また、性格が少し変わってるかもしれないので、その点も含めて楽しんでいただけたらと思ってます
………
……お………
……シン………き………
………起……なさい……………
…………………………起きなさいシンジ‼︎
「はっ」
目の前には白い天井しかない。ただそれにしても
「見慣れた天井だ」
ところで誰かから起こされたような気がする。
起こされた声は少し怒っているような声音だったが、それ以上に優しさが含まれていた。
一体誰だったのだろうか
「まぁいっか」
声の持ち主が気になるが、今はまだ眠い。
「はやく起きなさい!」
「はい‼︎」バサッ
ベットから慌てて体を起こす。寝ぼけた眼を擦りながら、前を見るとそこには
「母さん⁈」
何故か目の前に青筋を浮かべながら微笑している母さんがいた
…………
「おはよう、シンジ」
「おはようございます」
確かに色々気になっていることはある。
なんで母さんがここにいるんだろう。なんで今ここで寝ているのだろう。ってかそもそもここどこ?
しかし今、一番不可解なのは、このお方の怒りのオーラだ。
「気持ちのいい風が吹いてるわね、シンジ」
「はい」
なんだろうこの会話。正直いたたまれない
でも全開にされた窓からは春のような陽気な風が吹いている。
サンサンと輝く太陽に、雲一つない蒼い空。
未だに漂う怒りの波動と扉の向こうから聞こえる大声。
今日は絶好のピクニック日和だ!
「確かに清々しい朝?ですね、母さん」テクテク
なんの気もないかの様に窓に近づく
「ええ、そうね」
まだ気づいてないようだ。
「そうまさにこんな日は、
ピクニックとか良さそうですね‼︎」バッ
ガシッイ
「……………」
「……………」
意外にも強い力で、飛び出そうとした僕を引き留めた。
「……………」
「……………」スッ
(無言で丸椅子が置かれてポンポンとしている。)
どうやらそこに座りなさいとのこと
………
覚悟を決めなければならないようだ。
襟を直し(病人服なのでないが気分的に)姿勢を正して座る。
「………………」
「………………」
座ったものの、母さんから話し出す気配はないようだ。これは僕から話始めなければならないのだろうか?
することもないので必然と前に座る母さんの顔を見る。
母さんもまた僕の目を見ている。
「………………」
「………………」
母さんは綾波とよく似ている。
顔もそうだが、雰囲気もどこか似通っている。
さっきまではとてもいたたまれない空気だったが、落ち着いたからだろうか、あるいは険が取れた母さんの微笑みのおかげか、少し場が和んだ気がする。
コホン
「久しぶりだね、母さん」
「確かに面と向かって会うのは久しぶりね、シンジ」
「会えて本当に嬉しいよ」
「………そうね、私もよ」
「?」
「なんでもないわ」
「そう?まあいいや、でもこうやって会えたわけだし母さんに色々話したいことがあるんだ。」
それから僕は母さんにこれまであったことを伝えた
エヴァに乗ったこと。使徒と戦ったこと。友達が出来たこと。一緒に戦う仲間が出来たこと。自分の趣味のこと。好きな人が出来たこと。失敗したこと。間違ったこと。何もできなかったこと。やりたかったこと。成したかったこと。母さんと父さんのこと。
順番なんて考えずに全部話した。
「〜あの時は、アスカが僕のことをー」
「〜、そうやって父さんがー」
「そうなんだよ!本当に、僕はあの時ー」
……………………………………………………………………
……………………………………………
………………………
…………
母さんは時々悲しそうに微笑んだり、興味深そうに、相槌を打ちながら僕の話を聞いてくれた。
「………………」
「〜そうして、僕はあそこにいたんだ」
「そう」
「そういえば、あそこにマリって子がいたんだけど、今どうしてるんだろう?僕は目が覚めたらここにいたし。母さんは知らない?」
「大丈夫よ、すぐに会えるわ」
「?」
「………………」
「………………」
「………シンジ、今度はお母さんの話を聞いてくれないかしら?」
「ヘぇ〜、母さんの話か〜」
父さんの過去の話は聞いたが、母さんの話が聞けるとは…一体どんな過去を送ったのだろう?
