気が付けば邪神の掌だった件について   作:コンソメ

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ボッチではない

魔法学園のパーティーは貴族のものよりはカジュアルだ。500年前にこの世界に召喚された勇者をはじめとする迷い人たちが強く関与したこの国ではその特徴が強い。学園内のパーティーには平民も出席できるのだ。ただ、貴族はいい顔をしないからほとんどの平民は出席しない。学園の中は治外法権扱いとはいえども、人間関係は外に引き継がれるからだ。

 

結果どうなるかというと——————俺がボッチになる。

 

これは全部貴族どものくだらない慣習が悪い。俺は悪くない。平民も全部含めれば俺だってしゃべる相手ぐらいいる………気がする。

 

会場には多くの人が集まっていた。今回の会は、表向きは王女と隣国貴族の歓迎会となっている、がその実本質的には王女と隣国の貴族との関係構築を目的とした貴族どもの腹の探り合いだ。

 

正直、そんな会にお呼ばれされても困るのだけど。腐っても伯爵の地位にいるので、断るわけにもいかない。

 

とはいえ、参加はしても喋る気にも踊る気にはなれない。きらびやかな装飾と流麗な音楽は俺から見ても美しい。だが、居心地がいいのかといわれればそうではない。

会場に入った瞬間いっせいに俺の方を見て全員が会話をやめた。5秒間の沈黙は室温を下げた。王女がいなかったら戻らなかったかもしれない。

 

隣国の貴族と王女にあいさつする前に軍関係者と他の貴族には声をかけられた。ただもちろん友好の証というわけではない。嫌味を言う者もいれば、自分を売り込む者もいた。例外なくその貴族たちの顔には色濃い恐怖と嫉妬と憎悪が浮かんでいた。どうして貴族というのは、どこの国も変わりがないのだろう。もちろん、貴族の中にも真っ先に敬意を示すような好人物はいるが、多くの貴族がまず俺を牽制しに来た。出る杭は打ちたくて仕方がないのだ。特権に守られた自分の立場を脅かされたくないから。それはここに通っている貴族の子供たちも同様だ。ドレスを身にまとい、煌びやかな輝きを放つ女性たちにダンスをと誘われたが、すべて断った。思惑が透けて見えるからだ。というか、俺の後ろで浮遊している邪神が勝手に解説してくれるから余計に怖い。

 

「はぁ……」

 

現在進行形で貴族たちのひそひそ話が耳に届く。

 

「あれがエルサゾール伯爵か」

「何でも帝国の捕虜を同じ捕虜に殺し合わせて戦意を折っただとか」

「まあ、何と恐ろしい」

 

「レイモント侯爵の悪事を白日の下にさらしたのは彼だろう?」

「危険だな」

「だが友好関係を築けばその心配はないでしょう」

 

「成り上がりの平民風情が」

「他国からは将軍を差し置いて戦上手などと囁かれているらしいですな」

「ですが彼の功績はたやすく覆せないでしょう」

 

「彼の遺跡関連の貢献は大きい」

「学園にいるうちに仲良くしておくべきか?」

 

「どうやら彼王子と折り合いが悪いようですな」

「ですが、第二王女と仲が良いのだとか」

「ふむ、やっかいですね」

 

聞かなかったことにしたい。8割は身に覚えがない。尾ひれがつき過ぎだ。絶対に、俺を隠れ蓑にした他の貴族の仕業が混じってやがるな。

 

壁によりかかり、グラスに注がれている果汁水を飲む。歓迎会(舞踏会)であるため、酒も用意されている。だが、どうにも口に合わなかった。酒が嫌いというわけじゃないが、こういうところでは酒を飲む気にならない。もし仮に口が軽くなったりしたら危険だからだ。部屋以外では飲みたくない。王女と貴族に挨拶だけしてそろそろ帰ろうかな…いや、王女が帰る前に帰るのは流石によくないかな。

 

だいぶ貴族たちのあいさつ回りが終わったようで王女と隣国の貴族の周りの人が減ってきた。そろそろあいさつに行くか。

 

「お久しぶりです。殿下。お元気そうで何よりです。レリック殿はお初目にお目にかかります。ノワール・エルサゾールです。長旅お疲れ様です」

 

そう言いながら相手の様子をうかがう。エリス王女は相変わらずだ。いつも通り聖女を演じている。金髪の髪を揺らしニコニコとした笑顔を張り付ける彼女の仕草は男心を掴んで離さないだろうが仮面の下は真っ黒。マイペースな性格で、強かで腹黒い一面も持っている。そんな女だ。

