【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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今回もバトル回なのでセリフあります。
よろしくお願いします。


決戦、ルリナ!

 

 

モンスターボールを構える。激しい水飛沫を何度も浴びて、せっかくのユニフォームがずぶ濡れだ。それももう終わる。これが最後のポケモン。ルリナさんのカジリガメを見ながらボールを投げた。

 

「最後は――、お前しかいない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャレンジャー、ジムリーダー共に入場して下さい』

 

スイッチを切り替えて迷路を進むジムチャレンジをどうにか終えて、三度目のジムリーダーとのバトル。相手はルリナ。あのキャンプでの夜が懐かしい。コートの真ん中で向かい合うと、観衆に聞こえない小さな声で「ありがとう」と言ってきた。

 

「あなたが善人で助かったわ。キャンプでのことをSNSにばらまいたりされることも覚悟してたから。でもあなたはやらなかった。本当にありがとう。だからこそ、あなたにとって意義のあるバトルにしてみせる」

 

雑誌で見た彼女は繊細で神々しいとすら思えたが、ここにいる、そしてキャンプで会った彼女はもっと情熱的で荒々しい。どちらがではなくどちらも彼女だからこそ、これほどまでに魅力的なのだろう。

 

「いってらっしゃい、アズマオウ!」

 

「頼む、コロトック!」

 

ルリナが出したのは知っているポケモン、アズマオウ。トサキントの進化系、水単体のタイプだ。こちらは虫タイプ単体、直接的な相性の有利不利はない。さてどうなるか。

 

「コロトック、エコーボイス!」

 

「アズマオウ、たきのぼり! ひるませるのよ!」

 

コロトックが腹をかき鳴らすところへ水をまとったアズマオウが突っ込んでくる。コロトックは羽を広げるとあえてアズマオウの下をくぐるように飛び込んだ。たきのぼりが上へと昇る技だからこその回避方法だが、実はノモセジムで見たことがあったからできたのである。

 

「思ったより水ポケモンと戦い慣れしてるわね。アズマオウ、スマートホーン!」

 

「コロトック!エコーボイス! 威力を上げて!」

 

コロトックの発する音がさらに大きくなる。アズマオウは顔をしかめつつも立派な角に鋼をまとうと、水中を泳ぐような速度で素早くコロトックへ接近する。コロトックは再びかわそうとコートをジグザグに飛び回るも、アズマオウは的確に追い上げてくる。

 

「まさか必中技……! コロトック! 受けろ! 良く見て急所は外すんだ!」

 

コロトックが空中に舞い上がり、下からの突き上げを待ち構える。突っ込んできたアズマオウを両手を交差させて受け止めた。刺さりこそしなかったものの、思いっきり角で突き上げられ、かなり上空に飛ばされてしまう。

 

「そこから方向転換は難しいでしょう。アズマオウ、もう一回たきのぼり!」

 

「コロトック、エコーボイス! そこから水の中にまで響かせろ!」

 

空中で腹をかき鳴らす。三度目のエコーボイスはスタジアムにビリビリと衝撃を与え、観客に思わず耳を塞がせるほどだ。アズマオウにもその音は響いたようで、わずかに進路がそれた。それを見逃さずコロトックが攻撃を回避、素早くコートにまで戻ってきた。

 

「アズマオウがここまで追い込まれるとは驚きよ。アズマオウ、スマートホーン!」

 

「コロトック、とどめばり! 相手の技を受ける前に刺せ!」

 

鋼をまとった角がコロトックに刺さる前に、コロトックの手がアズマオウの腹に突き刺さっていた。しばらくじたばたしていたが、すぐに目を回して動かなくなる。

 

 

 

 

「妙に手慣れてるわね。ラテラルタウンのユニフォームだからゴーストファンかと思ったけど、シンオウでは水ジムで修行でもしたの?」

 

「その通りです」

 

「アズマオウなら世界中にいるものね。それなら、この子はどうかしら? 行くのよカマスジョー!」

 

ルリナの二匹目のポケモンが姿を現した。細長く小柄な体だが鋭利な牙がのぞき、尻尾が船のスクリューのような形をしている。どうみても魚ベースなので水は確定だが、他にタイプはあるのだろうか。油断はできない。

 

「コロトック、シザークロス!」

 

「遅いわ。カマスジョー、こおりのキバよ!」

 

「こ、氷技!?」

 

両腕を交差して構えるコロトックに目にも止まらぬ早さで突撃したカマスジョー。そのギザギザの歯は冷気を帯びて白い息を残す。コロトックは避ける間もなく噛みつかれる。甲高い悲鳴が響いた。

 

「効果抜群ね。たまったものじゃないでしょう?」

 

