僕と儀式屋さんの魔女結婚儀   作:ぺっぱーみとん

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 初めまして、ぺっぱーみとんと申します。
 この作品はジャンプにて連載されていた「magico(マジコ)」(全8巻)の二次創作です。知らない方は原作買ってください! お願いします!


はじめの話

 

「好きです!」

 

 ここは『鷹の翼の大陸(イグリアス)』。『無謀者のみる墓(フール・タウン)』。魔法を求める者が集う町。

 

「絶対、ぜっーったいに幸せにしてみせます! 僕と結婚してください!!」

 

 その町のとある流行らない店で、青年──アラン・ガントレットは求婚(プロポーズ)をしていた。

 魔法も何も使わない、ぶつけるのは愛の言葉だけ。この世界では珍しいくらいストレートな告白だ。

 

「お断りします」

「ぐあああーーっ!!! 今日もダメか!」

 

 そして玉砕、窓際で()()()()()()()をめくる女──ライラ・サクラーレは慣れきった様子で顔すら向ける様子もなかった。

 

「今日で何度目だったかな?」

「99ですね。全敗です」

「懲りないなぁ君も。最近は罰ゲームかと思ってるよ」

「失礼ですね。これは純愛ですよ」

「世間ではストーキングと呼ぶんじゃないかな」

 

 この告白と玉砕の繰り返しが始まったのは二月ほど前から。それから1日1回欠かすことなく続いている。それも毎度変わらない台詞で。はっきり言って異常、初めは応援していた近隣住民も通報を考え出している。

 

「そろそろ諦める気にはならない? 君にはこんな三十路の女より、もっと若い娘をお勧めするよ」

「歳なんてどうだっていいんですよ。僕はあなたがいいんです。他でもないあなたが」

「……そうか。だからって1日に2度も受ける気はないけどね。さ、今日のお仕事を手伝ってもらおうか?」

「喜んで!」

 

 告白1回につき1つ仕事を手伝う。それが2人の間で決められた約束。そして99回目の今日も始まる。

 

「じゃ、まずはそこに立って」

「はい! 気をつけでいいですか?」

「今はね、そしたらこれを──」

 

 ライラの仕事は『儀式屋』である。では儀式屋とは何をするのか? それは説明する前に、魔法とは何かを説明しなければならない。

 『魔法』。それは森羅万象と世界の法則に干渉し支配する力。不可能を可能とする奇跡。空を飛んだり、火を吹いたり、箒を操ったり──数千年前に発見されたそれらは、今や人々の生活になくてはならない技術として浸透している。

 

「次これ持って、そしてこのポーズして」

「はい、はい!」

 

 そして魔法を習得するために行われるのが『儀式』。人が人の枠を超えた力を得るための『(コンパイラ)』。その内容は魔法の種類やランクによって様々。中には単独で行うには困難なものもあり、そのサポートを生業とする者こそ『儀式屋』なのだ。

 

「はあっ!!」

「オッケー」

 

 つまり今、アランが両手に豚肉を持って荒ぶる鷹のポーズをしているのも儀式。決して変態行為ではなく、本人は至って真面目にやっている。

 

「……で、これでどんな魔法が使えるんです?」

「相手の魔法、及び呪いを弾き返す魔法だね」

「つまり反射(カウンター)ですか!? とんでもなく希少な魔法をこんな方法で……」

「発動方法は豚肉を弾きたい魔法に叩きつけること」

「クソ魔法だ」

 

 ただしクソ魔法も存在する。

 

「確認ね、はい火球(これ)反射して」

「……えい」

「おおー、本物だったんだ」

「出なかったら流石にキツいですよ」

 

 ライラが放った小さな火球をアランの豚肉が弾く。肉に火が通ることはなく、魔法が正しく習得できたことが確認された。

 これが手伝い。メジャーではない儀式が本当に正しいかを検証する。……99回目ともなるとかなり特殊になったが。

 

「今日はおしまい、豚肉は持ち帰っていいよ」

「……今日の晩飯にします」

 

