鉄雄は着替え、優心からもらった本、そして計算尺を風呂敷に包んだ。
刀を取りに行こうとしたら、院長が持ってきてくれた。
「・・・どこに旅するのかは訊かないが、諦めるなよ」
「わかってるって」
そして院長は竹皮に包まれたおにぎりも渡してきた。
彼の作るおにぎりはどれも激辛なのだが。
「持っていけ、院長命令だ」
「ひゃい」
鉄雄は涙を流しながら受け取った。
別れから来る悲しみではない。
こんな劇物を受け取る屈辱感からの涙であった。
孤児院の玄関を出ると、ほむらが待ち構えていた。
「・・・本当に行くつもりなの?」
「ああ、そのつもりだ」
鉄雄はそのまま進んで行き、ほむらはそれに付いていった。
院長はそんな二人の姿を見て、溜息をついた。
「僕はね、愉悦勢になりたかったんだ・・・と言いたかったけどなあ。
まさか面白半分で始めた孤児院経営がこんな結果になるとは。
転生者が孤児としてやってくるとも思わなかったし。
でも、まあ、これはこれで面白いからいいかもな。
それにしても、ロボトミプレイをしたのはどこのどいつなのかやら。
まんまと裏切られたみたいだし・・・招待状が届くのを楽しみにするか」
そんなことも露知らず、二人は歩き続けた。
鉄雄の後を、ほむらが黙々と付いていく。
最初に沈黙を破ったのは、鉄雄の方からだった。
「なあ、俺に付いていかなくてもいいんだぞ。
あくまで、俺はかつての約束に従っているだけなんだから。
何もお前が自分から巻き込まれる必要もないんだぞ」
ほむらは呆れながら答えた。
「あなた、自分が弱いってわかってるの?
いくら武器が良くても、あなたの体が耐えれる保証もない。
魔女や転生者だっているし、もしかしたら魔法少女も敵に回るかもしれないのよ。
私だったら、いくらか手伝えると思うわ。
こんなこともあろうかと、暴力団や在日米軍基地から色々と拝借したから」
「不法侵入と窃盗かよ・・・なんか、すまんな」
「いいのよ。あと、4日間の光が必要なんでしょ?
それでまどかが無事でいられるなら、なんだってするわ。
あの子のことだから、変なことにはならないと思うけど」
二人はただ歩き続けた。
「・・・待って、徒歩で行くつもり?」
「鉄道だと神浜市のど真ん中に着くじゃねえか。
転生者や魔法少女は普段は普通に暮らしているはずだ。
もしそいつらが敵だった場合は、敵地のど真ん中に着陸することになる」
「・・・理屈はわかるけどね。いいわ、これくらいは苦じゃないから」
「そう来なくっちゃな」
「荷物を渡しなさい。私の盾に収容できるから」
鉄雄は刀以外の荷物をほむらの盾にしまってもらった。
刀は、彼の背中に背負うことにした。
「そういや、ソウルジェムって肉体疲労でも濁るんじゃなかったか?」
「濁りが遅くなってるのよね。これまでよりも格段に。
もし、ちゃんと七日間ぐらい光が続いたら、どうなってたか楽しみだったわね」
見上げれば空は気恥ずかしいぐらい青かった。
二人はひと株の草もないこの道を歩いていく。
これからどんな期待、嘲笑、戦いが待ち受けていたというのだろう。
それでも、鉄雄は残酷な奇跡の時代が終わっていないという信念を持っていた。
二人が歩くのは、失くしたものを探すため。
ふと、両手が空いていることに気がついた。
両手がポケットをまさぐり
道へと出向いていったのです。
──尹東柱
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