天の声が聞こえるようになっていた、はずなのに……   作:MRZ

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シリアスのようですがそんなのは最初だけ(のはず)です。
トレーナーは優秀ではありません、が完全な無能でもありません。


ReSTART

「よ~し、それでラストだ」

 

 その声に返事はない。ただ目に見えて全員の速度が上がる。ラストスパートだ。いや、この場合は最後だけは本気の本気で走るって事だろう。

 

「それにしても、よくもまぁ底辺トレーナーがチームを作れるようになったもんだ」

 

 俺はこのトレセン学園のトレーナーだ。ただし、とてもではないが優秀などではなく、むしろ無能と呼ばれる方が相応しい程の実力だった。

 初めて担当したウマ娘はデビュー直後は順調だったものの最終的にはGⅢが何とかのレベルで引退。次の担当は能力こそ高くGⅠさえ勝ってみせたが無理が祟ったのか短命に終わり、三番目は何とデビューから最後まで勝つ事が出来ずに終わった。

 

 唯一の救いは、三人とも笑顔で学園を去って行った事ぐらいだろう。

 

 当然未勝利のまま担当を引退させた俺は、それでトレーナー人生は終わったも同然だった。面と向かってはなかったが、周囲からは俺への非難や陰口なども漏れ聞こえていた。その内学園から追い出されてもおかしくないと、そう思った。

 

 だが、それで自分が全て間違っていたと認めてしまうのだけは嫌だった。

 

 何故なら、あいつらはそんな俺の言う事を信じ、一生懸命走り続けてくれたからだ。あいつらがいなくなった今、俺が間違っていたとそう認めてしまったら、それを信じて走っていたあいつらは、今とは違う意味の憐みの目を向けられる事になる。それだけは絶対に避けたい。

 

 だからこそ、俺はもう一度だけ挑戦しようと思った。だが悲しいかな、そんなトレーナーに面倒を見てもらおうとするウマ娘はいなかった。当然だ。俺が逆の立場でもそうする。だけど、それでも俺は探し回った。こんな俺と一緒に頑張ってくれるウマ娘を。

 

 しかし、現実は厳しかった。まだ所属チームが決まっていないウマ娘は誰一人として俺の指導を受けたいと思わず、どこかに所属している奴は言うまでもない。

 途方に暮れた俺は、いつの間にか三女神像の前に来ていた。そこでぼんやりと夜空を見上げ、俺は呟いたんだ。

 

――俺は、やっぱり間違ってたのかな? あいつらが笑顔で走れるようにするって言うのは、やっぱりダメなのか……?

 

 結局その日は疲れもあってかその場で眠ってしまい、翌朝陽射しの眩しさで目を覚ました俺はまるで何かに導かれるように練習コースへと向かった。

 

 すると早朝練習をしていた一人のウマ娘がいた。と、その時だった。

 

“パワーよりもスピードが足りない。それを伸ばすトレーニングをさせるべきだ”

「……は?」

 

 突然頭の中に声がしたんだ。それも、完全に俺が見ているウマ娘に関しての指導内容を告げていた。

 最初は誰かいるのかと周囲を見回し、誰もいないので空耳だろうと思ったのだが、その声は更に……

 

“体力も減っている。休養を勧めた方がいい。このままだと良くない”

 

 そんな事を言ってきた。俺はそこに至ってその声が空耳などではない事を確信し、相手にされない事を承知の上でそのウマ娘へ声をかけた。

 最初こそ俺の事を見て怪訝な顔をした彼女も、謎の声が言う事を俺が代弁していく内に、例えば先行よりも逃げで走るべき、や、必要なのはスピードと自分を信じ切れる心だけでいい、などの助言で表情がみるみる変化し、最後には「分かりましたっ! 貴方の言う事に従う事にしますっ! それでは私はこれでっ! バクシンバクシーンっ!」と物凄い勢いでその場から去って行ったのだ。

 

 それを切っ掛けに彼女、サクラバクシンオーから指導して欲しいと言われるようになったのだ。

 そこからの指導は天の声を参考に進め、何と彼女はあろう事か短距離GⅠを次々と制覇。名前とかけて爆進王と呼ばれるまでになった。

 

 それも、最後まで笑顔を絶やす事無く、だ。学園を卒業する日、サクラバクシンオーはURAの短距離部門を制した証のトロフィーを手に、涙を浮かべながら笑っていた。

 

――これも全てあの日トレーナーさんに声をかけてもらったからですっ! おかげでずっと楽しくバクシンする事が出来ましたっ! 本当にありがとうございましたっ! トレーナーさんっ! これからも、バクシンバクシンバクシンシーンっ! で、頑張ってくださいねっ!

