空、風、星、そして光の種   作:ryanzi

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無関心の代償

参.お互い、干渉せずに仲良くやろうや

 

善意と無関心、それにより人類は平和を得てきたという。

もはや指導者がなんと言おうと、民衆は武器をとらなくなったからだ。

無関心は確かに平和を生むのかもしれない。

だが、三体Ⅱ黒暗森林において主人公の羅輯は言った。

 

沈黙は最大の軽蔑だ

 

愛の反対は無関心であり、無関心とは一種の沈黙だ。

そして、沈黙は最大の軽蔑なのであった。

鉄雄たちは神浜の魔法少女たちの戦いに無関心を貫いていった。

十七夜とみたまもそれで何とか納得してくれた。

九郎が強く説得してくれたのも大きかったが。

そのためにかことも二木市の魔法少女とも縁を切った。

ただネジレを倒し、光の種を淡々と集めていった。

魔法少女たちがどんなに争い、そして傷つこうと・・・。

彼らはまったくもって、神浜の涙に無関心だった。

そして、ついに光の木を立てることに成功した。

それは無関心とは反対の概念を世界中に降り注がせた。

人類は、前を向く勇気を得ることができたのだ。

そして・・・魔法少女は関心を持った。自分たちを無視した存在に。

無関心の反対は愛であると同時に関心だ。

その中には、憎悪も含まれていた・・・。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

あれから4年の月日が流れた。

鉄雄も今では立派な大学生となった。

光の影響で、彼もまたトラウマに耐えられるようになった。

そう、前世と同じ大学・・・神浜市立大学に合格したのだ。

そして、ある男と再会することができた。

 

「へえ、お前もこの大学だったのか。見滝原にも大学はあるだろうに」

 

「やっぱり、前世と同じ大学がいいんですよ。村宮先輩」

 

「敬語じゃなくていいよ」

 

村宮、優心の従者だった男だ。

彼は優心から転生者という存在について教えてもらっていたらしい。

 

「じゃあお言葉に甘えて・・・人間不信は治ったのか?」

 

「まあな・・・ちかがいたおかげさ」

 

「ちか?」

 

「青葉ちか・・・その子も人間不信だったんだ。

そして、北養区の山中に住むようになったというか・・・。

最初はお互い無視していたんだけど、いつの間にか話すようになって・・・。

そうだ、今度遊びに来いよ。いい感じの小屋を二人で作ったんだから」

 

「そうだな、そうさせてもらうよ」

 

春の穏やかな空気にキャンパスは包まれていた。

蘇るのは、前世の学生運動の記憶。

今では、誰も政治なんてそこまで気にしていなかった。

無関心なのだ。でも、悪い意味ではなかった。

要は何とか主義とか壮大な主張になってないだけの話だ。

もうそんななものになびく必要はなかった。誰もが自分を愛していたから。

村宮と別れて、キャンパス内にある散策道を歩いた。

1970年代にはなかったはずだが・・・何かの記憶を消そうとしているかのように。

うららかな光に照らされていると、一人の女性と出会った。

彼女は密生しているクローバーから四葉のクローバーを探しているようだった。

 

「うん?君も探してみる?」

 

説明会とかは終わったので、時間はたっぷりと余っていた。

 

「じゃあ、ちょっと探してみますね」

 

「敬語じゃなくてもいいよ~、同じ一年生でしょ?」

 

とりあえず、二人で四葉のクローバーを探した。

でも、意外とそういうのは見つけづらかった。

ようやく一つ発見できて、それを女性に渡した。

 

「えっ、いいの?」

 

「いいよ、俺の親友(しんゆう)だったらそうしただろうし」

 

あの光を受けてから、どこか行動規範が優心を意識したものになった。

それもあって、後悔することがなぜか増えた。

どうして、魔法少女と協力しなかったのだろうかと。

魔法少女といえば、ソウルジェムは完全に濁らなくなった。

全世界の魔法少女が救済されたのだ。

神浜には自動浄化システムとやらがあったそうだが、それもいらなくなったらしい。

らしい、というのはすべてまどかからの伝聞だったからだ。

今に至るまで、神浜とは一切縁がなかったからだ。

それでも、鉄雄は瞳を持っていた。鎖を断ち切り、恐怖に向き合う瞳を。

だからこそ、ようやくここまで来ることができた。

 

「・・・その親友さんって、私の知ってる人に似てるね」

 

「たぶん、同じ奴だと思うぞ。こんな本持ってたろ?」

 

例の詩集を懐から取り出す。

 

「うんうん!その人ね、色々なことにすっごく関心を持ってたんだ」

 

「だろうな・・・じゃないと、あんな夢は持てなかった」

 

二人は散策道を歩き始める。

 

「みんなの病気を治すって夢?」

 

「そうそう・・・そんな壮大な夢だ。

よく考えたら無謀なのに、俺は惹かれたんだ」

 

「私も同じ感じだったな~」

 

「それでさ、アイツはもしものことがあったら、

俺が後を引き継いでほしいって言ってきたんだ。

でも、上手くはいかなかったな。

アイツだったら、ちゃんと関心を持ってたから」

 

「・・・後悔してるの?」

 

「してるさ・・・なあ、魔法少女なんだろ?」

 

「・・・うん」

 

直感でわかるようになったのだ。

神浜にいたおかげだからなのか?

