天の声が聞こえるようになっていた、はずなのに……   作:MRZ

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こちらの確認及び認識不足で色々と混乱を招いてしまい申し訳ありませんでした。
こちらは修正版となります。今後同じ事がないように気を付けますので何卒ご容赦の程を……。


いざ皐月賞

「いよいよ、だね」

 

 スペちゃんのその言葉に私とキングは頷く。初めて私達三人が本当のレースでぶつかる時が来た。しかも舞台はGⅠなんて最高の状態で。

 

「けどスペらしいわ。仲間外れは嫌だ、なんて」

「だ、だってぇ……」

 

 そう、スペちゃんは最初この皐月賞に出ないはずだった。トレーナーはスペちゃんの目標である日本一に照準を合わせてダービーへの調整を進めようとしていたから。

 けど私とキングが出るって聞いて、それなら自分も一緒に走りたいって言い出して現在に至る。

 

 ちなみにトレーナーからは個別に色々言われてる。スペちゃんやキングはどう言われたかは知らないけど、私はこれに出てるスズカさんよりも前に出て走ってみろと言われてる。

 

――上手くすれば、それであの最後の伸びを阻止出来るかもしれない。

 

 スズカさんに気持ち良く走らせない。それがあの信じられない走りをさせない事に繋がるっていうのがトレーナーの考えだ。

 私もそれは同意出来るから今回の作戦をやってみる気になった。逃げウマ娘にとって前に誰かいるって言うのはあまり良い気分じゃない。実際それであの時のパーマーさんは失速した。

 

 それにスズカさんは逃げ以外じゃ戦績が悪い。ならトレーナーの考えは間違ってない。

 

 ……あとは私がスズカさんの前に出れるかどうか、だ。

 

「まぁまぁ、そろそろゲートへ向かおうよ。で、可能ならここで三人でライブのメイン、狙おっか」

 

 言いながらどこかで難しいだろうと思う私がいる。何せこのレース、スズカさん以外にも有力ウマ娘が出てるから。

 

 筆頭は無敗での三冠を宣言してるトウカイテイオー、かな。トレーナー曰く、余程の事がない限りメインはテイオーとスズカさんを入れたメンツになるって。私もそう思う。

 

 なら、その余程を起こしてやるしかない。そのために私は今日、スズカさんの前に出るんだ。

 

 三人揃ってレース場へ出ると、凄い熱気を感じた。あちこちから人の気配がして、遠くに聞こえる声なんかも前に出たレースよりも多い。

 見ればスペちゃんもそうみたいで目を大きく見開いて驚いてる。キングは……若干、かな。

 

「凄い人ですね……」

「そうね。まぁ、三冠レースの一つだもの。当然でしょう」

「そうだったね。これと、ダービーと、菊花賞」

「それら三つを一着で走り切る。そうした者だけが三冠ウマ娘の称号を与えられるのよ」

「そうさ! そしてそれはボクの事だっ!」

 

 聞こえた声に顔を動かすと、そこには白を基調とした勝負服のウマ娘がいた。

 

「トウカイテイオー……」

 

 キングが何故か表情を引き締める。何かあるのかな?

 と、思っていたらズイッとスペちゃんが前に出てきた。

 

「は、はじめましてっ! 私っ、スペシャルウィークって言いますっ!」

「よろしく~。でもスペシャルウィーク、かぁ。呼び辛いから略していい?」

「は、はい。えっと、みんなからはスペかスペちゃんって呼ばれてます」

「スペちゃん、か。うん、じゃあボクの事はテイオーでいいよ。よろしくねスペちゃん」

「はい、よろしくお願いしますテイオーさん」

 

 うん、さすがスペちゃん。後輩にも丁寧語だ。これ、もしかしなくても年下って気付いてないね。

 

「私はセイウンスカイ。よろしく~」

「よろしく。じゃ、そっちは?」

「セイでもスカイでもウンスでも好きに呼んでよ」

「う~ん……じゃあセイちゃん」

「はいはい。テイオーならそれでいいよ」

 

 中々物怖じしないね。まぁそれもこの子の魅力かもしれない。

 で、問題は何故かキングもテイオーもお互いには闘志バリバリな事、かな。

 今も睨み合うようにしてるし、挨拶さえもしない。どうも面識はあるみたいだけど、どこで会ったんだろ? 学園……?

