「・・・優心と大違いね。
アイツもよくこんな妹を愛せたわね」
結菜は溢れ出る殺意を滲ませながら、そう言った。
優心は出るかもしれない犠牲に胸を痛めていた。
手記からはそれがよく読み取ることができた。
そして、どんな結果になったとしても妹である灯花の幸せを願っていた。
だが、灯花は違った。彼女は犠牲など何とも思っていなかった。
「優心さんも可哀そうっすね・・・こんな妹を持ってしまって」
ひかるも呆れながら言った。
そのころ、鉄雄はあることを思い出していた。
「あっ、地雷を踏まないようにアドバイスしとくの忘れてた」
「踏むとどうなるの?」
ほむらは訊いた。
「たぶん、あの様子だと怒り狂うと思うぞ」
鉄雄の読みはもっとひどく当たってしまった。
二木市の魔法少女たちは突然の殺意に圧倒されてしまった。
灯花は表情をとても険しくしていた。
その瞳には、小学生が抱くものとは思えないような憎悪が籠っていた。
「・・・どいつもこいつもあのクソばかり贔屓しやがって」
口調も、今までとは違い、余裕ぶったものではなくなっていた。
一瞬、彼女の輪郭があやふやになったように見えた。
「なんのデータもエビデンスも提示しないくせに、
ぼくはじんるいのびょーきをなおしたい、とかほざいて、
そんな空っぽの言葉に大人どもは信じてた!」
彼女はぎゅっと手を握りしめていた。
そこから、血が流れていた。
「姉さまも!ねむも!ういも!パパも!
あのバカ民俗学者も!その娘も!
みーんな、みーんな、あのクソに騙されてた!
それで、みーんなネジレになる運命になった!
わたくしも、あのクソにネジレにされる運命なんだよ!」
二木市の魔法少女たちは察した。
こりゃあかん、地雷踏んじまった。
彼女たちは傷つけられる痛みを知っていたのに、
敵を前にそれを忘れてしまったのだ。
「・・・もういい。あのクソには地獄を見てもらうから」
彼女はボディにマッチが刺さった大砲を生成し、
服はスカートから炭や灰にのようなスーツに変わり、
そして口元にはたばこをくわえるようにマッチをくわえていた。
「くふふ・・・兄さま、きっと泣きわめくだろーなー。
わたくしが何もかもを燃やしちゃって、兄さまの夢を地面に叩き付けちゃうんだから。
別にいいもん、わたくしはわたくしのやりたいようにやるもん。
わたくしは”里見優心の妹”じゃなくて、”里見灯花”だもん」
二木市の魔法少女たちは悟った。
こりゃあかん、もうおしまいだ。
結菜でさえも、たくさんの冷や汗を流していた。
灯花はネジレたわけではなさそうだった。
あの子は、間違いなくE.G.Oを引き出せるだろうから。
あの手記にあったE.G.Oとかいうのを引き出したのだろう。
研究室の書類にすらそれの存在は示唆されていた。
そこからは地獄だった。
大砲から放たれた火球で吹っ飛ばされ続けたのだ。
立ち上がるたびに吹っ飛ばされ、逃げようとしたら吹っ飛ばされ、
立ち上がれなくても吹っ飛ばされ、気が付けば阿鼻叫喚の地獄だった。
(地獄ってのは、これほど熱いのねえ・・・)
もはや息も絶え絶えの結菜の視界に現れたのは、天使だった。
「だ、大丈夫⁉」
よく見ると、それは天使ではなく環いろはの妹の環ういだった。
「だ、大丈夫よ・・・敵に心配されたくなんてないわ」
「あちこち火傷してるじゃん!無理しちゃ駄目だよ!」
彼女はスカートの裾を破って、包帯代わりにした。
そんな彼女たちに、灯花は砲口を向けた。
「・・・うい、あなたも兄さまの味方だったね。
ごめんね、うい。恨むなら、兄さまを恨んで」
彼女が火球を放とうとすると、何かが彼女を貫いた。
一言でそれを形容するなら、それは爪だ。
「安心しろ・・・ソウルジェムに傷はつけていない。
恩人の妹を、そう簡単には殺しはしないさ」
男はそう言うと、灯花から丁寧に爪を抜いた。
「先生、治療を頼みますよ」
「ずいぶんとざっくりとやったなー。まあ、これくらいは大丈夫や」
先生と呼ばれた魔法少女が痛みに喘ぐ灯花を担架に乗せた。
「・・・すまんな。これが俺のやり方なもんで。
俺の名前は九郎・・・あの男に名前をもらった」
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