「そうね、どこから話そうかしら………お母さんが子供の頃はー」
母さんの過去は悲劇でもなく、喜劇でもない、なんてことはないただの一人の少女の話だった。でも僕にはそれが少し眩しく見えた。
小学校の時、足に大怪我をしたこと。家族でテーマパークに行ったこと(記憶にはないが僕が小さい時も、三人でそのテーマパークに行ったことがあるらしい)。中学の時ギターにハマっていたこと。高校生の時に学園祭で無茶したこと。
たまに出てくる母さんの自慢話には、必ずと言っていいほど後に失敗談が出てきた。僕は自分のことながらこの親にして、この子あり。なんて思ったりした。
後、母さんが高校生の時の初恋の話を始めた時、静かになっていた廊下の向こうがまた騒がしくなった。母さんはあまり気に留めてないようだが、誰かいるのだろうか?
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………………………………………………………………………
………………………………………………
………………………
………
「〜。こんなもんかしらね」
「へぇ〜」
長かった。
僕も話したかったことが色々あったから、結構長く話したつもりだったけど、比にならないくらい長かった。相槌が雑になるくらいには長かった。
窓から見える空はすでにオレンジに染まっている
どうやら母さんは一度話し始めると止まらなくなるらしい。っていうかはもともと話好きのような気がする。
最初にあった、母さんの印象が変わった。
「その適当そうな相槌、ゲンドウくんと似てるわね」
ビクッっとしてして聞き返す。
適当に返事をしているのがばれたのかと、冷や汗が出るのと同時に
「父さんと?」
父さんと似ているだなんて人から初めて言われた。
「そうね、こうやってゲンドウくんが私の話を聞いておる時、ゲンドウくんは聞いてるのか聞いてないのかよく分からない返事をしてたわ」
「そうなんだ…」
多分だけど父さんは母さんの話を一言一句聞き逃していなかったと思う。それでも敢えて生返事をしていたのは、父さんに譲れないもの(男の見栄など)を持っていたからなのではないかと思う。
「なら、父さんが話す時ってどんな感じだったの?」
「ゲンドウくんが?………う〜ん………」
「………………」
「そうね〜」
「………………」
「………今思い返す限り、私が話すばっかりにゲンドウくんと長々会話した記憶がないわ」
「うぇ?」
そんなことあるのか?夫婦だよね?いや、夫婦ってそんなもんなのか?でも、確かに綾波と結婚したらそんな夫婦になるのかもしれない。朝あの抑揚のない『おはよう』の声で目を覚ましておそらく早起きして作った朝食を一緒に『いただきます』って言って食べながら僕が今日の1日の予定を話してそろそろ出勤の時間になり玄関で靴を履いていると無言で後ろに立った綾波から弁当を受け取ってありがとうなんて言いながらドアを開けて行ってきますって言ったら『行ってらっしゃい』とか言いながら小さく手をフリフリしてくれるだろうなぁそれで昼休みになっていざ綾波お手製弁当を開けたら一緒に手紙も出てきて…ハッ
危なかった、つい面白そうなシチュだったから色々捗ってしまった。気をつけないと
ふと、顔を上げると母さんがジトーとこちらを見ていた
「そのにやにやしながら宙を眺めるところもそっくりだわ、ゲンドウくんにも言ったけど気持ち悪いからやめなさい」
「はい、気をつけます…」
結構胸に突き刺さる言葉をいただいた。前の僕が言われていたらまたウジウジしていたと思う。
話が脱線してしまった。母さんと話すとつい喋りすぎてしまうから困る。
「話が戻るけど、本当に?」
「そうね、大学の論文の発表とかなら確かに長々話しているところを見たことあるけど、そういうことじゃないんでしょう?それなら多分ゲンドウくんからプロポーズを受ける時が一番長く会話したと思うわ」
「はぁ〜」
母さんが『プロポーズ』という言葉をいうと、ドアの向こうから一瞬「ガタッ」と音が鳴ったが今回はすぐに静かになった。ただ静かにはなったが今度は小さく唸り声が聞こえる。怖い
「でも、父さんは母さんと話したがってたよ」
「…知ってるわ」
「っというか、もう会ったの?」
「私は会ってるんだろうけど、『私』は会いたくないわ」
「それってどういう…」
母さんが説明するには、あの時『母さん』のほとんどの部分は離れて行ったけど、まだ僕に伝えたいことがある部分や未だに心配で仕方がないという部分が僕に残っているらしい。余談だが父さんも少しいるらしいがどこにいるんだろう?
