天の声が聞こえるようになっていた、はずなのに……   作:MRZ

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キング以外は初めてのGⅠでした。しかも全員入着。
でも祝勝会とは言えないし残念会も違う。そこでトレーナーが選んだ言葉は……。


迷いと不安と

「お前達、よく頑張った。全員入着し、スペに至ってはライブのメインを張ったからな。本当に、俺は嬉しい」

 

 GⅠに出て入着するだけでも凄いのに、まさか三着にまで食い込むとは思わなかった。これがキング以外はGⅠ初出場だぞ。こいつら、本当に凄い。

 

「それはそうだけどさ……」

「あまり素直には喜べませんわ」

 

 だと言うのにセイとキングの表情は曇ってる。スペも……近いものがあるな。

 

「スペもか?」

「……はい」

“スペの調子が落ちてるな。このままだとトレーニング効率が悪くなるぞ”

 

 天の声がトドメを刺してきた。何で三着になって調子を落とすんだと普通なら思わないでもないが、今回のは見れば分かる事だからなぁ。

 おそらくだがサイレンススズカの様子に影響されてるんだろう。スペにとっては大事なルームメイトでもあり、憧れの対象でもある訳だから仕方ないか。

 

「分かった。なら敢えて言わせてもらうが、喜ばない方が失礼だぞ」

「「「え?」」」

「思い出せ。お前達も半年前はウイニングライブに出られるなんて思ってもいなかっただろう。そして、そもそもGⅠに出場出来る事もだ」

 

 その言葉には三人共無言で頷いていたので俺はそこで息を吐く。

 

「お前達も知ってるだろ? このレースに出たくても出れないウマ娘もいるって。ライブどころか入着さえ出来なかったウマ娘がいるって。なら自分のレース内容に納得出来なくても喜ぶんだ。向上心を忘れないのは素晴らしいが、それは何も喜ばない事と一緒じゃないはずだろ?」

 

 俺が最初に担当したウマ娘も、あいつも、あの子も、みんな勝敗に一喜一憂はしてた。それでも自分以外のウマ娘を恨む事もなかったし、ましてや入着出来て喜ばないなんてなかった。

 

 三人も俺の言葉でやっと何か気付いた顔をして、バツが悪そうにお互いへ目を向け合った。

 

「入着出来た事は素直に喜べ。で、一着になれなかった事は素直に悔しがれ。喜ぶべき事は喜び、悲しむべき事は悲しめばいい。お前達が頑張った結果はお前達のものだ。周囲に影響されてそれを素直に受け止められないのは良くないんじゃないか?」

 

 出来る限り優しくそう締め括る。今回それぞれに思う事はあったと思う。何せ一着じゃないんだ。

 だけど、サイレンススズカとトウカイテイオー相手に戦い、見事に掴んだ結果だ。この悔しさを糧に上を目指していける奴らだと、俺はそう信じてる。

 

「トレーナー」

「何だ?」

 

 セイの声がやや真剣なものだと感じたが、俺は普段通りに声を返した。

 

「次のレースって何?」

「今回全員して入着出来たからな。もしその気があるならダービーに全員で出るか?」

「「「出る(出ます)」」」

 

 即答、か。

 

「うし、ならそのつもりでトレーニングも考えておく。で、今日は慰労会だ」

「「「いろうかい?」」」

「おう。皐月賞で全員入着だからな。三冠レースの一つでだぞ? それを俺が労いたいんだ。という訳だから、着替えたら飯食いに行くぞ」

 

 そう言ったら一瞬で三人のテンションが上がったのが分かった。天の声なんか聞こえなくても分かるぐらいだ。

 

 と、そこで思い出す事があった。それはゴールした瞬間の事だ。

 トウカイテイオーがサイレンススズカを負かして一着になった瞬間、天の声が聞こえたんだが……

 

――テイオーの調子が下がったな。

 

 たったそれだけ。たったそれだけしか聞こえなかった。今までならトレーニング効率がとか色々付いたのに、何故かあの瞬間だけは調子が下がったのみだった。

 その後のサイレンススズカは、ちゃんと調子が下がったのに続いてこのままだとトレーニング効率が落ちると聞こえたのに。

 

