僕と儀式屋さんの魔女結婚儀 作:ぺっぱーみとん
ごめんなさいどうせ誰にも待ってないと思ってダラダラ書いてたらめちゃくちゃ時間かかりました。感想とお気に入り入ってビビり散らかしてます。これからもこんな調子で進めていきます。
「本当に衛兵呼ばなくていいんですか?」
「いいよ、騒ぎになると困るからね」
「それは同感ですが……まあいいか」
今日も美しいライラさんを襲っていた男に
常識的に考えればこんな悪党は今すぐ牢屋へ放り込むべきなのだが、他でもないライラさんがそう言うのなら仕方がない。僕としても元同僚に会う可能性は避けたかったところでもある。
「まずは、助けてくれてありがとう。君がいなかったら、今ごろ私は……」
「よしてください。僕と貴女の仲でしょう?」
「店主と客だけどね」
愛する人が助けを求めた、だから応じた……それだけのこと。お礼なんて必要ない。誰だってそうするだろう?
おっといけない、ついいつも通りに愛を語ろうとしてしまった。
「それで、僕に手伝ってほしい儀式とは?」
「……」
『私の儀式を手伝ってくれ』。数分前、愛しのライラさんはそう言った。どうせ断る選択肢なんて存在しないが、流石に内容くらいは知っておきたい。『運命』とやらにも関わることなら尚更。
ライラさんはまた少し迷い、しかしすぐに覚悟を決めた様子で口を開いた。
「『
「……500年に一度誕生する、莫大な魔力を心臓に宿した女。魔力は16歳で育ち、心臓を抉り出せば世界をも破壊する程の力を得る……でしたっけ。伝承でしか聞いたことはありませんが」
この国に、いや世界に住む者なら一度は聞いたことのある伝承『
「御伽噺じゃない、真実だ。黒魔女の少女は実在するよ……そこまで知っているのは極一部の魔法使いだけだがね」
「実在する!? 待ってください、今その話をしたってことは、もしや貴女が──」
「いや、私は
「えっ」
話の流れ的にライラさんが黒魔女で、あの男は心臓を抉りにきたのかと思ったが……どうやら違うらしい。よく考えればライラさんは31歳だし、伝承にあった16年とは合わないか。
ああ、伝承が真実であることはどうでもいい。
「君にはまだ話してなかったが、私の故郷はとある禁儀式を研究していた。『黒魔女を造る儀式』をね」
「造れるものなんですか、それ」
「当然本物は無理さ、原初の魔法使いの業だからね。だがイカれた魔法使いは『模造品ならば造れる』と考えた……『女の心臓に莫大な魔力を溜め込み、16年間育てさせる』という方法で。ここまで言えばわかるだろう?」
「……その模造品こそが、貴女だと」
「正解」
……何て非道な儀式だ。ライラさんの命を何だと思っている。そのイカれた魔法使いとやらが許せない。男がここに来た理由もわかった。きっと彼女を故郷まで連れ帰るつもりだったのだろう……おのれ、今すぐ男を叩き起こして潰しに──
「私もあの限界クソ田舎はさっさと潰すべきだと思うが、まずは座ってくれ。ここから君に手伝ってほしい儀式について説明する」
「はい」
やっぱりやめた。ライラさんのお話が最優先だ。
「黒魔女擬きとなった私の心臓には莫大な魔力が溜まっていて、それを狙う存在がいるのはさっきの通り。そして心臓に魔力を吸われ、弱い魔法しか使えない私1人ではとても逃げ切れない。だから私はほとんど諦めていたんだ、『それが運命だ』とね」
「でも、今は違うと?」
「その通り。君のお陰でね……まぁ、1人で何とかしようと考えてた時期はあったんだけど」
僕なんかの影響で考えを変えてくれたのなら光栄だ。ライラさんの様な美しい人がそう簡単に死んではいけない、どこかの誰だったかも『諦めないのが魔法使い』と言っていたし。
「そして私が考えた、『運命を変える儀式』がこれだ!」
「わっ! ……おお?」
どこからか取り出された紙が勢いよく広げられる。そこに書かれている図が儀式の説明か。見たところ全部で七つ、見たことも聞いたこともないものばかりだ。