 

 そう言って彼女は桜の舞い散る中を駆け抜けて去って行った。サクラバクシンオーの名前の通りに。

 

 あれからもう二か月が経とうとしている。サクラバクシンオーの事で俺の評価は激変した。それまで彼女だけに集中していた事もあってか、サクラバクシンオーがいなくなった後、俺の指導を受けたいと言ってくるウマ娘が出てきたのだ。

 

 今、俺が指導と言うか面倒を見てるのは三人。一人目はキングヘイロー。天の声によると適性は短距離で、やれてもマイルや中距離まで。得意は差しだが先行も出来ない訳じゃない、らしい。性格はとにかく自信家で諦めるという言葉は似合わない感じだろうか。三人の中でリーダーシップを発揮している引っ張り役だ。

 

 二人目がスペシャルウィーク。他の二人に比べると物怖じする場面がみられるが、芯は強いウマ娘だ。天の声によると適性は中距離と長距離で、先行と差しが得意、らしい。性格は素直ではあるが、ややドジな面があるので注意が必要だ。食欲も旺盛で、三人の中ではもっとも食べ物に弱い。

 

 最後の一人がセイウンスカイ。ただこいつが曲者なのだ。いや、正確には違うな。こいつには何故か天の声が何もアドバイスをくれないのである。

 適性は、おそらく中距離や長距離。得意なのは間違いなく逃げ。これぐらいしか俺には分からない。性格は飄々としていてマイペース。三人の中ではムードメーカーだと思う。

 

 同期だけあって仲の良さは悪くない。むしろそれぞれの適性や得意が異なるおかげで色々刺激になっている。サクラバクシンオーの時は気付かなかったが、チームを組む事で互いで高め合う事が出来るようだ。

 

“ヘイローはスピード重視からスタミナ重視へ切り替えた方がいいかもしれない”

 

 その声に小さく頷く。分かったと天の声へ示すためだ。たしかにキングヘイローのスピードは申し分ない。なら次はスタミナを上げた方がいいだろう。彼女の適性は短距離なのだが、本人の希望で中距離なども走らせるためだ。

 

“スペは少し調子を落としてきている。気分転換をさせた方がトレーニング効率も上がるはずだ”

 

 俺は頷きながらその声に納得していた。実際スペシャルウィーク自慢の末脚に本来の凄さがなかったからだ。調子を落としてるようには見えなかったが、実際はそうじゃなかったとはな。

 

 と、天の声が急に聞こえなくなる。セイウンスカイには一切何も言わないためだ。

 見てる感じは問題なさそうだが、やはりもう少しスタミナを鍛えるべきか? いや、終盤まで速度を維持できるように根性だろうか? あるいはもっと逃げの成功率を上げるためにスピードを磨く?

 

 ……ホント、天の声が無ければ俺はこんなものだ。それでもやれるだけの事をやるしかない。そうだ、サクラバクシンオーは天の声が俺にチャンスを与えるために出会わせてくれたんだとしたら、その声が聞こえないセイウンスカイこそが俺の本当の再挑戦なんだ。

 

「へへっ、悪いね。一着いただき~」

「ううっ、もう少しだったのになぁ……」

「まったくよ。もう少しで届いたのに」

 

 上機嫌で戻ってくるセイウンスカイに続いて残念そうなスペシャルウィークが見え、その隣ではキングヘイローが不本意そうに声を出していた。それでも俺の前に並んで立つとその表情は揃って真剣なものとなる。彼女達からは俺はあの“爆進王”を育てた凄腕トレーナーと思われているからだ。

 

