【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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ジムチャレンジ、スタート

 

 

「……なるほど。お前のやりたいことは良く分かった。確かに心残りってのはそのままにしない方がいい。解決できるならそれにこしたことはねぇ」

 

ノモセシティ、ノモセジムの一室。ジムリーダーのマキシは目の前の人物をじっと見る。ガラルのバトルタワーに行くため、ジムチャレンジに参加したい。どうやったら推薦状を得て参加できるだろうか。そんな相談だった。

 

「悪いが俺は推薦状を出せないんだ。ガラルの人間が出すのが最低条件なんだと。その代わりガラルのジムトレーナーとかならだいたい誰でもOKみたいだな。子どもにやらせたい親が推薦状依頼を最寄りのジムに出すのが一般的らしいぜ」

 

ガラルにいる俺の知り合いに頼めば推薦状くらいは用意できるだろう。ただ、もっと根本的な問題がある。

 

「だがな。分かるだろ? ジムチャレンジはポケモントレーナーが強くなるためのイベントだ。その上お前はただ参加するんじゃなくてダンデに会うためにガラルのバトルタワーに行かないといけねぇ。こっちのバトルタワーとシステムは同じだろう、ただ単に『ジムチャレンジに参加したトレーナーです。タワーに入れて下さい』ってんじゃ門前払いされるがオチだな。つまり、ジムチャレンジである程度の結果を残さなきゃってんだ」

 

シンオウにもバトルタワーはある。そこに行くには強いトレーナーであることが条件だ。それこそジムバッジ全部持つのは最低条件で、タワーではより過酷なバトルが待ち構えているという。ガラルの物も同様だろう。マキシが言うのも最もだ。

 

「プロレスも同じよ。レスラーになるのは簡単だが、売れるためには結果が必要だ。無名のレスラーなんざゴロゴロいる。スポットライトに照らされた舞台へ上がれるのは、例え前座に出るのだって実績がなけりゃ一生かかっても無理だ」

 

マキシはおぅしっ! と叫びながら立ち上がる。そして目の前の人間を指差しながら宣告した。

 

「お前は十年以上前に一度だけジム巡りをして、一つだけジムバッジを得て終わったんだろ? 当時のポケモンたちも一匹を除いて野生に返したんだな? そんなお前に推薦状の手伝いするにゃ条件がある。――このノモセジムをクリアしろ! できたらツテに依頼してやる。このマキシマム仮面に二言はねぇ!」

 

仕事をしている者にいまさらいくつものジムを巡るのは無理だ。職場に迷惑がかかる。だが、全く戦えないトレーナーを他地方に送り込むのは向こうに失礼になる。目の前にいるこいつが本気なら、ウチのジムをクリアしようと努力するはず。口先だけならどんな夢も語り放題だ。

 

「見せてみろよ、お前のやる気。俺は頑張る奴の味方だぜ!」

 

 

 

 

 

 

『それはホシガリスに間違いないね』

 

捕まえたポケモンを知るためにレイジさんに電話をすると、ガラル全土にいるメジャーなポケモン、ホシガリスだと判明した。ノーマルタイプで特性は『ほおぶくろ』。あの行動、納得の特性である。

 

『わりとタフだけど鈍足だよ。特殊攻撃、特殊防御は無いからそこに注意してバトルに出すといい。もちろん特性を活かして木の実を持たせてね』

 

ポケモン図鑑などポケモン研究所とコネを持つ人間くらいしか持てない垂涎の代物だ。普通のトレーナーは行動や生態から推測しながらそのポケモンのことを理解していくことで、ポテンシャルを引き出すことができる。

 

「キリキリ」

 

レイジさんにお礼を言って電話を切りって振り返ると、コロトックとグレッグル、そしてホシガリスが仲良く同じ皿からポフィンを取って食べている。ホテルに入ってポフィンを作り直し手持ちの三匹に振る舞ったところ、すっかり三匹は打ち解けていた。ホシガリスもある程度木の実を渡しておけば、盗み食いなどをする危険はないようだ。

 

「グレ」

 

袖を引っ張られたので下を見ると、グレッグルが皿を示している。……待って、多めに作ったはずのポフィンが無くなりつつある。どれだけ食べるのホシガリス。ガラルの木の実が取り放題で本当に助かった。

 

『……明日の天気は晴れですが、キバ湖周辺は霧がかかるでしょう。他のワイルドエリア内天気は以下の通りです』

 

いよいよか。いよいよ始まるジムチャレンジ。どうなるかなんて分からない。すでに想定外の形で三匹目が手に入っている。この先も楽にいけるとは思ってない。とにかく今できるのは、ポフィンをもっと作り置きしておくことだ。それが終わったら寝よう。次にベッドに入れるのがいつになるか分からないのだから。

