天の声が聞こえるようになっていた、はずなのに……   作:MRZ

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おかしい。シリアスなど最初で終わるはずだったのに……。
メインは同期三人の仲良しっぷりを描くつもりだったのに……。


それぞれの気持ち

「何かさ、トレーナーってスペちゃんやキングには自信ありげな指導をするけど、こっちにはあまりそういうのなくない?」

 

 その切り出しに二人のご飯を食べる手が止まる――かと思ったけどスペちゃんだけはそれが若干遅かった。本当に食いしん坊だね、スペちゃんは。

 

「言われてみればたしかにその傾向があるわね」

「そうだね。バクシンオーさんは完全な逃げウマ娘だったし、スカイさんと似てるのに……」

 

 そう、そうなんだ。トレーナーが指導してURAまで逃げ切った“爆進王”ことサクラバクシンオーは短距離最強と呼ばれた逃げウマ娘。

 私と得意な走り方が一緒。なのに何故かトレーナーは私への指導には自信を感じさせない事が多い。まぁ得意距離は違うからかもしれないけど、ならどうしてスペちゃんやキングには自信を覗かせるんだろう?

 

「もしかすると、サクラバクシンオー先輩は逃げウマ娘だったからこそ、同じ逃げウマ娘の貴方をそれと同じぐらいに育て上げないといけないと思ってプレッシャーを感じているとか?」

「あ~、成程。さすがキングは鋭いねぇ」

 

 言われて納得。そうかそうか。私が同じ逃げウマ娘だからこそ不安を抱いてる、かぁ。そう言われたらそうかもしれない。何せバクシン先輩は凄かったからなぁ。

 

 メイクデビューからURAまで短距離ならば無敗の成績で駆け抜けた文字通りの“爆進王”。レースが始まって出遅れていなければもう既に勝敗は決まっているとまで言われた驚異の逃げ足、サクラバクシンオー。

 そのレースを私も見た事があるけど、凄いなんてもんじゃなかった。最初から最後まで先頭を走り続けてゴール。レースじゃなく一人で走ってるみたいな状態だった。

 

 キングはその短距離のスペシャリストを育て上げた腕を信じて、スペちゃんは第一目標だったチームに落ちて、それぞれトレーナーへ指導を頼んだ。

 

 私は、いつも笑顔で走っていた姿を見てトレーナーに指導を頼んだ。だってあれは一着を取り続けたからじゃなく、本当に走るのが楽しくてしょうがないって風に見えたから。

 だからどんな指導をしてくれるのかなって、興味があった。で、初めて会った時何故か驚かれたのを今でも覚えてる。

 

「そういえば、何でキングさんはバクシンオー先輩みたいになれるって言われたのに中距離も走るって決めたんですか?」

「わたしはバクシンオー先輩よりも上に行けるからよ。短距離だけでなくマイルも中距離も、いっそ長距離だって走って勝てる。そんなウマ娘に、キングの名に相応しい存在になるの」

「キングってさ、メジロ家には負けるけど結構な家のお嬢様なんだよ」

「そうなんだ……」

 

 目を丸くするスペちゃんはホント可愛いよね。なのに、レースとなると恐ろしい末脚を発揮するんだからなぁ。

 今日の模擬レースだって私が一着で終わったけど、あと少しってとこまでスペちゃんやキングが迫ってきてたし。

 

 ホント、どうしようかな。ここに来るまでは割と余裕もあったけど、まさかこんなにあっさりと追い付かれるかもって思う相手と出会うなんてさ。

 デビュー前はそこまで焦りもなかったけど、段々逃げが通じなくなってきてる感じがする今は正直怖い。

 

 だって言うのに私のトレーニングは二人と違ってあまり変更されないし。

 

「愚痴りたくもなるよね~」

「「何が?」」

「……何でもない」

 

 いけないいけない。ついつい口に出てたや。とりあえず今はトレーナーの指示に従っておこう。不安はあるけどあの爆進王を育てた人だしね。それより今は……

 

「スペちゃん、そこまで」

「え?」

「お代わり禁止」

「ええっ?!」

 

 食べ過ぎそうな仲間を止めるとしようかな。トレーナーにも言われたし、ね。

 

 

 

「まったく油断も隙もあったものじゃないわ」

「あ、あはは……ごめんなさい」

「スペちゃんらしいとは思うけどね~」

 

 わたしの言葉に申し訳なさそうな声を出すスペシャルウィークを横目で見る。セイウンスカイはいつものようにニコニコとしていた。

 あれ程トレーナーから食べ過ぎないようにと言われておきながら、気付けばお代わりをしようとしていたとは本当にこの子は……。

 

