鉄雄とほむらは夏目書房で待機していた。
かこが疲労とストレスでダウンしてしまったのだ。
そうなると、店番も必要となる。
そこで、二人で店番をすることになったのだ。
華宵にはななか探しを引き継がせた。
人工妖精で見つかるのは時間の問題だろう。
「・・・それにしても、誰に殺されたんだろうな」
「八雲みたまか和泉十七夜のどちらかだと思うわ」
「ありえなくはないけど、どうしてだ?」
「あなたもななかには会ったでしょ?
あれがだいぶ強い魔法少女だというのはわかったわ」
「確かに。普通の魔法少女じゃ太刀打ちできないくらいにはな」
そうなると、魔女かより強い魔法少女のどちらかとなる。
そして、魔女は自然と容疑から外されることになる。
魔女はご丁寧に埋葬なんてしないはずだからだ。
シレンとかいう存在もいるそうだが、優心と似た優しい心を持ってるから無理だ。
ちなみに、鉄雄はシレンには会わないことにした。
会いたいのはやまやまだが、彼に迷惑をかけてしまうだろう。
「・・・そうなると、強い魔法少女なんて相場が決まってくるぞ」
「そうでしょ?でも、みたまと十七夜にしても疑問が一つあるのよ」
「なんだ?」
「遺体をわざわざ深いところに埋葬できるのかしら?
それも三人分の遺体を、深く掘った穴に?」
「それも夜の間にか・・・普通だったら見つかるな。
よほど早く掘れる道具を使わないとな?」
「そうなると、埋葬したのは別の誰かという線もあるけど・・・。
あの二人に、そこまで協力する奴がいるとも思えないわ」
二人がしばらく唸りながら考えていると、人が入ってきた。
一瞬、誰かわからなかった。それは朗生だった。
前に会った時よりも、どこか輪郭があやふやに見えるのだ。
「いらっしゃい、朗生。大丈夫か?」
「そろそろ大丈夫じゃないかもな。
今日はお別れの挨拶に来たって感じだ」
「・・・そうか」
今の朗生からすると、鉄雄の悲し気な表情は不思議に思えた。
どうして、他人の死を悲しんでいるのだろうか。
今、朗生が死にそうになっているのは災害に巻き込まれているようなものなのに。
どうして、彼は悲しそうなのだろう?彼はこうは思わないのだろうか?
自分は生き残れたから幸福だ
もはや朗生からすると鉄雄は異常者にしか見えなかった。
魔法少女だって異常者だ。自分は魔女にならなかっただけ幸運と思えばいいのに。
だが、それを口に出すことも表情に出すことも決してしなかった。
まあ、あともうしばらく自分の肉体と理性は保てるだろう。
「じゃあな、鉄雄。まあ、その剣を大事にしろよ」
「ああ、この前、さっそく助けられたからな」
道を歩きながら、彼は考えた。
異常なのは自分ではなかった。この世界なのだ。
隣人が生物災害になった?自分はそうならなかっただけ幸福と思え。
それなのに、彼らは怯え、隣人をいやに気に掛けるようになった。
もともと、この世界は異常だったではないか。
だが、余計にそれに拍車をかけたのがあの光だ。
朗生から復讐の完遂を奪ったあの光。
・・・もともと、朗生の前世は善良な人間とはいえなかった。
両親からの虐待はあった。毎日、殴られ、蹴られが日常だった。
その鬱憤を晴らすかのように、学校では加害者の立場となった。
適当に目を付けた同級生をターゲットにしたのだ。
家で受けた痛みを、自分がいじめていた人間に流す日々が続いた。
だが、そんな日々は当然のことながら終わりを迎えた。
被害者が自殺したのだ。もちろん、遺書をご丁寧に遺書を残したうえで。
このいじめを教師にバレないようにやっていたなら死ぬことはなかっただろう。
普通にバレていたなら、教師に叱られ、連絡を受けた両親にいつもより酷く殴られるだけ。
だが、一番最悪な形でバレてしまったのだ。
いつもより酷いなんてレベルじゃない暴力を受けることになってしまった。
当たり所が悪かったのか、それが原因で死んでしまった。
目の前が雲の上のような場所だった時、彼はそれを不思議にも思わなかった。
いつかはこうなるのが当たり前だと思っていたからだ。
「・・・えっと、君、転生する?いや、転生しないほうが本当はいいんだけど・・・」
神らしき何かがぎこちない様子で話しかけてきた。
はっきり言って、最高の話だった。
今度こそ、幸せな家族で、ちゃんと善良に生きたかった。
「チートいらないの?あったほうがいいよ?」
朗生は娯楽を与えてもらってなかったから、そういうのを知らなかった。
だから、求めなかった。神はそれでも必要だと言ったが、断った。
彼が得たのはまさに絵に描いたような幸せだった。
優しい家族、素直じゃないが可愛い幼馴染・・・何もかもが上手くいってた。
ある日、幼馴染の家に泊まった日・・・幼馴染以外の何もかもを失ったが。
