主人公がしゃべります。
ご了承ください。
『久しぶりだなぁ。ジムチャレンジ、どこまでいったよ?』
アラベスクタウンジムに挑む前日。電話の相手はシンオウのノモセジムリーダー、マキシ。
『四つ! やったなぁ! 俺も推薦の依頼を出したのが誇らしくなるぜ。……で、本題があって電話したんだろ? なんだ、言ってみな』
アラベスクタウンジムのチャレンジは、クイズに答えて正解の道を選びつつ、ジムトレーナーとの勝負の最中もクイズが差し込まれるという何とも言いづらいものだった。
『問題! ジムリーダーのビートが今朝飲んだ紅茶の銘柄は?』
……誰が分かると言うんだ。
おかげで防御力がめちゃくちゃ下がってルンパッパがワンパンされた時は肝が冷えた。何とか勝ったけど。そして今スタジアムに入る前の通路で手持ち全員を出して最終確認をしている。
シンボラー。最後に加わったポケモン。はがね技のラスターカノンはわざレコードで覚えさせた。
アブソル。今回は向いてないバトルではあるが、だからって出さないということはできない。技も少し調整した。
ルンパッパ。こいつも少し調整はしてある。とはいえ、元々のポテンシャルはトップなので頼ることになる。
ヨクバリス。やることは変わらない。木の実はイアの実に変え、さらに秘策を一つ仕込んでみた。
ドクロッグ。唯一フェアリーに効果抜群のタイプであり、同時に弱点でもある。相手を見るしかない。鍵を握るだろう。
コロトック。精神的支えだが、戦闘では今回も難しい役どころ。それでも久しぶりに技を見直した。
わざマシン、わざレコード、思い出し技。持ち物も特性も再度確認した。ポプラさんの名勝負DVDをホテルで何度も見て少しはフェアリータイプを研究してみた。ビートさんのはなかったから仕方ない。
全員の回復もすんでる、そしてこれが最後のジムチャレンジになる可能性が高いことも伝えてある。もうやり残したことはない。
『チャレンジャー、ジムリーダー、入場してください』
さあ、ガラル最後の戦いを始めよう。
「ガラルの人ではないですね。遠くからわざわざご苦労様です。今日ここを受けるということは到底ファイナルリーグには間に合わないということは分かってますね?」
ビートという人は顔こそ整っているものの、めちゃくちゃとげのある若者だった。そんな嫌われるようなことをしただろうか。
「分かってます。分かっててここに挑みに来ました」
「そうですか。投げやりな試合だけはやめてくださいね。僕はそういうの大っ嫌いなので」
互いに距離を取る。ボールを構えた。
「いきなさい、クチート!」
クチート! ポプラさんも使っていたポケモンだ。はがね技も使っていたからおそらくはがねとフェアリーの複合。となると出すポケモンは。
「いけっ! ルンパッパ!」
現れたルンパッパにクチートが後頭部の口から牙を見せて威嚇する。特性『いかく』だ。攻撃力が下がる。それでもはがねにとって、水は数少ない等倍以上のダメージを与えられるタイプだ。初戦で出したくはなかったが仕方ない、一応クチートが来る可能性も考えて技も――
「クチート、地面技に気をつけてください。おそらく対策として覚えています。当たりさえしなければ驚異は少ない」
ヒュッ、と喉が鳴った。嘘だ。何でそこまで一瞬で分かるの。確かにルンパッパには今回『マッドショット』を覚えさせていたのだ。冷静に考えれば分かるかもしれない。ルンパッパは草と水の複合だから、フェアリー対策をするならタイプ不一致技を何かしら用意するだろう。だけどこっちだってクチートが来ると分かっていた訳じゃない、念のためで仕込んだ技なのだ。なのにどうして確信を持って言える。
「うっ……、ルンパッパ、あまごい!」
「当然そうきますよね。クチート用ウェポンを警戒されれば次の手でくる。ルンパッパなら当然あまごい。雨で特性を発動させるのは大事ですから。クチート、じゃれつく。多少命中率が低いこの技ですが、あまごいして避けにくいルンパッパになら当たります」
まただ。また完全に読まれているし、相手の技も正にこちらの弱点を突くものがきている。どうしてだ。
ルンパッパがステップを踏んで雨を呼ぶが、たたっと接近してきたクチートが体を密着させてぐりぐりと押し付けてくる。地面に転がされるも、どうにか雨を呼ぶことができた。
「地面に触れたなら……! ルンパッパ、マッドショット!」
「クチート、地面にアイアンヘッドで飛び上がりなさい。落下しつつかみくだく」
へ、と思うのもつかの間、クチートはその巨大な口に鉄をまとわせると地面をぶったたき、反動で飛び上がる。その下をルンパッパが起こした隆起する地面が通り抜けていく。落ちながら大きな口を開け、ルンパッパの頭にかじりついた。
「る、ルンパッパ!?」
「噛みつき続けなさい。もし振り落とされたなら地面を転がって足元にじゃれつく。雨で上がってる機動力を削ぎますよ」
そんな戦い方あるのか。そんな指示の出し方ができるのか。何手先を見て指示を出しているんだ。ウチのトップ、ルンパッパが手も足も出ないのか。
「なら、なら、えーと、いっそ掴め! 掴んでバブルこうせん!」
「アイアンヘッドで離脱」
手を伸ばす瞬間に噛んでいた口が離れ、ルンパッパをつつく要領で距離を取る。頭を押さえながらもバブルこうせんを放つが、クチートはたくみにかわしていく。
「(こ、ここまでクチート無傷、ルンパッパはもう半分以上ダメージ……。どうして、どうしてこんなに読まれちゃうの……? 落ち着け、相手のペースに呑まれたらもう何もできない! よく見てよく考えて、どうせ読まれるなら読まれたままでも戦うしかない!)」
せめて一回はマッドショットをクチートに叩きつけないと、クチートに全滅させられるかもしれない。よく見ろ、よく考えろ! ポプラさんのバトルを思い出せ!