 控室前の廊下であいつらを待つ。すると誰かがこちらへ向かって駆けてくるのが分かった。誰だと思って顔を向けると、見えてきたのは白い勝負服を着た本日の主役だった。

 

「あれ? たしかキミは……」

「サクラバクシンオーのトレーナーだった男だよ。そっちは会見終わりってとこか?」

「うん、そうだよ」

 

 あっけらかんと笑顔で答えるトウカイテイオーをそれとなく注視してみる。

 

“テイオーの調子は絶好調だ。これならトレーニング効率も良いだろう”

 

 ……どういう事だよ。一体あの声はどういう意味だったんだ?

 

「どーしたのさ?」

「ん? いや、その小柄な体であんな力強い走りをしてたんだなと感心してたんだよ」

 

 嘘じゃない。あの走りは凄かった。ただ、セイがサイレンススズカの脚を使わせまいとした結果トウカイテイオーが一着になったとも思っている。

 そう考えるとやっぱり怖いよな、サイレンススズカ。あの末脚が炸裂してたらトウカイテイオーも追いつけなかったって思わせるんだから。

 

「ま~ね。ボクはカイチョーを超えるものだし」

「かいちょう? ああ、シンボリルドルフか」

「そうっ! 次のダービーも勝って、菊花賞も勝って、無敗のまま三冠ウマ娘になるんだ!」

 

 キラキラとした瞳で断言する辺りが凄いな、こいつ。

 

「そうか。で、お前さんのトレーナーはどこだ? ちょっと挨拶しときたいんだが」

 

 ついでに天の声関連で聞きたい事も出来たしな。

 

「トレーナー? 担当って事?」

「ああ」

「それならいないよ? 表向きはいるけどね」

「……マジ?」

「マジ。たま~にアドバイスをもらう事はあるけど、基本はボク一人で十分だし」

「どっかのチームに所属してないのか?」

「入ってないよ。ボクが入りたいって思うようなチーム、ないからね。ボク、スゴイからさ!」

 

 胸を張っているので自慢してるんだろうが、それはある意味で不安の種でもあるぞ。

 

 トレーナーには大きく分けて二種類いる。専属かそうでないかだ。専属トレーナーは一人のウマ娘だけを見る事で、専属がいないウマ娘は珍しくないしむしろ主流だ。

 実際、スペやキング、セイも俺が担当しているが専属ではない。大抵のトレーナーは、今の俺や先輩のように複数を受け持ってる。だが実際には担当もいないウマ娘となると珍しい。

 

 担当が付かないウマ娘は基本二つに一つ。担当が付かない程実力や魅力に欠けるか、あるいはその逆。実力や魅力があり過ぎてウマ娘の方がトレーナーを選んでいるのだ。

 おそらくトウカイテイオーは後者で、どこかのチームトレーナー辺りに定期的か、あるいは必要に応じて見てもらっているんだろう。見た感じ天才肌っぽいし、その方が向いてるようにも思う。

 

 ただ、チームにも所属してないとなると体のケアはどうしてるんだ? 一応スペ達は俺が毎日見てるし、何かあれば些細な事でも教えるようにと言ってる。

 セイは無理だがスペとキングは天の声もあるから今のところ怪我などなく済んでいるが、それだって絶対じゃないし完璧じゃない。

 

“スピードやスタミナ重視のトレーニングをした方がいい。あとは賢さも欲しいところだ”

 

 念のためにと意識を集中して見たが、聞こえた天の声の内容もレース直後とは違っていて本来のものだ。ならやはり考え過ぎだろうか?

