【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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今回だけ、バトル回ではないものの主人公がたくさんしゃべります。
男女特定しない口調にしてるため少し読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。


紅茶の香りに、ポフィンを添えて

 

 

 

 

十年前。

 

「――野生のトレーナーだな!?」

 

俺が叫ぶと、その子はすごくびっくりした顔をして固まった。うーん、何か驚かすようなことをしたかな。後ろのリザードンが顔をおおっている気がするけど、どうしたんだろう。

 

「……$¢%ΛΓΩ?」

 

しまった、シンオウの言葉は分からない。ポケットからケータイロトムを呼び出し翻訳してもらうことにした。

 

「……すみません。トレーナーではありません。ポケモンでもありませんので、ボールを投げないでください」

 

草むらかきわけて出てきたから思わずボール用意したけど、人間は捕まえられないよな。うーん、テンション上がりすぎてて変なことしてる。だってシンオウのチャンピオンと戦えるんだぞ、興奮しない方がおかしい!

 

「すまない、ボールは投げない。ところでここはどこだろう? すっかり迷ってしまって。ここのスタジアムに行かないといけないんだけど……」

 

持っていたシンオウの地図を渡して見てもらう。渡したその場で地図を半回転された。ん、また地図を逆さに見てたか?

 

「えーと……、あ、行き先が同じです。道も分かります。一緒に行きますか?」

 

「それは助かる! さっそく案内してくれ!」

 

リザードンに二人も乗ったら試合前に疲れさせてしまう。だからボールに戻そうとすると念のために上空を飛びながら一緒に行くという。帰りのことを考えているのか。ははは、心配性だな。

 

「……あなたはトレーナーなんですか?」

 

「ああ。ガラルのな。君は?」

 

「ポケモンは好きだしポケモンバトルを見るのも好きですけど、他に夢があってトレーナーの旅には出てないです。トレーナーってどんな感じなんですか?」

 

「トレーナーは素晴らしいぞ。ポケモンとの信頼、バトルの手に汗握る駆け引き、負けた時の悔しさもあるが、それ以上に勝利の喜びはどんなものにも代えられない。トレーナーを目指して得られたものを挙げればきりがない」

 

「そんなに……」

 

「君もどうだ? 他の夢があるにしろ、大きな経験になることは間違いないぞ」

 

「…………」

 

深く何かを考えている間、黙っておく。こういう時は邪魔をしちゃいけない。ソニアがそうだから間違いない。

 

「……ジム巡り、やってみようかな」

 

「ああ。やってみると良い。努力することを忘れなければきっと続けられるさ。俺はまたきっとシンオウに来る。その時もし君がポケモントレーナーだったら、こんな嬉しいことはない。その時はトレーナー同士再会しよう!」

 

それからも会話を重ね、スタジアムが見えたところで別れた。だからダンデは知らない。その時の子どもが十年の時を経て、今、同じガラルにいるということを。

 

 

 

 

 

 

「ピンクじゃないね」

 

ジムバトルを見終わって思わず呟いた一言を聞いた者はいなかったようだ。ルンパッパを先鋒に出したトレーナーとの試合を見て、ポプラは呆れていた。あんなのを見せられたらたまったものじゃない。

 

「マホイップ。ちょっと頼まれてくれるかい。ああ、あとマダドガスも。……全く、あのジジイに影響されたかねぇ。気になって仕方がない」

 

この後のバトルをビートがしくじるとは思えないが、今の対戦相手とのやりとりはあの子にとって無視していい問題ではない。丁度いいとも言える。利用させてもらおう。次のチャレンジャーが来たとの放送に、ポプラは意識を切り替えた。

 

 

 

 

 

「着いた……」

 

アラベスクタウンジム。今日完敗したジムだ。そこの裏口の前に立っている。なぜかと言えば、呼び出しをくらったからだ。匿名の人物に。

バトルに負けてポケモンセンターで回復させた時、一匹の見慣れないポケモンが近づいてきた。一見野生のポケモンのようだが手紙を渡そうとしてくる。手紙にはこう書いてあった。

 

『今夜七時、アラベスクタウンジム裏口前に来ること。逃げたらじゃれつくよ』

 

どういう意味なの。

 