「有り体に言ってしまえばここは夢の中よ」
「夢?」
「今の私がシンジに会うのはこうするしかなかったの」
なんとここは夢らしい。こんな意識のある状態で夢を見ているなら欲望の赴くままアレコレをっと思ったが、ここは母さんの夢でもあるので僕が自由にアレコレは出来ないと先回りされて言われた
「それならまた向こうで寝たら母さんと会えるってこと?」
「………それは出来ないわ」
「え?」
「さっきも言ったみたいに『私』の大部分はここにはいないわ。そのせいで『私』の力は何もしなくてもどんどんなくなっていくの。それでこの一回の夢に『私』の全てをかけたのよ。それなのに、シンジったら全然起きないからついピキッちゃったわ」
「ご、ごめんなさい…」
しっかり怒られてしまったが、母さんの方を見ると『一度は遅刻しそうな息子を無理やり起こすシチュをしてみたかったんだよね〜』なんていう顔をしているのでどっこいどっこいだと思う。
「それじゃあ、本当に母さんとはこれで最後っていうわけだよね?」
少ししんみりした声で言う
「違うわよ?」
「え?」
「確かに、こうして面と向かって会うのはおそらくこれで最後よ。けどどれだけ小さくなってもシンジとずっと一緒にいるわ」
「………ホントに?」
「勿論よ」
完全に母さんと会えなくなる流れだったので少しほっとする。
気は抜けたけど、母さんと話せる機会はこれで最後かもしれないので色々聞き掘って、話題を絞り出して話した。本当に他愛のない話だったと思う。
日はすでに沈み、星が瞬いている
少し眠くなってきた
「眠そうな顔をしてるわねシンジ」
「そうだけど、まだ母さんと話がしたいんだ」
「私もよ、けどそろそろ時間だわ」
そう言って、母さんは立ち上がって歩き出した。
「待っ」
僕が眠ってたベッドに向かって。
そしてそのままベッドに乗って正座をしてこちらを手招きしている。
まさか
「あの…」
「…………………」
無言で手招きしている
僕は渋々立ち上がってベッドの方へ向かった。
無言で膝をポンポンしている
仕方なく、嫌々ながらも母さんの太ももを拝借する
「ゲンドウくんはもっとブツクサ言い訳じみた事言ってたけど、意外と素直ね」
「…………………」
目を瞑ってやり過ごす
はぁ〜、染みる。やっぱり疲れてたのかな
母さんはジーンズを履いているので少し感触は硬いが、それでも十分柔らかい。後、なんかいい匂いがして落ち着く。
そんな睡魔を誘うコンボだが眠れない。
何故かって?
それは、ドアの向こうで怒り狂ったかのように激しい音がするからだ。
ドンドンドンドン‼︎
「…………………」
「…………………」ブチッ
母さんは業を煮やしたのか、僕の頭をソッと横たえさせてベッドから降りた。ツカツカと未だに音が鳴り響くドアに向かって歩いていくと
ドンッッッッ‼︎‼︎
思いっきりドアを叩いた。すると向こうもこちらも静まりかえった。
母さんは何も無かったかのように戻り、また僕の頭をソッと膝に上にのせた。
しばらくすると、母さんは僕の頭を撫でてくれた
穏やかな時間が流れる。辺りには暖かい闇が広がっていた。
ナデナデ
「まだ起きてるわね、シンジ」
「…うん」
「これはあくまでも夢の中だからきっと忘れてしまうと思うわ。それでも覚えていてほしいことがあるの」
「…………………」
「…『私』は、どんな時でもシンジの味方をするわ
あなたの言葉、行動、意志、全てを肯定する
多分、他の人だったら『もし間違えそうな時は、必ず止める』なんて言うかもしれないけど、私は絶対に止めない。むしろ間違えなさい。あなたはそれでしか成長できないわ
でも、もし失敗して傷ついたなら全力で慰めているだろうし、多分一緒に泣いてるわ」
「…………………」グスッ
目が開けられない、もう泣かないって決めたんだ。
