ご了承ください。
「ま、また……、いら、したんですね……」
ラテラルシティジム、スタジアム。中央で再会した相手はゴーストタイプ使い、オニオンさん。一度負けた相手だ。
「ホシ、ホシガリスは……?」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「良かったぁ……。でも、その、ジムチャレンジなので、また、倒しちゃうと思います……」
仮面の奥に、紫色の瞳がぼうっと怪しく灯った。
「お願い……、デスマス」
オニオンさんのダークボールから飛び出したのは石板の破片から黒い全身が伸びているポケモン。ガラルのデスマスだ。
「行けっ、ルンパッパ!」
オニオンさんが仮面越しに目を揺らす。前回負けた時にオニオンさんは最後のポケモンまで出してきたので手持ちは見ている。デスマス、ミミッキュ、サニゴーン、ゲンガー。ただ、最後のゲンガー以外は知らないポケモンだったので調べたところ、何とかデスマスだけはタイプが分かったのだ。ガラル地方のデスマスはゴーストと地面。ゆえのルンパッパだ。
「た、対策したんですね……。デスマス、たたりめ」
「ルンパッパ、あまごい!」
ルンパッパが奇妙なステップを踏む周りに紫色の炎がユラユラと現れ、ルンパッパを炙っていく。そこに空からポツポツと雨が降ってきて炎を消した。
「デスマス、かなしばり……」
「ルンパッパ、バブルこうせん……、うっ! 読まれてる……」
デスマスの目が怪しく輝くと、ルンパッパは一瞬映画のフィルムが止まった時のように動きを止める。だが問題なくバブルこうせんは放たれ、デスマスはあっけなく吹き飛んで戦闘不能となった。しかし代償付きの勝利だ。
「これで……、あまごいで威力の上がったバブルこうせんは……、連続で出せませんよ……」
かなしばりの効果は『同じ技を連続で出すことができない』というもの。あまごいコンボを止められてしまった。そして、前回と同じ流れになっていることに歯噛みする。
今までのジムリーダーと違い、オニオンさんの指示が早い。こちらの行動を予測して先に手を指示してくる。今まではこちらの指示を見てから応対してきたので、考える余裕があった。しかしオニオンさん相手にその余裕はない。これがワイルドエリア全部解放の対価。『これぐらい勝てるだろ』という無言のプレッシャー。
「(ルンパッパは引っ込めればかなしばりの効果はなくなるけど、続投する! 次のポケモン、はっきり言って次のポケモンが訳分からないからこその続投!)」
「ごめんねデスマス……。おいきミミッキュ……」
出た、こいつだ。ピカチュウの形をしたずだ袋をかぶったようなポケモン。ゴースト単体なのかと思ってグレッグルが『ふいうち』したけど効果は普通だった。何かの複合なのは間違いない。
おまけにこいつ、最初の攻撃を受けたとき、首が変な方に曲がっただけで無傷であるかのような動きのまま戦闘続投したのだ。オニオンさんは『ばけのかわ』とか言ってたけど、特性のことか?
「ミミッキュ、つめとぎ……」
「ルンパッパ、ギガドレイン! ぐっ、攻撃力と命中率を上げる技……!」
「『ばけのかわ』を打ち破る技は……、も、持ってなさそうだったので……」
ルンパッパがギガドレインを放つが、やはりミミッキュのずだ袋がくたびれるだけ。あの特性、一回は攻撃を受けてもほぼ無傷でしのげるのか……? とにかく次だ! 撃てるようになったバブルこうせん……、いや、前回は使わなかった技だ!
「ミミッキュ、かげうち……。先制で、倒して……」
「耐えて、ルンパッパ! 耐えてからのおどろかす!」
ミミッキュのかぶってる袋がわずかにめくれ、下から影でできた手のようなものが目にも止まらぬ早さで飛んで来る。それは先端が鋭利にとがっており、つめとぎの効果を雄弁に語っていた。ルンパッパはステップと雨の力でどうにかかわそうとするも、背中を深々と切り裂かれてしまった。動けなくなった、そう見えたルンパッパだが。
「――ンンッパァ!」
「ミッ……!?」
かっと目を見開いて一喝、ミミッキュは本気で驚いたらしく全身がビクッ! と震える。効果抜群だったらしい。その様子に満足したらしくルンパッパはサムズアップすると、ばたりと倒れた。
「よくやったルンパッパ。次だ、グレッグル!」
天気はまだ雨。グレッグルの『かんそうはだ』で持久戦ができるはず。効果があると分かったゴースト技はあいにく持っていないけど、粘って倒す!
