僕と儀式屋さんの魔女結婚儀 作:ぺっぱーみとん
投稿頻度を上げ(遅い)、さらに文字数が増えました(想定外)。このペースを維持したいですね、したいだけ。
それと、なぜライラさんが戦ってないのかな説明を忘れていたので前回に加筆しています。読み返したくない人向けに説明すると「偽黒魔女に魔力を吸われて強力な魔法が使えないから」です。謎魔法は消費が軽いためと単なる趣味で修得しています。
「うぅ……ううぅ……」
「……大丈夫ですか?」
神泉ルナにて最初の魔導具を手に入れてから数日。ライラさんの呪いを解くため、僕たちは次なる目的地へ移動していた。ちなみに今までの徒歩と交通機関には限界があるため、途中の街で大枚叩いて購入した魔法車を移動手段にしている。
「魔法車ってこんなに酔うものなんだね……うえぇ……」
「いや、貴女が特別弱いんだと思いますが……」
そして助手席のライラさんは盛大に魔法車酔いしていた。なるべく揺れないように運転しているのだが、それでもこの人には厳しかったようだ。
「酔い止めの魔法とか無いんですか?」
「あるけど儀式してない……」
「可能なら街でやりましょうか、エチケット袋が足りなくなる」
「ごべん……う゛っ」
助手席で思い切り吐いていても許せる、愛する人だからね。もしこれが元部下だったら蹴り落としていたかもしれない。ちょっと……いやだいぶ汚い音声は心の耳栓で聞こえないふりをしておく。
「おっ」
「う゛ぇ?」
「見えましたよ、次の街が」
「や゛っ゛た゛ぁ゛」
目を凝らせば遠くに見える街並み。一見何の変哲もないあの街こそ、次なる魔導具、『浄化の炎』のある場所だ。
「着いたら休憩させてくれ……ぁう」
街に到着してから約1時間後。ようやく元気になったライラさんと共に訪ねたのは小さな『
「『浄化の炎』が無い!?」
「すまねぇ……」
メラメラと燃える頭の青年に告げられた結果は『無い』。出し渋られるくらいの想定はしていたが、そもそも無いとは思わなかった。
しかしライラさんはここで手に入ると言っていたんだ。それが間違いでないのなら、一体どういうことなのか。
「おかしいな、何年か前に調べた時はここにあると聞いたんだけど」
「それはオヤジ──先代の時だな。でも今は……」
「……悪いことを聞いちゃったかな」
「いや、生きてるけど引退と同時にどっか行っちまった」
「えぇ……」
理由はアレだけども、無いというのは本当らしい。
「君には創れないのかい?」
「わからねぇ、何せ試したこともないからな。
「その火種ってやつは希少な物なんですか?」
「少なくともその辺に売ってるような代物じゃねぇ。
「
「ふぅん……それはそれは……」
「ここまで来てもらって悪いが、俺には用意できない。代わりと言っちゃなんだが他の炎を……」
「間に合ってるからいらない」
「ひでぇ」
実際他の炎を貰ったところで意味がない。今欲しいのは『浄化の炎』なんだから。しかし無いものは無いし……困ったなぁ。
「じゃあ、
「リリィ!?」
そう言って、燃えてる少年の後ろから出てきたのは修道服のシスター──リリィと言うらしい。どことなく浄らかな魔力を感じる。
「ばっ……今は仕事中だから下がっててくれよ!」
「私の護衛だって『
「いや、だけど……」
「……ははーん」
ローグは炎屋の少年のことか。それにしてもこれだけの会話でも2人の力関係がわかる。どうやらこれが尻に敷かれていると言うやつだろうか。僕がライラさんの尻に敷かれる……うーん、物理的にも概念的にも大歓迎だ。
「それで、取って来てとは?」
「うん、お客さんは『浄化の炎』が欲しい、でもローグは火種がないから創れない。だったらお客さんにお願いすれば解決でしょ?」
「いや、簡単に言い過ぎじゃ……」
「どうしますライラさん?」
「それだ!」