 

「これはご丁寧に。レリック・ホーンです。よろしくお願いします、エルサゾール殿。貴殿の活躍は我が国にも轟いていますよ。なんでも、4年前の戦争ではあなたの策で10倍の兵力差をひっくり返し勝利に導いたのだとか。それに、凄まじい戦上手とか。様々なお話を耳にします」

 

くすんだ金髪に深緑の目。物腰柔らかな印象の中に強い警戒心を感じる。絶対に戦争の話以外にも根も葉もないうわさを聞いてるだろ………。一体どんな活躍が轟いているのやら。とりあえず握った手を放してほしい。痛いから。

 

「お二人とも。ここは学園ですしもう少し砕けてお話しなさってはどうですか?」

 

かわいらしく計算された首の傾げ方と上目遣い。アストロメリアが天然ものだとすれば彼女は人工物だ。

 

しかし、本性を知らなければそんな思考にも至らないようだ。レリック・ホーンは赤面している。しかし、今回は助かった。

 

「では、私はこれで。後が閊えていますから」

 

そう言ってそそくさとその場を逃げ出した。そして会場を去る前に捕まった。ピンク色ルーニーに。

ピンク色の髪。アメジスト色の瞳。黒に近い紫色のドレスを身にまとったアストロメリアは綺麗だった。他の言語が出てこないくらいには。だが、後ろの邪神が殺気立っているのですぐに意識が戻った。

 

「何か言うことないの?」

 

「さっきとは違った雰囲気を醸し出しているせいか、しばらく見惚れてしまいました。………これで満足か?」

 

「ん。ぎりぎり合格」

 

どうやら満足らしい。人懐っこい笑みを浮かべて頷くアストロメリアを見てそう判断する。

 

「アストロメリアがこういったイベントに来るのは意外だった」

 

アストロメリアの常時発動型の魅了魔法は耐性のないものからすれば危険なものだ。花の匂いに吸い寄せられるように男たちが群がってくる。パーティという体裁が保てなくなる可能性すらある。

 

「強度は操れるから…。すごく疲れるけど来れないわけじゃない、よ?」

 

それでもある程度は目を引いてしまうだろう。正直、魅了無しでも目立ってしまうぐらい容姿がいいからだ。

 

「でも目的がわからないな?こういった催しが好きなのか」

 

「嫌いじゃないけどそうじゃない。君に会いに来たの。言ったでしょ、また来るねって」

 

言ってはいたが…。さっきの話じゃん。

 

「君はあんまり学園に来ないから、今日を逃がすと会えないと思った。だから来た」

 

つまるところ数時間前にあっさりと引いたのは俺を油断させるためだったわけか。こいつ、ルーニーに見えてかなり頭が回るな。

 

「断るならこのまま会場まで引っ張っていく、よ?」

 

強い意志を感じる………。すでに俺の緋礼服の袖を掴んで離さない彼女の眼が雄弁に語っている。ここでこいつと追いかけっこをするのは勝ち目がないだろうな。さっき食堂で見せた魔法を使われたら逃げ切れる自信がほぼない。俺の得意分野は小細工とハッタリとここぞという大技だ。正面突破は分が悪すぎる。両腕を上に上げ、降参アピールをする。

 

「ハァ~。わかった。わかったから。場所を変えてもいいか?なるべく人目につかない所がいい」

 

結局この少女から逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「飲食店の個室か…悪くないな」

 

王都東部の広場は大きな噴水を中心とした場所でここを起点として飲食店や観覧街が広がっている。そこにある一つの店。学園からの移動時間はだいたい1時間半といったところだ。

 

「貴族とか王族とかはあんまり来ないから逆に最適」

 

ちょっと誇らしげにしゃべっている彼女を見ながらメニュー表を見る。貴族や大商人を対象とした店ではないため、財布に優しい。学生にはちょっと高いが俺もアストロメリアもただの学生ではないのだからいいだろう。

 

正直センスがいいと思う。テーブルに黄色く燃えるキャンドルが置かれていて、淡い光と天井から降り注ぐ暖色光が心を温める。キャンドルをメニュー表でできるだけ遠くに動かし、再度個室の中を見回す。扉には防音魔法の刻印が施されている。装飾や模様に交じって施された刻印は見慣れた人間でなければ見落としてしまうだろう。うまい運用方法だと思う。

正直、アストロメリアの手に平な気もしなくもない、が気にしない。手札もなくここまで来たりしない。

 