「こ、コロトック! とどめばり! 少しでいいからダメージを与えることに集中!」

 

ガタガタと震える体で、コロトックは自分に噛みついて離れないカマスジョーの腹に手を突き立てる。しかし刺さりもしないうちにコロトックがガクリと力尽きる。相性が最悪だ、このポケモンは水と氷の複合かもしれない。この二つの複合は多い。となると次は。

 

「頼む、グレッグル!」

 

氷ならグレッグルの格闘が効くと判断してのチョイスだ。ルンパッパのあまごいがあれば万全だが、この水タイプジムであまごいは悪手なので今回は組み合わせるつもりはない。

 

「グレッグル、ちょうはつ!」

 

「乗ってあげなさい、カマスジョー! お返しにドリルライナー!」

 

「げっ!? じ、地面技ぁ!? さっきは氷技で今度は地面……!?」

 

「水タイプポケモンを使うからって水技しか使えないってのは三流以下よ」

 

毒タイプを持つグレッグルに地面タイプは相性不利だ。幸いちょうはつに乗って直線的な動きがもっと直線的になっていたので回避はできる。それでも速度が早すぎてそう何度もかわせるものではない。

 

「(リベンジで受けるにはあのドリルライナーが危険すぎる。となるとこちらから攻撃しつつ回避に専念か……!)」

 

「カマスジョー、もう一回ドリルライナー! 相手のペースにしちゃダメ! かき乱すの!」

 

「グレッグル、どくばり! 動きを良く見て撃ち込め!」

 

左右にステップを踏みながらどくばりを撃つチャンスを待つが、あまりに早いため回避だけで精一杯だ。このままでは体力切れでどのみち負ける。いっそそれなら……!

 

「グレッグル! 息を整えて待ちかまえる! リベンジだ!」

 

「勝負に出たわね。いいわ。カマスジョー、突き刺してやりなさい!」

 

これは賭けだ。ポケモンの技は本来持っているポケモン自身のタイプと違う場合、威力が落ちる。グレッグルが地面技で大打撃を受けるのは違いないが、タイプ不一致の場合は耐えられるかもしれない。そうなればリベンジで逆転できる可能性がある。

 

「グレッ……」

 

グレッグルが腰を落とし、両手を広げて待ち構える。カマスジョーも四枚の尻尾を最大回転させる。ゴッ、という音だけを残してカマスジョーは飛び出しコートの地面ギリギリを進んで砂をまとい、グレッグルの腹に突き刺さった。

 

「グ、グレッグル!?」

 

ぐらりと体勢を崩して倒れる――と思ったその時だ。腹のカマスジョーの体を両手で掴み引っこ抜くと、倒れる反動で体をひねって地面に渾身の力で叩きつけた。

 

「カマスジョー!」

 

素早さ特化のポケモンだったのだろう、カマスジョーは一度ピチッと跳ねるとそのまま動かなくなった。グレッグルはどうにか起き上がったものの、片ひざついた状態だ。あと一回の行動が限界だろう。

 

 

 

 

「よくやったわカマスジョー。いよいよこちらは最後のポケモン、カジリガメ。キョダイマックスで全てを押し流してあげる!」

 

カジリガメが入ったボールが赤くなるのを見ながら、違和感を感じる。キョダイマックス? キョダイ? ダイマックスと何かが違う?

 

「そっか、まだダイマックスしか見たことなかったのね。ポケモンの中でも一部の個体はダイマックスした時、姿形が変わるのよ。それに合わせて専用の技も使えるようになるわ。覚悟なさい。キョダイマックスしたカジリガメは強いわよ!」

 

ボールから出てきたカジリガメは、本来四足歩行なのに二足歩行へと変化している。また、背中の甲羅が頭頂部を覆うくらい肥大化し、首が甲羅の奥へ引っ込んでいる。赤々と輝く瞳が暗がりからのぞく姿に背筋が冷たくなった。

 

「(実はカジリガメのタイプは調べてある。水と岩。ただキョダイマックスについては全く分からないから、ここからどうなるか!)」

 

「悪いわね、かんそうはだのグレッグルを回復させる気はないわ。カジリガメ! ダイアーク!」

 

「グレッグル、ふいうち!」

 

カジリガメの周囲に黒い光が収束していく。グレッグルはどうにかカジリガメの後方に回ると尻尾にかかと落としを炸裂させた。しかし威力はそこまでではないようで、黒い光に捕らわれたグレッグルが収束する光に押し潰される。光が霧散したそこには意識を失って動かないグレッグルが横たわっていた。

 

「ありがとうグレッグル。いけっ、ホシガリス、たくわえる!」

 

「カジリガメ、ダイロック!」

 