即決だった。
即決から数時間。僕たちは魔法車に乗って街の南方にある火山に来ていた。正確に言えば、その火山の中腹に。
ちなみに
「あう、うぅぅー……」
「大丈夫ですか、ほら足元気をつけて……」
「ありがとう……うぅ……」
火山と言っても何十年も活発になっていないような山で、多少荒れてはいるが草木が少ない分寧ろ登り易かった。グロッキーなライラさんには厳しい場所だったようだけれど。本当は魔法車で登れば数分で行けたんだが、警戒されないためだったのだから仕方がない。
しかしここまでの僕たちは登山をしただけ。目的のカーバンクルは見つけられていない。
「ふぅ、ふぅ……やっぱりこの体調に登山は堪えるね……」
「やっぱり酔い止め魔法習得してから来るべきだったんですよ、別に街でできる儀式だったんでしょう?」
「いや……半日かかる儀式だから……」
「あぁ、そういうことですか……」
後で聞いた話によると、酔い止め魔法は『強烈な眩暈と吐き気を起こすキノコを食べ、10時間吐かずに耐える。その間何も口にしてはならない』儀式によって習得できるとのこと。相変わらず誰が作ったのかわからない儀式だと思う。そのキノコは持っているが怖くて試せていなかったらしい。
「もう少し休んだら探索を始めましょう。でも僕、実物は見たことないんですよね」
「見つけられればすぐにわかるさ。あ、ほら、君の後ろにいるやつみたいな……ん?」
「後ろにいる? ……あ」
「きゅ?」
振り返ったところにいたのは、猫だかイタチだか狐だかよくわからない小動物。その額には燃えるような赤い宝石が輝き、興味深そうな目でこちらを見つめている。
これはまさか、いや間違いない。カーバンクルだ。
「つっつつ……捕まえて!」
「は、はい! ……よっと」
「きゅぅー?」
驚かせないようにゆっくりと屈んで、目の前のカーバンクルを抱き抱える。軽さは大人の猫と同じくらいか? 少しだけ不思議そうな声を上げたが、まるで抵抗されることはなかった。
え? これで捕獲できたのか? ここまで登って5分も経ってないのに?
「や、やった〜」
「わ〜い……うん」
「きゅきゅう」
肩透かしを食らったような気分だが、一番面倒そうだったカーバンクルの捕獲は達成した。あとは額の宝石を取って戻れば完了……あれ?
「どうやって取るんですか?」
「あっそっか」
必要なのは宝石だけ。本体は山に返すつもりだが、僕にはどうやって取ればいいのかわからない。すぐには見つからないと思っていたし、探す間に聞くつもりだったのだ。きっとライラさんなら知っていると思って。
「え〜と、確か……ああ思い出した。『カーバンクル自らに差し出させる』ことだね」
「つまりただ毟り取ろうとしてもダメだと」
「発想怖っ……まあそうなるね。あくまでもカーバンクル側から渡すことが大事だ。無理矢理奪えば即座に石ころへと変わってしまうんだ」
「成る程……で、どうすれば差し出してくれるんでしょう?」
「……さぁ?」
これは困ったぞ(数時間ぶり2回目)。折角目の前に目当てのものがあるのに、このままでは手に入らない。そもそも差し出させるって何? けどこのまま抱えているわけにもいかないし……気のせいか暑くなってきた気がするし。
「ぎゅぎゅぎゅ……」
「あれ、何か怒ってる……?」
「……魔力反応だ! アランくん早く離して!!」
「ぎゅーーー!!!!」
「わ゛ぁーーっ!?!?」
ライラさんの警告とほぼ同時に上がった怒りの声に驚き手を離した瞬間、カーバンクルを中心に炎が発生する。威嚇のつもりかさほど高い火力ではなかったとは言え、危うく鼻先が焦げるところ。おまけに驚いた隙を突かれて逃げられてしまった。
「今のがカーバンクルの魔力。本気だったら丸焦げにされてたかもね」
「そこらの魔獣よりよっぽど危ないなぁ。って、逃げられちゃったんですが」