後日、ある少年が自分の目の前に現れた。それは前世でいじめていた人間だった。
何もかもが彼に仕組まれたことだったのだという。
神様に転生させてもらえたのも、幸せな家族のところに転生できたのも・・・。
全てはこの瞬間のため、そしてこれからも苦しめるためだったのだ。
なんてことはない。つまり、この人生は被害者の復讐のために用意された茶番だったのだ。
茫然としているうちに、彼は去ってしまった。
幼馴染に関しては予想外だったとか言っていたが、よく覚えていない。
路地裏でずっと座り込んでいた。そして、泣いて、笑った。
そいつは肝心なことを忘れていた。復讐を遂げるまで、そいつは被害者だったに違いない。
だが、あんなむごたらしい復讐をしたならば、そいつはもはや加害者だ。
そして、今度は自分が被害者となってそいつに復讐する番だ。
こんな考えがくだらない自己弁護に過ぎないのは自分でもよくわかってた。
でも、こうでもしないと、この怒りは抑えられなかった。
「・・・君、大丈夫ですか?」
そして、そんな彼に力を与えてくれたのが優心だった。
エゴだとかエコだとかよくわからないが、とにかく上級の武器だった。
「余り物なので、どうぞ気にせず使い倒してください」
そんな武器を渡してくれた優心という恩人には刃を向けなかった。
しかし、神浜を離れたとたんに、あちこちに怒りをぶつけるようになった。
怒りがある程度収縮したのは、風見野で魔法少女に会った時だった。
まさかファンタジーな存在がいるとは思わなかった。
「いや、落ち着けよ」
「・・・」
さすがに少女を殺す気にはなれなかった。
「これ食えよ」
彼女はポッキーを差し出した。
「・・・いただきます」
少しは頭を冷やすことができた。
杏子と過ごした一週間は久々の安息だったのだ。
だが、爆発するような怒りが冷静な怒りになっただけだった。
やることは何も変わらなかった。怪しい組織をただ潰すだけ。
「・・・これ以上はやめとくんや」
再び魔法少女たちに会うことになった。今度は調整屋という魔法少女たちだった。
さらに、転生者という同類も付いてきていた。
「・・・酷い目をしているな。これ以上は何がなんだかわからなくなるぞ」
「・・・」
「アンタ、闇業界では噂になってるで」
しばらく交流をしている間に、少しは朗生の怒りも冷めてきた。
同じ転生者がいるというのも心の安定につながったのか?
それとも、彼女たちがカウンセリングができたからか?
「・・・お前の武器、あの男からもらったんだろ?」
「そうだけど?知り合い?」
「・・・俺はあの男に恩があるんですよ。俺の名もアイツに付けてもらったし」
「へえ・・・」
改めて、優心という人間の偉大さも思い知った。
こうして、九郎からもらった情報をもとにターゲットを探した。
そして、ついにその日はやってきた。二年もかけて、ここまで来たのだ。
「や、やめろ!そのキチガイ武器を捨てるんだ!」
復讐相手は九郎曰く、鬼滅の刃とかいう漫画のラスボスの能力を持ってるらしい。
もっと言えば上位互換らしく、日光に当たっても死なないそうなのだ。
本当に大した調査能力だと思う。日輪刀も効かないそうだ。
まあ、娯楽を前世の時に与えてもらってなかったからわからないのだが。
とにかく、わかるのは勝てるということ。
どういうわけか、この剣に怯えているのだから。
「くそっ、他の転生者も殺しておくべきだった!よりにもよってE.G.Oなんて・・・!」
「仕方ねえな。これがお前に与えられた罰ってことだ。
悔しけりゃ、また来世で俺に復讐するんだな。
まあ、その時はまた復讐しに行くけどな」
その時だった。光が世界を包んだのは。
そいつは光の前に塵となって消えたのだ。
こうして永遠に続くと思われた復讐の連鎖は断ち切られたのだ。
結局、朗生も何も得ることはできなかった。それどころか、境があやふやになっていった。
だが、彼は苦しんでいなかった。最初からわかっていたのだ。
自分が人間としての幸福を享受するにはあまりにも罪深かったと。
そして、その罪に対しては、他の誰でもない自分が審判を下すべきであると。
何も恐れは抱いていなかった。
もう、審判の結果なんぞは大災に遭ったのと同じようなものだ。
前世で酷い人生を送ったのも、今回の人生で報いを受けたのも、災害なのだ。
彼はもう何も恨んでなどいなかった。心が真っ白だった。
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参
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肆
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伍