空、風、星、そして光の種   作:ryanzi

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新しい人生

最初に言っておくと、彼のいた世界はすでに存在しなかった。

何が起こったのか、彼にも理解できなかった。

辺り一面、炎の海で、地面は割れ続けていた。

空は完全に闇に覆われて、海は干上がっていた。

気が付くと、自分はいかにもあの世らしい場所にいた。

 

「すまなかった。君しか救えなかったんだ」

 

神と名乗る男は土下座した。

彼曰く、世界は邪神という存在に滅ぼされたらしい。

正確に言えば、邪神と契約した人間たちの手によって。

彼らは転生させてもらう代わりに、世界のエネルギーを奪ったのだ。

エネルギーを奪った意味はなかった。ただ、邪神の愉しみのため。

 

「・・・神様、俺に力をください」

 

「ああ、わかってる」

 

彼は復讐を誓った。

それが彼の転生者狩りの始まりであった。

転生者狩りにはいくつか特権がある。

その一つははどんな世界の能力でも使えるということ。

彼はある作品の戦い方を選んだ。

Lobotomy Corporationの爪という戦闘員の方法だ。

実際、それは正解だった。

マイナーゲームということもあり、転生者は対策も知らなかった。

壁や地面関係なく移動でき、攻撃力もあり・・・。

そんな彼の特異な戦闘法を前に、転生者たちは無力だった。

そもそも、作中でも最強の戦力の一つに数えられるほどなのだ。

また一人、また一人と復讐を遂げていった。

殺した中には、別の世界からの無関係な転生者もいた。

だが、それでも彼は殺した。

もはや、彼の中では転生者という存在自体が忌むべきものだった。

転生者を探し出し、全員殺す。そして、別の世界に行き、転生者を探し出し・・・。

それの繰り返しだった。もう、何もわからなかった。

まあ、そのおかげで尋常ではない調査能力を得ることができたのだが。

 

「お前、転生者だろ?それも俺の世界を滅ぼした」

 

その日も、いつものように転生者を追い詰めた。

 

「わ、悪かった。謝る。お願いだ、殺さないでくれ」

 

夕暮れの砂浜で、転生者は命乞いをした。

 

「あんた、転生者狩りだとしても、反省しているものを殺したりしないよな」

 

彼はため息をついて答えた。

 

「たとえば小石を湖を投げたとしようか。

あとでその小石が欲しいと思ってもだ、

それは二度と湖の底からあがってこないぞ?」

 

意図は明白だった。

 

「く、くそう、俺を殺るつもりか!」

 

彼にできることは、転生者を滅ぼすことだけだったから。

いつものように、転生者に向かって突進していった。

だが、それは転生者の策略だったのだ。

 

「時間稼ぎ成功っと。じゃあな~。

俺はこのリリなの世界でハーレムを楽しむから。

お前は絶望しかないまどマギ世界を愉しみな」

 

その転生者の能力は次元を歪めることだけではなく、

対象から次元移動の能力を奪うことだった。

次の瞬間、彼は上空に放り出されていた。

受け身をとることもできずに、ダメージを受けてしまった。

傷ついた体を引きずって、人気のない路地裏を進む。

出血が酷い、骨もどこか折れているだろう。

どこか、休める場所が必要だ。でも、いったいどこに?

休んでいる間に襲撃されるなんてことは珍しくもない。

いつも返り討ちにしてやったが。

歩いている間に、だんだんと意識は朦朧としてきた。

そして、ついに彼の意識は飛んで行ってしまった。

 

「なんて酷い怪我でしょうか。

これはいけません。早く治療しないと・・・。

みたまさん、少し待ってください」

 

「・・・わかったわよ」

 

目が覚めると、彼は横に寝かされていた。

体に巻かれた包帯や、消毒薬の匂い・・・。

誰かが治療してくれたのは確かだった。

 

「あっ・・・良かった、目を覚ましてくれましたね」

 

感覚でわかるのだが、治療してくれたのは転生者だった。

だが、彼からは何の悪意も感じられなかった。

一言で言うなら、聖者であろうか?