「で?何が知りたいんだ。本質的にお前が知りたがっていることを教えろ」

 

「………!神父さんがどういう人だったのか教えてくれればそれで———」

 

「アストロメリア。俺は善人じゃない。誠意も利益もないやつに情報をくれてやるほどお人好しにはなれないぞ」

 

アストロメリアは数舜迷った後に諦めたようなため息を吐露した。

 

「………私の家がガレウス領を治めてるのは知ってる?」

 

「ああ、それは知ってる」

 

アストロメリア家は500年前に現れた異界の勇者の末裔の一家だ。それ故かなり特殊な環境で、一番の特徴は唯一王族の命令を無視できることだろう。勇者の末裔とされる家は四つ。この四つの家は王族の命令を拒否することが許されており、例外は現国王と他6家の公爵家の連名のみだ。これは国王が暴走した時にそれを止める人間が必要だからだと言われている。そんな特殊な家の一つであるアストロメリア家のもう一つの特徴は情報網の広さだ。これは所有している領地の多さに起因する。アストロメリア家は王族の代わりに問題を起こした貴族から取り上げた領地の管理を任されてる。あくまで一時的なものなのでアストロメリア家の利益にはできないのだが、その土地周辺の情報は入ってくる。

 

「数週間前ガレウス領で大量の焼死体が発見されたの。一見すると街の一角が火事になっただけなんだけど、中にいた人の焼死体が奇妙で…何というか人体の内側から燃えたみたいな感じだったみたいだったの。これって、2年前のフィオネリオの殺人事件と類似してるんだ。惨殺された死体の方が多かったから焼死体の話はあんまり上がらなかったんだけど、実際には結構いたらしいの」

 

「………スノー孤児院からも身元不明の不可解な焼死体が見つかっている。だから、スノー孤児院を調べだしたのか?」

 

「そう、ほとんど勘なんだけど………原因が不明なんて説明を領民にしたくなくて」

 

なるほど合点がいった。孤児院から後日発見された焼死体。全部俺の知らない子供たちだった。あの日のことを忘れたくてあまり深くは調べていないが神父に協力者がいた可能性は昔から考えていた。それにしても原因が不明で終わらせたくないっか。誠実な少女だと思う。でもそういうのは嫌いじゃない。これが本音ならだが…。

 

 

「俺がスノー孤児院の出身って知ってたんだな」

 

「うん。あなたの義父がオックスベル・スノー神父だってことも知ってた。…ごめん」

 

事情を隠して俺のことを調べ、情報を取ろうとしていたことに罪悪感を覚えているのだろうか?

 

「何でお前が謝っているんだ?別に気にしてない。あの時断ったのはめんどくさかったからだ。それに………俺はあの神父のことを知った気になっていただけだ。………何も知らなかったんだ………幻影を見てただけ。何がほんとだったのか俺にもわからない」

 

優しくて誠実だった彼は俺がただ理想としていたものだったのだろうか。それは今でもわからない。

 

「スノー孤児院に焼死体があったのは本当だ。孤児院の地下深くに大きな部屋があったらしい。全員俺の知らない子供たちだった。たぶん俺が来る前の子供たちだ。記録上では全員引き取り手が見つかって引き取られた子供らしい。俺が知っていることは以上だ。あの時の俺はこれ以上を調べる気力がなかった。内側から焼かれたようだったかどうかはわからない。ただ、確実にあの孤児院には何かがある…今回の事件と関係があるかは知らないけどな」

 

「………」

 

俺は話している間、扉の方に視線を向けアストロメリアと視線を合わせないように苦心していた。だが、話し終えてすぐに鼓膜を震わせる魔性の声に視線を持っていかれた。

 

「君から見て神父は———優しい人だったんだね」

 

長い沈黙の後、放たれた彼女の言葉はありふれたものだったのになんとなく懐かしかった。

 

「………ここまでの感想がそれかよ?それは意味のない話だ。実際、あの男が孤児院に子供たちを手に掛けたのは本当だし、戦った騎士団の人間の多くが傷つき、散っていったんだ。俺と戦った時あいつは本気で殺しに来ていた。これは動かない真実だ」

 

貴族殺しや辻斬り。その他諸々の罪は俺が見ていないから知らないがこれだけは俺にとっての真実だ。

 

「………手伝ってくれない、かな?調べるのを」

 

正直いつかは向き合わないと、と思っていた。良い機会だと思う。そういったことを考える前に言葉が先にこぼれていた。

 

「ああ、いいぞ」

 

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