 

「っと、そろそろ着替えなくちゃ。じゃね~」

「あっ」

 

 色々考えている間にトウカイテイオーはそう言って俺の前から走り去った。その後ろ姿を見送り、その走り方に何も違和感などがない事を確かめてため息を吐く。考え過ぎだと、そう思って。

 

 それから一分としない間に三人が控室から出てきたので、慰労会をするべくレース場を後にした。

 もう着替えた三人はいつもの三人へ戻っていた。初めての大舞台で三人揃って走った事もあってか、今更興奮してきたらしい。それ程にあの結果や、スペにとってはサイレンススズカの事もか、影響してたんだろうな。

 

「そういえばトレーナー? 慰労会ってどこへ行きますの?」

「良い所って、そう言いたいんだが、残念ながら俺の給料じゃお前ら三人揃ってとなると財政が厳しくてな。なんでそこまで期待はするな。程々で頼む」

「え~? そこは大人の余裕を感じさせて欲しかったなぁ」

「仕方ないだろ? そう言うなら今度は一着を取ってくれ。そうすると俺にも特別ボーナスが入ってくる」

「そうなんですか?」

「おう。おかげでサクラバクシンオーの時は割と財布があったかかった」

 

 一着を取ると学園からそこまで多くはないが特別手当のようなものがもらえる。まぁ頑張ったウマ娘を労ってやれって感じのものだと思う。

 と、そこで思い出した。このレース場近くにウマ娘好きの親父さんが営む店があったな。こっちに来るとサクラバクシンオーとよく行ったっけ。そこへこいつらも連れて行くか。

 

 あそこなら額も分かり易いし、何よりラーメンが嫌いな奴はまずいないだろう。ならきっと喜んでくれるはずだ。

 

――トレーナーさん、この近くにウマ娘用のラーメンを出してくれるお店があるらしいんです。一緒に行きませんか?

――ウマ娘用のラーメン?

――そうなんです。私も教えてもらったばかりなんですけど結構美味しいみたいで……。

――よし、なら行くか。俺が奢ってやる。一着を取ったご褒美だ。

――ホントですか? ふふっ、じゃあこれからはレースの度に奢ってもらいますからね?

 

 俺は店を目指して歩く。俺をその店へ案内してくれたあいつとのやり取りを思い出しながら……。

 

 

 

「へい、お待ち」

「「「お~……」」」

 

 どんと出された特盛のラーメンに三人が揃って目を丸くした。特注だと昔聞いたその丼はウマ娘専用の物で、俺も初めて見た時は驚いたもんだ。

 ウマ娘の食事は個人差もあるものの、基本的に大量になる。酷いとまるで妊婦のような腹となるまで食べる奴もいるぐらいだ。

 

 ……スペはその妊婦のような腹になるまで食べるタイプ。まぁさすがに外ではあんな腹で歩く事はしないだろうから大丈夫だとは思うが……。

 

「で、あんちゃんの分はこれな」

「どうも」

 

 俺の前に置かれるのは普通の丼で普通のサイズのラーメンだ。

 

「うし、じゃあ食べるか。と、その前にっ!」

 

 すぐにでも割り箸を手にして割ってさえいるスペを制するように声を少しだけ張る。

 

「今回のレース、よく頑張った。あれだけのレースで入着するだけでも大したもんだ。その事は、誇っていい。そして次は少しでも上の着を狙えるように頑張ろう」

「はいっ!」

「ええ」

「はーい」

「それじゃあ、手を合わせて……」

 

 待ちに待った瞬間だからかスペが嬉しそうに手を合わせる。キングやセイはそんなスペに苦笑しているが、尻尾が揺れてるので似たような気持ちらしい。

 

「「「「いただきます(っ!)」」」」

 

 チラリと見れば、まずスープを飲むのがセイ、麺を食べ始めるのがスペ、キングは匂いを嗅いでいた。そういうとこにも個人差が見えて中々面白い。

 

 ちなみにサクラバクシンオーはチャーシューから食べていた。ホント、色々違うもんだな。

 そんな事を思い出しながら俺も麺へ箸をつける。ここのラーメンは醤油ベースの、所謂昔ながらの中華そばって奴で、ナルトを入れてるのが懐かしさを感じさせるとか。

 麺は中太のちぢれ麺。具材はチャーシュー、ナルト、メンマに刻みネギと焼き海苔だ。屋台の頃から変わっていないと親父さんが言うその味は、特別美味いとは言わないが何だか癖になって懐かしい気持ちにさせてくれる味だ。

 

「あんちゃん、今は三人も担当してんのか?」

「ええ。おかげさまでこんな俺にも指導して欲しいって言ってくれるウマ娘が出来まして」

「そうか。サクラちゃんのおかげだなぁ。あの子、今は海外なんだろ? 頑張ってるってこの前ニュースで見たよ」

 

