届け、ホシガリスポーズ!   作:お菊さん

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初めまして、ワイルドエリア

 

 

 

 

十年前。シンオウ、エキジビションマッチ。

リザードンとガブリアスがぶつかり合う。ガブリアスの地面技はリザードンに届かないが、リザードンの炎技はドラゴンのうろこを焼くことはできない。

互いにいくつかの手を封じられた上での戦いだが、だからこその激戦だ。

 

「ガブリアス、りゅうのキバよ!」

 

「リザードン、エアースラッシュだ!」

 

接近しようとするガブリアスを空中に逃げながら迎撃するリザードン。ガブリアスはあなをほるで回避しながら姿を消す。

 

「生ガブリアスかっこいいぃ!! なあ母さん、分かるだろ!? あれがクールビューティー・シロナなんだ! この世にあれほど最高な人はいないんだよ!」

 

「えぇ……。分かったことがあるわ……。浮気より腹が立つパターンもあるってことをね……。鼻水たらしながら見惚れてるんじゃないわよ……」

 

サメハダーより凶悪な表情になったお母さんがちらっとこっちを見た。気配で何となくこっちを見たのが分かっただけだけど。

 

「で? あなたもクールビューティーにメロメロとか言うの?」

 

ううん、と最低限の言葉で答える。今は一瞬すら惜しいので、できれば話しかけないでほしい。

あの空を駆ける炎竜とそのパートナーを、一秒でも長く目に焼き付けていたいのだから。

 

 

 

 

 

 

ターフタウンからエンジンシティに戻る途中、ガラル鉱山の奥。岩陰に無理矢理寝袋を出して引きこもっているのは、ホシガリスポーズ考案者たる自分である。

 

「ホシガリスポーズ、良かったボルよ!」

 

スタジアムの熱気から離れたとたん、恥ずかしさが頭から爪先までを駆け抜け、オマケにモンスターボールのコスプレをしたボール人間に声をかけられたことで羞恥心が爆発し、何とかガラル鉱山まで逃げてきたがそこで引きこもりになってしまった。マジ無理もうシンオウに帰れない。

 

『ぶわーっはっはっは! そうかそうか一勝してポーズしたが、恥ずかしくなっちまったか!』

 

すがる思いでマキシマム仮面に電話する。国際電話だから後で通話料めちゃくちゃかかるけど、背に腹は代えられない。

 

『なに、その恥ずかしいって気持ちはそのまま持ってていいんだ。人前で何かをするってのは想像以上に緊張し、視線を大げさなくらい感じるもんよ。新人レスラーも決めポーズやった後部屋に引きこもる奴はいるしな』

 

そうなのか。自分が異常なんじゃないのか。

 

『しばらくは人に言われるだろうし自分で思い出しても恥ずかしくなる。でも割りきれ! やっちまったぜはっはっはって吹っ切るんだ。それより、ここからがお前の目的、本番だろう? できるだけ勝って、できるだけポーズして、できるだけダンデの目にとまるようにしねぇとな』

 

そうだ、そうだった。むしろスタートを切ったばかりだった。ここから走っていかないといけないのに、寝袋引きこもりを敢行している場合じゃなかった。

 

『頑張れよ! 応援してるぜ! ……ところでグレッグルまんじゅう、レイジのやつにウケたか?』

 

 

 

 

 

 

ホシガリスを野生のポケモンと戦わせてみたりしながらエンジンシティに戻ってきた。うーん、このホシガリス、戦いの指示は行動に移すまで嫌々やるから時間がかかる。防御の指示は瞬時に反応するんだけど。どちらか言えば耐久仕様か。ダイマックス相手にどこまで通用するのか。

 

「なあなあ、お前どっちのジムリーダーにする?」

 

「えー、毒タイプかエスパータイプかでしょ? タイプ相性ならエスパーなんだけど、ほら、あのジムリーダーじゃん? まだ毒の方がマシかなーって」

 

「えー!? 俺ゼッタイあの女ヤダよ! あれ若作りのオバサンじゃん! だったらまだ変人の方がいい!」

 

「うっそ、あっちの方がやだよ! 何言ってるか分からないし、ボールくるくる浮いてるんだよ!?」

 

……どういうこと? 近くを通りすぎたジムチャレンジャー二人の会話に首をかしげていると、街の東側と西側に二人のジムリーダーが出てきているという。恐る恐る見に行ってみることに。

 

 

 

「ハァ~イ! クララよ! 今年のジムチャレンジはクララの毒ジムでけってぇ~い! わけワカメのエスパー選ぶなんてありえなぁ~い! クララをヨ・ロ・シ・ク~! クララにクラクラ~!」

