【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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届け、ホシガリスポーズ

 

 

 

 

【拝啓 ダンデ様

突然の手紙で失礼いたします。私は十年前、あなたがシンオウにエキジビションマッチに来たときに道案内をした『野生のトレーナー』です。あの時の忘れ物をお返しするのと、実は今年のガラルジムチャレンジに参加していた顛末をどうしてもお伝えしたく、筆をとりました】

 

封筒の中には手紙の他に、古いシンオウの地図が入っていた。

 

 

 

 

 

 

シンオウに戻ってから寝る間を惜しんで勉強した。経理、料理、経営、流通、等々。貯金を切り崩してガラルに行ったため独立する資金がなかったのもあり、平行してお金も貯めた。辛かったり心が折れそうなこともあったけど、それでもこの夢を諦めることはできず歯を食い縛って耐えた。この夢はもう一つの夢を犠牲にして選びとった夢だから。

 

「ついに夢を料理人一つに絞ったんだな。だけど、コンセプトは変えないでいいんじゃないか? ポケモンバトルもできる飲食店。何もプロトレーナーだけがバトルする権利があるんじゃない。今度公園に行ってごらん。どういう意味か分かるから」

 

ガラルから戻ってすぐ両親に夢を伝えた時、父はそう言ってくれた。もうただのガラルカレーとポフィンの店にしようと思ってたのだけど、父の言うことが気になる。その週の終わりに公園に行ってみて、その意味を知った。

 

「すみません、ポケモンバトルやりませんか? 1on1で。……え、賞金? ははは、ここでバトルしてる人はプロじゃないから、お金のやりとりは禁止ですよ」

 

今まで公園なんて寄ったこともなかったから知らなかったが、週末になると純粋にバトルを楽しむ人が集まっていたのだ。ついこの前までガラルでやってた自分からすると簡単に勝てる相手ばかりだ。でも、間違いなくあの時より気楽で、何より楽しい。

 

「そうね。バトルもできるお店の方がいいわよ。あなたとあなたのポケモン達、帰ったばかりより今の方が良い顔してるもの。お父さんはバトルはもう辛いってやらなくなっちゃったけど、あなたはバトルそのものを楽しむことができる。それを忘れないで。頑張りなさい、お父さんもお母さんも食べに行くから」

 

やはり父はトレーナーの夢を諦めた時、たった一人で苦しみの中、夢への想いを自らへし折ったのだ。それに対し自分はたくさんの人のおかげで、今もポケモンとバトルを好きでいられる。その事に感謝しつつ、だからこそ前を向いて走っていくことを誓った。自分のようにプロになることを諦めた人でも楽しくバトルできるような店を作る!

 

「……久しぶりに入ってきて早々に土下座しながら金を貸して下さいなんざ、今日日ポケウッドでもやらないぜ。でもよ、その泥臭ぇ必死さ、俺は好きだな。ガラルに行って良い意味で一皮むけたじゃねぇか」

 

何年かしたある日、理想の物件が売りに出されたのを見つけてしまった。それは十年前ダンデさんと出会った廃墟であり、広さや立地も申し分なかった。ただ、手持ちがない。でも逃したら一生後悔する。そこでノモセジムに突撃し、ジムリーダーにスライディング土下座を敢行したのである。

 

「それならこっちの条件次第で貸してやらんこともないぞ? ……ものは相談なんだけどよ、お前が開く店って貸し切りとかできねぇか? アルコールもありゃあ良いんだが。マキシマム仮面ご一行の打ち上げやりてぇのよ。興が乗ってバトルになっても、そういう所なら問題ないしな。あとウチのレスラー達には安く飯を提供してくれ。レスラーも貧乏なやつは貧乏なんでよ。それが条件だ!」

 

二つ返事でOKを出した。隣のコロトックが無音で腕をシザークロスの構えにした時は半殺しを覚悟したが、背に腹は代えられない! 借金は少しづつ返す! まずは拠点がないと次に進めない!

