空、風、星、そして光の種   作:ryanzi

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人間不信になった従者

鉄雄とほむらは山中を歩いていく。

 

「・・・ここは、北養の山中だな」

 

「あら、来たこと・・・あったわね、そういえば」

 

鉄雄は大学生時代に北養の山中を散策したことがある。

当時からこの地区は自然を称えていた。

東西対立の中ではどちらかというと中立でもある。

だから、よく立ち寄っていたのかもしれない。

南凪?あそこは危険地帯だ。今はどうだか知らないが。

 

「たまに世捨て人が住んでいることがあるんだよ、これが」

 

「へえ・・・あんな感じに?」

 

ほむらの指差した先では青年がテントに逃げ込んでいた。

 

「そうだな・・・可哀想に、ありゃ重度の人間不信だぞ。

1970年代じゃ珍しくもなかったな。内ゲバとかあったし。

かくいう俺も殺されるくらいの学生紛争だったんだぞ。

多分、俺が最初の死者だな。調べてないから知らんけど」

 

「そうなのね・・・光の種が蒔かれても人間不信はどうにもならないのかしら?」

 

ほむらの言葉を聞いた青年は、ゆっくりとテントから出てきた。

 

「お、お前・・・光の種をどうして知っているんだ?」

 

鉄雄は目の前の青年が関係者だと察した。

 

「俺は里見優心から失敗した後のことを任されたんだ。

田中鉄雄だ。あいつから聞かされていなかったのか?」

 

「・・・あの方が親友(チョルチン)と呼んでいた者なのか?」

 

「そうそう、俺たちは親友(チョルチン)だったんだ」

 

あの方、という呼び方から優心は青年から慕われていたのだろう。

少し安心したようだが、それでも怯えが残っていた。

よほど、酷い目に遭ったのだろう。

 

「・・・敵は何だ?」

 

鉄雄は率直に聞くことにした。

青年を酷い目に遭わせたのが敵に違いない。

そして、その敵が優心の理想を撃ち砕いたのだ。

 

「神浜だ」

 

よくよく考えてみたら、人間不信は何もかも信じられない状態を指すともいえる。

いくらなんでも神浜全部が敵とか無理にもほどがある。

 

「・・・聞き方を変えよう。一番の敵は何だ?」

 

「和泉十七夜、八雲みたま・・・その二人には気をつけろ。裏切者だ!

そいつらが、あの方の計画を打ち砕いたんだ。

あの方の計画は二人のためでもあったというのに・・・!

もういいか?あの方の後継者とはいえ、今は放って欲しい・・・」

 

「・・・わかった。すまない、平穏を乱してしまって」

 

二人はテントを後にした。

 

「・・・まどかと連絡を取ってみたわ。

やっぱり、二人と同じ名前の魔法少女がいるわ」

 

「そうか、ありがとう・・・ところで、まどかは大丈夫なのか?」

 

「あなたも人間不信が伝染したみたいね?

まどかは応援しているわよ、あなたのことを。

ちゃんと、誰かを信用しないとやっていけないわよ」

 

「・・・そうだよな。優心も誰かを信用できる人間だった。

アイツの後継者である俺が誰かを信用しないでどうするって話だよな」

 

「その調子よ」

 

二人はそのまま歩き続け、ようやく山を抜けることができた。

一方は魔法少女で、一方は転生者ゆえの加護からか、体力は有り余っていた。

それでも歩き続けたら腹が減るのは当然だ。

 

「この近くにウォールナッツという洋食店があったはずだが・・・」

 

「残ってるの?」

 

「明治から続いているんだ。さすがにしぶとく残ってるだろ。

万々歳とかいう中華料理屋の無事は保証できんが」

 

街では放心状態になっている人を何人か見かけた。

おそらく、光の種の影響だろう。

この東西対立のあった神浜は変わりつつあるに違いない。

彼らはようやく歴史に振り回されず、個として生きるのだから。

 

「・・・まあ、個として生きるのもいきなりは大変なんだろうな」

 

「そういえば、あなたは前世だと何主義者だったの?」

 

「しいていえば、自由主義者であり個人主義だった。

でも、右も左も自由主義と個人主義なんて大嫌いだったから。

まあ、俺がこうして平然としていられるのも個として生きていたからかもな」

 

そこで、鉄雄は何かを思ったようだ。

 

「・・・思えば、あいつらは自分を愛せなかったんだろうな」

 

「どういうこと?」

 

「自分を愛することができなかったから、壮大な主張に飛びついたんだ。

労働者と学生による世界革命とか、愛する日本を守るとか・・・。

小さい自分を何とか隠すために、そんなものを使ったんだよ。

まあ、団塊世代はどちらかというと、オルテガの言う大衆に近かったから。

人間不信という状態はまだマシなんだよ

あれはまだ自分という存在を信じていられている状態だから」

 

そして、彼は溜息をついて、話を続けた。

 

「多分、優心は本当に自分も周りも愛することのできる人間だったろうな。

そうじゃなきゃ、光となって世界を包むことなんてできないから」

 

「・・・それなのに、その愛していた人たちに裏切られたのね」

 

「・・・愛というのは必ずしも相手が受け入れてくれる感情ではないからな。

時にグロテスクで、何もかもを切り刻むナイフになるから」

 

二人はウォールナッツの前に立ったが、嫌な臭いを感じた。

鉄雄は自分が殺される時に、ほむらは今までの繰り返しで。

人がむごたらしく殺されたときの臭いだった。

ほんのかすかにだが、それが一瞬だけ漂ったのだ。

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