【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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お先真っ白、カンムリ雪原

 

 

 

 

十年前。

シンオウ地方二つ目のジムに勝てず、ポケモントレーナーを辞めようと思うまで三日もかからなかった。六匹もポケモンを捕まえて挑んだ自分に対し、すぐ後にチャレンジした年下の子はジムにとって弱点タイプの手持ち含め二匹だったのに完勝したのを見たからだ。

 

今なら分かる。ただ捕まえただけではなく、技の構成、相手の動き、先読みなどがきちんとしてないと何匹手持ちがいても勝てない。軽い気持ちで無計画に挑んで勝てる世界ではないのだ。でも当時13歳の自分にはそんなことも分からなかった。だからやめることにした。

 

ダンデさんの言葉が甦ったが、もう一回挑もうという気持ちはどうしても持てなかった。ふて腐れながら家に戻る道すがら、ムックル、ビッパ、イシツブテ、コリンク、ブイゼルを捕まえた場所に近いところで逃がしていく。その五匹は一度だけ若い主人を見ると、そのまま走り去っていった。

 

最後のモンスターボール。出てきたのは初めて捕まえたポケモン、コロボーシ。コロトックの進化前のポケモン。他のポケモンにも伝えたことを告げる。もうポケモントレーナーじゃないから、逃げていいよ。コロボーシも一度主を見上げると、とぼとぼと歩きだした。耐えられなくなりコロボーシに背を向けて走ろうとした時だった。

 

「キリリィ!!」

 

聞き慣れた鳴き声。振り返ると、ただでさえ動きの遅いコロボーシが悲鳴のような声を上げながら追いかけてくる。他の五匹より早く捕まえたコロボーシだけは、主との間に確かに絆が芽生えていた。それにコロボーシは知っていた。逃げていいという主が、目に涙をためながらこぼさないように耐えていたことを。

 

コロボーシと一緒に帰宅すると、母はなにも言わずにポケフードを用意してくれた。父は「むしタイプは寒気に弱いから、暖かい寝床を用意しとくんだよ」とだけ告げて仕事に出かけて行った。あの日からコロボーシ、そしてコロトックは唯一無二の相棒であった。

 

あれから十年。

出会ってから初めて、コロトックに本気で怒られた。

……凍死させかけたために。

 

 

 

 

 

 

カンムリ雪原。一年中雪が降る地域でほとんど人は住まなくなった場所らしい。シンオウにもキッサキシティという豪雪地帯があるから大丈夫だろう、とたかをくくって行ったら予想以上に寒くて吹雪だった。寒すぎたため野生のポケモンとのバトルでボールから出したコロトックが、その場で状態異常こおりになってしまったのだ。

 

「キリリリリリ……」

 

慌てて避難した小さな村で、コロトックはとても低い声でさっきから恨み節をぶつけてくる。本当に申し訳ない。まさかそこまでとは思わなかったのだ。早く目的を果たして帰ろう。

どうしてカンムリ雪原にまでやって来たのか。話はヨクバリスに進化した時にさかのぼる。仲間達との絆が深まったことを確認し、カブさんにもらったメモを見てみることに。

 

『君がセイボリーくんと戦う時にゴーストタイプと悪タイプを探していたと言っていたから、悪タイプのエキスパートを紹介しておく。オニオンくんに勝ちたいなら悪タイプをおすすめするね。スタッフに僕の名前を出せば会えると思うよ』

 

紹介、という割には一緒にあるチケットはライブハウスでのライブチケットだ。『マキシマイザス』というグループらしいので翌日さっそくバウタウンにあるライブハウスに行き……、感激した。感激ついでに物販にあったアルバムのCD買いまくった。また財布が軽くなった。

 

「カブさんですか。面倒なことを頼んでいきやがりましたね」

 

感涙にむせびながらスタッフに話をしたら、よりによってたった今ファンになったマキシマイザスのゲストボーカル、ネズさんが出てきたではないか。年甲斐もなくめちゃくちゃ緊張しながら今日ファンになりました、サイコーです、CD買いましたと報告。

 

「……ありがたいですが、用事がそれだけなら失礼しますよ」

 

いけない、本来の目的を忘れていた。改めてネズさんに聞きたいこと。それは元悪タイプのジムリーダーだったネズさんに、ジムチャレンジ攻略用の悪タイプポケモンを教えてもらうことだった。

 