 

『ハァイ、ミツバです。……あら~久しぶりじゃない! ……え? 良い金融機関教えてほしい? あらあらすっかり気合い入っちゃって! いいわよ、少しアタシも貸してあげる! その代わりアタシ御用達のとこの食器使って。あとインテリアも。大丈夫、カレーに映えること間違いないから!』

 

二つ返事でOKを出した。アブソルがめちゃくちゃ心配そうな顔でこっちを見ている。後には引けない。もうマキシさんと両親とミツバさんにお金を借りてしまった。何が何でも売り上げを出さなくてはならない。そして経費を削るところは削る。つまり、スタッフは雇えないから、君たち六匹がスタッフだ! そう告げた時、ヨクバリスが木の実を落として固まったのが忘れられない。

 

 

 

 

 

最初は赤字も赤字からスタートだった。店をオープンして数日は両親とノモセジムのメンバーだけがお客さん。店の運営、SNSの更新、メニューの開発、仕入れの確認等々。日々より良く、と目を回しながら働いていたある週末、突然数組のお客さんがやってきたのだ。喜びながら何でここを知ったのか聞いてみると。

 

「この店のSNS、ガラルのドラゴンストーム・キバナさんが紹介してたんです。彼は全国でもトップクラスのトレーナーだし、イケメンじゃないですかぁ。それで来たんですよ」

 

まさかキバナさんがここを紹介してくれたとは。やばい、泣きそう。しかしこれで終わりにしてはいけない。このチャンスを活かしてリピーターを増やし、店を盛り上げなくては。それでこそ気にかけてくれたキバナさんや援助してくれた人達を安心させられるというものだ。

 

キバナさん効果で最初よりは人が来るようになって半年ほどした頃。

 

「すみません。一人だけどいいかしら。あと……、カレー食べる前にバトルもお願いしたいの。1on1。こっちはガブリアスで」

 

シンオウリーグチャンピオン、シロナさんが電撃訪問してきたのだ。泡吹いて気絶するかと思った。実際は考古学のフィールドワークの途中でここを見かけ、さらに言うなら自分のシンボラーを追いかけて入ってきたという。シンボラー、本当に何を考えてるのか分からない。

 

「うーん、おいしい! 他所の料理がシンオウで食べられるのは嬉しい誤算ね。今度は四天王のみんなを連れて来ようかしら。……自分で片付けしないでカレー食べられるって、素晴らしいことよね」

 

ガブリアスにワンパンでシンボラーが負けた後、料理をお褒めいただいた。さらに許可をもらってツーショットを撮らせてもらい、お店に飾らせてもらうことに。写真効果とマキシさんがリピーターとして来てくれたおかげでプロトレーナーにこの店が認知されるようになったらしく、他のジムリーダーや他地方からの遠征トレーナーご一行からの予約が少しづつ入るようになった。酔った勢いでバトルできる場所は貴重なんだとか。

 

 

 

 

 

【……かつてあなたに感化され、トレーナーを目指しましたがすぐに挫折。今度あなたがシンオウに来たら『トレーナーは無理だった』と伝えて地図を返そうと思っていたのです。ところがその前にあなたがチャンピオンから陥落したとのニュースを聞きました。これではあなたに地図を返せない。正直に言いますと未練があったのもあり、ガラルでもう一度トレーナーになってあなたに『ポケモントレーナーの夢を叶えた』姿で地図を返そうと思い立ったのです】

 

 

 

 

 

「店長! お客さんからバトルご要望ですよー!」

 

あれからさらに数年がたち、ようやくスタッフを一人だけ雇えるようになっていた。そんなスタッフから声がかかる。この店でバトルを楽しみたいお客さんには客同士の了承、あるいは店長を指名して戦うようにしてもらっている。なおスタッフはまだバトルは修行中とのこと。

 

自分が選ばれた時はドクロッグの出番だ。相変わらず楽しそうに戦ってくれる。ノモセのマスコットキャラなのもあり、出てくるとお客さんの反応も良い。ああ見えて気遣い上手なのでバトルの後はファンサービスも忘れない。マキシさんのご贔屓でもある。

 