「伝承にある本物の黒魔女は、
「なるほど、つまりここに書かれているのは……」
「ああ、これらは全て魔力を吸収、浄化、放出する
儀式には大きく分けて2つある。儀式に必要な物を手に入れるための『
「僕の仕事はその収集の手伝いってことですね」
「その通り……やってくれるね?」
「もっちろん! 貴女の為ですから!」
「そ、そうか……ありがとう」
断る理由なんてない。ライラさんでさえ一度は諦めてしまう程辛く苦しいものであることは想像に難くないが、僕の辞書において『諦める』の定義は『ライラさんに拒絶される』だ。余裕すぎる。
それにものは考え様だ、本物の黒魔女を封印するのが魔女『結婚』儀であるのなら、この儀式はまさに……
「僕と
「え? あー……そういうことになるね?」
「っしゃあっ!! 頑張ります!」
「……うん。それで最初の儀式なんだけど……」
実質婚約した喜びもそこそこに、最初の儀式について詳しく説明を受け、その日のうちに出発して──
「ひゅー、ひゅー……」
「……大丈夫ですか?」
ライラさんは虫の息になっていた。
「何か飲みますか? 水かお茶しかありませんが」
「いい……今飲んだら戻しそう、はひぃ」
とりあえず小休止を取り、魔法で出したシートに横たわるライラさんを眺める。全身雨に降られたようにびしょびしょ。これが汗も滴るいい女というやつか。ちょっと興奮する気持ちを抑えてタオルを差し出す。
「汗拭いてください、風邪ひいちゃいますよ?」
「ふふ、不要さ……『asehike』!」
「おお? おー……」
知らない呪文と共に身体が発光。一瞬置いて光が消えると、そこには綺麗に乾いたライラさんの姿が。これも魔法か。
「『汗を乾かす魔法』……どうだい? 凄いだろう?」
「何て便利な……しかし初めて見ましたね」
いや本当に凄い魔法だ。間違いなく需要はあるし、特許を取れば相当稼げるだろう。が、そうしていないということは……。
「習得方法はまずピンキースネイルの粘液を1リットル」
「あ、もういいです」
便利そうなのに普及しない魔法は妙な儀式であることが多い……ちなみにピンキースネイルはピンク色が特徴の握り拳サイズのカタツムリだ。どう使うかは知らないが、そんなものの粘液を1リットルも使いたくない。
「残念……と、足を引っ張ってすまないね。少し運動不足だったようだ」
「何のこれくらい。支えがいがありますよ」
確かに想像を遥かに下回る体力の無さだが、人並みの体力があっても同じ状態になるだろう。なにせ今僕達が進む道は軍人でさえ音を上げる危険地帯、辺境の地アンドラの最深部──通称"悪魔の樹海"なのだから。
「休憩ついでにおさらいしておこう。最初の目的地は『神泉ルナ』。聖なる力を持ちあらゆる病を治すという泉。そこの湧き水を採取しに行く」
「その泉は聞いたことがありますよ。
「だろうね。泉の影響はこの樹海全体に及んでいて、近づくほどに異常な現象が多発し、生物は歪んでいるらしい。その証拠にほら、地図が壊れた」
「わお」
念のためにと持ってきた地図。仕込まれた魔法によって周囲の地形を立体的に映し出すはずのそれは、ひどいノイズが走り滅茶苦茶な地形になっている。これではとても使い物にならない。
異常の中心である泉まではまだかなりの距離があるというのにこの影響。ここからは何が起こるか予想もつかない。
「しかし安心してください。いざとなればお姫様抱っこで運びます!」
「……その時は頼むよ。では進もうか」
「はい!」
少し休んでライラさんの体力も回復したようだ。この調子では日が暮れるまでどれだけ進めるか、
──メキッ、バキ、バキバキバキ……
「うわぁ……」
「グルルルルルルッ……!」
枝が折れ、木が倒れるような音に振り返れば、そこにいたのは巨大な獣。血走った
言ったそばからご登場とはな、こういう場合って僕が悪いんだろうか?
