主人公が話します。
ご了承ください。
アラベスクタウンジム、ジムリーダー・ビートとの対戦。クチートとサーナイトにルンパッパ、ドクロッグ、アブソルが負けるも相手を瀕死には追い込めていない。
ビートがクチートを再度出したところで、こちらは切り札を切ることにする。
「出てこい、シンボラー!」
最後に仲間入りしたシンボラー。はがねタイプを含むクチートにはヨクバリスもコロトックも有効打を持っていない。切り札を一足先に出すしかない。
クチートは再び特性『いかく』を放ち、シンボラーの攻撃を下げてくる。
「……クチート、かみくだく」
「引き付けて!」
クチートが飛びかかろうと走ってくるのを、浮遊し後退しながら距離をつめさせる。トンッとジャンプした瞬間がきた、ここしかない。
「ラスターカノン!」
シンボラーの腹部の前に鉄の輝きが収束し、ビームのようになってクチートに直撃した。吹っ飛んで転がるも、ぜいぜいと荒い息をつきながら立ち上がる。タフなポケモンだ。
「……あなたのポケモン、このジムへの対策技を一つずつくらい備えているようですね。マッドショット、どくづき、シャドークロー、そしてラスターカノン。残りの手持ちも何かしらフェアリー対策は持っているようだ」
クチートに待つよう指示しながら、観客には聞こえない声で話しかけてくる。
「でも、それだけだ。はがねタイプのポケモンがいるようにも見えないし、どくタイプだってドクロッグだけ。そもそもアブソルなんてフェアリー相手には不利でしかない。そうでしょう?」
怒っている。彼は怒っている。こちらに向かって、怒りをぶつけてきている。それは分かる。でも、どうして。
「――その程度の努力しかできない人が、この先に進めると思わないでください!」
その程度。今、その程度って言ったのか。
「クチート、かみくだく!」
このバトルにかけた準備が、ここまで来る道中が、『その程度』と呼ばれてしまうものなのか。
「早くシンボラーに指示を出しなさい! こちらが連続で攻撃しますよ!?」
そりゃあ、フェアリーにとって弱点となるタイプは手持ちにいない。シンオウに戻って店を開くのに、鉄を食べるはがねタイプや身体から毒を出すようなどくタイプは近くにおけないからだ。今いる六匹はそれらも加味した上でのメンバー。そりゃそうだ。強いメンバーじゃなくて、未来のためのメンバーなんだ。
「……もういい、クチート、かみくだく! 当たらないならアイアンヘッドを地面に当てて飛び上がりなさい!」
こっちはトレーナーで食べていく訳じゃないんだよ。生きていくために仕事しなきゃだし、トレーナーとしての才能だってない。ここまで勝てたのは年の功、子どもじゃできない経験則からの行動ができたからだ。それもなけりゃここにすら来られてない。ポケモンバトルだけで生きていけないんだよ、こっちは。
「えっ、ちょっと、あなた何をして……?」
完全にバトルだけを考えて準備して来なくって悪かったね! シンオウに戻ることを、バトルの後のことを考えなくていいなら、もっともっと強いポケモンたくさん捕まえ「★✕▼◆♯」
……へ?
「★✕▼◆♯」
目の前に。シンボラーが飛んでいた。あれ? バトルの最中では? 何で? クチートは?