「いい? 貴方はこのキングの同期であり同じチームなのよ? ならそれに相応しい振る舞いを心がけなさい」

「素直に仲間って言えばいいのに」

 

 思わず足が止まる。何も的外れな事を言われたからではない。むしろ逆だった。

 わたしが言いたくても言えない表現を、はっきりと口にされたからの反応だ。

 振り向いた先ではセイウンスカイが楽しげに笑っていた。少し腹立たしくて、けれど愛嬌を感じる、そんな笑顔で。

 

「キングって本当に可愛いよね~」

「な、何がよ?」

「え~? 言っちゃってもいいの~?」

 

 ニヤニヤと笑うセイウンスカイは本当に憎らしい。わたしの本音を分かっていると雄弁に表情が告げている。スペシャルウィークはそれが分からないのか不思議そうに首を捻っている。正直そうしていると本当に可愛いわね、この子。

 

「勝手にすればいいでしょ」

 

 ともあれここで怯んだらキングの名に傷がつく。だから強気でいくわ。そう思って返した言葉にセイウンスカイは驚いた顔をした。ふふん、いい気味よ。

 そう思って溜飲を下げていると、目の前の驚きはゆっくりと笑みに変わっていく。それが不気味だった。

 

「そっか。じゃいいよ。あのねスペちゃん、キングは本当はとっても」

「スペシャルウィーク、そういえば貴方学科の方が大変って言ってたわねっ! 今からわたしが見てあげるからいらっしゃいっ!」

「へっ? い、今からですか?」

「善は急げと言うじゃない! ほらっ、行くわよっ!」

「は、はいっ! スカイさん、また明日~っ!」

「はいは~い」

 

 セイウンスカイの言葉を聞かせぬように心持ち大きな声で喋りながら、スペシャルウィークの手を掴んで早歩きでその場から動き出す。

 微かに後ろの方でセイウンスカイの笑い声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだ。ええ、そうに違いない。

 

「あ、あのっ」

「何?」

 

 やや口ごもりながらスペシャルウィークがこちらへ顔を向けていた。何かあっただろうか? 実際学科の出来が悪いというのは本人がよく口にしている事だけど……?

 

「ど、どこでやるんですか? 私の部屋はスズカさんがいますし、キングさんだって他の方がいますよね?」

「……そう、ね」

 

 言われてハッとした。そう、寮の部屋は基本二人で使う相部屋。でも食堂では落ち着かないし、何よりわたしが誰かの世話を焼いているところを見られでもしたらキングの名に泥を塗ってしまう。

 

 考えた結果、わたし達はチーム用に割り当てられた小屋へと向かう事にした。そこなら周囲の目を気にする事もなく過ごせると。

 そうしてそれぞれ自室へ戻って勉強用の用意を整え、再び合流し寮を出て日が暮れ始めた中を二人で歩く。正直言えば今から向かう小屋はそんなに使われた事はない。精々が初めてわたし達が顔合わせをした時と、メイクデビュー後にあった勝負服のデザインを決める時ぐらいだ。

 

「そういえば勝負服っていつ出来るって言ってましたっけ?」

「たしか……もうそろそろと言ってたような……」

「そっかぁ。楽しみだな~」

「そうね」

 

 勝負服を着られるのはGⅠやそれに近い記念レース。今だとURAもそれになる。

 まだわたし達は誰一人として勝負服に袖を通すようなレースへ出る事は出来ないけど、近い内にそうなるとどこかで思っていた。

 何せ指導しているのがあの“爆進王”を育てたトレーナーなのだ。それまではあまりパッとしない実績だったらしいけど、それがあってこその爆進王と思えば納得が出来る。

 

 あのトレーナーは経験を糧に必ず成長出来るのだ。なら、大成功を収めた今、その成長はどれ程だろう。

 

 正直言えば、出会った時に爆進王になれると言われたのは嬉しかったし心が揺れた。短距離だけに専念すればそれを超えられるとも言われたし。

 だけど、それではキングの名が廃る。わたしは短距離だけでなく、マイルも、中距離も、長距離でさえも結果を残してみせるのだと。

 

 小屋の鍵を開けて中へ入ると当然だけど真っ暗。すぐに灯りを点けてスペシャルウィークと共に椅子へと座ると持ってきた勉強道具をテーブルに広げた。

 

「で、一体何が分からないの?」

「えっと……」

 

 そこからの時間は新鮮な経験だった。それまで誰かと共に勉強する事もなければ、誰かへ教える事もなかったから。

 それに、そうすると正直退屈だった勉強も楽しいような気がした。きっとそれは……

 

