イキリ噛ませと我儘魔剣   作:胡椒こしょこしょ

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ポッと出の転校生に負けるわけがないんですけお!

あの後、授業は恙無く進み五時限目はあっという間に訪れた。

そして、今僕はアリーナへと続く通路の中で壁に身体を預けていた。

今日は、あの転校生と戦う。

 

思えば、彼は最初から僕に対しての礼儀を崩さなかったり、僕に対してのリスペクトの姿勢が窺えた。

そう考えるとボコボコにしてしまうのが忍びない。

....だが、僕は選ばれしエリート。

それに可哀想だからなどという理由で手加減するのは失礼に当たるだろう。

行き着いた者は、到達者として頂点に君臨し続けなければいけない。

父もそう言っていた。

 

「...つまりは、いつも通り彼と対峙すればいいってことか。」

 

ボソリと呟く。

通路には僕以外誰も居ない。

だからこそ、その呟きは静寂を切り裂くように通路に響いた。

 

右手の誓約を見る。

もはや痛みもなく、いつも通り。

やはりそううまくいくわけもないか。

...だが、確かに契器の動きを察することが出来たなら成長だろう。

僕は確実に成長している。

 

自身の成長を再確認していると、放送が僕の耳に入る。

 

「第2アリーナにて交戦予定の生徒は入場しなさい。」

 

女性の声。

それを聞いて、ゆっくりと席から立ち上がる。

やれやれ...出番か。

まぁ剣を振るうのだ。

勝ちが確定していたとしても心だけは引き締めないとな。

 

そう意気込むと通路を一歩、また一歩進んでいく。

そして光見える方向へと最後の一歩を踏み込むと...明りが僕たちを上から照らす。

球場などのようなドーム型。

その外延部にはクラスメイト達が雁首揃えて僕を見ていた。

 

そして目の前には転校生にして今日の僕の交戦相手、戦場神斗が立っている。

その表情は息を飲む、緊張しているようだった。

僕もその張り詰めた空気を感じている。

しかし、僕はそんな瞬間を見せるわけにはいかない。

僕は榊原の人間だ。

生まれながらのエリートであるからこそ、常に余裕を見せなければ。

 

「....もしクラスメイトの目の前で負けてしまったら...って思っちゃってる?それなら覚悟してるんだな、僕は今から転校生の君を手も足も出ない程にコテンパンにするからさ」

 

そう挑発するように言葉を口にする。

すると、彼はそんな俺の言葉に答える。

 

「俺も....負けるつもりは、ないよ。切り裂け<無銘斬月>。」

 

そう言って彼は腰元に手をやる。

すると手の甲の誓約が光り、虚空から一本の日本刀が引き抜かれる。

武骨で何の飾りもない日本刀。

それを見て、つい笑ってしまった。

 

「オイオイオイオイ....どんな物かと思えば、一番位の低い、自己強化しか出来ないありふれた汎用物じゃないか。あーあー、心が痛くなるなぁ?弱いもの虐めになっちゃうからさぁ....」

 

そう言うと両手を前に出して、左掌から右手で引き抜くように動かす。

すると左掌から剣を引き抜く。

ギザギザと鋭い諸刃の剣。

柄の近くには髑髏。

そして刀身は背骨のようなデザインになっている。

ただただ苛烈で、禍々しい雰囲気を漂わせている。

 

「<歌う骨(シンガスカル)>....一番位の高い魔眷に位置する一振りさ。精々上手に踊ってくれよ?コイツの歌でさぁ!?最下位!!!」

 

そう言って地面を剣先で削りながら剣を振り上げる。

その瞬間、目の前の彼を地面をしっかりと踏み込む。

その構えは居合によく似ている。

一気呵成に決めるつもりか?

....なら僕も、舐められたものだなぁ!!!

 

「歌えェ!!!<交響死編>!!!!」

 

『Aaaaaaaa!Laaaaaaaah!!!LaLaLaaaah!!!』

 

そう叫んだ瞬間、地に響くように高音と低音が入り混じった声が剣から轟く。

すると、髑髏のぽっかりと空いた眼窩から楽譜の五線のような物がおびただしい程に飛び出してくる。

こちらに迫る神斗。

それ目掛けて飛んでいく五線を、彼は跳び上がって避ける。

そしてこちらに目掛けて降りざまに一太刀入れる気だろうか?