「★✕▼◆♯」
さっきから同じ鳴き声。何を言っているのか分からず、思わず声を上げようとしたが、できなかった。羽のような突起で、額をトンと突かれていた。まるで『そこまで』とでも言うように。
「○●■△✕☆、◇★◎▽▲※○」
分からないはずなのに、こんどは分かった。『戦いに集中せよ』だ。そうだ、冷静になれ。さっきのビートさんの言葉だって、ジムリーダーとしてと考えるなら『もっときちんと努力すれば上に行けるのに、中途半端な状態で来るんじゃない』と言いたかったのだ。勝手に自分のことだと思ってしまった。
「チャレンジャー、そのシンボラー、勝手に行動してますが……。棄権ですか? それとも、シンボラーをボールに戻しますか?」
審判に声をかけられはっとする。シンボラーはわざわざ発破をかけるために敵に背を向けここまで来てくれたのだ。確かにこれはシンボラーにしか無理だろう。ここまでの道中のことを何も知らないからこそ、このタイミングで主に説教できたのだ。
「すみません、大丈夫です。戦闘続行します、シンボラーで続投です!」
「次やったらそのポケモンは失格扱いにするので気をつけてください。では、再開!」
シンボラーがこちらに背中を向ける。あっ、と声が出る。そこにはクチートのかみくだくを受けた傷が残っていた。弱点技だ、間違いなく辛かったはずなのに少しもそんな素振りを見せなかった。……もしかしたら顔に出ないタイプなだけかもしれないが。
「シンボラーにきずぐすりを使う時間は必要ですか?」
「いいえ、自分のミスなので、このままでいいです」
「分かりましたが、そのせいで負けたなんて言わないでくださいね。クチート、かみくだく!」
「シンボラー! サイケこうせん!」
大きな口を開いて飛びかかるクチートに、シンボラーは虹色のビームを放つ。クチートは身をよじって回避しようとするが、執拗に追いかけるビームにとうとう撃ち抜かれた。さすがにもう立ち上がれないらしく、起き上がってくることはなかった。
「戻りなさいクチート。おそらくシンボラーが切り札です。倒しなさい、サーナイト」
「その通りだからこそ、交代、ヨクバリス!」
やはりさきほどのサーナイトが出てきた。めいそうの効果はリセットされているが、同時にちょうはつの効果もリセットされている。まだ見ていない四つ目の技が何なのか。温存するためにヨクバリスに代える。果たしてどうなるか。
「ヨクバリス……。隠し玉はあるってことですね。サーナイト、ねがいごと」
しまった、とほぞを噛む。てっきり最後の技は『まもる』のような防御技だと思ってヨクバリスに代えたが、ねがいごとは回復技。次のターンの終わりにダメージを回復するというものだが、回復量がとても多い。残り二ターンでサーナイトを倒せればいいが、ここでシンボラーに戻したところで間に合わない。となるとやることは一つ。
「ヨクバリス、のしかかり!」
ヨクバリスが接近し、ばっと飛びかかって上から潰そうとするが、サーナイトに軽くかわされてしまった。シンボラーを続投させてラスターカノンを撃っておけば良かった、とは思うが後の祭りだ。
「無理か……! ならたくわえる!」
「サーナイト、サイコキネシス」
尻尾から食べ残した物を口に入れて体に力を入れる。その体が虹色に輝き、地面から少し浮かされてギリギリと締め上げられる。その間にサーナイトの体に空から聖なる光が降り注ぎ、体力がぐーんと回復した。毒こそ残っているものの、ラスターカノン一撃では落とせないくらいの回復だ。
「もう一回たくわえる!」
「悪あがきですね。こちらもサイコキネシスをもう一度です」
ますます持ち上げられるがヨクバリスの頬袋は膨らむばかり。ぐぐっと腕を動かして尻尾からイアの実を取り出し口に入れ、特性『ほおぶくろ』でさらに回復した。回復には回復だ。
「サーナイト、おそらく向こうの切り札は、はがね技のジャイロボール。体を回転させなければいい。そのままサイコキネシスで絞め上げなさい」
ヨクバリスの体がさらに持ち上がった、これを待っていた。サーナイトの顔の前まで移動するのを待っていた!
「ヨクバリス! ――ゲップ!」
ヨクバリスは任せとけとばかりにニヤリと笑うと。
「バ~~リスッ!」
サーナイトの人間観点で整っている顔面目掛けて思いっきりゲップをした。サーナイトは目が落ちるんじゃないかってくらい見開いた後、思わずサイコキネシスを中断して顔を押さえてコートにうずくまった。急所に入ったらしい。涙目になっている。
「なっ、何で発動に条件がいらなくてより効果的なジャイロボールじゃなくて、ゲップを覚えさせてるんですか!? どう考えても鈍足なヨクバリスならジャイロボールでしょう!」
そう。『ジャイロボール』は『相手より速度が遅ければ遅いだけ威力が上がる、体を回転させて突っ込む』技。一方『ゲップ』は『木の実を食べた後にしか使えない』という特性のある技。倒されるタイミング次第では使いたくても使えない癖のあるものでもある。その代わり発動できれば威力はとても大きいものとなるのだ。ヨクバリスなら間違いなく食べると信じて良かった。
「ジャイロボールのわざレコードは手に入りませんでしたから。無理でした」
「無理でしたって……! そこはベストを尽くすのが一流トレーナーでしょう!?」
どうせ一流じゃありませんよ。どうせ副業ですよ。でも、今は動じない。ヨクバリスが作ったこのチャンス、活かさなくてはヨクバリスに顔向けできない!