とは言うもの、瞑った目の端の水を母さんが拭ってくれた
………ここまでとても長い道のりだった
辛いことや悲しいことが多かったけど、楽しかったことや普通じゃ経験できないこともできた。そう思えた
「…おめでとうシンジ、よくがんばったわね」
「………ありがとう、母さん」
そろそろ限界が近い
目を瞑ったままなので母さんの顔を見ることはできないが、今では不思議と色々な母さんの表情を思い浮かべることができる。
それだけを確認し僕は意識を手放した
「いってらっしゃい、シンジ」
おまけ
息子の頭を撫でる
もう二度と息子の頭なんて撫でることができない、と諦めていたがこんな機会に恵まれたので思う存分撫でる。
こうしてみると、やはり少し大人っぽく見える。エヴァの呪縛の所為で身体的な成長は見られないが、寝ている顔つきからでもここまでよくここまでがんばってきたことが分かる
ナデナデ
「…………………」
言ってしまえば、最初はシンジと会いたくはなかった。何を話してあげればいいかわからなかったし、そもそも私がシンジに会う資格なんてあるのかと思う。
けど、シンジが私たちと会いたいって願っていたから
仕方なく、嫌々ながら、『私』は私と別れた
全く嫌な役回りだと思う。
ナデナデ
「…………………」
静かな空間に3人の呼吸の音が木霊する
一人は「スースー」と
一人は「はぁはぁ」と
一人は「ふゔーふゔーふっふゔーふゔー」
「…………………はぁ」
シンジと会ってしまったので、奴とも会わなければならないのかと思うと本当に辟易するが仕方ない
「そろそろ出てきたら?」
一瞬の戸惑いのような間の後、意外にも静かに入ってくる
ガラッ
「…………………」
「…………………」
いつもと変わらない暑苦しい格好と厳しい風貌だが、ただ一点いつもと違うのは、目に見えて分かる大粒の汗をかいているところだ。
「久しぶりね、ゲンドウ“さん”」
「………っ久しいな、ユイ」
こんな軽いジャブで目を白黒しないでほしい、本番はこれからだ
「………ホントにっ、…会いたかった」
「…………………『私』は会いたくなかったわ」
意外といいストレートをもらった。なかなかやるわね
「『私』が何故あなたに会ったのか、勘違いしないでほしいわ」
「…分かっている」
あくまでも、『奴』と会ったのは、シンジの中に残ったからだ。つまるところ、『奴』とは志を同じとする同志だ。
「それで、何しにきたの?」
「………私にも…」
「?」
「…私にも、膝枕してもらえませんか‼︎」
「………………はぁ⁈」
思いがけない言動に一瞬思考がフリーズした
前までは、私が正座しているところに、ボソボソ言いながら勝手に頭乗せてきたけど、この変わり様は何かしら
「今日のここはシンジの特等席よ、分かったらサッサと失せなさい」
結構きつめのボディブローを見舞う。今日奴からは嫌な匂いがプンプンする。早めに片をつけないと………
ニジリニジリ
「…………………」
「…………………」
それでも無言で擦り寄ってくる。本当にどうしちゃったのかしら
シンジを撫でながらも、奴から目を離さない。
ピタリ。
遂に、半径2メートル圏内に近づいてきた。それでもシンジを撫でる手を止めない
ここからだと更によく表情が見える。
サングラスをかけているので目はよく見えないが、八の字の眉間、引き攣った頬、半笑いの口、一言で言えば複雑な顔をしている
「………………」
「…………ハッ‼︎」ガバッ
飛んだ。
すでに中年という域を超え、老人と言っても差し支えないおっさんが大の字で羽ばたいた。
やつの顔に浮かんでいるのは、やり切ったという達成感と満足気な表情だ。
もはやここまでか…
……………………
…………
……
…
まだだ‼︎
まだ私がこいつを跳ね除ける猶予はあるはずだ!