だが、無駄だ。

 

「ッ、しまっ.....!」

 

彼も気づいたのか言葉を漏らす。

強引に軌道を変えて、素早く彼目掛けて飛んでいく五線。

それは空中で無防備な彼を取り囲むように位置していた。

そして殺到する五線。

 

「っ、まだっ....決まったわけじゃ.....!」

 

そう言葉にするも、歯を噛み締める神斗。

身を捩って一撃は避けるが二撃目、三撃目で両足を裂傷を作る。

更に歌う<歌う骨(シンガスカル)>。

無常に更に五線が湧き出し、彼に殺到する。

 

もはや、彼の姿は見えない。

五線が集まり、団子のように空中で滞空している姿しか見えなかった。

なり行きは違うが、いつもこうだ。

 

「....これで終いか。誰か僕にまともに戦わせてくれる人が居ない物かねぇ?これじゃあつまらないなぁ。....どうした?公演は終了だ。拍手喝采で主役を見送れよ?」

 

後ろを向くと、アリーナの観客席で俺を見ているクラスメイト達を見る。

誰しもがアイツもダメかと言った顔で沈んでいる。

おいおい、僕が勝ったんだからもっと手放しに褒めてくれても良いだろ?

もしかしていつもこんな感じで勝っちゃうからこれが当たり前に見えたのだろうか?

そうだとすれば、やれやれ....エリートは求められる指標が高くて辛いねぇ?

 

そう溜息を吐いた、その瞬間。

クラスメイトの目の色が変わる。

ん?どうした?

僕を拍手で見送る気にでもなったのか?

そう思った矢先、後ろから鋭い殺意。

肺が引き攣るような感覚と共に、背中に剣を持っている手を回す。

 

鋼のぶつかる音。

視線を後ろに向けると、神斗が。

いつものパターンでやったと思った彼が僕の目の前に居る。

 

「...は?」

 

どうやって僕の歌を切り抜けた?

あの五線は当たれば裂傷と共に、相手の体力を喰らう。

あんな数の攻撃を食らってしまえば、立ち上がることすら叶わないはず。

....なんにせよっ!!

 

肩を外して体の向きを変えつつ、蹴りを彼に入れる。

蹴り飛ばされた先で彼は綺麗に着地する。

僕は相手をしっかりと見ながら肩をはめなおす。

 

すると彼はおもむろに口を開いた。

 

「やっぱり君は強い。剣の能力も、剣の振り方も....」

 

「ハン、剣の振りについてはまだ見てないだろ。」

 

僕がそう笑うと、彼は首を横に振った。

 

「今の斬撃、君が間接を自由に着脱できるなら、例え無理な姿勢においても相手に一太刀を与えることが可能なはずだ。それが君の本来の剣技....違うかな?」

 

「....違わないが、それが分かって何か君に優位だとでも?」

 

....なんで、僕の技能が割れた?

たった一太刀。

しかも関節の状態なんか相手から見ても分かるはずがない。

なんだ....コイツ、何か違う。

今までの連中とは、何かが....。

 

駄目だ、動揺するな。

表に出すな。

常に優雅であれ。

それがエリートとしてのあるべき姿だろう。

 

ふてぶてしく笑ってそう問うと、彼は一切表情を変えずに答える。

 

「いや、純粋に凄い。とても凄いよ君の剣技。...でも、分かってしまったから。だから敬意を以て、この一太刀で終わらせる。」

 

一太刀だと?

一撃でこの僕を倒すと言っているのかコイツは。

なんておかしい、ネタで言ってんのか?

 

「は、はは.....思い上がるのも大概にしろよ。剣技が割れたことなんて、大した問題じゃない!!歌え!!!!」

 

そう言うと、剣から五線が飛び出して神斗目掛けて迫る。

その五線の内の一つに乗って、僕は駆け出した。

どのようにして五線を突破したかは分からない。

でも、これなら五線をなんとかしようと、俺が切り裂く。

これが俺のとっておき!

