【完結】届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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バトル描写の回のみ、分かりやすさのために主人公の言葉をかっこ書きで表示しています。
ポケモンの命令まで地の文だと紛らわしかったのでセリフ描写にしました。
よろしくお願いします。


決戦、ヤロー!

 

 

「勝者! チャレンジャー!」

 

はあはあ、と荒い息をついてプールサイドに座り込んだ。コロトックも限界だったのか、宣言が終わったとたんにひっくり返ってしまう。フローゼルをモンスターボールに戻したマキシマム仮面はニカッと笑って拍手した。

 

「終わっちまったか。お前と戦えて楽しかったぞ。何より、俺もお前も楽しめる試合ができて良かった。……久しぶりの勝利の味はどうだ?」

 

まだ膝がガクガクと震えていたが、気持ちは昂っていた。勝てた。ジムリーダーに勝てた。一年かかったけど、勝つことができた! 自然と顔が笑顔になる。

 

「約束だ。向こうの知り合いに推薦状の依頼をしておく。今ならギリギリ今年のジムチャレンジに間に合いそうだな。ところでお前の目的の話、俺も考えてみたんだがよ。……保険をかけておくのはどうだ?」

 

 

 

 

 

 

ターフタウンのスタジアムコート入場口。ラテラルタウンジムのユニフォームに身を包み、緊張で震える体で呼ばれるのを待つ。ジムミッションはまさかのウールーをゴールまで誘導する牧羊犬体験だった。コロコロ転がるウールーは可愛いが、誘導のために走り回るこっちはたまったもんじゃない。

 

『それではジムリーダー、チャレンジャー、共に入場して下さい』

 

きた。ついに呼ばれた。ガッチガチに固まったまま、なんとかコートの中央まで歩く。向かいからはヤローさんも歩いてくる。中央で向き合うと、ヤローさんは和やかな笑顔を見せてくれた。

 

「そんなに緊張しないでください。大丈夫、まだ一つ目のジムですよ。昨日ウールーを受け止めたど根性があれば、僕らに勝てるはず。……よそで少しジムの経験があると聞いとりますんで、ダイマックスさせてもらいますわ!」

 

よろしくお願いします、とだけ返して二人は距離を置く。朝一番だというのにスタジアムにはそれなりに客がいる。轟く歓声の中、ついにジムリーダーとの戦いが始まった!

 

「頼むぞぉ、ヒメンカ!」

 

「グレッグル!」

 

フィールドに現れたのは見たことのないポケモン。花を模しているから間違いなく草タイプではある。問題は複合タイプがあるかどうか。こちらのグレッグルは毒と格闘タイプなので、毒が効くなら試合を有利に進められる。

 

「うーんこれは……、ヒメンカ、りんしょう!」

 

「グレッグル、どくばり!」

 

可愛らしい声を上げて歌い出すポケモン。しかしこちらのどくばりを明確に嫌がってかわしたのを見逃さない。あの避けよう、間違いなく毒の複合ではない。どくばりが決まれば有利になる。

 

「グレッグル、ちょうはつ!」

 

「落ち着けヒメンカ! 挑発に乗っちゃダメだ! こうそくスピンで無視してつっこめ!」

 

グレッグルがカチンとくる顔をするもスピンをかけたヒメンカは見ていない。グレッグルがちらっとこちらを見た。……なるほど、受けるのか。

 

「グレッグル、待ち構えろ!」

 

「待ち構え……、ん、そうか、グレッグルは格闘タイプ。リベンジ狙いかぁ。ヒメンカ、そのまま倒す勢いで突っ込んでやれ! 腰を入れるんじゃあ!」

 

これだからプロのポケモントレーナーは嫌だ。強くないトレーナーの頑張って構築した手をいとも容易く見抜いてくる。ただし今回は十年前と違ってジムチャレンジを進む明確な理由がある。見抜かれたからと負けられない!