「ヨクバリス、のしかかりっ!」
「サーナイト、動きなさい、マジカルシャインです!」
ヨクバリスののしかかりが今度はサーナイトに炸裂した。ドッスンと音を立ててサーナイトの上に腹から落ちる。サーナイトは驚き目を白黒させるも、桃色の光でヨクバリスを遠くに吹き飛ばした。ゴロゴロと転がるヨクバリスはもう限界だ。くるっとこちらを向く。
「ヨクバリス……?」
目が合うと、両手を高く上げ、頬に下ろして『ホシガリスポーズ』をした。嬉しそうにニッコリと笑いながらそれをやると、指示も確認せぬままサーナイトの元へ突っ込んでいく。
「ヨクバリス、ヨクバリス……! もう一度ゲップ……!」
「サイコキネシスで沈めなさい! 口を開かせるな!」
サーナイトが虹色に発光し、ヨクバリスを地面に叩きつけた。目を回して戦闘不能になったヨクバリスの後ろでサーナイトが肩で息をしている。
「ヨクバリス、このおバカ……。頼むシンボラー!」
「やはり出ましたか。サーナイト、マジカルシャイン!」
「ラスターカノン!」
サーナイトの桃色の光が放たれる前に、シンボラーの銀色の光がサーナイトを貫いた。どおっと音を立ててサーナイトが倒れる。やっと半分を倒せたが、こちらは四匹やられていてシンボラーも手負い。まだダイマックスも控えている。
「あなたは何なんですか、どうしてジムチャレンジをやっているんですか、何が目的でそんなメンバーと態度で僕と戦っているんですか! イライラしますね! 行きなさいギャロップ!」
ギャロップ? 確かほのお単体のポケモンだったはずだと思いかけ、ここまでの記憶から答えを出す。リージョンフォーム。正解だと言うようにボールから出てきたのはギャロップ同様の四つ足でありながら額の角がもっと長く、たてがみが燃える炎から紫、桃、水色を織り混ぜたような色に変わったギャロップだった。
「(フェアリーと炎の複合か……? もしそうなら、はがね技はあまり効果がない。シンボラーもそう何発も耐えられないからよく考えないと!)」
「ギャロップ、マジカルシャイン!」
「シンボラー、サイケこうせん!」
ギャロップの角から桃色の光が放たれる。シンボラーも空中から虹色の光線を放ち、両者の攻撃はぶつかり合って相殺しつつ互いに当たる。シンボラーはよろけたがギャロップはどこ吹く風だ。
「(炎じゃない、あの反応、エスパーかあくか、はがね! でも体を見るにあくもはがねも要素が無い……。サーナイトと同じ、エスパーとフェアリーの複合か!)」
「ギャロップ、でんこうせっか。ラスターカノンにそなえてすぐに下がりなさい」
「シンボラー、ラスターカノン……、ぐうぅっ!」
シンボラーが反応するより早く接近、体ごとぶつけると素早く下がり、ラスターカノンをかわす。ヒットアンドアウェイ。このままではじり貧だ。なら。
「あなたはここで何か打開を、と考える。そうですよね? なら回避が難しくなる。ギャロップ、とっしん!」
「シンボラー、おいかぜ……、かわせないっ!?」
ギャロップが角をシンボラーに向け、一心不乱に突っ込んでくる。シンボラーは翼のような突起を揺らして風を起こす。かわすこともできず、シンボラーの腹にギャロップの角が刺さった。強まった風が倒れるシンボラーを少し動かす。その目はこっちをじっと見つめている。
「……ありがとう。もう大丈夫」
ただ静かに目を閉じた。戦闘不能だ。
「シンボラー……」
「最後の一匹ですよ、どうぞ」
おいかぜの効果は『しばらくの間味方サイドの素早さが上がる』もの。つまりここで出す最後のポケモンもその恩恵を受ける。素早いギャロップを追い抜けなくてもかなり近づくはず。また、ギャロップはとっしんの自傷ダメージを受けている。ここで追い込むしかない。