ボールから飛び出したホシガリスが尻尾から食べかすを口に含んで身構えると、カジリガメは二本の前足を思いっきり地面に叩きつけた。その衝撃で大地が隆起し岩の壁を作る。その岩の壁に頭突きをし、ホシガリス目掛けて倒してきた。

 

「ホシガリス、岩の隙間を探せ! どんな小さな隙間でもいい! そこに入ってダメージを減らすんだ!」

 

必死に走るホシガリス。果たして間に合ったのか、上から覆い被さる岩の壁。それは地面に激突するとバキッと砕けて小さくなったが、代わりに飛び散った砂がヒュウヒュウと風に吹かれてスタジアム中に舞い上がる。

 

「すなあらし……。スリップダメージでホシガリスの体力を削ぎ落としながらカジリガメの防御力で耐久する作戦ですか……!」

 

「ええ。安心して、このたくさんの土砂はあなたのポケモンごとまとめて洗い流して綺麗にするから。次のジムチャレンジャーを待たせることはないわ」

 

その時、コートに動く影が。ボロボロになったホシガリスが泣きながらもっちゃもっちゃと口を動かしている。ギリギリ体力が残ったのだろう。オレンの実と特性のおかげで少し持ち直したようだ。

 

「あら、タフね。でもここまでよ。カジリガメ、キョダイガンジン!」

 

キョダイ……、これがキョダイマックスしたカジリガメの専用技か!

カジリガメの開いた口に、大気中の水分が凝縮していく。密度を増した水は光と見紛う見た目と速度で発射された。まるでウォーターカッターだ。

 

「ホシガリス、たくわ……間に合わない、逃げてっ!」

 

「無駄よ。ダイマックス、あるいはキョダイマックスしたポケモンの技からは何があっても逃れられないのだから!」

 

青ざめ走るホシガリスに水が直撃すると、勢いを殺さずコートの地面まで抉る。コート中に岩が飛び散る中ホシガリスはくるくると宙を舞い、ポテンと墜落してきた。涙を浮かべたまま目を回しているその姿に罪悪感が芽生える。

 

「最後は――、お前しかいない! ルンパッパ!」

 

ボールから出たルンパッパ、すなあらしに痛がったあとに周囲の岩にも傷ついている。しまった、ステルスロックを引き起こす攻撃だったのか、キョダイガンジンは。

 

「……コロトックが予想以上に強かったせいで、キョダイマックスでルンパッパを仕留められなかったのは痛かったわね」

 

ギリ、とルリナが歯噛みする。その言葉が引き金だったようで、カジリガメの大きさが元に戻る。カジリガメもほぼ無傷ではあるが、ルンパッパの草タイプはカジリガメの最大弱点。ここまで温存できて良かった。

 

「ルンパッパ! 問題ないね!? よし、ギガドレイン!」

 

「カジリガメ、くらいつく! 絶対離さないで!」

 

カジリガメが突撃してくるより早く、ルンパッパが緑の光をカジリガメから吸収する。お肌がツヤツヤしてきたルンパッパに対し、カジリガメの足元がおぼつかなくなってくる。ルンパッパの体力が全快した時、カジリガメがズズン、とコートに倒れ伏した。今までで一番余裕を残した勝利だ。ノモセジムの経験が活きたバトルだった。

 

「ホシガリスポーズ!」

 

だいぶ余裕をもってポーズできるようになってきた。ルンパッパは軽快なステップでコートを動きながらホシガリスポーズをしている。相変わらずいつ覚えたんだそのポーズ。

 

「悔しいわ。キョダイマックスしたカジリガメならルンパッパだって倒せるはずだったのに、まさかアズマオウとカマスジョーが残り全員を倒しきれなかっただなんて。大したものね」

 

「たまたま、たまたまトサキントやたきのぼりを何度も見ていたからできたことです。現にカマスジョーのタイプは分かりませんでしたし、対応しきれませんでした」

 

「カマスジョーは水単体よ」

 

「き、器用なポケモンですね……」

 

ルリナと固く握手する。ジムバッジ三つ目だ。これでワイルドエリアの北半分にも入れるようになったとのこと。

次はナックルシティを経由し、ラテラルタウンへ。レイジさんと再会の時。感謝をバトルで伝えられるだろうか。

 

ここまで一度でジムをクリアできていた。ここまでは努力でどうにかなる。

ここからは、才能が努力を喰らっていく世界となる。

 

 

 

 

 

 




ルリナさんとのバトルでした。
書いてて何度も『かんそうはだ』のこと忘れそうになりました。危ない危ない。
原作同様、ここまでは前半戦ですが、この先どうなるか。
普通の人にどこまで行かせるか。悩みどころです。

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