「敵視までは行ってないと思いたいけど……まあ警戒はされてるだろうし、また捕獲するのは難しいだろう。できたところで宝石を取る方法は思いついてない」
「今日のところは諦めますか?」
「うん、ここで野営するとしよう。ちょっとは慣れてくれるかもしれない」
元より1日で捕まえられるとは思っていない。数日野営できるくらいの用意はいつでもしてあるんだ。ということでテントを張り、持ってきた固形燃料に火を着ける。
「癖で火着けましたけど、余計避けられたりしませんかね」
「火の魔法を使う獣が火を恐れたりしないだろう……たぶん。変に魔法で光源作る方が怪しまれるんじゃないかな、鼻を押すと頭が光る魔法とか」
「なんで真っ先にそれが出てくるのかわかりませんが……。えーと、じゃあ考えましょうか」
「うん。お茶も淹れよう」
今考えなければならないことは3つ。1つ目はカーバンクルの捜索。2つ目は捕獲。そして3つ目は宝石の回収方法。
「捜索に関しては、さっき触れた魔力の感覚から探れるでしょう。捕獲もまぁ、炎の対策さえしておけばなんとかしてみせます。となると……」
「回収、か」
無理矢理奪うのであれば簡単だが、向こうから差し出されなければならないというのはかなり難しい。翻訳魔法を使えない僕たちでは言葉は通じず、通じたところで交渉ができるのかも怪しいからだ。
「シンプルなものなら、脅すか甚振るかで差し出させるって方法があるね。できるものならだけど」
「向こうから襲ってきたのならともかく、動物虐待じみたやり方はちょっと。貴女が望むならしますが」
「望まないよ。できる限り穏便にね」
「さっすがライラさん。優しくって素晴らしい!」
「……うん、続けようか」
それからもあれこれと方法が挙げられるも、『それだ!』と言えるものは出てこず。物々交換、恩を売る、煽てる、待ち続ける…… 確実性がないものばかり。
「ライラさんが美しくお願いしたらあっさり渡してくれたりしませんかね?」
「もう寝ようか」
夜更けまで話し込んでも方法はまとまらず、結局この日は寝ることになったのだった。
「おはよう」
「おはようございます」
朝。簡単な朝食を摂り、野営道具を片付けて捜索を再開する。まずは昨日覚えた魔力の感覚を使って、それに近い魔力を持つ生物を探す。
「……南西方向、少し離れてこっちを見てるやつがいますね。体格が大きいし、昨日のとは別個体かな?」
「よく分かるものだね。私は頑張っても方向までだよ」
「これも軍にいた時に身につけた……おっと、西へ移動しました」
早速見つけた反応に向かって、刺激しないようにゆっくりと距離を詰める。断続的に移動を繰り返しているが、逃げているというよりは角度を変えて見ている感じだろうか。敵意はなさそうだ。
このままいけばすぐに目の前まで近づける。その前に最終確認だ。
「捕獲した後ですが、一旦食べ物でも渡して機嫌を取りましょう。脅しは最終手段で」
「それでいいよ。穏便に済むならそれが一番……もう少しだ」
「……きゅう」
交渉も大事だが、それ以前にいきなり狭い檻に閉じ込めれば機嫌を損ねること必至なので、とりあえず広めの、すぐには逃げられない程度の囲いで捕獲としよう。
そうこうしている内に僕たちとカーバンクルは目と鼻の先の距離。
「いきますよ。暴れるかもしれませんから気をつけて」
「うん──ん?」
「3,2,いち──」
目の前の獲物を逃さないように神経を尖らせ、魔力を広げる用意をする。チャンスは一度、獣の動きは予想外つかない分、人間を捕らえる時よりよっぽど集中しなければならない。
「イーーーヤッハァッ!」
「はっ!? ──不味い!」
「えっ!?」
「ぎゅうっ!?」