そう目の前の相手を視界に入れて、走っているとふと彼が消えた。

比喩でもなんでもなく、本当に目の前から消失したのだ。

 

「なっ....!」

 

そして次の瞬間には俺の背後で刀を振りぬいた状態で立っていた。

迫る五線だけじゃない、俺の視線すらも掻い潜ったのか....!?

背後で彼は一言。

 

「<一糸霹靂>...君の攻撃も、意識も何もかもの隙間を縫った。」

 

その言葉を聞いた瞬間、視界の隅に血が迸るのが分かる。

見れば腕や足、背中からも裂傷から血が出ていた。

痛みと引き攣りから身体が自由に動かせずに地面に落下してしまう。

そんな彼は対照的に最初からなんら変わらない様子で綺麗な着地を披露する。

 

「かっ...はぁ...ぎっ....はぁ....あがっ....っ....!!」

 

ただ痛みから声を漏らすしか出来ない自分。

 

暫しの静寂。

しかしその次の瞬間には観客席から拍手喝采が鳴り響き、アリーナを揺らす。

それを地面に伏せながらも、聞いていた。

 

僕は....負けた....のか?

そんなの....そんなの!

 

「まっ....だだ....まだ、僕は、負けて....ない。」

 

そう声を振り絞ると、剣を支えになんとか立ち上がる。

彼はそんな僕を見ると、無情にも剣を降ろす。

観客席のクラスメイトは、なんで立ち上がってるんだ寝ていろよと言わん視線で見てくる。

 

「...もう無理だ君は、そんな状態でまともに戦うことは.....」

 

「うるさい!....僕は....僕は...。」

 

分かってんだ、そんなことは。

今まで味わったことがない程の痛み、そして身体から力が穴の開いた風船のように抜けている。

でも、それでも俺はここで倒れるわけにはいかない。

 

「そうだ...僕は、負けちゃいけない。榊原正刃、在学中無敗にして現在も最高峰に位置する剣豪。...幾重もの先祖が築いた道、名家に生まれた人間は、その道を歩む義務がある。」

 

父の姿。

そして父が自分と同じ頃くらいの時の逸話。

それからそれない人間でありたい、でなければいけない。

 

「君のような....今日出てきたような、ポッと出の奴に....負けるわけには、いかないんだっ!!」

 

そう言うと、彼は真摯に僕の目を見て口を開いた。

 

「...俺も、君と同じだ。負けれない....負けられない理由がある。」

 

そう言って観客席を見る。

その視線の先には、レイエンヴィッヒ。

見つめ合っている。

...女の為だと?

そんな浮ついた理由で対峙した奴になんか、僕は....絶対に!!

 

「そうかよ....でも、僕の剣はまだ折れてない。まだ戦える、歌えるんだ!歌え!!<歌う骨(シンガスカル)>!!!」

 

そう叫ぶ。

しかし、何も起こらない。

....どういうことだ?

 

「おい、どうした?歌え....歌え歌え歌え歌え歌え!!!なんでっ....なんで歌わないんだ!?歌えよっ!!歌ってくれよぉ!!!」

 

縋る様に剣にそう叫んだ瞬間、剣に亀裂が入る。

そして.....。

 

『お前、才能ないよ。』

 

ハスキーな女性の声が僕を嘲笑った。

その声が脳裏に響いた瞬間、剣が割れて消えてしまう。

 

「あっ.......」

 

その瞬間、心が折れた。

今のは....まさか、僕の魔眷。

歌う骨(シンガスカル)>の.....声?

君が答えてくれないのは、いつもそう思ってたから....?

 

そう思った瞬間、身体から力がフッと消えた。

ばたりと倒れて今度こそ身動きが取れなくなる。

そして今度こそと言わんばかりに割れんばかりに拍手が鳴り響き、神斗に対しての賞賛の声が響く。

なにも....分からなかった。

相手が何をしたのかすら。

自身の契器にすら嘲笑されて、拒まれて見放された.....。

 

「くそっ....ちくしょう......。」

 

歯軋りをして吐き捨てる。

しかしそんな敗者の声など誰も聞いちゃいなくて。

 

かくして拍手喝采を要求し、自身を主役と呼称した男は万雷の喝采を浴びる主役を尻目にその踏み台として横たわるしかなかった。




次は敗北後の彼になります。
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