「あら、野生のミブリムってことは……。あなた、今日はお手紙の通りにした方がいいわよ。何ならポケモンセンターの個室貸してあげるから、町から出ない方がいいわね。ルミナスメイズの森で行方不明になるかもしれないわ」

 

めちゃくちゃ怖い。ジョーイさんは手紙の主に心当たりがありそうだが、含み笑いを浮かべるだけで教えてはくれない。仕方ないのでポケモンセンターでぼーっと過ごして現在午後六時五十分。

 

「……来たね」

 

「うわぁっ!?」

 

ギリギリまでインターホンは鳴らさないでいいか、と立っていたらなぜか中からガチャリと開いた。しかもその開けた人物に見覚えがあった。DVDで研究したその人、ポプラさんだったのだ。予想外すぎて変な声が出てしまう。

 

「あ、あの……」

 

「さあ入りな。あたしを知ってるなら自己紹介は省かせてもらうよ。……あんたのことは今日の試合で知ったのさ。あたしはここの試合は全部に目を通してるからねぇ」

 

どうして呼んだのか、何で十分前に来てると分かったのか、手紙を運んだ野生のポケモンは何なのか、じゃれつくってどういうこと。質問は山ほどあったがそれをさせない不思議な圧力がある。口をパクパクさせながら後ろに続くと応接間に通された。大きめのテーブルの上にはディナーが並べられている。

 

「サンデーロースト! 良い焼き色……! こっちはグリーンピースのポタージュ、根菜のバターソテー、食前酒は……」

 

「辛口のロゼさ。飲めるかい?」

 

「大丈夫です。良いピンク色ですね」

 

「ああ、良いピンクだね」

 

席につくとイエッサンがやってきてワインを注いでくれた。グラスをかかげて乾杯。食事が始まるもポプラさんから話す様子はない。

 

「あのう……」

 

「まずは黙ってお食べ。料理人ならこの料理、舌で記憶しておいて損はないよ」

 

「えっ、どうして料理人だって……」

 

「次はないからね、お黙り」

 

「ハイ」

 

もうやだ。

でも確かにこの料理、例えばポタージュは新鮮な豆を使って色味が飛ばないように弱火でゆっくり柔らかくなるまで煮ている。そして何度も裏ごしすることで均一な舌触りを作っているのだ。さらにロゼが甘くないことでますます料理が際立っている。他の料理も手間がかかっており、今の自分にこの味を再現することはできそうにない。とても良い勉強になる。

 

「わぁっ……!」

 

食事が終わって配膳が下げられ、次に出てきたものに思わず声を上げてしまった。ケーキスタンドと一緒に出てきた淡い紫色のティーセット。スタンドにはサンドウィッチ、マカロン、スコーンなどが色鮮やかに置かれており、ほのかに香る紅茶が心を落ち着かせてくれる。この反応は彼女としては正解だったらしく、叱責を受けずにすんだ。

 

「分かる相手だと出したかいがあるね。普段試合中に飲んでたカップと違ってこっちは来客用のセットさ。ビートに見せてもつまらないんだよ。今審美眼を鍛えているところだけど」

 

「ビートさん……。今日戦った、彼ですね」

 

「そうだよ。今日呼んだのはあの試合のことさ。ああ安心しな、戦術やら何やらについて言いたいんじゃない。そういう助言は必要ないだろう?」

 

ポプラさんは上品な仕草で紅茶をすする。

 

「……ビートが不用意な発言するまで、自分の未練の大きさに気づいてなかったね?」

 

全てを見透かされている。そう感じた。

 

「あの子が言った『この程度の努力』。その言葉にひどく動揺してたね。ビートの言いたかった意味とは違う聞こえ方をしたんだろう? ――ポケモントレーナーに『ならない』人間としては、できる限りの努力をしたはず、そうだろう?」

 

「……そうです。シンオウから来たのですが、このジムチャレンジが終わったら帰らなくてはいけません。帰ったら仕事もあるし新しい夢もあるから、ポケモントレーナーにはなれない。その前提条件がある中で、できるだけのことをしてこのジムチャレンジに挑んだつもりです」

 

「そうだね。だけど、あの時本当の心の声に気づいたんじゃないのかい?」

 

「…………」

 