だから、後ろから迫る敵にも気付けなかった。奇声に驚き振り返ったときにはもう敵は攻撃態勢に入っている。獲物を追い詰めたつもりで、追い詰められていたというわけだ。
「爆ぜな──
「『
「わぁっ!?」
「チッ……」
大急ぎで魔力を盾に変換し、敵の出した爆発を受け止める。その前にライラさん引っ張って庇い、ついでにカーバンクルも盾の陰に入れる。即席で創られた盾は一撃で砕けたが、どうにか防ぐことができた。
「オイオイオイ、今のは派手に脳ミソぶち撒ける筈だろォ? なーんで防いじまうかなァ」
「……うるさいな、派手な挨拶で獲物が逃げただろう。お前は──」
「オレ様が誰か知りたいって? 知りたいよなァそうだよなァだったら教えてやるぜ!」
「お、おう」
まだ聞いてないのに教えてくれるのか……? 少し上空にいるその姿は見たところ17歳程度。まるで爆発を表現しているかのような、尖った髪型とテンションの男だ。
「オレ様はバンク! 偉大なる我らが
「私をっ──君も追手か!」
「そういうことだ! つーわけで……
「うわぁっ!」
男が指を鳴らした瞬間、周囲の
「どォだオレ様の
「認めたくないが、確かにこれは……鬱陶しい!」
ひとつひとつの爆発は盾1枚で受け切れる。しかし隙間無く囲うように繰り出されると全てに対応するだけで精一杯だ。僕1人なら鎧で固めて無視しできるのだけど……今は後ろにライラさんがいる。
「忙しいところ悪いけど、私だけあの殻で囲えば君は自由に動けるんじゃないかな?」
「その通りですが、この爆発を防ぐにはそれなりの厚さが必要です。こうも連続で攻撃されているとそれだけの規模で『
「そっか……わかった。ちょっと待ってて」
「? ……何をっ!?」
提案をしたと思えば、突然前に出るライラさん。まだ僕がカバーできる範囲でも危険なことには変わりない。大事な大事なお体が爆発に巻き込まれれば、僕は死んでも死に切れないというのに。
「確か、バンクくんと言ったね?」
「あァ? だったらどうし──」
「見事な魔法だ! 出の速さに加えて攻撃範囲の広さ、勿論火力もある!」
「!?」
「へぇっ!?」
愛する人が危険を冒して前に出た、そして敵の魔法を褒め出した。僕はこんな褒め方なんてされたことないのに。
「修得には厳しい儀式が必要だったろう! それを突破した君を、私は尊敬する!」
「あ、あぁぁ……」
「…………」
さらに続く称賛。これが
「へへっ……! よくわかってんじゃねェか!」
いた。阿呆だこいつ。
「今だアランくんっ!!!!」
「うおおお
「何ィッ!?」
喜びに手が止まった瞬間、全速力で殻を生成。ついでに鎧も生成し、守りは固まった。これで僕は自由に動くことができる。
「だっ……騙しやがったな!? オレ様のプライドを弄びやがって!」
「何言ってるのかな、後ろから人を襲うような相手にはこれくらいの策は許されると思わないかい?」
「テメッ……」
「まあ魔法が凄いと思ったのは本当だけど」
「ングッ!」
……またちょっと心にダメージが入ったが、まあいいだろう。この人の魔法好きは知っていたことだ。そして、今僕がすべきことは目の前の敵を倒すこと。
「いくぞ悪党、この純愛の騎士が叩き潰してくれる!」
「やってみろよ、雑魚騎士が!!」
「!」
敵の足元が爆発し、その勢いを利用して急加速。目の前から一気に真横へと移動する。特別な靴でも履いているのか、あるいは
「
「っ『
「当たるかよ!」
「上っ!?」
盾で受け止め、そのまま剣を展開して斬りつける。しかし斬りつけた先に敵はおらず、既に真上へと回られていた。
「
「『
「アランくんっ!」
咄嗟に壁を展開しても間に合わず、容赦の無い爆発を身に受ける。痛い、熱い。魔力の爆発でも熱を持つか。
それにしてもこの爆発を利用した動き、予想以上に出が早く、さらに三次元的な動きで小回りが効く。中々に厄介だ。
「ほゥら次だ!