 

♢♢♢

 

 

「明日も来ます! ……次は100回目ですね!」

「はいはい」

 

 手伝いを終えたアランが店を飛び出し、ドアチャイムが揺れてカラカラと音を立てる。ライラがこの音を聞くのも毎日のことだ。

 

「……行ったかな?」

 

 5秒経過。ドアチャイムの音が消え、無音となった店内で誰もいないことを確認するライラ。少し前までの落ち着いた様子は消え、挙動不振なまでに外を伺う。魔法で出した椅子に体を預けた。

 

「はぁぁぁぁ〜! 今日もどきどきしたぁ!」

 

 説明しておこう。まるで酸いも甘いも噛み分けたような雰囲気を出してていたライラ・サクラーレという女(31)は恋愛経験がない。15になるまでとある禁魔法の研究ばかりしている同年代の異性など存在しない陰気な村で育ったモンスター処女。だが無駄に歳上のプライドはあった。だから99回目にもなって毎度同じ台詞にときめきながらも『ミステリアスなお姉さん風キャラ』を被る(つもりになる)ことで表に出さずにいたのだ。

 

「今日のアランくんはまた一段とかっこよかったなぁ。いつもより声にも気合入ってたし、目元もシュッとしてて……あー記録できないのが悔しい!」

 

 誰も聞いていないのをいい事に、本日の講評を語る。基本毎日が歴代最高、新しいワインより判定基準が適当だ。

 

「くぅ〜受けたい! アランくんの愛を受け止めたい! ……あげたいんだけどなぁ〜〜!!」

 

 ……この通り、この女はアランの想いを好意的に受け止めている。というか全力で返したいくらいに思っている。が、諦めてほしいとも思っている。それは何故か?

 

「はぁ……うっ」

 

 頭痛。

 

『やった。これで───の力が我が手に!』

 

『何をする! お前まで私を裏切るのか!?』

 

『逃がさんぞ、どこへ行こうとも必ず私は──』

 

「……私には相応しくない」

 

 運命には逆らえないからだ。

 

 

♢♢♢

 

 

「おじさんいつもの、今日は3つください!」

「1個多いじゃねーか! ついにOK貰えたのか!?」

「ダメでした!」

「……オマケしといてやるよ」

 

 ライラがブルーになっていた頃、アランは近所の屋台で買い食いをしていた。このドーナツ屋台の店主とは第1回の告白からの顔見知りであり、99回も玉砕しているアランと未だに仲良くしている数少ないお人好しである。

 

「いい加減諦めた方がいいんじゃねーか? ここまで断られるってこたぁ脈無しかもしれないぜ」

「いやいや、『何回だって挑戦しろ!』って言ったのはおじさんじゃないですか。諦めませんよ僕は」

「挑戦にも限度ってもんが……それに、お前の仕事は大丈夫なのか? 知り合ってから毎日通ってるみたいだけど」

「ああ、仕事(それ)ならとっくに辞めてるんで大丈夫です!」

「はぁっ!?」

 

 説明しよう、アラン・ガントレットは無職である。正確には99日前、『ライラと結婚する(予定)』という同僚から病院を勧められるような理由で退職した。今は貯金を切り崩しながら生活しているほぼニート状態の魔法使いだ。

 

「今時職無しでプロポーズは無理があるだろ……」

「別に一生無職でいるつもりはないんですけど……どうせ使ってなかったので貯金はありますし」

「だからってなぁ……おっと揚がった。ほれ、応援はするが捕まっても知らんぞ」

「うーん、本気で嫌がられたらやめますよ」

 

 簡単な浮遊魔法で油から引き揚げられたドーナツが3つ袋詰めされて手渡される。決して作り置きせず、いつでも揚げたてを退去しているのがこの屋台の売りだ。

 

「はい代金。じゃまた明日!」

「確かに。明日は成功させろよー!!」

 

