【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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道を選ぶのは、君だ

 

 

 

 

 

ご主人の声が、とても遠くに聞こえる。何か指示を出しているのだけど、聞き取れない。それほどに目の前の存在が恐ろしくて、目が離せない。

 

“戦えないやつは、引っ込んでな”

 

ゲタゲタと笑うその巨大なポケモンの意志が響いてくる。そして黒い光の攻撃に飲み込まれ意識を失ってしまった。傷はすぐに癒えたけど、あの意志が、ずっとずっと耳元で響き続けている。

 

 

 

 

 

 

ゴーストタイプ使いのジムリーダー、オニオンとのバトル。向こうのキョダイマックスゲンガーに対しこちらの最後のポケモンはホシガリス。ところがホシガリスはキョダイマックスしたゲンガーを一目見るなり怯えてしまい、動けなくなってしまった。こちらの声も届かなくなったホシガリスは、何もできずにゲンガーの攻撃をもろに受け、負けた。ジムチャレンジ初めての一回突破失敗であった。

 

「あ……、あのぅ……。ホ、ホシガリス、怖がらせちゃったかもしれないです……。も、もし、そうだったら、ごめんなさい……」

 

試合が終わって握手した時、オニオンさんはそう言っていた。ポケモンセンターで傷を癒した後全員をボールから出してみたら、ホシガリスだけずっと震えている。ジョーイさんに診てもらったところ、精神的な恐怖とのこと。

 

「オニオンさんと戦ったポケモンは、時々こうなっちゃうんです。彼のキョダイマックスゲンガーは恐怖をあおりますから。もしどうしてもこの恐怖が消えない場合は、もうバトルには出さない方が良いと思いますよ。トラウマになっている可能性もありますから」

 

そこからはよく覚えていない。あまりのショックに気づいたらもう夕方で、エンジンシティまで戻ってきていた。ラテラルタウンはレイジさんがいる、ナックルシティはキバナさんがいる、どちらも気まずい。それでエンジンシティだったのだろう。スマホには最初に来た時に連絡先を教えてもらった空飛ぶタクシーに電話した履歴が残っていた。

 

「スボミーインは深夜は締まりますので、戻る時間にはお気をつけください」

 

今日はこれ以上街を移動する気になれず、ホテル・スボミーインに荷物を置く。それでも落ち着けず、貴重品とモンスターボールだけを持って夜のエンジンシティにさ迷い出る。店の灯りが一つ、一つと消えていっても戻る気になれず、エンジンリバーを眺めながら今日までのことを思い出していた。

 

 

 

十年前のダンデさんとの出会い。

すぐ辞めてしまったポケモントレーナー。

ダンデさん敗北のニュース。

ノモセジムへ挑むこと一年。

ガラルに来て始まったジムチャレンジ。

三つのジムクリア、そして負けたラテラルタウンジム、オニオン。

 

 

 

初めはコロトックだけだった。そこからグレッグル、ホシガリス、ルンパッパが仲間になった。だが……。ホシガリスに深い心の傷を負わせてしまった。どうすればいいのだろう。何がいけなかったのだろう。考えても考えても答えは出ず、思考は袋小路に入り込んでぐちゃぐちゃだ。

 

『もしもし。こんな時間にこんなところでどうしたんだい?』

 

それは地元の言葉だった。シンオウやカントーなどで使われる、このガラルでは異国の言葉。すでに懐かしくなりつつあったその言語に反応して振り返る。そこにはロマンスグレーの短髪、鋭く細い目の男性が立っていた。すぐ横には見たことのない炎タイプのポケモンが控えている。ペンドラーの仲間だろうか、節のある体をしたむしポケモンのようにも見える。

 

『そこから身を投げるのはおすすめできな……えぇっ!? ど、どうしたんだい、具合が悪いのかな!?』

 

気づいたら涙が出ていた。懐かしい言葉と優しい気遣いに触れて、ここまでピンと張り詰めていた気持ちがゆるんでしまい、涙が止まらない。止まらないけどひとまず身投げではないことだけは伝えた。ガラルの言葉で。

 

「あ、こっちの言葉で通じるんだね。死ぬつもりがないなら良かった。……そうそう、僕はカブ。普段はエンジンシティジムでジムリーダーをやってるんだけど、ホウエンに帰郷しててさ。つい昨日帰ってきたんだ。それでその格好、君もジムチャレンジかな? スボミーインに部屋があるならそこで話すかい?」

 

ずびずびと鼻を鳴らしながら同意し、自分の部屋に案内する。ホテルにカブさんが来たらスタッフが驚いていた。さすがジムリーダー。

部屋に入ってこれまでのことを話す。一度キバナさんに話してしまったからだろうか、もう抵抗感なく話せてしまえる。

 

「そうか。話してくれてありがとう。大人ってさ、子どもと違って諦められることと諦められないことがごちゃごちゃになるんだよね。ある意味子どもよりワガママとも言える。でもさ、それを貫いたり守ったりできる大人が高みを目指せるんだと僕は思うよ」

 

僕も、とカブさんが悲しい笑顔を浮かべる。

 

「一時期マイナージムに落ちてさ。あの頃は荒れたなぁ。見映えの悪い戦術を使ったりしてメジャージムまで戻ってきたよ。僕はどうしても負けていることが許せなかった。マイナーのままなんて、そんなの受け入れられなかったんだよ。客受けがどれほど悪くてもね」

 

一流と呼ばれる人間達は自分とは違うと心のどこかで思っていた。でも、同じような壁や試練に対してどこまで立ち向かえるかで他人からの評価が変わるのかもしれない。料理もそうだ、卵焼きを作るだけなら子どもでも作れる。しかし素材や手法の違い、工夫がそこに加わることでプロの料理人が作った卵焼きになるのだ。

 

「……さて、君のホシガリスだけど。そもそも君は、ポケモン達に自分の考えや意思を伝えたのかい?」

 

意思?