「キングさんの教え方って分かり易いです! ありがとうございますっ!」

「この程度の事、造作もないわよ」

 

 満面の笑顔で素直に物事へ取り組む相手が、仲間が隣にいるからだって、そう思った。

 

「じゃ、消灯時間の一時間前までみっちりやるわよ」

「ええっ!? そ、そんな遅くまでですか?」

「仕方ないでしょ? それくらいしないと今日中に終われないわ」

「きょ、今日だけ、なんですか?」

「え?」

 

 思わぬ言葉に耳を疑った。わたしの目の前には捨て犬のような眼差しでこちらを見つめるスペシャルウィークがいた。

 

「教えてくれるの、今日だけですか? 出来れば今後も教えてくれると助かるなぁ~って、思うん、です、けど……」

 

 言いながら声から力が抜けていくのが何とも情けない。けど、うん、不思議と悪くない気分だわ。誰かに頼られるのって、やっぱり悪くない気分ね。

 

「し、仕方ない。いいわ、同じチームのよしみよ。これからも面倒を見てあげようじゃない」

「わぁ、ありがとうございますっ!」

 

 そう言った後、嬉しそうな笑顔で鼻歌混じりにノートへと向かうスペシャルウィークを見て、わたしは思わず笑みを浮かべてた。

 勉強会を終わって寮へ帰る途中、スペシャルウィークがセイウンスカイも明日からは誘っていいかと聞いてきたので許可を出してあげた。それだけでまた嬉しそうに笑うのを見て、わたしはこの子とレースで戦う事がある意味で怖くなってきた。

 

 負けても勝ってもこの笑顔を曇らせてしまうかもしれないと、そう思って。

 

 

 

「何か良い事でもあったの?」

 

 消灯時間になって暗くなった部屋にスズカさんの声がした。ベッドに横になりながら顔をスズカさんの方へ向けると、綺麗なスズカさんの顔が月明かりに照らされていた。

 

「えっと、実はチームの仲間とこれから毎日勉強会をする事になって」

「そうなんだ」

「はい」

「仲、いいんだ?」

「そう、ですね。キングさんもスカイさんも良い人ですし」

「……そっか。私も早くチームに馴染めるといいんだけど」

 

 私の一つ上の先輩であるスズカさん。その所属チームは学園でトップのチームだ。学園に入って間もない頃、そのチームのトレーナーさんに自分のところにくればもっと速くなれるぞって言われて、スズカさんはそのチームに所属する事を決めたって聞いた。

 

 でも、所属後の戦績はパッとしないみたい。スズカさんはトレーナーさんの指示に従っていればいつかは結果が出るって、そう言ってるけど……。

 

 正直、最近のスズカさんは元気がないように思う。走ってるところをたまに見かけるけど、その走りにも活気みたいなものがない。

 何でもスズカさんは学園に入った当初は“爆進王”を超えるって言われてたらしい。それって逃げウマ娘って事なんだと思うけど、今のスズカさんの走り方ってどちらかって言うと先行、だと思うからそれも関係してるんじゃないかな?

 

 私はトレーナーさんの指示で、逃げも先行も差しも追い込みもやってみた事があるけど、向いてると思った先行や差しはともかく、逃げや追い込みはやってて辛いだけだった。もし、もしもスズカさんがあの時の私と同じ気持ちを抱いてるなら……

 

「あの、スズカさん」

「何?」

「スズカさんって、差しの走り方や追い込みの走り方ってやった事ありますか?」

「差しや追い込み? ないけど……?」

「私、得意なのが先行や差しなんですけど、逃げや追い込みもやってみた事があって……」

 

 チームの顔合わせが済んだ後、私達はトレーナーさんの指示で四回模擬レースをする事になった。

 最初、私は先行で、スカイさんが逃げ、キングさんが追い込みで走った。結果はスカイさんの勝利。私は惜しくも二着。

 次は私は差し、スカイさんが先行、キングさんが逃げで走って私が一着。これが一番走ってて楽しかった。

 三回目は私は追い込みで、スカイさんが差し、キングさんが先行で走った。結果はキングさんが一着で私は最下位。

 最後は私は逃げで、スカイさんが追い込み、キングさんが差しで走った。結果はキングさんが連続一着で私は二着。

 

 その事を話すとスズカさんはその時私達が思った事と同じ事を聞いてきた。

 

「何でそんな事を?」

「えっと、トレーナーさんが言うには、色んな走り方をする事でそれを得意とする相手の考えや嫌な仕掛け所が少しは理解出来るからって」

「……そういう事」

「はい。実際それをやったおかげでスカイさんが逃げてる時にどこで仕掛けると嫌がられるとか、キングさんが差しに行こうとしてる時にどうすると戸惑うかが何となくだけど分かるようになりました。勿論向こうも私が先行してたり差しに行こうとする時に嫌な動き方をするようになりましたけど」

