一話 飛翔
〜翌日 早朝5時 訓練場〜
訓練場では剣がぶつかり合う音が鳴り響く。
「ふっ!はっ!せいっ!」
レアスキル『
対して来春はというと無言で回避と受けをひたすらに繰り返している。来春が持つCHARMはトリシューラ。3つの刃が傘が開く前のように配置されている姿は、切るというよりは、付きに特化しているように見えるCHARMである。
「どうしたんですか?!避けてばかり、でっ!」
風華の二刀による容赦のない攻撃が続く。挑発はしているが、来春がこういう動きをするときは決まってなにかを狙っている時であるというのは分かりきっている事なので、警戒しながら攻撃しているのだ。
ガラティンが大きめに振り下ろされた、次の瞬間だった。来春は大きく後退しトリシューラを前に掲げると、刃が本体から離れ三枚の刃が独立に無線で稼働した。所謂ビットである。
来春は力強く地面を蹴ると猛スピードで急接近する。
「マズっ?!」
先行した3機のビットを捌くので精一杯になっていた風華は来春の急接近に反応するため態勢を作ろうとするもビットが邪魔をして作れない。
「っ!」
顔に剣先が近づいたのでしゃがみこみ、反撃の機会を狙ったが既にそれを読んでいたかのようにビットの剣先が風華の頭を突いた。
「チェックメイト」
来春は静かに勝利を宣言した。
「相互ツークツワンクの間違いじゃないですか?」
風華は汗を流しながらも強がってみる。確かにビットは風華を捉えているがガラティンの剣先が来春を捉えているのも事実だ。しかし、風華には最大の盲点があった。
「風華を捉えていない2機目のビットが盾になり、3機目がシャスティフォルを封じるから完璧なチェックメイトだよ。そう思わない?」
来春の2手先まで読む戦い方に完全に負けた風華はため息をついて座り込んだ。
「つーよーすーぎーるー!ていうか何ですかそのCHARM?!」
風華は浮かぶ3機のビットを見て思わず叫んだ。
「百合ヶ丘が誇る工廠科が開発した第四世代ヴァンピールと、同じく第四世代エインヘリャルのノウハウを活かした第四世代CHARMトリシューラ。実践検証機だけどね」
3機のビットが親機と合体し、トリシューラは形を取り戻した。
「第四世代機ですか。でもまだまだ問題は多いと聞きますよ?」
訓練を見学していたグレースが来春に尋ねる。
「そうだね。精神直結型は脳に負荷をかけるから、高いレベルのリリィにしか扱えないというのが大きな問題点なんだよ」
グレースはなるほどと頷く。
「あのふらっと現れる天才アーセナルの天津麻嶺ですらギャラルホルンの完成には至っていないみたいですしねー」
どこから仕入れてきたかわからない情報を披露する風華であった。
由比ヶ浜が見渡せる屋上に三人は向かった。
「おーやってるやってる」
来春は浜辺でランニングをしている深い青髪の姉と綺麗な桃色の妹を発見した。
「夢結ってば、ほーんと柔らかくなったわよね」
風華は微笑んだ。
「そうなんですか?」
グレースが尋ねる。
「そうよ?一重にあの一柳梨璃って子のおかげね」
相変わらず浜辺の二人を眺める風華。
「梨璃さんは良い方ですからね。確か特殊なカリスマ持ちなんだとか」
グレースの髪が風に吹かれて靡く。
「オートケプヒン戦での最大の武功はあの姉妹といっても過言じゃないわ。そうですよね、来春姉様…ってアレ?どこに行かれたのかしら…」
屋上の姉妹は誰もいない階段の方に振り向いた。
〜同刻 由比ヶ浜〜
砂の上をざくっざくっとテンポよく踏みしめる音が二人分。契りを結んだ当時は週刊リリィ新聞で異色のシュッツエンゲルとか言われた梨璃と夢結である。
「リリィとしてよく成長しているわね、梨璃」
脚を止めた夢結は梨璃に笑顔を向けた。
「ありがとうございます!まだついていくのが精一杯ですけれど…」
梨璃は息が切れそうになっているにも関わらずなんとかついてきたのだ。
「…ちょっといいかしら?」
梨璃は「はい!」と頷くと二人は防波堤の上に座り、昇りつつある太陽を見つめながら夢結は話し始める。
「激戦が予想される外征にまだ経験が浅いリリィを持つ一柳隊をメンバーに加えていること。それに今回の外征を主導する木津来春様には謎が多いわ。風華に尋ねても答えてくれないし」
夢結は視線を落とす。
「…不安なのよ。誰かが命を落とすんじゃないかって」
「お姉様…」
梨璃は不安そうに夢結を見つめる。
「重要な作戦の時はいつだって誰かが命を散らしてきたわ。美鈴お姉様だって、それこそ結璃だって。覚えているかしら、私が梨璃に一番最初にルナティックトランサーを見せた時に戦ったヒュージのことを」
梨璃は頷く。
「沢山のCHARMが刺さってました。その数だけリリィを…」