「ぐっ、あぐ……!」
「あいつ速い……! もっとがんばれアランくん!」
「はぁい!」
あらゆる角度から襲いかかる爆発。それも確実にこちらの動きを邪魔する角度で撃ち込まれている。阿呆な奴だと思ったが、意外と賢いな。
けれど僕にはライラさんの応援がある。よって知能指数は無限大。
「まだまだいくぞ!
「──今!」
小さな小さな隙、それは攻撃をする瞬間は爆発による方向転換ができないこと。だがそれは反撃できるだけの時間ではない。だからこうする。
「んだこりゃ──枷!?」
「『
地面に打ち込まれる鉄の杭と、そこに繋がれる大量の鎖。敵を取り囲み、拘束するための武装だ。
動きが厄介なら、そこを潰すまで。速さを重視して1本1本は軽く細いが、いくらなんでもこの量は躱せまい。
「クソッ! ジャラジャラと鬱陶しいっ!」
「よっし!」
「捕らえた!」
軍隊にいた時も、速い敵にはこれが良く効いた。いやぁ前の職場のスキルが役に立つってこういうことだったんだな。
「どうだ抜け出せないだろう。さぁ……お返しタイムの始まり──」
「──なァんてな、
「なっ!?」
再び爆発。しかしその爆風は僕たちに届くことはなく、敵に繋がれた鎖のみを吹き飛ばす。何故なら今起爆されたのは
しかも自爆したはずの敵には少し焦げたような痕が付いただけで、目立ったダメージはない。
「オイオイ、オレ様は中級までしか使ってねェぜ? こんなんじゃ歯応えってやつが足りねェなァ?」
「…………」
「何だ、黙るなよ。折角なら悲鳴でも上げろっての」
僕の
今の僕ではどうやっても追いつけない。だから、
「よし……」
「脳ミソぶち撒ける覚悟は決まったか? だったら──派手に死ねッ!」
「『
「
「うわああっ!?」
「──
敵の掌から放たれた魔力が炸裂し、威力も範囲も中級とは桁違いの爆発は地にクレーターを残す。その余波は離れたライラさんを包む殻を割り、砂煙を巻き起こした。
「ギャァーッハッハッハ! モロに食らいやがった! こりゃ最高だァ!」
「……う、げほっ、そ、そんな……」
「どォれ、ぶち撒けた脳ミソでも観察してやろうか……残っていればなァ?」
「残念、それは無理だ」
「……あ?」
砂煙が晴れ、視界が開かれる。そして敵が見たものは爆心地に立つ僕の姿。それも上級呪文をその身に受けて、一切のダメージを負っていてない姿だ。
「な、な……何で生きてやがるッ!? 確かに直撃していたハズだッ!」
「そうだ、間違いなくお前の魔法は当たっていた。
「鎧……? ああ! その鎧、さっきまでとは違うんだね!?」
「その通り。流石はライラさんだ、御目が鋭い」
「だったらもう一度だ!