 オマケの分を差し引いた代金を支払い、激励の言葉を背に帰路へ着くアラン。このやりとりも今日で99回目。アランは次こそ絶対に決まるつもりだが、店主はダメだろうなと思っている。

 

「そういえば、あいつの仕事って何だったんだ? ……まぁ、いいか」

 

 店主の疑問は誰に届かずに消えていった。

 

 

♢♢♢

 

 

「明日はどうやろうかな! 開店と同時に行くのは確定として、花束でも用意するか? タキシードは……気取りすぎかな? 迷うなぁ」

 

 御行儀悪くドーナツ(2個目)を頬張りながら歩くアラン。早速明日の告白について策を練っているが、これも毎度のこと。朝になる頃には結局普通の服を着て同じ言葉を口にする。そして帰りにドーナツを食うのだ。

 

「あ! いつも振られてるお兄ちゃんだ!」

「こらやめなさい!」

「はははは! いいんですよお母さんでも顔は覚えたからなガキめ」

「ひっ」

 

 そんな生活サイクルを続けていれば当然奇異の目で見られるわけで、元々変人揃いの無謀者のみる墓(フール・タウン)でも特別変人扱いを受けている。本人もそれを自覚しているが、特に変えようとはしていない。

 

「ちゃーんと純愛なんだけどな、世間は冷たいぜ」

 

 しれっと世間に理解がないことにしているが、そもそもアランがライラに好意を寄せる理由を知らない住民が理解する方が難しい。一応、自ら『純愛』と称するだけの理由はあるのだが。

 

「想いはきっと伝わる。その前に諦めるなんてありえないことだ。わかんないかなぁ……」

 

 歩を進めるにつれて少しずつ人通りが減っていき、ほとんど裏通りと言っても過言ではない道へ。この辺りになると治安も悪くなってくるが、どうせ男独り暮らしなのだから大した問題はないとアランは思っている。腕っ節にもそこそこ自信があるからだ。

 だが、全ての人間がそうではない。

 

「キャーーーーッ!!!」

「んー、嫌な悲鳴……」

「ひ、ひったくりぃ!」

「古典的だなぁ」

 

 突然の悲鳴に振り返れば倒れた老婆が。そして老婆が指差す先にはいかにも悪党といった格好の男が走っている。抱えた荷物は奪い取った物だろう。

 

「とりあえず衛兵……は、やめとくか、うん」

「じゃ、じゃあどうすれば……?」

「うーん……まあ」

 

 ここは街の外れ、取り締まる人間がいるところまでは少々距離がある。大急ぎで来てもらったところで間に合うかは半々……ついでにもう一つ衛兵を呼びたくない理由もある。

 アランは考えた、『正直面倒だ』しかしすぐに思い直した、『明日のために徳を積んでおこう』。

 

「僕が行きます」

「は?」

 

 不純な動機を胸にアランが駆け出す。足元の石畳を粉砕し、弾丸のような勢いで追いかける。

 

「意外と速いな、何か魔法使っているな?」

「く、来るんじゃねぇっ!」

「だがこれくらいなら追いつける!」

「なんだこいつっ!? 振り切れないっ……」

 

 身体強化か、それとも加速魔法か、何かしらの補助を受けて逃げる犯人にそれ以上の速度で距離を縮める。あっという間に手が届きそうだ。

 

「こうなったら!」

「お、抜いたな?」

 

 このまま逃げ切るのは不可能と気づいたか、荷物を投げ捨ててアランに向き合う犯人。その他にはこれまたいかにも悪党らしいナイフ。

 

「殺せば追えないよなぁっ!」

「ああ、間違いない。けど……」

 

 犯人のナイフがアランの心臓目掛けて振るわれる。アランの格好はなんてことない布の服。防刃魔法も、仕込みの板も入っていない。

 

「ひひひっ」

 

 殺った。刃が突き刺さる感触を期待した犯人が聞いたのは、

 ぱきーん。

 

「えっ」

 

 やけに軽い金属音だった。

 

「殺せなかったな、悪党」 

 