 

「どうしてジムチャレンジに挑んでいるのか、どうして勝ちたいのか。ジムチャレンジが終わったらどうしたいのか、ポケモン達には一緒に来てほしいのか、それともガラルからシンオウには連れ帰らないのか。君の考えも分からない中で、特に戦いたくて君のモンスターボールに入った訳ではないホシガリスはずっと不安だったんじゃないかな」

 

はっとする。そうだ、ホシガリスはバトル用に捕まえたポケモンじゃない。これまでもバトルのたびにこっちを見たり、泣きそうだったりしていた。ホシガリス、君はずっとずっと『主人の考えが分からない』まま戦っていたのか。それはどれだけ怖いことだっただろう。

 

「一度、君の手持ちのポケモン達と話してごらん? ポケモントレーナーだけじゃない、ポケモンと人が共に生きるなら、お互いの考えを理解しておかないと。悲しい誤解から人が傷ついたりポケモンが捨てられたりする事件は後を絶たない。良いきっかけだと思うよ」

 

それと、と一枚のチケットとメモを渡された。

 

「君たちが向かうべき方向が決まったら、そのメモを見なさい。そして必要ならそのチケットの場所に行って、僕の名前を出してごらん。その道のプロがいるなら、その人に聞くべきだからね」

 

それじゃ、とカブさんは出ていった。部屋には自分と四つのモンスターボールが残る。少し考えて、ポフィンを新しく作ってから四匹のポケモンをボールから出した。ホシガリスは相変わらず震え、ポフィンにも興味を示さない。

 

――聞いてほしい。

 

四匹がこちらを見たのを確認し、ゆっくり言葉を選んで話す。もう一度ダンデさんに会うために、できるならバトルタワーに行けるジムバッチ8つ分勝ちたい。無理なら一戦でも多く勝ってホシガリスポーズをする。キバナさんが気づいたように、ダンデさんも気づくかもしれないから。

そして、ジムチャレンジがどんな結果で終わっても、ポケモントレーナーとしてはそこで終わり。シンオウに帰ってポケモンバトルもできるカレーとポフィンの店を開きたい。それが自分の目的で、自分の願い。

 

 

 

 

これ以上一緒にいられない、と思ったら部屋から出て行ってかまわない。ドアは開けてある。

バトルだけ協力してくれるなら、ボールに入ってほしい。

お店まで手伝ってくれる、つまりシンオウまで来てくれるなら、一緒にポフィンを食べよう。

 

 

 

 

四匹のポケモンは互いに顔を見合わせている。まず動いたのはグレッグルだ。すたすたと進み出てポフィンを取り、そのまま仲間に背中を向けて床に座った。

次に動いたのはルンパッパ。ホシガリスに「ンッパ」と何か言うと、ポフィンを両手に持ってグレッグルの横に座った。

 

「キリリ」

 

コロトックはホシガリスに何かを促している。ホシガリスはまだ震える体でグレッグル、ルンパッパ、コロトック、そして自分を見る。自分は何も言わない。ホシガリスがどんな答えを選ぶにしても、後悔しないと言える。

ホシガリスはトコトコ歩くと、まずグレッグルとルンパッパの前へ。

 

「グレ、グレグレ」

 

グレッグルが何かを言い、ルンパッパもうなずいている。またトコトコ歩いてきて、コロトックの前へ。コロトックはお腹を静かに鳴らして感情を伝える。最後に自分の前に歩いてきた。じっと見つめるホシガリスは、いつの間にか震えが止まっていた。

 

「キキッ」

 

撫でて。そう言っている気がして、そっと手を伸ばした。頭にゆっくりと触れてわしゃわしゃと撫でる。また涙腺がゆるんできた。ホシガリスは目を閉じて撫でられるがままになっている。と、その時。

 

ホシガリスの体が輝き出した。

 

えっ、と驚いて手を離した。残りの三匹も目を見開いてホシガリスを見ている。輝きに包まれたホシガリスはだんだんと体が大きくなっていき、光が落ち着いたそこにはふた回りほど大きくなったホシガリス……、いや、進化した新しいポケモンがいた。灰色だった体は赤茶色に変わり、貫禄のある体により太くなった尻尾。そして何より。

 

顔つきが、ものすごくふてぶてしくなった。

 

「――バリスッ!」

 

鳴き声が、バリス……。ドスドスと重々しくテーブルに近づくと、ポフィンを鷲掴みにしてどんどん口に放り込み始めた。それに慌てたグレッグルとルンパッパがテーブルに飛び付いて自分達の分を確保していく。なんと他のポケモンが確保した分にさえ手を出していく元ホシガリス。その様はまるで。

 

「ヨクバリ……、ス」

 

何でだろう。間違いなくこいつの名はヨクバリスだと確信した。そんなヨクバリス、ふと目が合うと力強く「バリスッ!」と笑顔でうなずいてくれた。呆れた顔をしたコロトックが仲間達の仲裁に入り、各々が食べるポフィンを取り分けていく。気づけば全員がポフィン、つまり最後まで来ることを選んでいた。

 

ありがとう。

 

改めてみんな、これからもよろしく。

 

 

 

 

 




ホシガリスはヨクバリスに進化した!
アニポケではよく描かれていますが、戦いが好きじゃないポケモンやバトルを好まないトレーナーがいてもいいんじゃないかと思うんですよね。
人と一緒に生きることを選ぶポケモン達には、それぞれの考えがある。そういうの良いと思うんです。
あとカブさんカッコイイです!
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