「グレッグル……。ふいうちがあったっけ……。ミミッキュかげうち……。素の早さはこっちが上……」
「分かってました、そう来るのは! どくばりだよグレッグル! あの影に刺してやれ!」
おそらく『ふいうち』を警戒してそれを上回る先制技を出すと踏んで、あらかじめ先制しない技を準備させておいたのだ。初めてオニオンさんの行動を読めて内心ガッツポーズしながら指示を出す。
「グレッ!」
グレッグルはそもそもリベンジに慣れているため耐えるのは得意、かげうちを受け止めそのまま影を掴むと直接どくばりを影に突き刺した。暴れる影がずだ袋の中に収納されるが、毒が入ったのかフラフラしている。と、そこに涼しげな鈴の音が響いた。
「か、かいがらの……、すず……」
攻撃が当たったときに少し体力を回復する道具。ピントレンズをアブソルに取られてからグレッグルにはこっちを持たせていた。雨と鈴で二重に回復し、相手には毒を与えて長期戦へ持ち込む。ねちっこいけど仕方ない、勝つための作戦だ!
「ミミッキュかげうち……。今度こそふいうち……してくるから……。ダメージ少なくして……勝ちたいですよね……」
「ぐぬぅ、グレッグル、ふいうち!」
接近するグレッグルに影の手が迫り、足を掴んで転ばせようとしてくる。掴まれることは回避したものの鋭い爪が足に刺さった。声を漏らしながらもどうにかミミッキュに近づくと、袋の下部分、つまり本体がいるであろう場所に回し蹴りを叩き込んだ。ミミッキュが悲鳴を上げながらオニオンさんの元へ逃げ帰る一方、グレッグルも限界だったのかその場に倒れこんだ。
「(なんて威力だ、つめとぎで上昇した攻撃力……! まさかグレッグルが二回の攻撃でやられるとは……。毒が入らなかったら倒しきれなかったかもしれない)」
「ごめんねミミッキュ……。おいき、サニゴーン」
次に出てきたのは半透明のポケモン。地面に何かが割れた破片のようなものがあり、そこから半透明の風船のようなものが伸びている。中に悲しい顔をした本体のようなものが入っているその姿はユニランを思わせるが、底知れぬ暗さがゴーストタイプだと雄弁に語っている。
「ここが出番だ! アブソル!」
「アブ、ソル……。捕まえて……。カンムリ雪原まで……? マ、マフラーしてるし……」
「死ぬかと思いました」
「死んだら……『ここ』においで……」
やめて本当にやめて。全身鳥肌が立った。
「それじゃあ……。サニゴーン、のろい……」
「アブソル、み……、のろい!? まずい、つじぎり!」
のろい。『鈍い』と『呪い』。ゴースト以外が使えば鈍化するが攻撃などが上がる技。しかしゴーストが使えば己の体力を対価に相手を呪う技。呪われれば問答無用でこちらも体力を削られる。
「お前の方が早い! 急所を狙え!」
「サニゴーンの霊体は……、触れれば……、動きを鈍くしますよ……。で、できますか……?」
前回はコロトックを先鋒、ルンパッパ、グレッグルと続き、ここでホシガリスを除いて全滅した。互いに最後の一匹を出してホシガリスが戦意喪失、負けとなったのだ。今回はまだアブソル、コロトック、ヨクバリスが残っている。ここでアブソルに落ちてもらっては前回の二の舞だ。呪われる前に倒す!
「ウォルル!」
ピントレンズを付けたアブソルは前足の爪で恐れることなくサニゴーンの霊体を突き刺し、その向こうの本体を切り裂いていた。ゴーストタイプに悪技は効果抜群、サニゴーンは悲鳴を上げてぐずぐずに崩れ……いや、違う。崩れた霊体がアブソルにまとわりついている!