 思い切りナイフを突き立てられたはずのアランは無傷。それどころか、ナイフは根本からぱっきり折れてその機能を失っている。

 

「は、折れ……え?」

「服に穴空いたっ!」

「いっ……あぎゃっ!?」

「確保」

 

 そして犯人は何が起こったのかもわからぬまま、少しばかり胸元が涼しくなったアランに殴り飛ばされた。

 

「さて、あとは──」

「こっちだ!」

「逃がさんぞ!」

「げ」

 

 老婆の元へ戻ろうとしたところで、曲がり角の向こうから衛兵の足跡と声が聞こえる。このままでは姿を見られてしまうだろう……そもそもアランはお尋ね者ではないし、ただ個人的に会いたくないだけなのだが。

 

「帰ろう!」

 

 もう十分徳は積めただろう。そう判断して、アランは更に人気のない路地裏から帰ることにした。

 

 

♢♢♢

 

 

 次の日。

 

「ふぁーあ、今日はお客さん来るかな……」

 

 天気は気分まで重くなるような曇り。ライラはいつも通りに開店の準備をしていた。といってもそれらしいことは特に何もすることはなく、ただ鍵を開けて表の看板を裏返すだけだが。

 

「アランくんは来るよね……どうしよう」

 

 重い腰を上げて扉の前に立ったところで動きが止まる。他でもない本人が言ったのだから、今日もアランは来るはず。そして100回目のプロポーズをされるだろう。

 

「どうやって断れば諦めてもらえるか……嫌がってる演技とかできるかな」

 

 99回の失敗ですら折れないのだから、やんわりと断ったくらいで諦めるような男ではない。

 けれどライラは諦めさせることを諦めるわけにはいかない。そう決まっている。

 

 がちゃり、からんからん。

 

「ああ、いらっしゃ……い……?」

 

 扉が開き、ドアチャイムが鳴った。どうやらアランが来たらしい。今日こそしっかり断るか、それとも明日に任せるか……とにかく出迎えようとしたところで、二つの違和感に気づく。

 まだ自分が鍵を開けていないことと、アランという男が、開店前に無言で入ってくるような男ではないことを。

 

「君は──がっ!?」

「お迎えに上がりましたよ、我らが黒魔女(エキドナ)!」

 

 気づいた時には既に殴られ、床に倒れ込んでいた。見知らぬ男、しかしこの男はライラのことを知っていて、ライラ自身もなぜ知られているのか理解している。

 

「あぁ生きていてよかった。もし貴女が命を落とすなんてことがあったらと、我々は心配だったのです」

「そりゃ心配だろうね、大事な生贄が横取りされるかもしれなかったんだからさっ!」

「……生贄ではありません、『供物』です」

「ぁぐっ……同じことだろう?」

 

 男は丁寧な口調で語りかけながら、魔法で生み出した蛇でライラを拘束していく。鋭い何かが掠めたような痛みの直後、蛇の持つ麻痺毒で身動きが取れなる。元より非力な彼女では普通のロープでも抜けられないが。

 

「『役目』を放棄して16年。もう充分に自由を楽しんだでしょう? 帰りましょう、当主様もお待ちです」

「嫌だと言ったら?」

()()()()()?」

「……やめておくよ」

「懸命ですね。私としても、これ以上供物に傷をつけたくはありません」

 

 自身の魔法を使えば、解毒くらいはできたかもしれない。しかしライラはそうしなかった。いくらここで抵抗しても無駄だとわかっていたからだ。もし抵抗した場合、この男は容赦なく攻撃するだろう。そうなればライラに勝ち目はない。

 

(もう終わりか、呆気ないものだ)

 

 いつかこうなると理解していた。逃げきれはしない、どこまで行っても自分はあの呪われた故郷に縛られていると。

 

「はぁ……」

 

 男が言う通り、もう充分自由を楽しめただろう、諦めが肝心。運命は変えられないのだから。そう自分に言い聞かせて、ため息をつく。

 

「……アランくん」

 

 その名前が出たのは完全な無意識。

 