すっかり忘れていた優しさが彼からは感じられた。

・・・それとは正反対に、彼と一緒にいた少女の瞳からは憎悪しか感じられなかった。

転生者狩りの特権にあらゆる作品のデータベースを見れるというものがある。

その少女の名前は八雲みたまだ。

どうして彼女の瞳に憎悪が籠っているのかも、知っていた。

しかし、聖者である転生者にすら気を許していなかったのだ。

まあ、わからなくもない。憎悪というものはそう簡単には溶けるものではないからだ。

 

「僕は里見優心と言います!君の名前はなんていいますか?」

 

「・・・名前、そんなもんはとうの昔に捨てたな」

 

優心のほうも彼が転生者だということがわかり、

それも只ならぬ事情があると察してくれた。

 

「じゃあ、九郎というのはどうですか!」

 

これは後の話だが、夜寝ている間にようやく理解できた。

九郎というのは、(Claw)が由来だったのだ。

 

「九郎・・・いいかもな」

 

こうして九郎の新しい人生が始まった。

彼は優心たちに付いてゆき、ピュエラケアに身を寄せた。

みたまが修行をしている間、彼は色々と手伝いをこなした。

なんとなしに、リヴィア・メディロスに引き取られることも決定してしまった。

 

「リヴィアさん、どうか一つだけでもいいんです。

光の種シナリオには、どうしても幻想体が必要で、

その幻想体を作るためにはグリーフシードが必要なんです」

 

「・・・わかった。アンタのシナリオに賭けてみるわ」

 

優心がピュエラケアを訪れたのは、光の種シナリオとやらのためらしい。

だが、原作ではそれはアンジェラというAIに崩されたのだ。

 

「・・・優心、本当に成功できるのか?

もし、裏切りとかがあったら図書館だぞ?」

 

「大丈夫ですよ。ぜーんぶ、僕一人でやるので」

 

「なるほど、それは成功しそうだな。

・・・それで、みたまはどういう役割なんだ?」

 

「とくにどういう役割というわけでもないんですが・・・

そうですね、言うなれば外から見届けてもらいたいと」

 

彼は腕時計みたいなものを取り出した。

 

「これで施設内で経過した時間を見ることができるんです。

みたまさんたちには、ぜひ外から見てもらいたいんです。

そして、そのあとの世界に森が出来上がるのも見守ってもらいたいですね」

 

「そ、そうか」

 

「あと、足りないグリーフシードの転送とかもですね」

 

そこで、今度はみたまに聞いてみた。

彼女は九郎には憎悪の瞳を向けなくなっていたから話しやすかった。

優心に対してはどういうわけか相変わらず憎悪を向けていたが。

 

「みたまさん!」

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

「みたまさんは、優心さんのことをどう思ってるんですか?」

 

「・・・」

 

彼女の表情は、まさしく無だった。

転生者狩りをしていた彼でも、こんな表情は見たことがなかった。

 

「あの、俺、何かマズいこと聞いちゃいましたか?」

 

「・・・あなたは優心のことをどう思ってるの?」

 

「・・・聖者、ですかね」

 

それが正直な感想だった。

彼は身を光にしてまでも、この世界を救おうとしているのだ。

そんな転生者は今まで見たことがなかった。

 

「・・・そう、あなたも変わらないのね」

 

みたまはそう言って、その場から立ち去った。

そして、別れの日がやってきた。

 

「九郎さん、渡したいものがあります」

 

彼は昔の朝鮮人が書いた詩集を渡した。

空と風と星と詩・・・優しい心のこもった詩集だった。

それから二年の月日が流れた。

その間に、また転生者に出会った。

彼はかつての九郎と同じように憎悪に囚われていた。

そして、彼もまた優心と出会っていたのだ。

改めて優心の偉大さを思い知った。

そして二年目・・・光が世界を包んだ。

ゆっくりと前に向かって生きていける気がした。

・・・脳裏に、みたまの表情がよぎった。

彼女はまさか・・・そのまさかだった。

世界は闇に包まれ、そして人々がねじれ始めた。

そして、今、彼は神浜市の大地に立っていた。

これから何が起こるのかはわからない。

だが、大事なのはピュエラケアの面々を守ること。

彼女たちもまた恩人なのだから。

そして、みたまと話をしなくては。

・・・もちろん、田中鉄雄とかいう人間の手助けも。

彼は不思議な人間だ。転生者なのに転生者ではないのだ。

同じ世界で死に、同じ世界で生まれ変わったのだから。

だからなのか、精神も真っ当なものだ。

優心もそんな彼を信頼して、後継者に選んだに違いない。

・・・今度こそ、光の種シナリオを完成させるのだ。

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