「友好的な生物……ではなさそうだね」
「そうですね……と、いうわけで」
「うん、任せた」
「グルルルァァッ!!」
雄叫びと共に振り下ろされる前足。丸太を何本も束ねたような太さのそれを、疲労困憊のライラさんが防ぐことは不可能だ。直撃すれば美女の挽肉ができてしまうだろう。だから、僕がいる。
「
「ガアッ!?」
期待していたものとは違う感覚に戸惑う獣。あの威力の攻撃でも僕たちは傷ついていない。地面から生えた鉄の壁が受け止めていたからだ。
もちろんその壁はただの鉄じゃない、『
「今日は熊鍋にしましょう、いや、この大きさなら明日も明後日も食えますよ」
「この量に保存魔法かけたらどれだけ魔力が……もういいや」
「グア、ァァァ……」
「へぇ、自分が食われる側に回ったって理解する知能はあるみたいだな、もう遅いけど」
先に手を出したのはそっちの方だ。ここは弱肉強食の摂理に従って、僕たちの胃に収まってもらおう。
「
食うのは決まりだが、無駄に痛めつけるつもりはない。仕留めるなら一発で確実に、この斧で。首を落として終わりだ。血抜きもできて一石二鳥。
「ウオオオオーーーッッッ!!!」
「せぇ、のっ──」
せめてもの抵抗のつもりか、獣の取った行動は噛みつき。人の頭蓋など容易く砕けるような牙が襲いかかる。だが今の僕にとって、その攻撃は首を差し出すことと同じ。軽く交わして、ガラ空きの首に斧を振り下ろせばいい。
「そぉいっ!」
「! ……ガ……」
皮を断ち、肉を断ち、骨を断ち、命を絶つ。頭はそのままの形相で明後日の方向へ飛んでいき、胴体は勢いのまま前のめりに倒れ込んだ。
大きくて力の強い獣だった、だがそれだけだ。脅威度は先日の悪党や毒蛇魔法の男とそう変わらない。
「さて、解体しましょうか」
「その前に調べさせてくれ。気になることがあるんだ」
「だったら手伝いますよ?」
「いやいい。どうせすぐに終わる」
そう言ったライラさんはどこからか取り出した器具を使って血肉と毛を採取していく。衣服には血が付着して汚れているが、この程度ならどうにかできる魔法があるんだろう。
「……うん、やっぱりね。どこを調べても特殊な魔力が検出される。それもこの獣が生み出したものじゃない、外部から取り込んだものだ」
「驚いた、そんなことまでわかるんですか」
言われてみれば残留する魔力に違和感がある。しかしそれは本当に小さく、初めて見る獣だからで納得してしまいそうなほどだ。だからわざわざ調べようなんて思わなかった。
「魔力の源は間違いなく泉だ。噂に聞く通りだね」
「つまりこんな生物がゴロゴロいると……あれ、肉に魔力が残っているなら、食べない方がいいのでは?」
「何日も常食しなければ問題ない量だよ。私たちの魔力で対抗もできるしね……たぶん」
「そこは曖昧なんですね……」
まあいい、もしもがあればその時だ。このまま放置しては血の臭いに釣られて別の獣が寄ってくる。その前に解体しようとナイフを手に取った瞬間。
「ガルルルル……」
「キチチッ、キキキキキ……」
「シャァァァァ……」
「……解体と保存はやっておくよ」
「はい」
狼のような声と虫のような声、それに蛇のような声があちこちから聞こえる。ライラさんが死体を調べている間に、次のお客さんたちが集まってしまったらしい。上等だ。
「次は追い払うだけにしてくれよー! もう肉はいらないからー!!」
「はぁい! …… 全匹ぶっ飛ばしたらぁー!!」」
追い払っても追い払ってもキリがない数の獣。襲撃が収まったのはすっかり日が落ちてからのこと。無視できない疲労とともに、改めてここが悪魔の樹海と呼ばれるだけの場所であると実感した。