「そうよ。リリィである以上はいつ起こってもおかしくないことだけれども、それでも大切な人を失うのはその人の運命や考え方を変えかねないのよ。例えば私のルームメイトの秦祀。彼女は自分の一つ下のシュッツエンゲルの契りを結ぶつもりだった幼馴染を戦場で失ってからは地域第一主義に傾倒したわ」
夢結の少し暗い表情を見て梨璃は急いで夢結の手を握った。
「大丈夫です!きっと私は死にません!」
「きっと、じゃ困るわ。絶対よ」
「えっ、あっ、そうですね!それに一柳隊のみんなも死なせません!」
夢結はもう片方の手で梨璃の手を上から握った。
「絶対に生きて帰るわよ」
「もちろんです!」
〜同日 7時 工廠科35号室〜
35号室には二人の人影があった。一人はこの工廠室の主人真島百由でもう一人は『トリシューラ』のテストリリィの木津来春だ。
トリシューラを解析室に入れてデータを眺める二人。
「どうなの?」
来春はトリシューラを眺める。
「相手が風華だったからか中々良いデータを取れました〜」
満面の笑みでデータのフィードバックを進めている百由。
「あ、でも心なしか0.3秒くらい反応が遅かった。アレは気になるね」
「依奈がエインヘリャルのテストをした時のデータをそのまま流用したのがマズかったのかな〜?」
一度、エインヘリャルのデータを参照した。
「そりゃ円環の御手を持ってるんだからマギの運用効率は高いでしょ。私はラストレターだからマギを効率よく回せるわけでもなしだよ」
百由はデータをちょちょいといじっては直すを繰り返している。
「もしすぐに戦いに出るならアパラージタを使ってくれませんか?再調整に3日はかかりそうで〜」
「頼むよ。CHARMは専門外だからね」
そういって百由に背を向けた。すると百由は
「そうは言いますけど、中々フギンくんのことはやたらと一生懸命だったじゃないですか?」
と一瞬来春の動きを止めた。
「アレがあることで安保理の連中と力関係をはっきりさせることができるからね。結璃さんの件でも相当頭には来てた」
そう言い残して35号室を去った。
「確かに来春様の尽力が無ければ結璃ちゃんは連れていかれていたでしょうね。まるでG.H.E.N.A.が連れ返しに来るのを予期していたかのように纏めてあったあんな膨大なデータを私に渡して、結局は中立の立場をとる。一体何を考えているんだろうかねぇ?」
自室の扉を見つめた。すると、その扉は開き
「百由さまー手伝いに来たぞい」
シルトのミリアムが機材をフギンに移す手伝いに来てくれたのだ。
「面倒かけてごめんね?助かるわー」
「百由さまは多忙じゃからな。ワシもシルトとして手伝わん訳にはいかんじゃろ」
〜百合ヶ丘女学院校舎 地下リニア駅〜
「百合ヶ丘の地下にこんなものがあるなんて知らなかった」
雨嘉はきょろきょろ薄暗いリニア駅を見る。
「私もです。ずっと昔から百合ヶ丘生だったのですけれど、いつの間にこんな施設ができていたのでしょう…」
神琳も驚いたように周りを眺めていた。
「百合ヶ丘が生徒に隠し事…なんて恐らくしたこと無いでしょうけど、これはびっくりですわ」
楓は夢結の方をチラッと見る。
「私も知らなかったわ。この先にあるものが何なのかは知っているけれどね」
夢結は特段驚いている様子ではなかった。
「あれ?夢結は知っていると思っていたんだけど」
そう言ってスタスタと近寄ってくるのが2代目アールヴヘイム、通称壱盤隊の主将天野天葉。
「知っている訳ないわ。そもそもこれを作ったのは百合ヶ丘ではないし」
「ではどこの誰が作ったのですか?」
天葉の横からひょっこり出てきた白髪の少女は江川樟美。天葉のシルトだ。
「それは…」
「ユグドラシル社よ」
夢結が答えようとした代わりに答えたのがどこからとなく現れた風華だった。
「特務レギオンスルーズとユグドラシル社がフギンの造船にあたっていたの。ちなみに静岡県富士川市街地下ドックに通じているわ」
その地名に反応したのが鶴紗だった。
「そこは…」
「ええ。鶴紗さんのお父様が国防軍指揮官として戦った戦場よ」
何故それをと驚くような表情で風華を見上げる。
「来春姉様から聞いたのよ。来春姉様ってばG.E.H.E.N.A.を異様に毛嫌いしているから、鶴紗さんのことも聞いて保護を提唱なさったみたいよ。鶴紗さんのお父様に着せられた濡れ衣を晴らそうと思って実地検証とか色々しているみたいね」
鶴紗は思わず風華に頭を下げた。
「あ、あのっ…」
「私じゃなくって姉様に頭を下げてちょうだい」
鶴紗は頷いた。
それを聞いていた依奈は一人納得していた。
「来春様という人物がなーんとなくわかってきた気がする」
なんやかんやしていると、リニアが到着した。
「こいつの最高速度は時速400km。ドックまで数分で到着するわ」
と風華が説明した。
作戦に参加するリリィたちが続々と乗車するとリニアはゆっくりと加速を始めた。
〜富士川地下ドック〜