 

「みんな、俺のことどう思ってんだ?」

 

「ネジレ探偵だったってわかったら・・・。

多分、あまりよくない目に遭うと思う」

 

散策道が重い空気に包まれる。

 

「なら、もうすぐ終わりだな。

・・・ああっ、くそ。華宵の奴、

一人旅に出たのはそういうことだったのか」

 

彼女はこのことを見越して、逃げたのだ。

今まで、気づくことができなかった。

 

「・・・観鳥令という魔法少女が死んでも、

俺たちは一切の無関心を貫いてしまった。

それどころか、彼女の死を・・・無意味にしてしまった」

 

「・・・みんな、そのことでキミのこと恨んでる。

あの日の光のせいで、今までの戦いが無意味になっちゃったから。

二木市の魔法少女たちにも会わないほうが・・・」

 

「そうか。それは・・・最悪だな」

 

散策道の果てには、記念碑があった。

それは学生紛争を忘却するための記念碑だった。

あの日、一人の学生が命を落としたから。

正気と融和と自由主義を説いた学生の血をぬぐうための記念碑・・・。

 

「ここがいいな。一人にしてくれ」

 

「・・・だめだよ」

 

女性は鉄雄の意図を察したようだ。

 

「・・・お願いだ」

 

鉄雄の意思は固かった。

 

「・・・わかった」

 

「最後に、名前を教えてくれないか?」

 

「・・・相野みと」

 

「そうか、俺は田中鉄雄だ」

 

彼女はゆっくりとその場を後にした。

鉄雄は三十分待った。そして、その時はやってきた。

 

「・・・遅かったな」

 

「・・・」

 

現れた魔法少女は鉄雄に殺意を向けていた。

 

「・・・レナちゃん、といってもあなたにはわからないよね」

 

「ああ、知らんな。知っておけばよかった」

 

「じゃあ、朗生って子は覚えてる?」

 

「ああ、覚えてるさ。ひどく印象に残ってたから」

 

彼は殺されたのだ。そして、それを目撃していた。

らんかに殺されたのだ。そして、鉄雄はそれを見逃した。

魔法少女のやることに無関心を貫くためだった。

 

「レナちゃんはその子の幼馴染だったの」

 

「・・・あいつは死を望んでいた」

 

「だとしても・・・!レナちゃんはそれを望んでなかった・・・!

ねえ、あの光のあと、レナちゃんがどうしたか・・・」

 

彼女の表情は一気に暗くなった。

 

「・・・後を追ったのか」

 

「みんな、あなたのことを憎んでる。

どれだけ苦しくても、あなたは無視した。

朗生くんって子も、あなたが無視したんだよ・・・!

だから・・・せめて、その苦しみの一部くらいは・・・!」

 

「・・・お前の名前は?」

 

「秋野かえで・・・今さら関心持っても、遅いよ・・・!

かこちゃんも、みんな、みんな、苦しんだのに・・・!

どうして、あのとき、私たちを気にかけなかったの・・・!

どうして、助けてくれなかったの・・・!

どうして、何もかもを無意味にしたの・・・!」

 

ああ、そうか。鉄雄はようやく思い出した。

前世の記憶を照らし合わせて、ようやく気がついた。

ここは、前世で自分が死んだ場所だった。

前世の自分も無関心だった。

そんな自分が突然、傷つけあっていた学生たちの前で演説した。

そして、演説を聞いた彼らは激昂したのだ。

自分たちの理論をけなされたからではない。

 

「どうしてこうなるまで手を差し伸べてくれなかったんだ!

こんなに俺たちが傷つけあったのに、どうして今まで無視してたんだ!」

 

自分は何も変わっていなかったのだ。

そして、前世と同じように、ある祈りを心の中で捧げた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「ただいま、ちか」

 

「お帰りなさい、村宮くん」

 

「今日、昔の知り合いに出会ったよ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「今度さ、ここに誘おうと思うんだ」

 

「うん、いいと思うよ」

 

この二人の絆は強かった。

もちろん、時に喧嘩することもある。

だが、それでも乗り越えることができた。

お互いに、関心を持っていたからだ。

関心を向けるというのは、憎悪を向けるだけではなく、愛を向けることでもあるのだから。

関心を持つというのは、最大の尊敬といえるのだ。

村宮はカレンダーをチェックして、友を誘える日を確認した。

もう、その友はこの世にいないということも知らずに。

 

 

神さま、ぼくの死ぬ日が美しく清らかであるようにして下さい

ラ・フォンテーヌの寓話(ファーブル)のよき農夫のように

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