 

「キングヘイロー、あの時の借りはここで返してやるっ! 今日勝つのはボクだっ!」

「お~っほっほっほ! 残念だけど貴方の三冠は夢と消えるわ。わたし、キングヘイローが三冠に輝くんだから」

「なにぉ! それはボクだ! 無敗で三冠ウマ娘になってカイチョーを超えるんだっ!」

 

 ……どうやらワケありなのは間違いないみたい。しかもどうやらあまりいい感じじゃないね、これ。

 

 とりあえずオロオロしてるスペちゃんをこっちへ引っ張り、そのまま二人から距離を取る。

 

「あ、あの、いいんでしょうか?」

「いいんじゃない? まだゲート入り前だし」

「そ、そうなんですか?」

「そーそー」

 

 下手に手を出すとこっちまで巻き込まれかねない。大丈夫だとは思うけど今は二人だけの世界にしておこう。

 

 ……さすがに殴り合う事はないと思うし、うん。

 

「スペちゃん!」

「スズカさんっ!」

 

 丁度いいところに来てくれたよ。これでスペちゃんは任せていいね。

 

「ども~」

「こうして会うのは久しぶり、かな。元気そうね、スカイちゃん」

「おかげさまで。あっ、スペちゃんの事よろしくお願いします」

「ええっ!?」

「ふふっ、引き受けたわ」

 

 あの神戸新聞杯の時に少しだけ私とキングはスズカさんとお話した。自己紹介とレースの感想を言うだけだったけど、覚えててくれたんだ。

 それにしてもさすがにもう大舞台に慣れてきてる感じが凄い。こっちなんてまだ勝負服に袖通すの片手で足りるだけだってのになぁ。

 

 周囲をチラリと見やる。誰も彼も勝つ事を考えてるんだろうなって顔をしてる。

 でも私は違う。勿論勝ちたい気持ちはあるけど、今の私にあるのはトレーナーの作戦が本当にスズカさんに通用するのか確かめるって事。

 何があろうと最後の直線までスズカさんを先頭にしない。それであの伸びが阻止出来るか否かを確かめる事が出来れば、私はもうスズカさんを必要以上に恐れる必要はないから……。

 

 

 

 気持ちを落ち着けてゲートの中へ入る。まさかここでトウカイテイオーと戦う事になるなんて思わなかったわ。

 さすがにあの時の事を持ち出す事はなかったけど、かなりあの敗戦がショックだったのは分かった。

 

「……この距離こそがトウカイテイオーの主戦場。なら、ここで勝利してこそキングですわ」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。正直まだ今のわたしは中距離や長距離でセイやスペにさえ中々勝てない。トウカイテイオー相手ならばより勝率は下がるはず。

 

 だけど、だからって諦めるつもりはない。トレーナーから出された指示はたった一つ。

 

――いいか? 何があっても顔を下げるな。王様ってのはな、最後の最後まで気高く胸を張ってるもんだ。

 

 そう、わたしはキング。王者だ。決して何があろうと下を向く事なく前を見つめ続けてみせる。

 

 例え、例えここで負けるとしてもそれを次に繋げるためには前を見続ける事が必須。いつか帝王を下し、皇帝を下すためにも、一戦たりとも無駄には出来ない。

 

最後に笑うのが勝者なら、このキングこそがそれに相応しいですわ

 

 心を冷静にし、ゲートが開く瞬間をただただ待つ。やる事はいつもと同じ。道中は中団辺りで機を窺い、第四コーナー手前で動いて最後の直線で勝負を決める。

 場合によってはそれより早く仕掛ける事もあるかもしれないけど、そこは状況を見て、ですわね。

 

『各ウマ娘体勢完了』

 

 聞こえたアナウンスで一度深呼吸。出遅れだけは勘弁ですわ。

 

「っ!」

 

 目の前の扉が開いた瞬間、勝手に足が動き出していた。一瞬で開ける視界からまず飛び込んできたのは……セイっ!?