「今日のトレーニングはこれで終わりだ。各自クールダウンをちゃんとしておいてくれ」

「はい」

「はーい」

「分かりました」

「じゃあそれぞれ明日のメニューを伝える。まずキングヘイローだが、明日からはスタミナを鍛える方向でいくぞ。短距離だけではないウマ娘になるためにな」

「勿論よ」

 

 胸を張るキングヘイローをセイウンスカイやスペシャルウィークが微笑みながら見つめる。本当に仲が良い事だ。

 

「スペシャルウィークは外出なりのんびりするなりでテンションを高めてくれ。ただし、食べ過ぎはダメだからな」

「わ、分かってます」

 

 うん、相変わらず分かり易い奴。言わないと大食いしてたな、これは。よし、念には念を入れておこう。何せ彼女はメイクデビュー前に体重を大きく増やした前科があるし。

 

「本当に、ほんっと~に頼むぞ? 二人もスペシャルウィークがドカ食いしないように気を配ってやって欲しい」

「りょ~か~い」

「仕方ないわね」

「ううっ、私、もうそんな事しないのに……」

 

 大きく肩を落とすスペシャルウィークだが、それでも強く自信を持って大丈夫と言わない辺りがらしい。

 

「セイウンスカイは……今日と同じだ。何かあれば言ってくれ」

「は~い」

「よし、なら明日もこの時間にいつもの場所へ集合してくれ。では解散」

「「「お疲れ様でした」」」

 

 大きく頭を下げるスペシャルウィークに会釈程度に下げるセイウンスカイ。キングヘイローは頭を下げる事無く胸を張ったままでそう言った。本当にそれぞれらしさに溢れているな。

 

「じゃ、整理運動しましょう」

「え~、それよりシャワー浴びたいなぁ」

「同感。でも、クールダウンを優先しないと。こういう積み重ねがいずれ大きく響くんだから」

「ちぇっ、キングは真面目だねぇ」

「むしろ貴方が不真面目過ぎるのよ」

「え、えっと、全て終わってからシャワーを浴びた方がさっぱりすると思うんだけど……どう?」

「「それには異議なし」」

 

 歩きながらそんなやり取りをする三人を見送り、俺は息を吐いた。同期故に仲が良く、だからこそ互いに負けたくない気持ちが強いだろう三人。天の声が聞こえるキングヘイローやスペシャルウィークはいいが、セイウンスカイはどうしたらいいんだろうか。もし俺のせいであいつが笑顔で走れない結果になったらと思うと……

 

「それに、天の声だって万能じゃない」

 

 天の声が教えてくれるのはあくまであいつらの状態やどうすればいいかというもので、あいつらとの関わり方をどうするかは俺の判断でやるしかない。

 サクラバクシンオーは単純明快で裏表の無い性格だったから何とかなったが、あの三人はあいつ程単純じゃない。それぞれに年頃の女の子らしい一面もあるからな。

 

「まぁ、あいつもそういうのがなかったとは言わないが」

 

 思えばバレンタインやらクリスマスなどの所謂イベント事には色々とやってくれていた。学業の方は今一つのようだったが真面目で責任感はある奴だったし、日頃世話になってるからと俺に気を遣ってくれたんだろう。

 

 まぁまさか追試の勉強を手伝わされるとは思わなかったが……。

 

「……やっぱり天の声の正体は三女神なのかね?」

 

 何せレースに関わる事しか言ってくれない。事実、学業方面は何も言ってくれた事がないのだ。正直俺もそこまで勉学は得意じゃないからサクラバクシンオーに頼られた時は困ったし。

 そして、こういう事を悩んでいても何も教えてはくれないのだ。天の声が聞こえるのは必ずそこにウマ娘がいる時だけ。まぁそれも一部には反応なしだから俺も三女神だと断言出来ない訳だが。

 

「まぁいいか。俺はいつだってあいつらが笑顔で走れるようにするってだけだ」

 

 今まで出会って別れたあいつらと同じように。願わくば、あいつのように桜舞い散る中を笑顔で駆け抜けてくれるように……。




アプリでセイウンスカイが育成キャラとして実装されていないためにトレーナーへのアドバイスはありません。仕方ないね。
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