「・・・まさか、生物災害に襲われるなんてな。
不運な目に遭ったな、お嬢さん」
「ふ、ふゆぅ・・・助けてくれてありがとうございます」
ぺたりとへたれこんだかえでの前に立っているのは一人の青年。
目元を包帯で覆い隠し、黒い服にも包帯が巻かれていて・・・。
さらには包帯のついた剣まで持っていた。
彼はその剣を腰に差して、かえでの手を取った。
魔法少女に変身するのが遅れてあわやというところで助けてくれたのだ。
「さて、この光はどうするべきか・・・」
青年にとっては不要なようだ。
だが、かえでたち魔法少女にとっては必要なものだ。
ライトはグリーフシードに代わる新しい資源だ。
「そ、その・・・信じてもらえないと思うけど・・・」
彼女はソウルジェムを取り出した。
すると、青年はとくに驚きもしなかった。
「へえ、魔法少女だったのか。
まさか、この光でも穢れが取れるなんてな。
てっきり、グリーフシードでしか無理かと」
「・・・知ってるの?」
「旅の途中で二回ぐらい会ったな。
一回目は近くの風見野市で。
二回目は変わった奴らだったな。
戦えないけど、調整できるっていうの。
まあ、黙ってるから安心しろ」
かえでは水波レナと十咎ももこをテレパシーで呼んだ。
あと、最近知り合った魔法少女の智珠らんかも。
「・・・俺が魔法少女だったら、全部独り占めしてたな」
「・・・聞こえてたの?」
「どうも俺も境が薄くなってるようで。多分だけどな」
彼は肩をすくめた。
「じゃあ、どうして私を助けたの?」
「目の前で死なれると気分が悪いからな。
目に映ったものだけでも助けるつもりだ。
それ以外も助けろっていうんだったら労基署に駆け込むぞ」
「・・・ごめんなさい」
「いや、お嬢さんの反応のほうが当然だろうな。
言ったろ、俺も境が薄くなってるって。
人間としての倫理観もだんだん怪しくなってきた」
そうこうしているうちに、レナとももことらんかが駆けつけてきた。
「アンタがかえでを助けてくれたのか!本当にありがとな!」
「いや、そこまで頭下げなくていいって・・・」
「・・・」
レナのほうは黙って頭を下げた。
「レ、レナ・・・お前、お腹でも壊したのか?」
「ひどいわよ、ももこ!私だって素直に頭を下げることはあるんだから!」
「ふゆぅ、やっぱりいつものレナちゃんだ」
「そうね、相変わらずね」
青年はそれを見て微笑んだ。
あくまで、口元だけしかわからなかったが。
「じゃあ、俺は帰るぞ」
「ま、待ちなさいよ!二年ぶりに会って、その態度⁉」
「・・・バレてたか、レナ」
「当たり前よ、朗生!幼馴染を忘れるほど薄情じゃないわよ!
どんなに変な格好をしていても、朗生は朗生だもん!」
なんと、レナと青年は幼馴染だったのだ。
道理でさっきは素直に頭を下げたはずだ。
しかし、かえでは不安になった。
この青年は境があやふやになっていると自分で明言した。
もし、彼がネジレになることがあれば・・・誰が手を下すのかが問題になる。
「俺が生物災害になってもか?」
案の定、青年はそう聞いてきた。
ネジレ、生物災害、化け物・・・名称は一致しないが、どれも同じものだ。
魔法少女はネジレ、公的機関は生物災害、まだ状況に慣れてないものは化け物。
そんな感じに呼んでるのだ。
「・・・当たり前よ」
さっきよりかは歯切れの悪い答えだった。
幼馴染を殺さなければ、光は手に入らないのだ。
「安心しろって。いざとなりゃ、審判は自分で下すつもりさ」
朗生の意図は明らかだった。自殺だ。
「・・・アンタ、どうして簡単にそう言えるの?」
らんかは青年の発言が不満のようだ。
確かに、自殺するというのは倫理的には良くない手だ。
まあ、増えているのも確かだが。ネジレにはなりたくないとばかりに。
「・・・生きるには、俺の罪は重くなりすぎたんだ」
彼はそう言いながら、剣の柄に触れた。
「この剣で二年間どれほど血を流したと思う?
復讐に走るあまり、無関係な奴らまで血祭りにあげてしまった。
しかも、肝心のターゲットはこの前の光で消滅だ。
人間だったはずだが、俺以上に黒くなってしまったんだろうな。
ともかく、
レナの悲しそうな表情を見て、青年は微笑んだ。
「安心しろ。当分の間くらいは生きるのを楽しむつもりさ。
ある日、俺が突然いなくなっても、俺が災害に巻き込まれたと思ってくれたらいい」
そのあと、四人で光を分割して、朗生も加えてゲーセンに向かった。
せめて、当分の間、一緒に楽しみたかったというレナの希望だ。
・・・らんかは朗生という青年に激しい嫌悪を抱いていたが。
この青年は、自分が死んだとしても災害に巻き込まれたと思えばいいと言ったのだ。
彼は境がだんだんと薄くなってるのか、それとも二年間の経験なのか、倫理もあやふやだ。
誰が死のうと、彼は言うに違いない。災害に巻き込まれたようなものだと。
彼はまさか自分が殺したものですら、災害に巻き込まれたものだと思ってるのか?
らんかは神浜の魔法少女を殺したいくらいに憎んでいた。
だが、この青年は違う。この青年は存在してはいけないのだ。
存在してはいけない生物、それがらんかの抱いた印象だった。
こんな生物が、普通に目の包帯を外し、普通に笑って、普通に楽しんでいる。
しかも、彼自体、その異常性を自覚しているに違いないのだ。
だから、さっきも自殺しようと言ったのだ。自分が異常だとわかっているから。
激しい嫌悪感が彼女を襲ったが、それを表情には決して出さなかった。
こんな者の存在を認めてはならない。そうしないと、こいつは絶対に言うに違いない。
「二木市の魔法少女が殺しあった?ご愁傷様。まあ、災害に巻き込まれたようなもんだ」
だからこそ、絶対に殺すと決めた。魔法少女ではないが、こいつは一般人ですらない。
ただの、存在してはいけない何かなのだ。かつての仲間たちのためにも、殺すのだ。
自殺なんて許さない。誰かの手で、絶対に審判を下さねばならないのだ。
これは復讐とは関係なしに、やらなくてはならないこと。
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伍