 

『まず抜け出したのはセイウンスカイ。サイレンススズカと競り合いながらも前を譲らない』

 

 どういう事ですの? いくらセイでもあんなペースで走っていれば最後まで持つはずが……っ!

 

「そういう事ですの……っ!」

 

 セイはこのレースをある意味で捨てたのね。それは、おそらく先を見ての事でしょう。スズカさんの得意距離と走りはセイと同じ。故に今後セイがGⅠへ出れば高確率でスズカさんとかち合う。

 そこで勝つためにここはその方法を探ると、そういう事ですわね。トレーナーの指示がセイの独断かは分かりませんけど、それならわたしはそれを利用させてもらうまで。

 

 スズカさんがセイとやり合って潰れてくれれば、残る脅威はただ一人。

 

「トウカイテイオー……っ」

 

 わたしよりも前の位置で走るウマ娘を見つめる。スペは……えっ? わたしよりも前? しかもトウカイテイオーとほぼ同じような位置取り、ですって?

 

 ……もしかしてスペは差し狙いじゃない? これもトレーナーの指示?

 

「いえ、関係ありませんわ」

 

 わたしはわたしの走りをするだけ。何があろうと前を向き、一着を目指すだけよ。

 考えても分からない事は考えるのを止めて、見て分かる範囲の事だけ考える事にするわ。

 

 いつだって冷静にレースを行う事もキングたる者の在り方だものね!

 

 

 

『先頭は変わらずセイウンスカイ。だがその外すぐにサイレンススズカがいます。レースは完全にこの二人が引っ張る形となっていて、先頭から最後方までは何と20バ身近く離れています』

『最近のサイレンススズカの勝ち方は最初から凄い逃げを打っての逃げ切りですから、セイウンスカイはそれをさせまいとしていますね』

 

 レースは第二コーナーを通過し中盤を迎えていた。

 サイレンススズカの驚異的な脚を使わせないためにレースを捨てる覚悟で大逃げを打ったセイウンスカイ。その甲斐あってか、未だにサイレンススズカは先頭に立てていなかった。

 そんな先頭二人を虎視眈々と狙うのはトウカイテイオーだ。今出来ている差など関係ないとばかりに目力鋭く先を見据えている。

 そして、それとは逆に不安そうな表情で先頭を見つめるのがスペシャルウィークだ。彼女は今回トレーナーの指示により差しではなく先行として走っていた。

 

 その理由は二つ。一つはキングヘイローがいるために同じ位置取りとなって潰し合うのを避けた事。もう一つは、ある意味でサイレンススズカ対策でもあった。

 

 と、ここで動きがあった。トウカイテイオーがゆっくりと前へ迫り始めたのである。

 

『ここでトウカイテイオーが動いた! 先頭争いを続ける逃げウマ娘二人へ、ゆっくりとではあるが徐々に差を詰め始める!』

 

 このトウカイテイオーの動きがレースを大きく左右する事となるとは、この時誰も思いもしなかった……。

 

 

 

「まだ第三コーナー手前なのに……」

 

 私の前にいたテイオーさんが少しずつ離れていくのを見て、私は動きたくなる気持ちを抑えるようにトレーナーさんとのやり取りを思い出した。

 

――いいかスペ。皐月賞はある意味ダービーの前哨戦だ。だから、そこでは差しじゃなくて先行で走れ。キングも差しでお前も差しだと位置取りで潰し合う可能性があるからな。

――分かりました。

――それと、仕掛けるのは早くても第三コーナーからだ。可能なら第四コーナー抜けた辺りで先頭争いになるように頑張れ。

 

 う~っ、動きたい。動きたいけどまだ早い。せめて、せめて第三コーナーに入ってからだ。

 

 そう思って走っていると他の人達もどんどん動き出してく。こ、このままじゃ抜け出すのも難しくなるかも。

 最内、のままだと前を塞がれたら難しいから今の内に外へ出ておこう。順位もテイオーさんが動く前は五番手ぐらいだったのに、もう八番手ぐらいまで下がってるし。

 

『先頭二人が第三コーナーを抜け第四コーナーへ入っていく! それを捉えようとしているトウカイテイオーっ!』

 

 よし、ここだっ! ここから上がっていこうっ! まだ間に合うはずだっ!