「はぁいっ!!!」

「はぶぁっ!?」

「!?」

 

 そして、本人が扉のを破壊して現れたのは完全に予想外だった。

 

「おはようございますライラさん。今日も貴女は美しい……で、お前は誰だ?」

「あっが……げほっ、貴様こそ何者だ!?」

「純愛の騎士」

「???」

 

 爆散する扉に巻き込まれた男を睨みつけながら人として恥ずかしいことを恥ずかしげも無く言ってのけるアラン。そこは素性を語るところではないのか。無意識とはいえ名を呼んだライラですら困惑している。

 しかしアランは大真面目だ。真面目に頓珍漢な返答をして、目の前の男が愛する人に危害を加えていたことに腑が煮えくり返っている。

 

「念のため、間違いのないように確認します。ライラさん、この男は貴女の敵ですか?」

「っ、それは……」

 

 ただ一言、『敵だ』と言えば必ずアランは助けてくれる。そう理解しているからこそライラは言えなかった。自分が我慢すれば済む問題に、これ以上彼を巻き込みたくなかったからだ。

 適当な理由をつけて帰ってもらおう。そうすれば明日からは自分のことを忘れて平穏に暮らせるはず。それが彼のため……

 

「私はただ迎えに来ただけだ! 貴様のような部外者が邪魔をするんじゃない!」

「うるさいな、お前には聞いてないからその生ゴミ臭い口を閉じろ」

「な、生ゴミ!?」

「ぶふっ」

 

 その思いは、アランの暴言によって吹き飛んだ。彼にしてみれば暫定想い他人の敵に悪口を言ったまで、深い意味なんてない……けれど、ライラの心に宿った不安を晴らすにはピッタリだった。

 

「ねぇアランくん、運命って変えられると思う?」

「もちろん。現に僕の運命は、貴女に変えてもらいました」

「全然身に覚えがない……けど、うん」

 

 もしやそれは存在しない記憶ではないだろうか? と思いながらも、ライラにはその言葉が嬉しかった。

 運命は変えられる……かもしれない。アランがそう言ったから。きっとそうだ。

 

「ならその口が臭くて半端な役職に就いてそうな男は、私たちの敵だ! 思いっきりやっつけてくれたまえ!」

「了っ解しましたぁ!」

「ぐうぅぅ……ならば、実力で排除するまで!」

 

 毒蛇魔法(ベノムスネイカー)麻痺牙の黒縄(パラリティ・ブラック)──ライラを縛るものと同じ、魔法によって生み出された蛇がアランに襲いかかる。掠めただけでも身動きが取れなくなる麻痺毒を持つ牙、まともに食らえば命はない。

 

「『(メイル)』」

「!? 私の蛇が!」

「効かないよ、そんなもの」

 

 しかしその牙は肉に食い込むことはなく、()()()()()()に阻まれた。直前まで極々一般的な服装、一瞬にして全身を包んだ鎧こそ、アランの魔法だ。

 

 鉄装魔法(アイアンスミス)(メイル)。自身の魔力を鉄に変えて操る魔法。その攻撃力、耐久性、汎用性は全魔法の中でも上位。この鎧はその一つだ。

 

「敵だというなら、遠慮する必要はない!」

「ぐぬぬぅっ、毒蛇魔法(ベノムスネイカー)! そいつを止め──」

「……ふぅんっ!」

「引き千切ったぁ!?」

 

 男は毒牙が効かないとなればすぐに拘束を試みる……が、激怒したアランは止められない。巻き付いた蛇を引き千切り、また踏み潰しながら前進する。

 その姿はまるで、東洋に伝わる鬼のよう。

 

「こんなヒョロヒョロした魔法で、僕の怒りは止まらないっ!」

「ひいっ……」

「……流石は、()()()()()()()()だね」

 

 正確には、元鷹の目王国(ホークアイ)軍魔法騎士部隊副隊長。この大陸に住む者なら知らぬ者はいない超エリート部隊。それがアランの前職。今でこそライラへの愛に狂っているが、その実力は本物だ。