「ひぃー……もう少し、もう少しのはず……」
「……あ、あった!」
歩いて、休んで、襲われてを繰り返して五日。獣道すらほとんどない樹海をかき分けて進み続けた僕たちの目の前に、妖しく光る泉が広がる。
「これが……『神泉ルナ』……!」
美しい。それがこの泉に最初に抱いた印象。泉の中央からは湧水と共に光が溢れ、薄暗い樹海を照らす。水面から浮かぶ光の玉は色とりどりで幻想的な風景を生み出している。
「綺麗だ……けど……」
「ええ、ライラさんには劣るくらいには綺麗ですけど……」
「う、うん」
僕にとっては事実なのだから仕方ない。実際今まで見てきた風景に限れば最上位と言っても過言ではない美しさだ。ここがプールならば、すぐに飛び込んでいるところだ。……が、その周りは酷く荒れている。地面は抉れて岩らしきものが散乱し、クレーターや斬撃の跡があちこちに。僕たちの反対側は木が薙ぎ倒されている。
「何だろうね、この荒れ様は」
「高位の魔法使いが……4人かな? かなり激しい戦いがあったみたいですね」
「ふぅん……まあいい、恐らく私たちには関係のないことだ。きっと、たぶん」
「……そういうことにしておきましょうか」
魔力の残滓を見るに戦闘が起こったのは数週間前、それから戻って着た形跡もないし警戒する必要はない。謎ではあるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ではアランくん、飛び込んでくれ」
「それ結果わかってて言ってますよね?」
「うん」
伝承によれば、この泉はあらゆる傷病を癒やすと言われているが、同時に触れた者へ耐え難い激痛をもたらすらしい。水に含まれる膨大な魔力が原因であるとライラさんは予想している。そこまでわかっててこの人は飛び込めと言っているのだが。
「でもアランくんのかっこいいところ見たいなぁ」
「喜んで!!」
上着を脱ぎ捨てて泉に向かってダイブ。激痛なんて関係ない、だって好きな人にはかっこいいところを見せたいから。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!」
一瞬ひやりとした感覚の後、雷に打たれたような激痛が全身を駆け巡る。しかもそれは過ぎ去ることなく延々と続く。元軍人の自分なら多少の痛みは平気と思っていたが、これは想像以上だった。
「どわぁぁぁ!! ああああ!!」
「酷い光景だ……で、どうだい体は?」
「はぁ、はぁ……回復してますね、本物で間違いないです」
絶叫しながら泉から這い出ると、すぐに痛みは収まる。そして、ここまでの道のりで溜まった疲れは見事に消し飛んでいた。つまり伝承は真実だった。……けど、重傷の人間を放り込んだらショック死しそうだ。
「検証も済んだし採取の時間だ! とりあえず持てるだけ採るよ!」
「容器でかっ!」
「リスクはあれどこんな便利なものは幾らあっても困らないからね。魔法を使えば持ち運びも楽々さ!」
取り出されたのは一軒家程もある貯水タンク。魔力を帯びた水はライラさんの魔法によって次々とその中へ吸い込まれていく。あの勢いだと10分もすれば満杯になるだろう。
「せっかくですし僕も汲んでいきましょうかね。水筒も空だし──飲んでいいのかわからないけども──あれ?」
「どうしたんだい?」
「いや、今汲んだ水が何か……変だ」
たった今泉から汲み上げた水筒を除くと、中に入っているのはただの水。綺麗に透き通っていてそのままでも飲めそうな水質だが、一切の魔力を感じない。中身を捨て、場所を変えてもう一度汲んでも結果は同じ。確かにあった膨大な魔力は綺麗さっぱり消えてしまう。
