「そこまでだ! やっと見つけたぞ! 逮捕する!」
拝啓お父さん、お母さん。生まれて始めて手錠をつけられました。もうシンオウに帰れないかもしれません。
翌朝。泊めてもらったお礼を言うと、ミツバさんがファイルに綴られた分厚い資料を渡してくれた。中を見ると店を開く初期費用の概算、各地の個人経営店の店舗例、カレーに対する客層の調査結果、原材料の仕入先候補などがずらずらと綴られていた。一夜で作ったとは思えない分量に唖然とする。
「いくつかは少し古いデータを使ってるわ。すでに調べてあったヤツを流用したりね。それでも参考になるわよ。ただ、これで終わりにしちゃダメ。情報は生き物なの。自分でその先を調査していかないと店を維持することはできないからね」
「昨日はセイボリーちんの話を聞かせてくれてありがとね。ワシちゃんが直接行ければいいんだけど、そうもいかないのよ。ほら、ガラルスタートーナメントの時かなり長い間ここを空けたから、またってのは、ねぇ?」
ねぇと言われても。とはさすがに言わずに曖昧にうなずいておく。
「そうそう、アレよ、アレ」
いざ駅へ向かおうと後ろを向いたら、その背中に声が降ってきた。
「――普段できないことが本番でできるということは絶対にない。逆に今まで得たものは必ず戦いに活きる。その全てをぶつけきって戦いを終えることを、有終の美を迎えたと言うのだ」
えっ、と振り返るがマスタード夫婦は道場に入るところだった。都合の良い幻聴だったのだろうか。首をかしげながらヨロイ島に唯一ある駅へ向かうと、待合所に一人の男性が座っていた。トレンチコートを着ているその人はこちらを確認したとたん、走りよってきて手錠をかけ、冒頭の発言をしたのである。
「さぁ、大人しく遺跡から盗んだ品を出せ! もう調べはついているんだ!」
何のことだ。神に誓って悪事など働いたことはない。人にとがめられるようなことなんて、子どもの時にお母さんが作っていたケーキをつまみ食いしたことぐらいしかない。遊んでて隣の家のガラス割った時もきちんと謝った。冤罪だ!
「ん? あれ、シンボラーがいないな……。まさか、お前は盗掘団じゃないのか!?」
逆に何を決め手にして人を逮捕したのか。
「いや、ガラルの人間じゃない奴を狙って……」
それだけか! ひどい!
「申し訳ない! 私はハンサム、国際警察だ。この度イッシュ地方のリゾートデザートから新しい遺跡が発掘されてね。そこの貴重な出土品が先日盗まれたんだ。ガラルのジムチャレンジにかこつけて盗品売買が行われることまでは掴み、盗掘団の部下達は捕まえたけどリーダーと品物がまだ見つからないんだよ」
手錠を外してもらいながら説明される。
「犯人はガラルの人間じゃないことは分かってて、近くに必ず野生のシンボラーがいるはずなんだ。シンボラーはその遺跡を守ってたシンボラーのうちの一匹らしいんだけど、遠路はるばるこのガラルまで飛んで追いかけて来てね。このヨロイ島に行ったことは分かってるんだけど、そこから行方が判らなくて……」
シンボラー。知らないポケモンだ。昨日は島中を歩いていたからもしかしたら見ているかもしれない。特徴を聞いてみた。
「一度見たら忘れないよ。黄色っぽい体に生き物らしさを感じないフォルム。黒い顔に緑の目が一つ、腹には二つ! 真似できないような鳴き声なんだ」
……そいつ知ってる。
「ええっ!? 昨日助けた!? ……エアームドに襲われて森に避難してたのか。ありがとう、貴重な情報だ! シンボラーはどっちに飛んだ!? ……なるほどあっちか! ちょっと失礼。……こちら0836、シンボラーを目撃した民間人を発見、チャレンジロード方面を固めてくれ!」
無線機のようなもので連絡をとっているらしく、何やら早口で会話している。しばらくすると「よしっ!」とガッツポーズを決めた。
「ありがとう! 見つかったよ! チャレンジロード沖にドローンロトムを飛ばしたら見つけた! 見つけてしまえばもうこっちのものだ。一時間もすれば逮捕間違いないな。君には改めて謝礼をしたいから少し待ってくれるかな」
しばらく言われるままに待っていたのだが、このハンサムさん、なんと昔の手持ちがグレッグルだったとのことでドクロッグを出してあげたら大喜びしてくれた。グレッグルトークに花を咲かせていると沖からボートがやってきた。仲間のボートらしい。そして確かに昨日見たポケモンが船の上を飛んでいる。