「ええと、本気でこの先もトレーナーやるというよりは、俺みたいに副業トレーナーって感じですか。となると気性が荒かったりなつきにくいのは合わなさそうですね」

 

あれじゃない、これじゃないとブツブツ呟くネズさんの後方では、コロトックと同じように胸の器官を弾いて音を出す二匹のよく似た紫色のポケモンとドラム担当の緑色の髪を持つポケモン、そしてネズさんの髪色と同じボーカル担当の白黒ポケモンが興味深そうにこっちを見ていた。

 

「……悪タイプの『悪』ってのは、人間が勝手に分類した決めつけの性質なことが多いです。野生のポケモンとしては似たようなことをやるのが他のタイプにいても、人に害なすポケモンが悪タイプに分類されてます。つまり、そもそも人間に敵がい心を持つ段階で扱いにくいんですよ」

 

そんな中で可能性があるなら、と前置きし。

 

「……アブソル。そっちの地方にもいるんでしょ? 細かいことは知らねぇですけど。あれなら受け入れられさえすれば温厚で従順ですよ。ただしガラルだとカンムリ雪原にしかいないし、受け入れてくれるかはアブソル次第だから覚悟して行くことですね」

 

アブソル。わざわいポケモン。シンオウにも生息するがあまり見られないポケモンだ。カンムリ雪原には電車で行けるが極寒なので寒さ対策をしていけとのこと。日帰りは無理だろう。ますます残された時間がなくなっていくが、ここでアブソルを捕まえないという選択肢は自分の中には無かった。

 

「あんたのこの先なんてどうでもいいんですがね。才能の限界を感じた大人同士、この先もやさぐれたまま頑張りましょうや」

 

言葉と裏腹に吹っ切れた様子のネズさんに感謝を述べ、カンムリ雪原へ。そして猛吹雪の中コロトックを凍らせかけたのである。極寒をなめてた。早いとこ誰かに聞き込みをしないとまずい。人も少ないし、この村を出て何かあったら最悪遭難するかもしれない。

 

「ほんっとに、いーかげんにしてよオヤジ!」

 

「そんなシャクちゃん、やっとカンムリ雪原の伝説の全貌を暴いてこれから新しい伝説をパパと一緒に紡いで行こうぜって時なのに! いや、ははーんシャクちゃんもうすでに新しい伝説見つけてて、パパを焦らしてるんだな!? ド・そうだろ!?」

 

「は? んなワケないから! あたしはダイマックスアドベンチャーでチョー良い感じにポケモン捕まえたからそろそろ帰りたいっつーの! もういい、一人で帰るから!」

 

……親子喧嘩だろうか。気まずい現場に遭遇してしまった。さすがにその人達に聞き込みはすまいと思っていたが、逆に父親らしき人物と目が合ってしまった。

 

「やいお前! 分かってるな、シャクちゃんはカワイイから見とれるのも仕方ないってもんだ。でもウチの娘とお友達になるなら、まず俺の面接を受けてもらおう! ご趣味は?」

 

なぜ父親が面接するんだ。

 

「そっちは無視していーよ。んで、何か用?」

 

アブソルをどこかで見かけなかったか聞いてみた。

 

「あー、見た見た。巨人の寝床っていう、マップある? ……ここ、ここらへんで見たし。でも今日ぐらいめっちゃヤバい吹雪の時でしか見たことないから、急いだ方がいーかも?」

 

「さっすがシャクちゃん! パパ感動したぜ! 世界一の自慢の娘だ!」

 

「そういう暑苦しい所がウザイんだよねー……」

 

感謝しつつ教えられた場所に向かう。カンムリ雪原のほぼ中央を少し南下した、雪原を流れる川の近くらしい。ゴウゴウと吹き荒れる雪を掻き分けるようにして進む。まずい、思ったより遠い。行ける行けると軽率に判断した二十分前くらいの自分を止めてやりたい。戻ろうか。そう思って振り返った。

 

 

 

 

 

世界は純白に染まっていた。

 

 

 

 

 

まずい。ものすごくまずい。目印になると思ってたダイ木とかいう巨木さえ見えなくなっている。キッサキシティよりは楽だと考えていた三時間前の自分を殴りたい。手をやみくもに振り回すも、触れるのは雪と風ばかり。これは本気で遭難してる。思わず雪の上に座り込んだ。

 

「ウォルルゥー……!」

 

どこか、近いところでポケモンの吠え声が聞こえる。左右を見るがあいにくの吹雪で何も見えない。誰? お迎えにはまだ早いよ? そんな心の声が思わず口から出たのか出なかったのか、ウルルという唸りがさらに近づいた気がする。もう一度左右を見た瞬間だった。

 

 

 

「パオォォオーン!!」

 

 

 

鼓膜を突き破るような大きな声。はっと視線を動かすと鼻が長くて緑の背中を持つ、ゴマゾウに似ているようにも見える大きなポケモンがこちらに向かって走ってくるところだった。紫色の光に追われているところを見るに攻撃を受けているらしく、自分達には気づかず一直線に突っ込んでくる。どうしよう、逃げたいけどどう逃げればいいのか分からない!