「水筒でこれってことは……そっちも!?」
「何てことだ……」
一度魔法を解き、半分ほど溜まった巨大な貯水タンクを除くと、やはり中身はただの水。掬って手にかけても、冷たさ以外感じない。
「これではっきりした。神泉ルナの水は泉から切り離されると魔力を失う」
「参りましたね。これじゃ無駄足になりますよ」
「……少し待ってくれ、考えるから」
ここまで来てこんな障害が待ち受けていようとは、さすがのライラさんも想定外だったらしい。思案しながらブツブツと唱えている独り言もどこか焦った様子だ。
敵の気配もなく、彼女を待つ間僕ができるのはただ泉を眺めるばかり。元々期待されていないとはいえ、こういう時に役に立てないと専門的な知識がないことが悔やまれるな。あーまたボコボコしてる。
「あのボコボコしてるところが源泉かぁ」
「そりゃ見ての通りさ……ん?」
「どうしました?」
「最初から魔力を含んだ水が湧いているのなら源泉から切り離されても魔力は消えない。つまり実際に消えているこの魔力は後から付与されたものであり、この泉のどこかに魔力を付与する『何か』が存在することに他ならない。それの場所として考えられるのは──」
「!?」
突然独り言が加速し、表情が何かを発見した時のそれになる。もの凄い早口で全部は聞き取れないが、どうやら何か閃いているらしい。
「──中心部だ! この泉、延いてはこの森に魔力を満たさせている『何か』はそこにある。その一部でも採取できれば……」
「中心部……」
なるほど。細かい理論は置いといて、僕たちの目標は水から水に魔力を付与する何かに変わったことがわかった。問題はそれを採取する方法なのだが。
「一応聞きますが、どうやって?」
「……潜って」
「はい」
知ってた。魔道具が役に立たない以上それしか方法は無いが、潜るということはまたあの痛みを受けなければならないということ。しかも今度は中央まで泳いで、『何か』を見つけるまで出られない。
覚悟して入ればまだ何とかなるか? いっそ慣れるまで耐え続けるか、どうしたものか……。
「でも、潜るのは私だ」
「え──ちょっ!?」
不意にかけられた『潜るのは私』という言葉。それに気づいて止めようとした時にはもう、水面に向かって飛んでいた。
「君にばかり無理はさせられな
ア゛ーーーーーーッ!!!!」
「あ゛ーー!!?!?」
そして水面に触れた瞬間、絶叫&気絶。ライラさんの体は水死体の如く浮かび上がるのだった。
「何やってるんですか! あ゛うっ! この、早く上がって……どあー!!」
慌てて自分も飛び込み、痛みに耐えながらライラさんを引き揚げる。本人には絶対言わないが、気絶した人間の体はとても重かった。
「うう、ううん………」
「どうしてこんな無茶を……って、聞くのは野暮かな」
途中で絶叫していたが、ライラさんは確かに『君にばかり無茶はさせられない』と言っていた。最初に飛び込むように唆しつつも、罪悪感はあったんだろう。
「だからって自分が行くことないでしょうに、強くないんですから」
「…………」
ライラさんはまだ気絶したまま。それなりに鍛えた僕でさえ音を上げそうな痛みを、ほぼ常人が食らったらこうもなろう。それくらいわかってて飛び込んだはずだ。
「……『
魔力で練られた鉄の殻がライラさんを包む。これで先日の獣程度なら手出しもできない。
愛しいライラさんがこれだけ体張ったんだ。なら僕はその何百倍も張るしかないだろう。
「すぅー……はっ!!」
深呼吸して覚悟完了。少しの助走から、中心部に向かって飛び込んだ。
「ううんっ……はぁっ!?」
「あ、おはようございます。寝顔も綺麗でしたよ」