「あれがシンボラーだよ。あいつがずっと追いかけてくれたおかげで捕まえることができたようなものだ。あの盗掘団、今までもあちこちで盗んでたから締め上げれば違法バイヤーとかまで一斉検挙できるかもしれない。本当に、協力感謝する!」
ボートから女性捜査官が降りてきて、例の出土品らしい物をハンサムさんに見せている。間違いないらしくうなずくハンサムさんの周りをシンボラーがぐるぐる旋回している。本当にあれを取り返すために、イッシュからガラルまで飛んできたのか。時にポケモンの行動力には驚かされる。
「連絡先を教えてくれるかい? シンオウのノモセ警察署に話を通しておくから、そこから謝礼金を受け取ってくれ。今は……、これくらいしか渡せるものはないな」
すごいきずぐすりをもらった。地味に嬉しい。
「よし、シンボラー、お前もお手柄だぞ。一緒にイッシュに帰ろう。これは私が責任をもってリゾートデザートの遺跡に戻すからな。……ん? どうした?」
シンボラーはハンサムさんの側を離れると、こっちに来た。そのまま自分の頭の周りを高速旋回している。本当にどうしたシンボラー。こっちじゃないぞ、ハンサムさんはあっちだ。こっちにいてもアラベスクタウンに行くだけ。しかもその後の行き先はシンオウで、イッシュに行く予定はない。あ、目が回りそう。
「うーん、これはシンボラーは盗掘品を取り返すという目的を果たしたから、遺跡に戻る必要はなくなったってことかな。君さえ良ければ連れてってあげてもいいと思うよ。もちろん無理なら私がイッシュに連れていく。どうする?」
どうする、と言われても。はがねかどくのポケモンを探すつもりだったのだが。このポケモンはどんななのだろうか。
「シンボラーはエスパーとひこう。そらをとぶを覚えるから移動は楽になるな。……はがねかどく? 確かラスターカノンを覚えるんじゃなかったかな? あとはがねのつばさ。他のエスパー技はだいたい行けると思うけど」
はがね技覚えるのか! それはありがたい。ひこうとエスパーもフェアリーとは問題ない。それに空が飛べるポケモンはシンオウでは重宝する。あそこはここみたいに空飛ぶタクシーなどないのだ。店を開いた後も間違いなく飛べるポケモンは戦力になる。
「どうやら問題ないみたいだね。それじゃあどうも、お元気で!」
ハンサムさんはボートで他の仲間と共に去って行った。シンボラーに改めて聞いてみる。フェアリージムのために力を貸してほしい。終わった後も、シンオウで店を開くから一緒にいてほしい。
「□☆◎▽◇」
やっぱり何を言ってるかは分からないけど、ボールには大人しく入ってくれた。ついに六匹。嬉しくなって、帰る前に顔合わせもかねてカレーを食べようとテントを出す。今日のカレーはレトルトめんを使ったしぶ口インスタントめんカレーだ! みんなの前に皿を並べる。ヨクバリスが真っ先にカップを持ち上げて喉に流し込み始めた横で、シンボラーはカレーをじーっと見ると。
カレーが、カップの中から消えた。
え? とまばたきするが、夢じゃない。カレーなど入ってなかったとばかりに中身だけがぱっと消えたのだ。汚れ一つ残さずに。シンボラーは体のどこかを動かした様子はない。高速で食べたわけでもない。ただ、中身がなくなっているのだ。
「……ンパ?」
ルンパッパはシンボラーを二度見した後、「ナイス手品!」とサムズアップをすると何事もなかったかのようにまた食べ始めた。コロトックは「また新しいタイプの癖の強い新入りか」と言わんばかりの落ち着きでシンボラーを一瞥すると、気にする様子もなく食事を再開する。
「バリス、バッ……! バッ……バ……」
ヨクバリスは喉に詰まらせてかすれた声を上げていたが、ルンパッパがバブルこうせんを口めがけて放ったため九死に一生を得たようだ。シンボラーの方を見てる余裕がなかったからか、気にした様子もなくルンパッパと二人でハイタッチしてる。
「…………!?」
アブソルだけがシンボラーの謎な食べ方に目を白黒させ主人とシンボラーの間を何度も何度も視線を往復させていたが、ドクロッグが「諦めろ」と言わんばかりに優しく肩を叩いて首を横に振った。おい待てコロトックとドクロッグ、そんな顔をするんじゃない。シンボラーの食べ方(?)は主の指示じゃないぞ。
こうしてヨロイ島で最後のポケモンをゲットし、本島に帰還した。ジムチャレンジ終了まで一週間ちょっと。もう少し準備したら、いよいよ挑む。勝っても負けても後悔しないよう、全てをぶつける!
ゲスト出演、知る人は知ってるハンサムさんでした。
この人便利ですね。
グレックルつながりもあって、出しやすかったです。
次はいよいよアラベスクタウンジム戦です!