 

二匹のポケモンがぶつかり合う。グレッグルが圧されていく。かなり厳しい表情になったが、それでもヒメンカの花部分を全身で掴み、見事回転を止めてみせた。

 

「グレッ!」

 

気合いの一吠え、掴んだヒメンカに膝蹴りを叩き込んだ。リベンジは後攻で必ずダメージを受けるが、代わりに相手に大ダメージを与える技。まともな一撃を受け、ヒメンカは甲高い悲鳴を上げながら後ろに下がろうとする。

 

「逃がすな! どくばり!」

 

グレッグルが素早く腕を振り抜くと、射出されたどくばりがヒメンカに刺さる。ヒメンカはしばらくまだ戦おうと歯を食いしばっていたが、やはり毒は効果抜群だったようでへなへなと倒れてしまった。

 

「よーしよし。頑張ってくれたなぁヒメンカ。ありがとなぁ」

 

ヤローは優しい声でポケモンを労る。次のボールから出てきたのはまた見覚えのないポケモン。ヒメンカに似た顔をしながら頭の部分が綿のようになっている。順当に考えれば進化形か。

 

「このワタシラガが最後のポケモン。うん、グレッグルとの絆。ポケモンへの理解も十分あって良いトレーナーですわ」

 

今出したばかりのフワフワ漂うポケモンにヤローは再びボールを向ける。取り替えるポケモンはいないって自分の口で言ったばかりでは? そんな心の声が表情に出ていたのだろうか、ヤローはいたずらっ子のような笑顔で告げた。

 

「もう少し下がった方がいいかな。――ダイマックスするからのぅ!」

 

ヤローのリストバンドが赤色に輝き、手に持ったボールも同じ色に発光する。ワタシラガをボールに戻したその時だ。

 

 

 

 

ボールが、人の顔よりもはるかに大きくなった。

 

 

 

 

唖然とする中、観客もヤローも慣れたようにその現実を受け入れる。巨大化したボールを優しくポンポンと叩いてから後方に力一杯投げ上げると、観客席から大きな歓声が響く。ボールから出てきたワタシラガは段階的に文字通り『巨大化』し、紅色の雲を身にまとわせてヤローの後方におさまった。

 

「顔つきからカブさんと同郷かなって思っとったんですが、当たらずも遠からずですかね。これがダイマックス。初めてのダイマックスが僕なら光栄だなぁ」

 

ダイマックス。これが、ダイマックス。想像してたのはせいぜい一回り大きくなる程度のもの。それがどうだ、スタジアムの高さほどに大きくなったではないか。威圧感も存在感も全てが桁違い。好戦的なグレッグルもさすがに見上げたまま固まっている。

 

「ジムチャレンジ最初の関門としての責務を果たさんとなぁ。聞いといてくださいね?」

 

はっ、と我に返る。ヤローさんはわざわざ説明の時間をとってくれるつもりなのだ。この人が一つ目のジムを任されている理由が分かった気がする。

 

「まず大前提として、ダイマックスしたポケモンは体力が飛躍的に上昇します。ダメージを負った状態でダイマックスしても、加算される形で体力が増えます。さすがにダイマックスと同時に全回復ってのはないですわ」

 

つまり、経験則で倒せるダメージを叩き込んでも倒れない可能性が高いってことか。

 

「次に、ポケモンが持つ技は基本的に効果が一律になるんだなぁ。各タイプの技は『そのタイプ技として発生する効果』が同じで、ダメージの値が元々の技を反映するようになっとります」

 

草技は草のダイマックス技に統合されるが、元々攻撃力が高い技ならダイマックスしても大きなダメージの技になるということ。なおステータス変化系統の技は全て『ダイウォール』という防御技になるらしい。

 

「また、通常の技がダイマックスポケモンには通用しないってパターンもあるんで気をつけてください。あと状態異常は通ります。それと最後にダイマックスは各試合一度きり、一匹のポケモンのみ、時間で強制的に元に戻りますんで」

 

そう言うと、ワタシラガがぐぐっと体を浮かばせた。説明は終わりということか。今の説明から引き出されるこちらの行動は……!