「サニゴーンの特性『くだけるよろい』……。もう戦えませんけど、冥土の土産に……、呪っておきますね……」
本来のくだけるよろいは一撃もらうと速度が大幅に上がるものだが、速度を上げる代わりに呪いを込めてアブソルにまとわせたらしい。アブソルの体力がなにもしてないのにみるみる減っていく。
「まずい、アブソル戻れ! コロトック頼む!」
「寒い……。寒いよ……。一人になるのは嫌だよ……」
一度交代すればのろいの効果は消える。アブソルの代わりに出たコロトックはこの後のことが分かっているのか、腹を一度鳴らして気合いを入れる。そう。ついに出てくるのだ、因縁の相手が。
「みんな飲み込んじゃえ……。みんな一つになっちゃえ……。ゲンガー、ゲンガー……。キョダイマックス、全て飲み込んでおしまい……」
大きくなったボールに振り回されるように後方に投げるが、一見ボールから何も出てこない。しかしコートから黒い影が伸び上がるとゲンガーの巨大な口となり、ゲラゲラという笑い声をスタジアム中に響かせながらその姿を現した。
「ゲンガー、キョダイゲンエイ……! 逃がさない、誰も逃がさない……」
「ごめん、コロトック! アブソルにいいきずぐすり!」
コロトックが一瞬振り返り、気にしないでと首を横に振ったように見えた。でもそんな素振りは見間違いだったかのように羽を広げると、あっという間にゲンガーへ向かって突っ込んでいく。その間にボールからアブソルを出すと道具を使って体力を回復させた。
「ゲゲゲー!」
ゲンガーの勝ち誇った笑いが響く。ゲンガーの周囲に霊体の椅子や机が出現し、コロトックにぶつかってコートに叩き落とす。墜落したコロトックが地面から沸き上がった黒い怨念に飲み込まれていく。その姿から目をそらす。勝つための犠牲。コロトックにしか頼めない、辛い役回りだ。
「ごめんよコロトック、ありがとう……。敵討ちだアブソル! 粘れ! つじ……」
「つじぎりですよね……。ゲンガー、ダイアシッド……」
読まれていようがもうここまでくれば関係ない。ゲンガーは大きく口を開けて息を吸い込んでいく。アブソルは飛び上がってゲンガーの額を切り裂く。ゲンガーは一瞬ひるむが、アブソルめがけて毒液を吹き出した。紫色の液体ごと吹き飛ばされたアブソル、コートに叩きつけられた瞬間に受け身をとって立ち上がったが、ギャンッと苦悶の声を上げる。まさか。
「ゲンガーだって……。どくタイプとの複合なんです……。本来はダイアシッドに……毒効果はないですけど……、呪いで免疫が……減りましたね……」
グレッグルがやったことの意趣返しを受けたか。アブソルがちらっとこちらを見てくる。その目はまだやらせろ、と告げていた。
「ゲンガー、ダイウォール……」
「アブソル、つじぎり……!?」
ダイウォール? まだ見たことのない技だ。どんな技だ。アブソルがゲンガーに迫ると、突然見えない壁が出現した。アブソルはそれにぶつかって攻撃が中断される。絶対防御の技か。
「まもる!? いや、範囲が広い、ワイドガード……!?」
「それよりも広いです……。ダ、ダイマックス技も……防げますから……。連発すると、は、外れやすいけど……」
アブソルが後方に下がると、ゲンガーが元の大きさに戻る。前回はここまで来られなかった。ここからはどうなるか分からない。ゲンガーが本来持っている技を何も知らないのだから。
「ゲンガー……、ベノムショック……」
「アブソル、みきり! っと、あぶないっ!」
ゲンガーがまたしても口から毒液を吹き付けるが、アブソルはあらかじめ分かっていたかのようにかわしてみせる。しかし、ベノムショック。相手が毒状態の時に威力が倍になる技。そんなピンポイントな技を覚えているなんて、さすがはジムリーダー。無駄のない技構成だ。
「(どうする、アブソルは毒で少しずつダメージが蓄積する。でもベノムショックを受けたら間違いなく落ちる。だからってみきりは連発すると外れやすくなる。こっちは先制技にでんこうせっかがあるけど、あれはノーマル技だからゴーストタイプのゲンガーにはそもそも当たらない!)」
「ぐうう、アブソル、みきり!」
「やっぱり……。ゲンガー、しっぺがえし……」
「しっ、しっぺがえしも覚えてるの!?」
ゲンガーが黒い光のビームを放つが、今度もアブソルはかわした。しかしギリギリの回避。次はかわせるか分からないというのが本音だ。それにしてもしっぺがえし。相手が先に行動していた場合、ダメージが二倍になる技。これは追い込まれた。
こっちのみきりが失敗、相手がベノムショックの場合、毒でダメージ二倍のためアブソルが負ける。
こっちのみきりが失敗、相手がしっぺがえしの場合、先に行動してダメージ二倍のため、アブソルが負ける。
こっちがつじぎりで相手がベノムショックの場合、向こうの方がそもそも早いのでアブソルが負ける。
こっちがつじぎりで相手がしっぺがえしの時のみ、耐えてこちらの攻撃が通る。
つまり、相手はベノムショックを選べば間違いなく勝つのだ。アブソルに逆転の目はない。だから入れ替えを考える。……ここまで間違いなく読んでくる。そして最後の一匹もオニオンさんは知っている。でも、一つだけオニオンさんが知らないことがある。そこに、賭ける!
