄っていく。

「はい、二人共ただいま。だけど白羽、挨拶ぐらいはキチンとしなさい」

「……お帰りなさい」

 白羽が渋々と挨拶し直すと、朧は満足そうに頷く。

「よろしい。挨拶もまともにできないと葛霧ちゃんみたいになるぞ」

「以後気を付ける」

「さり気なく私がディスられた気がして」

 レイナーレの横に気配もなくひょっこり現れた葛霧であったが、自分が居たら間違いなく小言を言うはずのレイナーレが何も言わないことに不自然さを感じて見てみると、レイナーレは顔を赤らめて心ここにあらずといった様子だった。

「あの、レイナさん、どうされました?」

 問いかけたが反応はなく、うわ言のように「好きって……好きって……」としか言わないレイナーレを見て、ダメだこれと諦めて質問する対象を朧に変更した。

「あの朧さん? レイナさんに何かいいました?」

「んー? 好きって言ったかなー?」

 朧の返事を聞いて、葛霧は全てを悟って頭を押さえる。

「ああ、ついにレイナさんに対してもデレましたかこの男。これ以上フラグ立てないで欲しいんですけど」

 一応朧に好意を抱いている葛霧としては、立ちはだかる壁はオーフィス一つで限界なのだ。

「くそう、こうなったら私も抱きついてやりますよ」

 子供三人と戯れている朧に対して突っ込んでいく葛霧だったが、鵺のように飛びつかれては堪らないので直前で葛霧の動きを手で制した。

「流石にお前に飛びつかれたら骨とか折れそうだからやめてくれ」

 朧は体を起こしながら、不満そうな葛霧の説得を試みる。

「失礼な。そこまで重くありませんよ?」

「30キロ以下なら許容範囲だ。流石にそこまで軽くないだろう」

 葛霧が小柄だとはいえ、流石にハイティーンに差し掛かる年頃の平均的な体つきをしている以上、体重が30キロ以下というのは健康面が心配になる。

「仕方ありませんね。飛びつくのは勘弁してあげましょう」

 それを聞いた葛霧は飛びつくのを諦め、朧の背中にピッタリと寄り添った。

「あ、くっつくのはやめないのね」

「当然です。まさかダメとは言わないでしょう?」

「構わないよ。寄りかかる程度なら然程重くもないしね」

 朧の背中に寄り添いながら、葛霧は(とろ)けたような顔で頬ずりをする。

「うふふー。朧さん大好きですー」

「いきなりデレるな……」

 不定期にサドモードとデレモードが入る葛霧への対応に困る朧なのだが、何が一番困るかというとどちらも好意全開なのが一番困っている。

 案外自分に向けられる恋愛的な好意には少し弱いのだ。自分からの好意と他人からの悪意には滅法強いが。

「レイナさん相手にデレた人に言われたくないですー」

「そんな事したっけ……?」

「自覚なしとか最悪ですねっ」

 心当たりが本当にないため首を傾げていると、最後にゆっくりと部屋にオーフィスが入ってきた。それを見て、朧はぱあっと顔を輝かせる。

 オーフィスは朧を見つけると即座に近寄り、その頭をかき抱くと突然匂いを嗅ぎ始めた。

 なお、朧の正面にいた鵺は二人の間に挟まれ、嬉しそうにしている。

「朧、我じゃないけど我の匂いする相手と一緒にいた? 浮気?」

 オーフィスのその発言の後、みんなが一斉に朧から離れる。

 その瞬間、朧は即座に土下座することに決めた。

「朧さん、弁解を聞きましょう。処刑はその後です」

 よりにもよってこの瞬間、レイナーレが再起動した。

「相手はオーフィスの力から生まれた分身みたいなものです。ついでに恋愛感情はないです。どちらかといえば鵺に対する感情に近いです」

「オーフィスさん。判定」

有罪(ギルティ)。一週間抱き枕の刑」

 ちなみにこれ、抱き枕になっている間はされるがままなのでかなりキツい。

「あうー……」

 下された判決に、朧は若干涙目になって項垂れる。ちなみに少し可愛い。

「ところで、オーフィスは自分の奪われた力には興味ないの?」

「朧を取られるなら消し飛ばすけど、それ以外には興味ない」

「ちゃんとオーフィスLoveなので安心してください」

 愛されていることを口に出されて嬉しいものの、実際にそんな状況になった時の事を考えて思わず緊張してしまう。

(そんなことになったら俺は止めるために何回ぐらい致命傷受けるのだろうか)

 どちらにしてもその状況になったのなら、もうクリフォトがどうとか言ってられるような状況ではなくなる。ウロボロスの激突で世界がヤバい。

「朧さん、何があっても浮気とかしないでくださいね」

「言われなくてもしないわ! 私が何年オーフィス想い続けていると思ってるんだ。今更見た目と性質が同じぐらいで揺らぐか!」

 迷いなく言い切った朧の態度に、周囲から賞賛の声と拍手が上がる。

「よくぞ言い切りました朧さん。それでこそです!」

「……感動したのはわかったから拍手とかやめて。正直恥ずかしい」

 赤面する朧を見て、この場にいる全員が少し萌えた。そしてオーフィスが朧に抱きついて押し倒した。

 そして、オーフィスはそのまますやすや寝息を立て始めた。

「寝ちゃった。寝室まで運んでくるわ」

 寝たオーフィスを起こさないように抱き上げ、部屋に運ぼうとする朧をレイナーレが笑って見送る。

「はい、いってらっしゃいませ。戻ってきたら晩ご飯ですからね」

「あれ? このまま抱き枕の刑じゃなかったのかな」

「ご飯作ったんですからちゃんと食べてください」

「はーい」

 レイナーレの言葉に笑って答えながら、朧は自室に向かう階段を上がっていった。

 


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