コロトックは厨房の手伝いと店のミュージック担当だ。普段はネズさんのCDを流してるけど、必要な時は演奏でムードを盛り上げてくれる。あと、なんと店の経営にも口を出すようになった。新作カレーの案を容赦なくダメ出しするその姿は『この店の真の店長』とまで噂されるほど。店で一番強いのは間違いなくコロトックだ。

 

ルンパッパはまさかの給仕担当になった。ステップ踏みながらモーモーラッシーをこぼさず運ぶのはいつ見ても天晴れである。コロトックのメロディでルンパッパが踊るのはこの店の隠れた名物だ。ちなみにドクロッグとルンパッパは休日ノモセ湿原に出掛けて体を潤してくるのが何よりの楽しみなんだとか。

 

どこかへ行く時はシンボラーと必ず一緒に行く。一見背中に乗って空を飛ぶをやってるように見えるけど、実際はサイコキネシスで固定されて浮かばされてるだけなので快適さはない。あと時々バトルしたがるのかドクロッグを押し退けて参戦するからちょっとびっくりする。なおバトルに満足するとどこかへ飛びさってしまうので帰ってくるのかめちゃくちゃ不安になる。

 

アブソルは遠出する時や何かを感じた時は必ず同行してくれるが、普段は店の屋根の上にいる。おかげで『マフラーしたアブソルがいるカレー屋さん』という特徴も出てしまったのは嬉しい誤算。でも人間はあまり好きじゃないのは知っているので「カメラが嫌なら逃げて良いよ」と伝えてある。逃げ先は大抵自分のベッドの中だ。

 

そしてヨクバリス。何とかお客さんの料理を横取りするのはダメというのは覚えてくれたが、代わりに席を回ってはあの手この手でおひねりを求めるようになってしまった。今や木の実お手玉という新しい芸すら物にした。欲望に正直なやつめ。子ども受けがいいので家族連れが来ると大抵子どもに尻尾をモフられている。その時は超ドヤ顔する。

 

「はいこちら『ガラルカレーとポフィンのお店・ホシガリスポーズ』です! ご予約ですか? ……はい、確認するので少々お待ち下さい」

 

ここ『ホシガリスポーズ』の看板はもちろんホシガリスポーズをするホシガリス。シンオウにはいないホシガリスというポケモンだが、ヨクバリスを見て「本物だー」と感動されるのもいつもの光景だ。実際は進化前なのだけど、細かいことは気にしない。同じように店がいつまで続けられるかとか、借金返済しきれるかとか不安は尽きないが、今はそんな細かいことは気にしない。必死に努力するのみだ。

 

 

 

 

 

 

【……私はポケモントレーナーにはなれませんでした。夢破れた私ではあなたに胸を張って会えません。ですがもう一つの夢、ガラルカレーとポフィンの店を出すことは、どんなことがあったって絶体叶えてみせます。だからどうかその地図を持って、もう一度シンオウに来て下さい。その地図はあなたにシンオウに来てもらうための言い訳です。でも本気の言い訳です。その地図を見ながらシンオウに来て、ホシガリスポーズを目印にお店に来て下さい。必ず待っています】

 

 

 

 

 

今日も世界はたくさんの挫折と諦めを産み、供養されない夢が打ち捨てられていく。努力することも諦めないことも簡単ではなく、一つの夢のために多くの何かが犠牲になる。

それでも人は夢が叶った輝きに魅せられて、前を向いて進み続ける。そして自分に言い聞かせる。頑張れば夢は叶うんだと。

 

 

 

今日もホシガリスポーズの看板が風に揺れる。迷えるお客様を待ちわびて、カレーの匂いを風に乗せている。この話は、そんなよくある夢のために夢を犠牲にした、少しだけ人の巡りに愛された人間の話。この後どうなったのか。それはまた、別の話。

 

 

 




届け、ホシガリスポーズ、完結です。
ここまでお読みいただいてありがとうございました。
ポケモン世界を生きる普通の人を書きたいという動機から始まったこの話ですが、
無事に終われてほっとしつつ寂しくなっております。

今どきの流行からはかけ離れた文章ではありましたが、
最後までお付き合いいただける方がおられましたら、
至上の喜びでございます。
本当に、ありがとうございました。
皆さんの夢が、叶いますように。
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