考えろ、考えるんだ‼︎
…………状況を整理すると、私の両手はシンジの顎と頭を撫でることによりこちらにリソースを割くことはできない。また、シンジの頭を膝に乗せているため移動することもできない。動かせるのは首くらいか…次にやつの方を観測する。見たところ、勢いというか迫力がある。…一体どこに落下するつもりかしら?この迫力だと、どちらにぶつかってもそれなりの損傷が生まれる。でも私はともかく、もしシンジの方にぶつかったらワタシハコイツヲドウスルカワタシデモワカラナイ。コホンそうならないために今は考えねば。それにしても憎々しいくらい満足気な表情で目を瞑って微笑んでいる。マジでこいつヤっちゃおうかしら?…ぁぁぁぁぁああぁぁぁあああああああだめだだめだ、考えがまとまらない、やっぱりだめだー‼︎
(ここまで0、5秒)
私はそっと諦め、神に祈ることにした。
万が一シンジに直撃しないように、シンジの顔を抱えるようにして守る。
目を閉じて、これから起こる悲劇を考えないようにする
……………………
……………………
ドシン‼︎
……………………
……………………
「……………?』
音はなったが、衝撃がこない。
守りを解いて辺りを見回してみると、ベットの下になんかいた。
迫力はあったが、勢いは足りなかったらしい。
長年椅子に座りっぱなしの生活がたたったのでしょう。
『計算では…』と、ぶつぶつ言いながら、ベットの端に手をかけて体を起こしている。
そこからだと膝枕がよく見えるらしい。歯をギシギシ言わせながら歯軋りをしている。ハンカチを渡すと引きちぎりそうだ。
「はぁ」
私はそっとため息をつき、寝ているシンジに『ゴメンね』と呟いて頭を移動させた。
空いた、片方の膝をポンポンとする。
「…………………」
「…あ、あの、…いいんですか?」
「はぁ〜」
上擦った声に、これ見よがしにため息をついて肯定する。
奴は、いそいそとベットに横たわり頭を預けてきた。
頭を撫でるサービスをつけて欲しいようだが、そこまではしない。これでも譲歩した方だ。
厚かましくもシンジを徐々に跳ね除けていく。私が気づいてないとでも思っているのだろうか。
それでもグイグイ跳ね除けていると、
ズルッ
「「あっ」」
シンジが膝から落ちて、その勢いのままベットからも飛び出した。
「待っ」
予想していたとはいえ、咄嗟のことで手を伸ばすが届かない。
が、シンジは何故かベットに引き寄せられていた。
「………………」
「………………」
膝枕に夢中になりすぎてシンジのことなど全く頭になかったと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
奴の手にはしっかりシンジの腕が掴んであった。
私は少し愉快な顔で奴の顔を見ると、ぶっきらぼうに顔を逸らした。
「別に…勝手に手が動いただけだ」
「そう」
いつもの厳かな口調でいうが、言ってる内容と膝枕をされている状況では、威厳はないにも等しい。
やはりなんだかんだ言ってもシンジのことが気にはかかるらしい。
「それで、シンジとは直接会わなくて良かったの?」
「…今更あいつと話すことなどない」
「そうね、ここに来る前にたくさんお話ししたようですしね」
「………フン」
まるで丸め込まれたかのような顔をして照れている。
正直に言うと、おっさんの照れ顔はあまりみたくないが、意外とこれが夫かと思うと可愛いのではないかと思えて困る。
…ほんの少しだけ、元の関係に戻れた気がする。完全に元通りとは言えないが、改めて距離を測り直すことができたのではないかと思う。
そう思うと、何故か少し眠気がやってきた。
今日は色々な事ができた。シンジと話すこともできたし、ゲンドウくんとも向き合うことができた。
「…一緒に、…いや」
「?」
「…その、…ゴホン『シンジが落ちないようにする為』そっちに横たわったらどうだ?」
やけに『シンジが落ちないように』という部分を強調して、提案してきた。
というか、そもそもシンジが膝から落ちたのはこいつのせいだ、と思ったが提案自体はなかなか悪くなかったので、無言で肯定することにした。
二人の頭を膝から下ろして(『あっ』という悲痛そうな声が聞こえたが無視した)奴と私でシンジを挟むようにして横になった。
一つのベットに3人の大人が横になっているので結構窮屈だが、悪くない。
そうこうしていると、眠気がさらに強くなっていった
奴はすでに大きなイビキをかいて寝ていて、シンジも穏やかな吐息で目を閉じていた。
…なんだかんだ言って私も素直じゃなかったらしい
今日の奴の変なテンションにつられていうようだが、本当は「私」と分かれてでも、こっちに来ることができて良かった。
願わくば、また会えるように
私は、そう願って意識を闇に手放した。