「『
「……!」
再び放たれた特大の爆発を強化された盾が受け止める。下級魔法1発で砕けていた盾は、もはやヒビすら入らない。
「これでもう、お前は僕に傷ひとつ付けられないことがわかったろう……どうする?」
「グッ……テメェ……! だったら!」
「あっ!」
「剥き出しの供物を攫うまでだッ!」
「……ふん」
攻撃が効かないと悟ると、すぐさま標的を切り替える。確かに奴の目的はライラさんな訳だし、勝てない僕に立ち向かう意味は薄いと考えたんだろう。確かにその通り、けどもう無駄だ。
「『
「ちょ──ぐぎゃァッ!」
敵とライラさんの間に割り込むように壁が出現し、見事に突っ込まれる。動揺のあまり自慢の急加速を制御できていないようだ。
「重くて堅いから、この距離では間に合わないとでも思ったか? 御生憎様、遠隔で出す分には関係ないんだよ」
「ハ、ハガガ……」
「びっくりしたぁ……」
「次はもっと遠くで止めますよ。次があれば、な?」
「ヒィッ!?」
自慢の魔法は通じず、標的を切り替えても阻まれた結果鼻が折れる始末。さっきまでの威勢はどこへやら。実力に自信を持ち過ぎている魔法使いにはよくあることだ。
もはや戦意が残っているのかも怪しいところだが、ここで逃すわけにはいかない。危険の芽は摘まないと。
「『
「イッ、ヒィッ、ヒーーーッ!!」
悲鳴が途切れた、地が揺れた。
「……ねぇ、死んでない?」
「いや生きてますよ。胸が上下してるでしょ」
「雑な生存確認だなぁ」
数分後。戦闘が終わり、僕たちは完全に伸びた敵を縛りつけていた。どうせ丸一日以上は気絶したままだろうがもしものためだ。下山したら森にでも捨てる。
「しかしすごい魔法だったねぇ、ああ、君の魔法のことだよ?」
「わかってますよ。でも消耗が激しいんですよね、魔力と体力の両方が」
「難しいところだね、それでも弱い魔法しか使えない私には羨ましいけど」
間違いなく強力ではある。しかし単純に魔力消費が数倍に加えて重さに耐えるための体力と補助魔法も数倍になることを考えると決して効率的な魔法ではない。軍にいた時も日常的に使っていたわけじゃないし、それだけこの敵が強かったということは認めざるを得ないな。もっと精進しないと。
「しっかし、さっきのカーバンクルには逃げられちゃったし、どうしようね?」
「今から探すのは少し厳しいですかね。派手に戦ったし……」
「そうだね……まだ日は高いけど、今日は諦めるしかないかな?」
「ですよねぇ……んん」
あれだけ激しく戦ったんだ、野生動物が警戒していないわけがない。地形まで変わってるし、恨まれてる可能性すらある。そうなったら宝石を譲り受けるのは絶望的だ。
まだ印象がマシであろうライラさんに頑張ってもらうか、それとも諦めてどこかで売られているのを探すか、とにかくライラさんの言う通り今日は無理だろう。と考えたところで、足元にむず痒い感触を覚えた。
「きゅう」
「!?」
そこにいたのはさっき逃げたカーバンクル。僕たちの戦いは見ていたはずだというのに警戒心などまるで無いと言わんばかりに擦り寄っていた。
「きゅ!」
「え? なんだこれ……ってこれは!?」
「
予想外の出現に戸惑っていると、カーバンクルは1つの石を差し出す。それは燃えるように紅く、カーバンクルのシンボルとも言える宝石。僕たちの目当てのアイテムだった。
「くれる……のか?」
「きゅん!」
「あ、ありがとう。しかし何故?」
たぶん肯定。つまり宝石の魔力を失わない条件は満たしているというわけだ。嬉しい、嬉しいが、一体どういう訳だ?