「……ルンパッパ、バブルこうせん! 下向きに狙え! アイアンヘッドで飛び上がるとこを狙うように!」
「クチートかわしなさい。少し距離をとればそれくらい問題なくかわせますよ」
ルンパッパはちょこまかと動くクチート目掛けてバブルこうせんを放つ。泡はコートに飛び散っていく。
「そろそろ技の切れ目ですね。クチート、疲労したルンパッパにとどめのじゃれつくです。撹乱しながら行きなさい」
距離を取っていたクチート、ぱっと駆け出すとルンパッパの正面に出ないように左右にせわしなく動きながら距離を詰める。ルンパッパはバブルこうせんを疲れきるまで撃ち、とうとう咳き込んで攻撃が止まる。その瞬間飛びかかろうとクチートが――、雨に濡れたコートに足をとられてバランスを崩した。
「――ま、マッドショットォ!」
とっさに叫んでいた。ルンパッパも一拍遅れて大地に手を触れて隆起させる。はっと目を見開いたクチートだったが、さすがにかわすことができず直撃した。泥を浴びたクチートの素早さが下がる。怒っているのか後頭部の口をガチガチ噛み合わせながら突進してきた。
「ギガドレイン!」
「足元を悪くして動きを封じるとは。偶然だとしてもやりますね。クチート、かみくだきなさい」
本当に偶然なのだから悲しくなる。せめて少しでもダメージを。ルンパッパが体を緑色に光らせ、クチートも同じ色に輝く。だが大した回復もできないまま巨大な口に噛みつかれ、振り回されて地面に叩きつけられた。ルンパッパはぐぐっと上体だけ起こすと、クチートではなくこっちを見る。
「……ンッパ!」
いつものように笑顔で、楽しかったと言うように。サムズアップすると、そのままバシャッと雨の中に沈んだ。
「ルンパッパ……?」
「この雨、クチートと相性良くありませんね。戻りなさいクチート。代わりに行きなさいサーナイト。常にサイコパワーで少し浮いているあなたなら、雨に転ぶようなことはないでしょう」
ビートはポケモンを入れ替えた。サーナイト。自分が知ってるのはエスパータイプだったが、おそらく後からフェアリータイプの素質もあると判断されたのだろう。つまりはエスパー・フェアリーの複合。天候を考えてもここで出すしかない。
「頼む、ドクロッグ!」
相変わらずの『かんそうはだ』と雨のコンボ。本当はフェアリー単体がいればそっちに出したいが、ビートが持っている保証もない。それに最高のコンディションでポケモンを選ばないと、一撃すら入れられないことはもう分かっている。雨が降っている間に少しでも有利にする!