 

 ただトレーナーさんはこうも言ってたっけ。

 

――いいか? 得意な走り方をしてる時は相手が何をしようと動じるな。サクラバクシンオーが爆進王になれたのは、自分を信じ切る心を持っていたからだ。これで負けたならしょうがないってな。

 

 この走り方が自分に出来る最高の走り。そう思うのなら何があってもそれを信じ切る事。それで負けたら仕方ないってそう思える走りをしろ。それがトレーナーさんの言葉の意味だ。

 

 それをスズカさんに教えたら目を見開いて、その後すぐに目を閉じて黙っちゃった。私はそんなスズカさんに何て言ったらいいのか分からず、ただただ待つ事しか出来なかった。

 どれぐらいそうしてただろう。スズカさんは一度だけ深呼吸をするとキリっとした顔になってこう言った。

 

「うん、ありがとう。いいお話を聞かせてくれて」

「い、いえ、スズカさんの役に立てたなら良かったです」

「じゃあそろそろ寝ましょうか。おやすみ」

「はい、おやすみなさいスズカさん」

 

 こうして私の一日は終わった。翌朝いつものように目を覚まして、朝練をスカイさんやキングさんと一緒にやってから学園へ行き、お昼はチームの三人と同期であるエルちゃんやグラスちゃんを入れての五人で食べて、放課後は一人で学園近くを散歩して、途中でたい焼き食べちゃったけどいつもの時間にいつもの場所へ。

 

「よし、全員揃ったな」

 

 トレーナーさんの前に並んで立つ。今日は何をするんだろう?

 

「それじゃあ、まず」

「ちょっといいか?」

 

 その声は私でもなければスカイさんでもキングさんでもなかった。だってその声は私達の後ろから聞こえたんだ。振り向けば、そこには眼鏡をかけたスーツの女性が立っていた。しかもトレーナーさんを睨み付けるように見つめてる。

 

「先輩、何か御用ですか?」

「単刀直入に聞こう。スズカに何を吹き込んだ?」

「えっと、スズカって言うと……」

「サイレンススズカだ」

「……先輩のチームに所属してるウマ娘と俺は接点持たないようにしてますけど」

「ならば何故スズカがお前のような意見を言い始めた?」

「はい?」

「とぼけるな。自分がこれだと思う走り方を貫け。これはお前の持論だろう」

「そうですけど……」

 

 そこで私の尻尾が逆立ったのが分かった。こ、これ、私が昨日の夜に話した事が原因だよね?

 困ってるようなトレーナーさんへ眼鏡の女性は大きくため息を吐いた。って、気付けばスカイさんとキングさんがトレーナーさんと距離を開けてる!?

 

「やっと新しいスタイルが定着しかかってきたというのに、これでまた振り出しに戻りそうだ。どう責任を取ってくれる?」

 

 その瞬間、私は寝る前のスズカさんの顔を思い出した。何かを決意したような凛々しさは、もしかしてそれだったんじゃないかって。

 そう思ったら、勝手に体が動いてた。眼鏡の女性へ向き直って、思った事を口にしてた。

 

「あのっ! スズカさんは今の走り方を辛いって思ってるんですっ!」

「……何だお前は?」

「お前じゃなくてスペシャルウィークです。俺の担当ウマ娘の一人ですよ。たしかサイレンススズカのルームメイトかと」

「そうか、お前が……」

 

 こっちを見つめる女性の目は凄く鋭くて、正直怖い。だけど、スズカさんのためにもおびえてる場合じゃないっ!

 

「スズカさんは逃げる走りが得意で好きなんですっ! だから」

「今はいい。才能で何とか勝利する事は出来るだろう。だが、それだけではその内行き詰まり、その才能を枯らし、卒業ではなく引退となる」

 

 そう言って女性は私からトレーナーさんへ顔を向けた。

 

「こいつのバクシンオー以前の担当ウマ娘達のようにな」

「っ」

「「「え?」」」

 

 トレーナーさんが顔を背けたのを見て私達は揃って声を出していた。

 トレーナーさんのバクシンオー先輩以前の担当って、卒業じゃなくて引退したの?

 そう思って無言で私達はトレーナーさんを見つめた。顔を背けたままの、トレーナーさんを……。




個人的設定ですが、引退と卒業の違いはアプリで言うと、育成目標を完全達成が卒業で、未達成が引退です。
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