「最後は君に決まってる。コロトック」
姿を見せた、ガラルにはいないポケモン。大事な相棒。腹を鳴らして身構えるその背中は、何も言わなくていい、と伝えていた。
「コロトック、飛び回れ! 逃げながらエコーボイス!」
「ギャロップ、マジカルシャイン!」
羽を広げ、風を利用しながら飛び回る。その間に腹を一度強く弾く。紙一重で桃色の光が飛んで来る。
「二度目のエコーボイス!」
「マジカルシャイン!」
少しずつ体に光が被弾するようになってきた。コートにコロトックのメロディが響く。風が弱まる気配がする。もうすぐ追い風が終わるだろう。
「コロトック、風に乗って! 最後の風に乗ってギャロップにシザークロス!」
「でんこうせっか! やられるより前に突き刺すのです!」
風を羽に受け、あらん限りの力で羽ばたく。そこに光の早さで突撃してくるギャロップ。コロトックが腕を交差し――。
「し、下に潜ったですって!?」
ギャロップに衝突する寸前、ぐっとギャロップの角より低い位置に飛び込んだのだ。それはルリナ戦で見せたアズマオウを掻い潜る飛び方で。足の間を抜け様に、シザークロスを腹にお見舞いした。
『――普段できないことが本番でできるということは絶対にない。逆に今まで得たことは必ず戦いに活きる。その全てをぶつけきって戦いを終えることを、有終の美を迎えたと言うのだ』
「ありがとうございます、マスタードさん。……でも」
倒せない。地面に着地したコロトックはかなり疲弊しているが、ギャロップは首を振りながらこちらに向き直る。それなりにダメージは与えたが倒すには足りなかった。
「そのポケモン、動きが良いですね。それだけは誉めてあげましょう。ギャロップ、とっしん」
「コロトック……! きりさく!」
コロトックに用意した今回用の技はきりさく。ノーマルタイプの何の特別な効果もない技。だけどシザークロスが通じない時に対応できるように入れておいた。それを繰り出す。しかし追い風のないコロトックよりギャロップの方が素早い。それはつまり。
「キリ……」
鎌は空を切り、ギャロップの体がコロトックを捉えていた。勢いのままに空中に撥ね飛ばされたコロトックはもう羽を広げることもかなわない。そもそもあまり戦闘好きではないコロトックにとって、高速で飛び回りながら戦うのは負担が大きすぎる。それでも、それでも主の最後の戦いにと死力を尽くして戦ったのだ。
「コロトック……!」
ダメだ、そんな顔をしちゃダメなんだよ。これで未練をなくすんでしょう。あなたと共に戦った我々に心残りはないんだ、だからどうか、悲しまないで。
……今鳴らしたこの音で、この想いがあなたに届くことを願うばかり。
『――勝者、ジムリーダー、ビート!』
墜落し動かないコロトックを確認すると、審判は勝負の結果を高らかに告げた。ギャロップが高くいななく。万雷の喝采を浴びながら、コロトックをボールに戻した。そして。
『そうよ。俺達プロレスラーもやる。引退する時こそ、それが自分を象徴するポーズだと思うなら、最後だからこそやるんだ! それがファンの、お前を支えてくれたみんなの、そしてお前と共に戦ったパートナー達への最大の感謝になるんだからな!』
両手を高々と突き上げた後、頬に付け。コートに同じポーズをしてくれる仲間がいないことが、こんなにも悔しいなんて。
「ホシガリス、ポーズ! ……ありがとうございました!!」
主人公のバトル、最後の相手はビートでした。
プロット段階から悩んだ終わり時でしたが、ここになりました。
残りは三話、どうぞお付き合いいただければ幸いです。