 

「グレッグル! ピントレンズでよく狙って! 頭の綿はダメだ、顔か足の植物部分のどっちかにどくばり! せめて毒を残すんだ!」

 

「良い判断ですわ。そう、分かると思いますがこの巨体から放たれる技は『外す』ってことはあり得ない。――ワタシラガ、ダイアタック!」

 

目をこらして針を打ち込む場所を狙うグレッグル。そのグレッグルに、ワタシラガの巨大化した足部分の草が叩きつけられた。地震と間違えるほどの衝撃の後、爆煙の中から緩やかに浮き上がるワタシラガ。下にはコートの芝に倒れて動かないグレッグル。

 

「んー、二匹目は……? 見たことないポケモンだなぁ。多分むしタイプだと思っとるんだけど。どうじゃろか?」

 

グレッグルを労りつつコロトックを出す。ボールから状況は分かっていたろうに、それでもワタシラガを見上げて固まる。しかしフルフルと首を振ると両手の鎌を交差させ、戦闘意思を示した。

 

「良い顔をします……、ん? ワタシラガ? ……あちゃー、毒が残ったか」

 

ワタシラガが巨大化したことで低くなった苦悶の声を上げる。見れば目の近くにどくばりが刺さっている。グレッグルの最後の一撃は見事に爪痕を残していたのだ。

 

「コロトック、シザークロス!」

 

「やっぱりむしか! むしタイプは苦手なんですわ。ここは足場を固める方が大事とみた。ワタシラガ、ダイソウゲン!」

 

羽を使って飛翔したコロトック、足部分に深く斬撃を入れる。一瞬敵の体が震えるも、ワタシラガは頭の綿部分を震わせて大量の種をばらまいた。それはコロトックを巻き込みながら大地に落ち、一瞬で種子を芽吹かせる。フィールド中が植物に覆われると大地が緑の光に包まれ、コロトックとワタシラガも同じ色に輝いた。

 

「グラスフィールド。微量とはいえ、この大地に隣接する全てのポケモンは体力を回復する。毒のダメージもあるけど、これなら遅延するはずじゃあ!」

 

舌打ちをしてしまう。こんな巨大な相手、コロトックの耐久力では長時間相手にできない。だからこそ毒とシザークロスで大ダメージを稼ぎたかったのだが、回復されるとは計算外。コロトックも回復するとはいえ、あのダイアタックを受けたらもたないだろう。

 

「踏ん張れよ、ワタシラガ! ここが粘りどころ! 農家は粘りが大事なんじゃあ!」

 

コロトックが指示を出す前にすでに羽を震わせ飛翔の準備をしている。そうか、分かってくれるか。お前といいグレッグルといい、自分には過ぎたポケモンばかりだ。

 

「――シザークロス! ぎんのこなで威力を上げろ!」

 

「させちゃならん! ダイアタック!」

 

迫る巨体をギリギリでかわし、コロトックは渾身の力で顔面を斬りつける。ワタシラガは苦しそうな鳴き声を発しつつ、コロトックごとコートに倒れこんだ。押しつぶし。巨大だからこそできる技だ。

 

「コロトック……!」

 

「ん……、ダイマックスは時間切れか」

 

ワタシラガの体が赤色に輝き、みるみる本来の大きさに戻っていく。両者倒れたままだったが、ワタシラガはふらつきながらも立ち上がった。

 

「さすがの根性じゃ、ワタシラガ! ……次のポケモンがいなければ僕の勝ちにさせてもらいますけど、どうします?」

 

コロトックを戻しながら状況を確認する。自分の手持ちはあと一匹いるが、先の二匹に比べると戦闘慣れもしてないし、意志疎通もそこまでではない。だがワタシラガもグラスフィールドの効果で少し回復しているとはいえ、あと一回攻撃が決まったら倒せそうだ。どうする、あいつを出すか……!?

 

「……頼む、ホシガリス!」

 

「ん、ホシガリス。毛並みが良い子だなぁ」

 

コートに出されたホシガリスは、一瞬状況が飲み込めておらず、キョロキョロと周囲を見る。ワタシラガを確認し、ヤローを確認し、最後に自分を確認した。ご主人、マジでやるの? と目が訴えている。

 

「……相手がもう一回グラスフィールドで回復する前にお前の攻撃が通れば勝てる。阻まれたら負ける。頼むよホシガリス。後で新作のポフィンあげるから!」

 

ポケットからポフィンケースを見せつける。中には新しいブレンドで作ったポフィンが入っている。ホシガリスは視線をワタシラガとポフィンケースの間を何度も何度も往復させ、目を閉じて考えて考えて、最後はちょっと泣きそうな顔でワタシラガを睨み付けた。

 

「うんうん、覚悟を決めたかぁ。それなら容赦はしないぞ。ワタシラガ、マジカルリーフ!」

 

「ホシガリス突っ込め! 接近して思いっきりかみつく!」

 