 嬉しそうに話す親父さんに俺も笑顔を返す。サクラバクシンオーに関しては、俺も詳しい事は知らないでいる。いや、敢えて知らないでいた。俺の手を離れた以上、下手にあいつの事へ関わろうとすると面倒な事になりかねないと思ったからだ。

 

「ですね。まぁあいつの戦い方はどこでも変わりませんから」

「だなぁ。スタートと同時に先頭へ出て、そのまま爆進っ! ……だもんなぁ」

「短距離最強のウマ娘になるって言ってましたから。この分だと本当に現実となりそうですよ」

 

 元々分かり易い性格だった事もあってか、海外でもテンション維持は出来ているらしい。聞こえてくる知らせはあいつが一着を取ったという事ばかりだ。

 

「そうかい。あんちゃん、サクラちゃん帰ってきたらまたうちに連れてきてくれよ? サービスするからさ」

「分かりました。サクラバクシンオーに連絡しておきますよ」

「頼むよ。っと、凄いねあの子は」

 

 何かに気付いた親父さんが視線を動かしたので俺もそちらへ目を向けると……

 

「マジかよ……」

 

 スペが既に食べ終えていたのだ。しかも見事にスープまで飲み干していて、その腹を妊婦のようにしていた。

 

「美味かったかい、ウマ娘のお嬢ちゃん」

「はいっ! とっても美味しかったですっ!」

「そうかい。またこっちに来る事があったら顔出しな。その時は煮玉子サービスしてやっから」

「ホントですかっ! 絶対来ますっ!」

「スペちゃん、それはまずトレーナーにお願いしないと」

「本当ですわ。で、ご主人? それはスペだけですの?」

「お前らなぁ……」

「はははっ! 勿論そっちのお嬢ちゃん二人もだ。その代わり、レースで怪我しないようにしてくれよ?」

「「勿論(ですわ)」」

 

 こうして三人もサクラバクシンオーと同じく親父さんに顔と名前を覚えてもらい、今後この近くに来た時は必ず顔を出す事になった。

 それにしても驚きだったのが、キングはラーメンを食べたのが生まれて初めてだったと言う事だろう。だから最初に匂いを嗅いでいたのかと納得したぐらいだ。

 

――どうやって食べるのか自信がなかったのでスペやセイのを参考にさせていただきました。

 

 そう言って少しだけ照れくさそうにしていたのが可愛らしいと思った。そう、彼女達は年頃の少女でもあるとそこで思い出した。

 けれど、それと同じぐらいレースで勝ちたいと思っている事も。こいつらは今日の皐月賞だって一着を取りたかったはずなんだ。だからこそライブの後も悔しさが残ってた。

 

 入着を喜ぶ気持ちよりも一着を取れずに悔しいと思う程に、こいつらはもう一人前のアスリートでウマ娘なんだ。

 

「スペちゃんには悪いけど、出る以上は一着を狙うから」

「そうね。スペはキングの後ろになるのを覚悟しなさい」

「私だって負けるつもりはありません! 絶対、絶対一着になって日本一のウマ娘になるんですからっ!」

 

 本気なのだろうやり取りだが、セイとキングはどこか笑みを浮かべているし、スペもすぐに笑顔へ戻っていた。仲間でありライバルなのだと、そう強く分かるな。

 

「……出来るだけ、ダービー以降はレースをかぶらせないようにするか」

 

 仲良く前を歩く背中を見つめ、俺はそう呟いた。出来る事ならあいつらそれぞれが一着を取れるようにしたい。そういうトレーナーとしての気持ちを。

 

 だが、どこかでだからこそ三人がトップを競い合う姿が見たいと、一人のファンとしての俺も呟く。

 願わくば、それが年末の中山になるといいなと思いながら、こちらへ振り返って俺の事を呼ぶ三人へ笑みを返して歩みを進める。

 

 ダービー、か。出来る事ならスペに取らせてやりたいが、トウカイテイオーが出てくる以上難しいかもしれないな……。




次回は日本ダービー。トレーナーの願いは叶うか否か……。
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