 

「一撃だ、それでお前をぶっ潰す!」

「あ、あああっ……」

 

 アランの右腕がべきべきと音を立てながら鉄を纏い、一回り大きな手甲を形成する。見ただけで伝わるその重量感は、男の戦意を喪失させるには十分過ぎるものだ。

 

「やっちゃえアランくん!」

鉄装魔法(アイアンスミス)(ナグル)……これはライラさんの痛み、そして僕の愛と怒りを込めた拳」

「うん──うん?」

 

「愛・情・拳っ!!」

 

「待っ──が びゅっ!」

「技名だっさ」

 

 鉄の拳が店全体を揺らすような衝撃と共に顔面へ突き刺さる。文字通り殴り飛ばされた男はそのまま壁にめり込んだ。壁から抜け出そうともせず白目を剥いた様子から、しばらく目を覚まさないだろう。

 

「大丈夫ですかライラさん! すぐ病院に……!」

「いい、蛇は消えたし解毒もできてる。まだちょっと痺れてるけど、動けないほどじゃない」

「そ、そうですか……して、こいつはどうします? 貴女が望むならもう一発くらい──」

「やめてくれ! それ以上は死ぬから!」

「そこまで言うなら……」

 

 躊躇なく追撃を加えようとするアランを必死に止めるライラ。この男に情なんてないが、目の前で死なれるのは流石に気分が悪い。ついでにその後が面倒臭くなる。アランは少し残念そうな顔で魔法が解き、鉄の手甲が霧散した。

 

「ならとっとと衛兵にでも突き出しましょうか。正直嫌ですけど仕方ないですね」

「いや、その必要は無い……それよりも、君に話があるんだ」

 

 まだ若干痺れた身体を棚を支えに立ち上がり、2人が向き合った。いつもならここでアランが告白しているところだが、今日は少し異なる。

 

「ひとつ確認したい。えーと……あー、『君は私を愛している』。それは本気か──」

「はぁいっ! 愛してまぁす!」

「声が大きい……けど、わかった」

「? 『わかった』……!!!」

 

 ここまでの流れ、愛の確認、そして『わかった』。もしかしてついにOKなのか? アランの期待感は最高になった……が、ライラが続けた言葉はその期待から大きく外れたものだった。

 

「私の儀式を手伝ってくれ!」

「ありがとうございま……え?」

 

 

 

 

 ──これは、男女が結ばれるだけの物語ではない。

 魔法使いが、運命を変えるまでの物語だ。

 

 

 




 三人称がとてもとてもしんどかったので次回から一人称で書きます。以下設定など。

アラン・ガントレット
 自称純愛の騎士(22歳男性無職)。元は鷹の目王国軍魔法騎士部隊隊長というエリートだったのだが、半年前に色々あってやめた。
 100回目のプロポーズは保留中。

ライラ・サクラーレ
 街の儀式屋犬兼雑貨屋のお姉さん(31歳女性恋愛経験無)。16年前にヤバい故郷から飛び出して以来無謀者の見る墓でひっそりと暮らしていたが、100日前から純愛の騎士を名乗る男(同じくらいヤバいやつ)に毎日告白され続けている。しかし男を見る目が微妙なので満更でもない。

豚肉反射魔法
魔法に生の豚肉をタイミングよく叩きつけることで反射する魔法。効果はすごい。

毒蛇魔法(ベノムスネイカー)
 毒蛇をニョロニョロ出す魔法。その牙は鎧を貫けなかった。

鉄装魔法(アイアンスミス)
魔力を変換して鉄を生成し、自在に操る魔法。生成する鉄の大きさと形状の複雑さに応じて魔力の消費量が増える。
有名な魔法ではあるが習得している魔法使いは少ない。

(メイル)
 鎧を纏うぞ! 魔法を解けばすぐに消えるので着脱の手間がない!

(ナグル)
 手甲を装備するぞ! 重くて硬いぞ!
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