「わざわざエスパーに極端に弱いドクロッグを出すなんてね。『かんそうはだ』狙いでしょうけど。サーナイト、サイコキネシス」
サーナイトは全身を虹色に輝かせる。サイコキネシス。エスパー技上位の一つ。対象が視界に入る限り当てられるこの技は障害物の陰に隠れるか、あなをほるやダイビングのように身を潜める技なら回避もできる。だが、スタジアムでは無理だ。ドクロッグにかわす術はない。
「どうせダメなら……、ドクロッグ、どくづき!」
せめて毒の継続ダメージを。ドクロッグが突進して毒の爪を撃ち込もうと迫る。一手及ばずサーナイトが技を放とうとした瞬間、ドクロッグが泥を蹴って跳び上がった。大ジャンプしてサーナイトの視界から姿を消す。主人である自分も初めて見た、四つ足でのジャンプだった。
「――グレッ!」
サーナイトが振り返るより早く着地したドクロッグ、横に腕を振り抜く要領でサーナイトにどくづきを撃ち込む。たまたま当たった先はサーナイトの胸にある赤い突起。それはサーナイトの心そのものとも呼ばれる大事な器官。サーナイトは目を見開き、パニックになったようにがむしゃらにサイコキネシスを発動した。吹き飛ぶドクロッグ。
「よく僕のサーナイトに一撃を与えましたね。毒まで与えるとは、特性『シンクロ』も無駄になりましたか。でもここまで……、へぇ、やるじゃないですか」
なんとドクロッグ、戦闘不能になってもおかしくない負傷をしながら立ち上がったのだ。向こうがパニックになったおかげで威力減衰したことに救われた。リリンと鈴の音が響く。かいがらのすずと雨のおかげで動ける程度には回復したらしい。そうは言ってもたいあたり一発もらえば間違いなく落ちるくらいボロボロだが。
「サーナイト、めいそう」
「ドクロッグ、ふいうち、あっ……」
ドクロッグが接近して腕を振り抜くが、目を閉じ動かなかったサーナイトの横を空気を殴るのみ。ふいうちは『相手が攻撃してきた場合、その攻撃に割り込んで先制攻撃する』というもの。めいそうは攻撃ではない。なのでふいうちは不発となり、サーナイトは特攻、特防が上がってしまったのだ。
「(まずい、ヘタにちょうはつして攻撃だけにすると、能力の上がった攻撃が飛んで来る。だからってもう一回めいそう積まれたら次からの手持ちも一撃もらうだけでやられることになる。相手には毒が入ってる以上回避に徹してもダメージは出続ける、だったらやるしかない!)」
逡巡する間に雨が上がり、スタジアムが本来の天気を取り戻していく。こうなるとドクロッグの『かんそうはだ』は意味をなさなくなる。
「ドクロッグ、ちょうはつ!」
「サーナイト、サイコキネシス。……あなたはこの僕のポケモンなんですから、あんな見え透いた挑発なんて無視しなさい」
ドクロッグがぴょんぴょん飛び跳ねて挑発するのを見て、サーナイトは少し迷っているようだ。そして気づく。おそらくサーナイトはめいそう以外にも何か補助技を持っているのではないのだろうか。だからビートさんは挑発に乗ることを許さない。それならこっちだって、やってやる。
「ドクロッグ! 思いっきり笑ってやれ!」
「ゲーロゲロゲロ!」
赤い喉をふくらませて痛快に笑う。サーナイトの目がつり上がったのが見えた。ビートがやれやれと呆れている。虹色の光がドクロッグ目掛けて飛んで来る。攻撃が当たる直前ちらとだけこちらを見ると、バチンとウインクをした。それは初めてここに来てレイジさんに見せたような、楽しげなウインクだった。そして光に呑まれ、戦闘不能になる。
「ドクロッグ……!」
もう気づいていた。ルンパッパもドクロッグも、これが最後だと察している。その上で主である自分の指示に満足し、感謝を伝えているのだ。唇を噛み締める。
「…………」
一方のビートもその様子を見て、あごに手を置いて何か考えている。その表情からは読むことができない。
「ありがとう、ドクロッグ……。出てこい、アブソル!」
「アブソルですか……。サーナイト、マジカルシャイン」
「今、みきりっ!」
サーナイトが技の準備行動に入ろうとした瞬間、それを分かっていたかのようにアブソルがサーナイトの頭を前足で叩いて揺らした。くらくらと揺れる視界に技が不発になる。そう、せっかくドクロッグがちょうはつしてくれたのだ。相手が必ず攻撃をするのなら、『相手が攻撃してきた場合、先制してそれを防ぐ』みきりが必ず一度は決まる。
「そこに、でんこうせっか!」
目にも止まらぬ早さで体当たり。サーナイトは毒もあって荒い息をついている。
「ちょこまかと邪魔ですね。ここで仕留めなさい。マジカルシャイン」
「アブソル、シャドークロー!」
今回のために入れてきた技、ゴーストタイプのシャドークローだ。飛びかかって切り裂こうとしたが、相手のサーナイトの方が早い。マジカルシャインを全身に受けるもかろうじて爪を振り下ろす。しかしそれはかわされてしまった。
「粘りますね。どうせ見切られるなら。サーナイト、サイコキネシス」
「みきり! そこからでんこうせっか!」
もう一度サーナイトの攻撃を無効にし、素早くでんこうせっかを決める。しかし再度のマジカルシャイン。これはもうどうにもできない。桃色の光が直撃し、アブソルは自分のすぐ横まで吹き飛んできた。
「アブソル……!」
アブソルは頭を持ち上げると、手にそっと顔をこすりつけてきた。それができたことに満足すると、くたっと動かなくなる。
「サーナイト、それ以上は毒が効いてきてまずいですね。下がりなさい」
サーナイトをボールに戻す。次に出したのはさっきのクチートだった。こっちの残りは三匹。ここで出せるのはこいつしかいない。ボールを握りしめて、名を呼んだ。
ここまでルンパッパ、ドクロッグ、アブソルが戦闘不能。ビートの手持ち、全員健在。この勝負、どうなるか。
後半に続きます。