ダッと四つ足で駆け出すホシガリスを、虹色に輝く木の葉が的確に捉えて切り裂いていく。痛いのだろう、キキッと悲鳴を上げながら必死に走る。

 

「今だ! オレンの実! ほおぶくろで体力をさらに回復! これなら間に合う!」

 

ホシガリスは尻尾から器用に木の実を取り出すと一口で食べる。ついでにとほおぶくろに残っていた食べかすも食べて気力も取り戻し、ワタシラガに飛びかかって噛みついた。

 

「頑張れワタシラガ! 耐えるんじゃ!」

 

「ホシガリス! 噛め! 絶対離しちゃダメだよ!」

 

二匹はもみくちゃになりながらコートを動き回る。ようやく動きが止まった時、荒い息をついていたのは、ホシガリスだった。ワタシラガは目を回している。

 

「勝者、チャレンジャー!」

 

わあああと今日一番の歓声が響く。勝った、勝ったのだ。座り込みそうになるが、その時言葉がよみがえる。

 

 

 

 

 

『ところでお前の目的の話、俺も考えてみたんだがよ。……保険をかけておくのはどうだ? 』

 

『保険、ですか?』

 

『そうよ。俺たちレスラーが少しでも上に行くためにやることでもある。……パフォーマンスだよ、パフォーマンス! 勝った時にとびっきりの何かをかましてやるんだよ。ほら、ダンデはリザードンポーズってウリがあったんだろ? だったらお前も何かポーズすんのさ。目立てば向こうから声をかけてくれるかもしれねぇじゃんか!』

 

 

 

 

 

そうか、今だ、今しかない。最も観客に注目されている今しかない。でも何のポーズにしよう。コロトック? グレッグル? どっちもあまり特徴がないし、コロトックはガラルでは知られてない。どうしよう……!

 

「キキ?」

 

はっとすると、目の前に、そう、そいつがいた。思い出すポフィンを食われた時のポーズ。それにレイジさんも言ってた、こいつは……、ホシガリスはガラル全土にいるポケモンだって!

 

両手を握って高く突き上げ、ゆっくり下ろして両頬に付ける。そして。

 

 

 

 

 

「――ホ、ホシガリス、ポオォォズ!!」

 

 

 

 

 

叫んだ。上ずったけど、叫んだ。一瞬スタジアムが静まる。直後、どわああという大爆笑が降ってきた。ポーズのまま固まってしまい、嫌な汗が背中を滝のように伝う。

 

 

 

ヤッチマッタ。

 

 

 

今すぐ腹を裂いて死ぬか、と思って前を見ると、ヤローさんも笑っている。でもそれは大笑いでも嘲笑でもなく、楽しそうな笑顔だった。そのまま指さした先を見てみると。

 

「キッ! キキッ!」

 

ホシガリスが、ホシガリスポーズをしながら大喜びでコートを駆け回っている。観客の笑いも嘲りではなくホシガリスをよく訓練されたポケモンと判断しての、ショーを見て笑っている類の物だった。でもどうして? たった今たまたま思い付いたポーズなのに。

 

「いやーかわいいものを見せてもらったなぁ。よく練習したもんですわ。ホシガリスポーズ、キバナさんあたりが聞いたらSNSでやってくれるかもしれないと思うと楽しみじゃ」

 

違うんです、これは本当に今思い付いたポーズで、ホシガリスと打ち合わせなんてしてないんです。それにこのバトルもホシガリスを出す予定すらなかったんです。

 

「それなら、きっとホシガリスは嬉しかったんだと思うなぁ。ポケモンバトルに勝った時に、主人はよりによって自分の真似をしてくれたんだって。嬉しくて嬉しくて、ああやってみんなに見せつけとるんですわ」

 

すっ、と手を出すヤロー。それが握手だと気づいて、改めてこの人に勝てたってことを実感した。……勝てたんだ、ジムリーダーに!

 

「まずは一つ、おめでとう。次も頑張って。応援しとります。またホシガリスポーズ見せてくださいな!」

 

こうして。ターフタウンのジムチャレンジは、見事一発でクリアしたのであった。

 

 

 

 

 




ヤローさんの口調が難しすぎて泣けてきた今日この頃。
ホシガリスポーズ、みんなもやってみてねっ!(宣伝)
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