続きは自分で言えということらしく、ポプラさんはただただこちらを見つめるばかり。こうなったら大人しく言うしかないだろう。

 

「……そうです。これでトレーナーが終わりだなんて、嫌なんです。料理人の夢を諦めたくはない、だけどもうあの興奮が得られないのも嫌だと思う自分がいるのも事実です。もっともっとポケモンバトルがしたい。いっそバトルだけをしたいとすら思うんです」

 

あの歓声を。あの高揚を。あの刺激を。一度覚えたら病みつきになってしまう。

 

「ダンデさんに会うために一時的に始めたトレーナーが、今ではとても大きなウエイトを占めていて。叶うなら料理人とプロのトレーナーを両立したいと……」

 

「やめておきな」

 

思わず熱くなる語りに水を差された。あまりに冷たいその言葉に心が冷えていく。

 

「料理の腕がどんなもんかは知らないさ。でもね、ポケモントレーナーを甘くみるんじゃないよ。両立なんてできない。忙しいからとかじゃない、あんたにポケモントレーナーの才能がないからさ。今日の試合を見たからこそ分かる。あんたは一流のトレーナーになれない」

 

「そ、それは……」

 

「まず手持ちのポケモンが温和すぎる。ポケモンは人間を見るよ、戦える人間には戦うポケモンが集まるもんさ。今日の試合、手持ち全員負ける直前そっちを向いてたね? あんなことやる余力があるなら一撃でも多く叩き込まないと。それを指示できない時点で勝利への貪欲さが足りないよ」

 

確かに、ポケモン達のあの想いに対して『そんなのいいから攻撃しろ』とは言えない。そんなこと、できない。

 

「次に良くも悪くもバトルに工夫ができない。ポケモンの特性や性格を把握するのはプロになるなら初歩中の初歩。プロはそこからポケモンのバトルセンスを伸ばし、一つの技からできることを増やしていくんだ。ビートのクチート、アイアンヘッドを回避や移動に使ったろう? ああいう気付きの多さが才能の差だよ」

 

「ぐっ……」

 

「そして最後に。……例え時間やお金があってジムチャレンジをクリアできたとしても、本気になったプロトレーナーには勝てないよ。だって、あんたの心は本当はもう決まっているからさ」

 

その言葉を待っていたかのように扉が開き、イエッサンが入ってきた。金縁の美しい皿に乗せられているのは、なんとポフィン。ふわっと漂う香りが食欲をそそる。ポプラさんは手だけで食べるよう促した。恐る恐る一口かじり、思わず椅子を蹴って立ち上がってしまう。

 

「こっ……、これ、セシナの実を使ったポフィン!? かしこさを上げるから高値で買う人もいるけど、味は微妙なはずなのに……!」

 

「なのに?」

 

「これ、おいしいんですよ! 苦味がアクセントになってる! 酸味はほとんど感じない! ジョウトにあるお茶文化に近い、苦味を楽しめる味になってる! 調理法はそこまで違わないはずなのに、しっとりさせることで苦味が緩やかに舌の上に広がって……」

 

はっとする。ポプラさんはわずかに笑みを浮かべながら「それだよ」と告げる。

 

「情熱の比率がポケモンバトルより料理にある。その時点で、一流トレーナーにはなれないのさ。あたしもそのお菓子いただこうかね。……おや、おいしい。これはいい味だよ。さっき雄弁に語る姿、なかなかピンクだったじゃないか」

 

「ピンク……?」

 

「もうあたしのお節介はいらないね。ホテルにお帰り。……そうそう、これを渡さないと。このお菓子を作ったパティシエからで、使った材料を書いた紙。作り方はあえて書いて無いから自分で研究するように」

 

もらった封筒にはもう一枚何かが入っている。目で訴えるとニヤリと笑われた。

 

「もう一つはファイナルリーグの観戦チケット。ジムチャレンジ参加者は裏でモニターで見る権利はあるけどね。あんたはちゃんとその目で見てごらん。本当のプロトレーナーってやつをさ」

 

まさかこんな物までもらえるとは。感謝しつつどことなく不安になる。ここを出たとたんに黒塗りの空飛ぶタクシーに連れ込まれて違法な契約書にサインとかされないだろうか。……これもう三回目か。

 