「ようこそ、ドックへ。最終点検も大体終わってるしさっさと発進したい気持ちでいっぱいだから早く搭乗しちゃいましょう」
雑な歓迎挨拶と、いつになく目が輝いているように見える来春。
そもそもこんな巨体を見せられて驚く、というか唖然としているリリィがほとんどだった。
みな導かれるままにフギンのエスカレーター式タラップで乗艦する。
艦内はシルバーというか鉄の色を基調とするなんとも、『軍艦』らしい無駄のない内装だ。最後のリリィが乗艦すると、タラップは収納された。
程なくして
『百合ヶ丘のリリィの皆様に連絡です。乗艦されましたら、各レギオンの隊長様達にあらかじめ通達してある所定の部屋へ荷物を置いた後、ブリッジへおあがり下さい』
と無機質な機械音声が艦内に鳴り響いた。梨璃と天葉、水夕会ことLGレギンレイヴの主将工藤
「私たちは2階の第三エリアですね」
梨璃は一柳隊のメンバーを率いて臨時の控え室へ向かった。
〜フギン ブリッジ〜
「随分と明るくなったね」
来春はブリッジを見渡す。
「あれはテストで第1種戦闘配置時にしていましたからね」
操舵席のタッチパネルで発進前のチェックリスト点検をしているのは元百合ヶ丘のリリィで現在は国防空軍所属の操舵士の久留米亜紀だ。
「ご苦労様です、久留米二等空佐」
来春はキャプテンシートに座る前に労いを入れた。
「なんのですよ。私も早くこいつを飛ばしたくてたまりませんでしたから」
「それは何よりです」
来春が座るのと同時に、ブリッジに通じている中央エレベーターの扉が開いた。
「おおーここが…」
「ようこそ、ブリッジへ」
様々な情報が映し出されたパネルを眺めたりしてリリィ達は口々に話している。
「時間押してるし、手っ取り早く伝えるね。各レギオンの隊長、副隊長には本艦の艦長権限を与える。要はCHARMフギンと契約しろって意味だね」
キャプテンシートの目の前には輝くマギクリスタルコアがあった。
「契約者を記憶しておくメモリーコントラクトシステムと第四世代の技術として、半径3m以内の非接触契約システムが搭載されているからキャプテンシートに座ってさえいれば契約状態は維持される。何か質問は?ないならちゃっちゃと契約済ませちゃってね」
ということなのでスルーズの2人に加えて3レギオンの6人が契約を済ませた。
「じゃあ準備万端だね。みんな控室に帰って大丈夫だよ。あ、でも帰ったらシートベルトだけは閉めてね。普通に揺れるし危ないから」
来春に押されるようにして皆が控室に戻っていった。
「全艦発進準備」
来春の号令と共に一斉に発進前点検が始まる。
「全乗組員のシートベルト作動を確認しましたです。続いて、艦内の環境及び空調システム、通信システム全てオールグリーンです」
情報担当の赤来がパネルを操作しながら報告する。
「マギドライヴエンジン、アクティブ。いつでも発進できます」
機関長が報告する。
「全艦発進準備完了いたしました」
副長を任されている風華が最終報告をした。
「総員ご苦労様」
キャプテンシートから一度立ち上がり、完全体にアナウンスを入れる準備をした。
『全乗組員に告ぐ。フギンは間もなく発進する。作戦統括官の私からアナウンスを入れるのは作戦に参加する各ガーデンのレギオンのリリィが乗艦してからとするが、本艦の整備及び運航に携わる方々に感謝の礼を。みんな本当にありがとう。以上だ』
キャプテンシートに座り直すと、マギクリスタルコアは輝きを一層強めた。
「ドック上昇」
今まで微動だにしなかったドックが轟音と共に稼働する。
「艦体ロック解除」
艦を拘束する器具が外れた。
「マギドライヴ、イグニッション!」
来春のよく通る号令と共に艦体が静かに持ち上がる。
「シティーゲート解放確認」
「フギン、発進せよ」
「フギン発進します!」
亜紀は舵をグッと引くと一気に持ち上がった。
始めて全長400mの巨体が外界に晒され浮かび上がった瞬間である。
こうして空中万能作戦艦フギンは飛翔したのである。
〜来春様はいじりたい!〜
来春:皆さん初めましてぇー!来春です!尺無いんで今日のゲストは
咬月:高松咬月です。百合ケ丘女学院の理事長代行やってます。
来春:咬月様だーっ!あんなことやこんなことでいじります!
咬月:突然すぎやしないかね?
来春:理事長代行がそれ言います?あんなに愉悦してそうなのに
咬月:ん?
来春:手に仏舎利埋めてそうだし
咬月:それ絶対ワシじゃない
来春:めちゃくちゃ声似てますけどぉ?
咬月:それわしの声に似たどっちも非人間じゃな
来春:首を断ってそうな剣士なんじゃないかっていう暗殺者は?
咬月:それも別人、というかもはや人間じゃないのう
来春:獣連れてそう
咬月:それ最近リメイク発売されるやつの敵キャラじゃな
来春:あとはあとは・・・
ー(コーナーは)続く