「やっぱり入れ替え……。じゃあホシガリスですね……。ゲンガー、ベノムショック……」
「アブソル戻れ! そしてホシガリスじゃない! ――出てこい、ヨクバリス!」
「えっ……!?」
初めてオニオンが動じた。ボールから出てきたのはホシガリスではなくヨクバリス。ずしっと着地しゲンガーを見て、一瞬後ずさりそうになる。でも踏みとどまり、まだ尻尾に隠してあったポフィンを食べて平常心を取り戻した。食べ終わったところにベノムショックが吹き付けられたが、ヨクバリスは嫌そうな顔をしつつもまだ余裕がありそうだ。
「進化したんだ……。おめでとう、乗り越えたんですね……」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ゲンガー……、改めて『こっち』の世界に誘ってあげて……。もう一回ベノムショック……」
「ヨクバリス、進め! そして噛みつけ!」
ヨクバリスが勇ましく駆け出す。ゲンガーのベノムショックを全身で浴びるが、尻尾からオボンの実を食べ、特性ほおぶくろでさらに回復する。そしてにっくきゲンガーをギロリとにらみつけると、尻尾にがぶりと噛みついた。
「ゲンッ!?」
「ヴァ~リ~ス~!」
ヨクバリスの瞳にメラメラと怒りの炎が燃え上がっている。ゲンガーはとにかくもがいてもがいて大暴れだ。ゲンガーの特性『のろわれボディ』によってかなしばりが起きたようだが、とにかくかみつきをやめないために特性が発動できない状態のようだ。
「ゲッ……、ゲン!」
「バリッ、ス……!」
ゲンガーが尻尾を激しく振って、ヨクバリスを引きはがす。二度のベノムショックで実は限界が近かったヨクバリス、さすがに抵抗できなかった。両者はあはあと荒い息をついている。ちら、とヨクバリスがこっちを見た。えっいいの? と問うがヨクバリスの意思は硬い。うなずくと、ヨクバリスはニヤッと笑って前を向いた。
「ゲンガー、しっぺがえし……! ヨクバリスを回復してくるから……、直後を狙って……!」
「ヨクバリス……、ごめん!」
「えっ、まさか……!?」
いいってことよ、と言いたげな大きな背中を見せ、ヨクバリスは黒いビームに貫かれた。その間にもう一度アブソルを出し、いいきずぐすりを与える。ずずん、とコートを揺らしてヨクバリスが倒れると、仮面越しに驚くオニオンさんが見えた。
「て、てっきり……、ヨクバリスに、勝たせると思ったのに……」
「そのつもりでしたよ。……ヨクバリスが自分を犠牲にしろと言うまでは。さぁこちらも最後のアブソルです。毒は残ってますけど、ほぼ全快。――勝負です」
互いに手は分かっている。あとは、当たるかどうかだけだ。
「……ゲンガー、ベノムショック!」
「アブソル、つじぎり!」
アブソルが駆け、ゲンガーが毒液を吐く。当たる、と思った瞬間アブソルがギリギリで身をよじって回避した。みきりも合わせて何度も何度も見たからこそ、土壇場で底力を見せたのだ。驚愕するゲンガー。アブソルはすり抜けるようにゲンガーに肉薄し、その尻尾を、ヨクバリスに噛まれて傷の残っていた尻尾を切り裂いた。急所への一撃だった。
「あぁっ、ゲンガー……!」
それでもまだあがこうと、アブソルを睨み付ける。アブソルも毒が苦しいのか体勢を崩している。手を伸ばすも、ガクンと力が抜け、ゲンガーはとうとうコートに倒れこんだ。勝った。勝ったのだ。
「ホシガ……、進化しちゃったけど、ホシガリスポーズゥ!」
疲れきった体だけど、最後の気力でホシガリスポーズを決める。アブソルもちょっとだけ後ろ足で立つと、前足の肉球を頬に当ててポーズをしてくれた。お前もできるの!? いつ教わったの!?
「負けましたぁ……。か、勝てると思ったんですけど……。ヨクバリスが時間を作ったの、よ、予想外でした……」
手を差しのべてくる。握手する後ろに、拍手をするレイジさんが見えた。
「がんばってくださいね……。さ、最後まで行けるように……、応援してますから……」
オニオンさんの言葉に笑顔を返せたと信じたい。最後まで行くことは、もう無理なのだ。
ここまでかかった時間と今回の戦闘の結果から、どんなにあがいても最後のジムまでたどり着けないことは、誰よりも自分が一番分かっているのだから。
オニオン戦でした!
いくつか本来のバトルには無い効果を描写していますが、そこはゲームと現実に即したバトルとの違いということで……。アニポケなんかそうですし……。
あとゲンガーはカッコイイです!