ライラさんが長い気絶から目を覚ました。体の疲れは泉に入った時点で消えるが、精神的な疲労もあったんだろう。その間寝顔はじっくりと堪能させてもらった。この記憶だけで5年は生きられる。
「すまないアランくん! 私どれくらい寝て……泉は!?」
「ざっと3時間くらいですかね。それと、泉についてはこれを見てください」
目覚めてすぐに目的の心配をするのはこの人らしい。僕がいなかったらまた飛び込んでそうな勢いの彼女に、痛みに耐えた成果を差し出す。
「……石?」
「源泉まで潜って見つけました。水に含まれてるものと同質の魔力を発している石です。本当はもっと大きいのもあったんですが、とても動かせなかったので欠片をいくつか拾ってきました」
「……本当に同じ魔力だ。しかも消えてない」
それは泉と同じように薄く光る石。源泉の更に奥にあった、巨大な岩と、その周りに散らばっていたものだ。一瞬見落としかけたが、たまたま近づいたところで発光が強くなったおかげで気づくことができた。
「汲んだ水に沈めれば魔力が復活することも確認済みです。これが『何か』の正体で間違いないでしょう」
「すごいすごい! これさえあれば当初の予定以上の量を確保できる! ありがとうアランくん!!」
「いやいやそんな……もっと褒めてください嬉しいので」
石を抱えて子供のようにはしゃぐライラさん。ここまで喜んでくれるなら頑張った甲斐があるものだ。そうでなくてもやるんだけど、愛してるから。
「にしてもこの大きさですごい魔力だね。何でできてるんだろう……」
「この辺の地質じゃ採れないものみたいですね」
「あれ、地質とか詳しいんだ?」
「……実家が鍛冶屋でして、採掘とか少し齧ってたんですよ」
「? そっか。不思議だなーこれ」
そういえば言ってなかった。別に隠していたわけじゃないけど……まあいい。今はこの石だ。
いきなり生えてきたわけではなく、誰かが持ってきたっていうのは考えにくい。となると……
「隕石、とか?」
「あり得るね、それならこんな魔力を帯びているのも納得がいく。……まあ、そこを深く考えても仕方ないか」
「そう……ですね」
謎は残りつつも目的は達成した。考察はまた移動中にでもすればいい。その時間はたっぷりある。
「じゃあ次の目的地へ! 森を抜けてそこからまた移動して……何日かかるかなぁ……」
「……森出たら、ちゃんとした移動手段考えましょうか」
不安そうな声を出すライラさんは。この調子だとまたヘロヘロになることが容易に想像できる。旅もまだ続くんだし、馬車なり魔法車なりの購入を検討するべきか。
「待って、この石と水があれば不眠不休で動けるのでは!?」
「絶対やめましょう無理ですから!!」
とにかくこれで一つ目の収集完了。僕と
アラン・ガントレット
愛の騎士。ライラを全肯定しているように見えて割と言うことは言う。愛故に。
ライラ・サクラーレ
体力なしなし魔女。熊っぽい魔獣の肉は彼女が美味しく調理したけどまだ余っている。
神泉ルナ
ど田舎の辺境の奥地にある泉。入るとめちゃくちゃ痛いけど疲労が消えて傷が治る。さまざまな伝承が残されているが、その効能の正体は源泉に落ちた隕石から出る魔力だった。(独自設定)
ちなみに泉の周りにあった瓦礫や傷については原作2巻を買って読もう! お願い!
魔獣
普通の獣がルナの魔力で変質したもの。いっぱいいたけど大体雑魚。
今回の錬鉄魔法
『
壁を作るぞ! 大きさと厚みが自在に設定できる!
『
斧を出すぞ! デカくて重いので対人には不向き! 獣相手に使ったのは単なるかっこつけだ!
『
包み込むような鉄の殻を出すぞ! 以上だ!