 

「――ウォルル!」

 

ぐいっとエンジンシティで買ったマフラーが引っ張られる。べほ、とかいう変な声を上げて後ろに引きずられると、少し雪の上を移動してすぐに背中に触れる感触が土のものに変わったのが分かった。山肌に開いた穴か何かだろうか。引き込んでもらった爪先のすぐ前を大きなポケモンが走り去っていく。

 

「…………」

 

そっと視線だけで外をうかがうと、知らないポケモンが空に浮いていた。全体的に紫がかった鳥のようなポケモンで、美しく長い尾羽が風を無視して緩やかに揺れている。目元には覆いのようなものがついていて、細く鋭い眼光がみえる。あの紫、逃げてきた大きなポケモンを襲っていた光と同じ色か。しばらくその場にとどまっていたが、パッと消えてしまった。

 

「ウルル」

 

もう一度マフラーをぐいっと引っ張られる。へげっと声が出ると同時にマフラーが首から外れ、取られてしまった。少し落ち着くとようやくそこが洞窟の入り口だということが分かった。安心したとたんに疲労と寒さがどっと襲ってきて、歯の根がガチガチと鳴り出す。近くにいるはずのマフラー泥棒も視界の外にいるのか見つからない。

 

 

 

 

 

――ごつっ。

 

 

 

 

不安と寒さと疲労でおかしくなりそうな瞬間、それが聞こえた。洞窟の奥から何かの足音が聞こえたのだ。地面に直接倒れているからこそ足音だと断定できる。でも、一体何が。何がこんな所に住んでいるというのか。

 

ごつっ。

 

まただ。また聞こえた。助けてくれた何かではない。あれは足音がせずにマフラーを取った。じゃあこいつは何だ。まっ、まさか、この洞窟の主か? 聞いたことがある、アローラ地方には『ぬしポケモン』と呼ばれる通常個体より大きいポケモンがいると。つまりはこの洞窟の主で、不用意に入ってきた侵入者を撃退するために、奥から出てきたのか……!?

 

ごつっ。

 

ああ、時間を司る神に等しいディアルガよ。空間を司る神に等しいパルキアよ。どうかどうか助けたまえ、シンオウのハクタイシティにある銅像にカレー捧げるから助けたまえ!

 

 

 

「グメェ」

 

 

 

この場に絶対いるはずのないウールーの声が聞こえた瞬間、恐怖が限界を突破して失神した。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですよ。ええ、アブソルを薦めておきました。今後はいきなり厄介ごとを押し付けやがるのはやめてくださいよ」

 

スマホごしに文句を言う。相手は詫びながらも迷惑じゃないだろう? などと調子の良いことを言ってくる。

 

「マリィやチャンピオンは才能の壁なんてしばらくは感じねぇでしょうからね。そういう意味ではまぁ、悪くなかったですよ。トレーナーと他の事の両立なんて、それこそルリナでもない限り無理ってもんです。久々に一度へし折れた人間を相手するのも悪くはない」

 

それに、と続ける。

 

「あんたなりの発破でしょ? アレ。ジムリーダー降りて音楽でやってくって決めて二年。慢心すんなっつう。……いらねぇお世話ですよ。ネズにアンコールはない。ひよってる暇もないんでね、慢心なんて永遠にしねぇですから」

 

それなら良かった、今度また聞きにいくよ。そんな言葉を最後に通話を切る。

 

「……うっし、帰って気合い入れて新曲完成させますか」

 

丸めた背中が、楽しげに揺れた。

 

 

 

 

 




私がカントーのフリーザー様が一番好きなポケモンなので、出せない代わりにガラルフリーザー様にご出演いただきました。ガラル三鳥では断然ファイヤーがイケメンです。
今回は原作キャラが多めにわちゃわちゃしてて、書いてて楽しかったです!
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