「安心おし。これはあんたを利用するだけ利用したお代。たっぷりと有効活用させてもらったからもう充分だよ。ああ、もしこの事を誰かに他言でもしたら……、じゃれつくよ」

 

全身鳥肌が立った。

 

 

 

 

 

 

「……入っておいでよ」

 

珍妙な客が帰ったのを確認し、声をかける。応接間の入り口を開けて入ってきたのはビートだった。

 

「やっぱりあれは、わざと僕に聞かせるために呼んできたんですね」

 

「そうだよ。丁度あんたに足りないものだったからね。見世物になってもらったのさ」

 

「……僕は間違ったことを言ったつもりはありませんし、撤回するつもりもありませんよ」

 

「どうして撤回する必要があるんだい。分かってないねぇ。あたしは叱るためにここに呼んだんじゃないんだよ、ビート」

 

あからさまに怪訝な顔をするビートに、あからさまに呆れた顔で応対するポプラ。

 

「覚えておきな。ポケモンバトルをする人間全てが強くなるために戦うんじゃない。意地や未練という他人から見たら意味すらないもののために勝ち上がろうとする人間もいるってこと。目の前にいる人間がどういう意思でそこに立っているのか、それを分からないうちはまだまだピンクは遠いよ」

 

「……じゃあポプラさんはどうやってあの人のことを調べたんですか。あの人が料理人だってことや最後のその焼き菓子のこととか。魔術師とか言われてましたけど、実はヤラセなんじゃないんですか」

 

「ビート、本当に全く……。バトルのセンスはチャンピオンにも劣らないのに、人の内面を見る力がなさすぎる。そんなんじゃファイナルリーグは二回戦で辛くも負けるくらいの結果になるよ」

 

「何ですかその具体的な予言」

 

「……あのチャレンジャー、服や荷物から油の匂いとスパイスの匂いがしてた。あとカレーの染みも。それから右手に包丁タコ、左腕全体に複数の火傷痕。忙しい調理場で働いてる証拠。カバンのポケットから知らない甘い匂いがしてたのをマホイップや外にいる野生のペロリームらが指摘してたね。嗅ぎ慣れない匂いってことはよその地方のポケモン用のお菓子に違いない。買ったお菓子ならそこまで匂いは残らない、となれば自作。なら一つ前のラテラルに電話一本入れれば『シンオウからのチャレンジャーが一人いる』となって、お菓子の正体はポフィンになるのさ。……何か質問は?」

 

信じられないものを見る目でポプラを見るビート。ポプラは自慢げにすっかり冷えた紅茶を飲み干した。

 

「人間をよく観察しな、ビート。それはバトルに勝つことにもつながるよ。まずはウチのジムトレーナーたち相手に練習するんだね」

 

「……分かりましたよ、バ、ポプラさん」

 

「またバアさんって言おうとしたね!? 問題、バイバニラとダグトリオとナッシー、仲間はずれはどれ?」

 

「はいっ、バイバニラです! 一見進化すると頭の数が増えていく問題にも見えますが実際はナッシーとダグトリオにはリージョンフォームがありバイバニラにはない、が正解です! ……くっ、思わず癖できちんと答えてしまった」

 

ぎゃーぎゃー言いながら応接間を後にする二人。すっかり夜も遅い。アラベスクタウンを象徴する二人はまだまだ伸びていく。

 

 

 

 

 

 

自分の顔が夜のガラスに映っているのをぼーっと眺める。ポプラさんが手配していた空飛ぶタクシーに乗って、さっきのことを考えていた。あのポフィンを食べて「それだよ」と言われたのは、まるで自分の顔面を殴られたような衝撃だった。でも、その理由がまだ飲み込めきれてない。

あの瞬間自分がポケモントレーナーで『なくなった』ことを受け入れるには、あまりにこれまでの道のりに対して必死すぎたからだ。

 

それでも夜は明ける。

ジムチャレンジ、最終日の日が昇る。

 

 

 




この役回りはポプラさんにしかできない、そんな話でした。
ビートくんも人と触れあうのは苦手ですからね、ポプラさん面倒見てそう。
スタートーナメントで88歳のじゃれつくを見た時は吹き出しました。
ポプラさんはとても素敵なレディです。
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