 

 

 

 

 

快晴のエンジンシティに花火が上がっている。大勢の観客がスタジアムに集まり、開会式の始まりを今か今かと待ちわびている。

 

『さぁいよいよ今年も始まります、ガラルで最も盛り上がるイベント、ジムチャレンジ! 一昨年のチャンピオン交代という劇的な体験はまだ我々の心を熱くします。今年もあのような戦いが待っているのでしょうか!? では、大会委員長のダンデ氏に代わります』

 

控室にいる大勢の子どもチャレンジャーに形見の狭い思いをしていたが、ダンデさんの名前に弾かれるように壁のスクリーンを見る。そこには確かにあのダンデさんが映っていた。心臓が跳ねる。ダンデさんは挨拶、様々な諸注意を説明していく。

 

『……最後になりますが、今年のジムチャレンジ、本当はエンジンシティはカブさん担当だったのですが、急遽帰郷する必要が出てしまったため、外れてもらいました。その代わりとして、メジャージム昇格寸前の二つのジムリーダーから好きな方を選んで挑めるようになっています』

 

『はい、こちらは毒タイプ専門のクララさんとエスパータイプ専門のセイボリーさんですね。最近頭角を現してきた二人なのでダンデさんも楽しみなのではないですか?』

 

『そうですね。二人とも今までにいないタイプのジムリーダーなので期待しています。この点が例年までとは違うので、確認をお願いします。以上です』

 

『はい、ダンデさんご説明ありがとうございました。それでは今年は九人のジムリーダーに入場していただきましょう!』

 

フィールドがライトで照らされ、入場口から九人のジムリーダーが姿を現す。途端に会場は黄色い悲鳴で埋め尽くされた。戦う順番にジムリーダーを確認していく。

 

 

一つ目、ターフタウンのヤロー。

二つ目、エンジンシティのセイボリーもしくはクララ(日替わりで好きな方一名)。

三つ目、バウタウンのルリナ。

四つ目、ラテラルタウンのオニオン。

五つ目、アラベスクタウンのビート。

六つ目、スパイクタウンのマリィ。

七つ目、キルクスタウンのマクワ。

八つ目、ナックルタウンのキバナ。

 

 

驚くほど若いジムリーダーばかりだと感じつつ、タウンマップに素早く今までの情報を書き込んで行く。地の利がない以上こういった情報が攻略の助けになるはずだ。シンオウに帰るという明確なタイムリミットがある以上、無駄な行動は避ける必要がある。

 

『そしてそして! 八つのジムリーダーを下した者の中から一名のみ、ファイナルトーナメントへ進むことができる! 本気のジムリーダーを下した先に待つのは、我らがチャンピオンその人だ!』

 

プシューとスモークが立ち上ぼり、まだ子どものチャンピオンが入ってきた。スポンサーが印字されたマントが妙に大きく見える。この子がダンデさんを倒したチャンピオンか。不思議な雰囲気を感じる。きっとそれは神に愛された才能なのだろう。

 

『これから、ジムチャレンジが始まります――』

 

チャンピオンのあいさつが終わり、最後に自分を含めたチャレンジャーがフィールドに入場して開会式は終わった。最後の方は放送の声は聞こえていなかった。

 

 

 

離れた所にいたダンデさんを、じっと見つめていたからだ。

 

 

 

今はまだ、数多のチャレンジャーの一人でしかない自分が彼の目にとまるのは不可能だ。でも、このジムチャレンジの中でどうしても存在を認知してもらわなくてはならない。やりたいことと、伝えたいことがあるから。

 

『……以上で開会式を終わります。最初はターフタウンからです。皆さんの健闘をお祈りしています!』

 

熱気にあふれるエンジンシティスタジアムを出る。チャレンジャーのほとんどは十代だ。 「絶対チャンピオンになる!」「ワンパチと一緒なら勝てるもんね!」と盛り上がっている。一方で自分と同じ、あるいは年上のチャレンジャーは誰も彼も無言で真剣な表情をしている。自分と同じで何らかの『動機』を抱えているのだろう。

 

「ターフタウンは三番道路からガラル鉱山を抜けて、四番道路の先にあるんだよ!」

 

トレーナー達は我先にと街の外へ向かう。その先にある夢に向かって走り出す。さあ自分も向かわなくては。

行こう、みんな。

ジムチャレンジのその先で、ダンデさんに会うために。

 

 

 




ジムリーダーは独断と偏見で決めました。なお私は盾のみプレイ済みです。
また、可能ならジムチャレンジ対象じゃないカブ達や、ソニアのようなトレーナー以外のNPCの出番も作りたいところです。マスタードが難しい……。

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