とにかく、鉄雄くんたちは出てきません。
新聞の切れ端が風に飛ばされて、風宮朗生の前に落ちた。
その切れ端は見出しの部分だったようだ。
二木市、生物災害により壊滅状態
自衛隊の決死の戦いで鎮圧されたのは電気屋のテレビで知っていた。
あと、市長のとっさの判断で被害は建物だけで済んだ。市民は避難できたのだ。
さすがに二木市ほど酷いことになった事例は見られなかった。
しかし、世界中がこれにより改心に向かっていた。
隣人たちは以前よりも互いのことを気にするようになった。
そして悩んでいるようであったら、極力寄り添うようにした。
無理に問題の解決を図ろうとはしなかった。余計なことをして生物災害になったらコトだ。
だから、一緒にいるだけだ。それだけでも孤独を癒せるから。
風宮が久しぶりに訪れた風見野市もずいぶんと人情に溢れていた。
あの一週間以降、人々は他人に積極的に関わることに躊躇しなくなっていた。
少しでも他人を放っていたら、そいつが生物災害になるかもしれないからというのもある。
「・・・なんか昭和みてーだな」
彼は新しくできたという孤児院に向かった。
途中、親切な人々が案内してくれたが、その度にお菓子までくれた。
「杏子、いるかー?」
「はいはいっと・・・確か、お前は・・・朗生だったっけ?」
「そうそう、復讐目的で日本各地を旅してた朗生でーす」
「二年ぶりじゃねえか・・・ようやく終わったんだな」
「終わらせたというよりかは、強制終了だったけどな」
杏子は自分の部屋に朗生を案内した。
どうやら、神浜市から帰った彼女は数日後に保護されてしまったらしい。
まあ、待遇も悪くないので満足しているそうだ。
「それで、お前が追っていた奴はどうなったんだよ?お前が殺したわけじゃねえんだろ?」
「あの光で浄化されたのか知らんけど、消滅した」
「ひっでえな。完全に悪魔じゃねえか、そいつ」
「少々納得のいかん結末だったけど、ようやく神浜に帰れるんだ。
まあ、本当はしっちゃかめっちゃかけちょんけちょんにしてやりたかったけど」
彼は緑茶を啜る。
「・・・そういや、お前さ、幼馴染とかいなかったか?水波レナとかいうやつ」
「ああ、いたな。最近、すっかり忘れてたけど」
「いや、覚えとけよ!アイツ、かなり会いたがってたぞ?
今、電話してやるか?多分、すっごく喜ぶぞ」
「帰って寝たい。アイツに会うのはその後だ」
朗生は二年に及ぶ長い旅をようやく終えることができた。
その後、何が起ころうと、もう何も興味がなかった。
この事態にだって興味はなかった。
人類は怯えているが、同時に勇敢でもあった。
勇気をもって、他者と向き合うことを選んだ。
あの一週間以前の人類だったら、魔女狩りに似た事態に発展していたかもしれない。
だが、人々は悩める他者に寄り添うことを選んだのだ。
もちろん、生物災害になってしまった者に対するバッシングは依然として存在するが。
神浜市のとある料理店の娘がそうなったのがいい例だ。
だが、人類はそれでも進みつつある。そして、朗生はその進歩に興味がなかった。
優しい風が窓から吹き込んできた。
「・・・杏子、お前から見て今の世界はどんな感じだ?」
「一言で言うなら、ウザイ」
「だろうな。お前ならそう言うと思ったよ」
「・・・でも、心の底から気にかけてくれてるのも確かなんだよな」
朗生は立って、窓に腰掛ける。
「俺は別にどっちでもいいかな。住みやすくなるんだったら。
まあ、生物災害に殺されるのだけは勘弁なんだけどな」
「お前だったら倒せるんじゃねえか?」
「やれなくはないな」
世界は前と同じように厳しく、それでも優しくなった。
この心地よい風がその証拠だった。
その後、風見野市を後にして神浜に帰っていった。
決してレナに見つからないように注意深く家まで向かった。
前世と違い優しく愛情深い家族と住んでいた家に。
今ではもう朗生しか住む者がいない家に。
「・・・ただいま」
彼はシャワーを浴びた後、ソファに横になった。
彼はようやく安息を得ることができた。
この瞬間、ようやく転生者朗生の復讐譚が終わったということが実感できた。
血塗られた二年間はようやく終わりを迎えたのだ。
「・・・また優心に剣を返さねえとな」
包帯の巻きついた剣を見て、そう呟いた。
彼が光となったということも知らずに。
あなたはどれを選択しますか(ストーリーには関係しません)
-
壱
-
弐
-
参
-
肆
-
伍