 

 両足を今まで以上の強さで動かす。外にいたから丁度良かった。みんな基本的に内側を走ろうとするから、抜く時は外からの方が楽でいい。

 あっという間にさっきまでの順位へ戻り、更に前を目指す。と、そこで見えたのは……。

 

「セイさん……っ」

『第四コーナーを抜けて最後の直線に入ったところでセイウンスカイが力尽きたかのように下がっていくっ! それと入れ替わるように先頭へ躍り出ようとしたサイレンススズカだが、そうはさせじとトウカイテイオーがやってきたあっ! 異次元の逃亡者が駆け出す前に帝王が待ったをかけるっ!』

 

 思わず体が加速する。第四コーナーを抜けようとしたところで一人抜いた瞬間、不思議な感じがしたからだ。

 

 これなら……

 

「行けるっ!」

 

 前を走る四人の姿を見つめて夢中で足を動かす。その途中でセイさんとすれ違って目が合った。

 

行ってっ

「っ!」

 

 辛うじて聞こえた声に力をもらってより体が加速した。

 

 いつも明るくて柔らかいセイさんの声がかすれたようになってた。それぐらいギリギリの走りをしてたのに、私へ声援を送ってくれたってそう思ったら何が何でも勝たないとって思った。

 

『ここでスペシャルウィークが来たっ! 直線に入った瞬間から凄まじい加速で一気にセイウンスカイを抜き去り、遂に先頭へと襲いかかるっ! サイレンススズカは苦しいか伸びがないっ! トウカイテイオーが僅かに先頭っ! スペシャルウィーク間に合うかっ!』

 

 スズカさん達に届きそうで届かないっ! あと1バ身ぐらいなのにっ! もうちょっとなのにっ!

 なのに、なのに……先頭が遠い……っ! スズカさんとテイオーさんが、遠いっ!

 

『さあどうなるかっ! 先頭は僅かにトウカイテイオーっ! スズカは伸びないっ! テイオーだっ! テイオーだっ! ここでテイオーだっ! テイオーが完全に抜け出したっ! 曇天の下燦然と輝きを放ちながらっ! トウカイテイオーが一着でゴールインっ! 二着はサイレンススズカ! 三着はスペシャルウィークっ! 宣言通りの三冠ウマ娘へ向けてまずは一つ! トウカイテイオーやりましたっ!』

 

 そのアナウンスを聞きながらとぼとぼと減速する。掲示板を見ればやっぱり私は三着で、目を擦っても首を振ってもそれは変わらなかった。

 

「もう少し、早く仕掛けていたら良かったのかな……」

 

 答えは分からない。でも、でも一つだけ分かった事がある。今の感じをもう一度出来たら、ダービーは勝てるかもしれない。

 皐月賞は2000mでダービーは2400mだ。今よりも400長いなら、あの距離も届いたはずだから。

 

「スペ、残念だったわね」

「……キングさん。それにセイさんも」

 

 振り向いたらキングさんがいた。その隣にはセイさんもいる。二人共悔しそうな顔だ。

 

「いやぁ……最後まで持たなかったや。それでも五着。褒めて褒めて」

「はいはいすごいすごい。で、わたしは四着なんだけど?」

「キング凄かったよね~。何とか四着でゴール出来たと思ったら、その直前を一瞬で駆け抜けてくんだもん」

「あれが精一杯だったのよ。にしても、本当に無茶をするわね。でも、目的の半分は達成出来た、でしょ?」

「目的?」

 

 どういう事だろうと思って小首を傾げる。セイさんの目的って一着を取る事じゃないのかな?

 

「ん、まあね。そういうキングはどうなのさ?」

「……わたしも半分って事にしておくわ」

 

 この後のウイニングライブでテイオーさんはキラキラしてた。でもスズカさんはどこか笑顔に影があって、だけど私はそれに気付いても何も出来なかった。

 私は精一杯ライブへ集中する事しか出来なかったんだ。セイさんやキングさんの分までメインで頑張らないとって、そう思って……。




スズカの敗因はセイの粘りとテイオーの直感力です。
セイにずっと前を走られた事でストレスが溜まり、それを解消する間もなくテイオーが来たので最後精彩を欠いた形となりました。
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