 

 

 

一方。

 

 

 

「皆さん! ワタクシこそ未来予知で決まってるニューリーダー・セイボリー! ここでワタクシを選ばないとウールーよりも人生下向きローリングしますよ! さぁヤドンのように揺れぬ心でレッツエスパージム!」

 

 

 

……どういう、ことだ。

 

「あはは、クララさんとセイボリーさんには参っちまうよな。ほら、今年は特例で二人からどっちか選んで挑むんだけど、実は選ばれた数が多い方が来年のメジャージム昇格へ近づくことが決まってるんだ。選ばれるってことは支持されてるってこと。ジムリーダーは腕だけじゃなくて人柄も大事だからね」

 

ポケモンセンターで話しかけてきたおじさんに聞いてみて納得した。どうやらここの二人のジムリーダー、どっちも性格に難がある上に必死すぎて空回りしている。ヤローさんが神々しく見えてきた。爪の垢を煎じて飲むべきだ。

 

「君はどっちがいいんだい?」

 

実はそれは悩んでいた。手持ちの相性がどちらとも悪いのだ。まだエスパーがマシか。正直草ジムはウチのエース二人と相性が良いため強気でいられた。ところがそれでもダイマックスのせいで敗北寸前に追い込まれた。となるとエスパーも毒もダイマックスを使ってくるはず。多少は有利に立ち回れないと勝つ可能性すらなくなることになる。

 

「もし手持ちが不安なら、ワイルドエリアに行って捕まえてくればいいんじゃないかな?」

 

ワイルドエリア? そういえばレイジさんも言っていたな。あれはジムバッジを一つでも持っていないと入れないという意味だったらしい。ちょうどこのエンジンシティからも行けるようだ。確かに今のままだと不安も残る。行ってみよう。

 

「雨合羽があった方がいいぞ! なければ買ってきな。あとマフラーも」

 

窓から見えた空は快晴。今日は過ごしやすい気温。……雨合羽にマフラー? おじさんは冗談を言っているようには見えない。念のため、とその二つを買って行くことに。ブティックの店員によると、マフラーは一年中売っているらしい。何か嫌な予感がする。

 

このマフラーが、後に自分達を救ってくれるとは思ってもいなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

広大な土地、目まぐるしく変わる天候、たくさんのポケモン。ノモセ大湿原よりも広大なそのフィールドに、開いた口がふさがらない。世界って広いな、本当に。

 

「こちらはワイルドエリアの南半分になってますよ」

 

半分!?

 

「あ、私はワイルドエリアスタッフです。何かあればいつでも相談にのりますよ」

 

サングラスを付け白いウェアを着た男性がにこやかに笑う。これはありがたい。初めてなので色々聞いてみる。捕まえる数に制限はなく、キャンプも人の邪魔にならなければどこに設営しても大丈夫。ポケモンのレベルは高いのも低いのもいるので、相手のレベルが高すぎたら逃げることも必要。

 

「また、あなたのジムバッジの数ではエンジンシティより北側には行けません。説明はだいたい以上になります。初めての方にプレゼントをどうぞ」

 

差し出されたのは、カップ麺10個セット。ありがたいけど、キャンプではカレーを作るって聞いたんだけど。違ったのかな?

 

「これをカレーに入れるんですよ。いや違った、これにカレーを入れるんですよ」

 

それはもう別の料理なのでは? 料理人として物申したいが必死に飲み込んだ。文化をバカにするのは簡単だが、そこに学びもある。ある、うん、あるはずだ。

 

「それでは、良いワイルドエリアの時間を!」

 

お礼を言って、人生初のワイルドエリアへ。そのワクワクはほんの少しの間に吹き飛ぶことになったが。

 

 

 

少し進んだところでピンクの顔に黒い体をした無表情のクマに追いかけられて羽交い締めにされ、

水場にあったハーブを拾おうとしたらギャラドスが顔を出し、

リンゴを見つけたら木の上からリンゴに擬態したポケモンが降ってきて脳天を揺らし、

朽ちた塔がある所へ近づいたらフワンテの群れがわらわら沸きだし、

とどめにハガネールに見つかって追い回された。

 

 

 

どうなってんだ、ここの治安!

 

ヘロヘロになり、ようやくあまりポケモンや人がいない場所を見つけたのでテントを設営する。休ませて、マジで。ポケモン達をボールから出しテントに座り込んだ。コロトックの静かなメロディに緊張がほぐれると同時に抗えない眠気に襲われ、深い眠りの中に沈んでいくのであった。

 

 

 

 




今回は少し短めです。
改めて考えるとワイルドエリアの天気って、天変地異のたぐいですよね……。

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