──午前3時 G.E.H.E.N.A.グランサムラボ
「リリィ十数人に包囲されていますッ!」
グランサムラボの研究員が悲鳴をあげる。
「監視はなにをしていた?!」
「何者かわかるのか?!」
「百合ヶ丘の制服に酷似していますが・・」
包囲しているリリィの顔を映し出す。それを見た所長が凝視する。
「奥羽ラボのようにするのか。木津来春……」
彼らにとって悪魔の名を囁いた。
──同刻 グランサムラボ周辺
黒い影が14。ラボの周りを陣取っていた。
「本作戦の目的は強化リリィの救出と各種データの破壊にある。間違っても職員に手を出してはならない。私たちが悪になってはいけないということだ」
返事はない。隠密作戦に無駄があってはならないのだ。
「作戦開始」
来春の短い一言で来春率いる突入班がラボに突撃する。
「私たちは突撃する来春のバックアップに当たる」
光希率いるバックアップ隊が防衛用のメカヒュージとの応戦を開始すると、狙い通り研究所防衛に出てきたリリィたちとも戦闘となった。それに気を取られている間に来春たちは様々な防衛システムを次々に突破しラボ最深部へと到達しようとしていた。
「鶴紗さん。ラボのデータ破壊は頼むよ」
「わかりました」
来春は鶴紗が最深部の扉を開いたことを確認するとすぐさま走り出す。
(私の狙いは最初からこっちなんだけどね!)
ある扉の前まで来ると、アパラージタを大きく振って扉を確実に真っ二つに切断した。するとそこには白衣を着た男性が立っていた。
「そこを退いてくれるかい?」
来春は白衣の男性に出来るだけ表情を出さずに尋ねた。
「我々は人類の利益のためにリリィの力を高める研究をしてきた」
「けれど人道に反している」
「お前らリリィは人ではない!人類を超える力を持つと言う点やマギを持つと言う点ではヒュージとなんら変わりないだろう⁈」
白衣の研究員が声を荒げて言う。
「今のは問題発言だね。イギリスも批准している国際条約違反発言だよ」
返す言葉はない。人造リリィとして生み出された結梨ですら百由の功労で人だとすることになったのだから。
「そこの
来春は研究員の背後にいる長髪の少女を見据えて今度はハッキリと目的を添えて尋ねた。
「渡さないと言ったら?」
来春は一瞬考えた。すると
『ラボ職員の身柄拘束の上研究所防衛担当の全リリィが降伏したです』
赤来からの報告を受け、来春は研究員を見て少し笑みを浮かべた。
「ご苦労。光希を中心にして押収できるものは全部しちゃって。以上」
ブツッと切ると研究員は手を挙げた。
「どうやら退路も塞がれてしまったらしい。それに命あっての物種というものだろう?」
「そう、それでいいんだよ。
「何も覚えてないくせに、よくそういうことを言うよ」
アキラは呟く。
来春はアパラージタを下ろさずに近づいて挙げられた手を縛った。
「そこでおとなしくしておいて。動いたら斬る」
先ほどの笑みとはうって変わって、相手に恐怖を与えるような睨み方をしていた。するとアキラは何かに気づいた様子だったが「そうか…」と呟くと大人しく座り込んだ。
「どの個体も同じ見た目をしているのか」
横たわる人造リリィを眺めて思わず声を漏らした。
「ああ。君たちが保護した人造リリィと同じヒュージの幹細胞から造られているからな」
アキラは俯きながら説明した。
「そういうこと」
横たわるリリィはかつて特異ヒュージとの戦闘でその姿を消した一柳結梨に酷似、というかそのものだったのだ。
〜フギン医務室〜
「結梨、ちゃん?」
ベッドで眠るリリィを見て梨璃は医務室と廊下を隔てているガラス窓に釘付けになっていた。
「個体としては違う存在だけど全くの同一存在といっても過言ではないね。なにせ遺伝子の配列パターンが寸分違わないのが何よりの証拠だ」
穏やかな表情だ。来春は始めて結梨を見たときのことを思い出していた。真っ先にデータをとって解析に解析を重ねていた。G.E.H.E.N.A.が取り返しに来ることがわかっていたからだ。結果、来春の正確なゲノム解析情報と開発元のグランギニョルからの情報提供があって結梨のリリィとしての人権が認められたわけだ。
「せめて隣にいてあげてね」
そう一言だけ残すとその場から来春は立ち去った。
「来春様」
「夢結か」
医務室にやってきた夢結に名前を呼ばれ振り返った。
「その、梨璃は…」
「まぁしばらくあんな感じかもしれないかな?失った大切な人とそっくりなんだし、しょうがないよ。ともあれシルトを大切にしなよ」
「はい…」
夢結は短く返事をすると医務室に入っていった。
「シルトを大切に、か。なにかあげた方がいいのかな…」
自分の発言を振り返って考えると、そう呟いた。
〜フギン研究室〜
「それで、アキラお父様。この船の出来はどう?」
「素晴らしいの一言に尽きるな。CHARMには無限の可能性が秘められていると言うことだよ」
来春が捕縛したはずのアキラが研究室で好き勝手にいじっていた。というのも、あの時、地位と名誉と居場所の保証はするから協力してくれないか、と提案したところ快諾してくれたのだ。
「ボーディガーンの生態解明は?」
「うむ。あらかた完了している」
アキラはコントロールパネルを素早く操作すると大パネルに映し出した。
「本当にドラゴン型なんだ」
「しかもドラゴンらしく火も吐くぞ」
一体なんの遺伝子が変質したのか、謎は色々あるが目の前にそう言う奴がいるという事実は逃げない。
「こいつの最大の特色はワイバーン型のミドル級を大量に生み出すところにある」
「生成頻度は?」
「パターンによっては左右されるかもしれないが、10秒で一体が平均だろうな」
来春は腕を組んで困ったような表情をした。
「更に随伴のギガント級が数体単位でいると考えると、激戦は必至か」
「だろうね」
「もっと情報が欲しい」
来春は要求を重ねる。
「勿論だ」
アキラは短く返すと、またパネルに向き合った。
来春は素っ気なく研究室から退出した。
「まったく、休暇中だってのになんでこんな仕事が山積み…」
静かに愚痴をこぼす来春だった。
アキラ・ブラントンとは全く関係ないのです