「……そうか! 最初に君はカーバンクルを守った! そのお礼のつもりなんじゃないかな?」
「あー、確かにそうした気が……そうなのか?」
「きゅん!」
「だってさ」
「やったぜ」
物のついででやったことだが、まさかこんな形で返ってくるとは。人──獣助けはするものだ。
「きゅー!!!」
「あっ……行っちゃった」
「残念、もうちょっと調べたかったんだがね」
僕たちが納得したのを確認すると、あっという間にカーバンクルは逃げていった。最後の鳴き声は挨拶だろうか、そう思っておこう。
「さぁ街に戻ろう。片付けと
「帰りはゆっくり運転しますね、酔わないように」
「……忘れてた」
「いらっしゃ……おお来たか!」
「ずっと待ってたからな。それで、例の物は?」
「バッチリだぜ!」
街へ戻り、
「『失敗したらごめんなさい』とかシスターに言われた時はどうなるかと思ったけど、杞憂だったね。いい仕事だよ」
「そんなこと言ってたのか……リリィ……?」
「だってローグがまともな炎創れたことなんてほとんど無いじゃない」
「ぐはぁっ!」
今まで彼が創ってきた炎は『目が眩むほどの街灯』『食材が奇跡的な不味さになる調理炎』『体力を燃料にする破壊炎』など。それを聞いた時は本気で心配した。
そんなこともありつつ完成した『浄化の炎』は、小瓶に収められた状態で紅く揺らめいている。空気ではなく魔力で燃えているので、弱まったら補充してやればいつまでも燃えるそうだ。
「まあ、俺にとってもいい経験になった。これからの仕事もうまくできそうだ」
「…………」
「信じてくれって!」
冗談めかして沈黙しているが、この一発勝負の仕事をクリアできたんだ。きっと彼の腕も上がっているだろう。たぶん。
「確かに受け取った。それじゃあ……」
「もう行っちゃうの?」
「急ぎの旅でね。残念だけど」
「また来ます、旅が終わったらだけど」
もう少し滞在したい気持ちもあるが、ここでの目的を達した僕たちは次の魔導具を探しにいかなければならない。あまり長く留まると、また追手が来かねないって事情もあるけど。
「……待って!」
「?」
店を出る僕たちをシスターが呼び止める。挨拶はちゃんと済ませたはずだ、何か忘れ物でもしただろうか。
「『あなたに、輝く希望と永遠の幸福を……』」
「……これは!?」
「『あなた方の旅路に、この言葉を……』」
「……『プラリネの祝福』!」
「あは、知ってたんだ」
知っているとも。『プラリネの祝福』──とある一族だけが発することのできる、あらゆる病、不運、呪いを跳ね除ける魔法の言葉。今はとある街にいるシスターだけが持つ──彼女がそうだったのか!
光の言霊は吸い込まれるように僕たちへ届き、輝いた。どこか暖かく、心地いい。そりゃあ護衛も着くはずだ。
「訳アリみたいだから、私からのおまじない。……でも、解決はできなかったみたい」
「ううん、その気持ちが嬉しいよ。本当に」
「これは石取って来ただけじゃ足りないな。今度会う時は、沢山炎を買わせてもらおう」
「ああ、任せとけ!」
こうして僕たちはこの街を去った。途中色々あったが、目的を抜きにしてもここへ来てよかったと思う。遠くで手を振る2人の姿を見て、僕たちの結婚式には必ず呼ぶことに決めた。
「さぁ次なる目的地へ! どんどん飛ばしてくれたまえ!」
「待ってる間に酔い止め魔法修得してよかったですね!」
これで二つ目の収集完了。僕と
一方その頃。
「やっと、見つけました……」
誰もいないはずの遠くの森にて、魔法車で飛ぶ僕たちを見上げる影が一つ。
「私の先輩……!」
その姿は騎士であった。
アラン・ガントレット
純愛の騎士。魔法車を買ったら貯金が8割消えた。
ライラ・サクラーレ
三半規管クソ雑魚魔女。魔法車の運転免許を持っていない。
酔い止め魔法の修得は3回挑戦した。
スヴァ・ローグ
ポンコツ炎屋。詳しくは原作2巻参照。
アランとライラを見送った後、「そういえば
シスター・リリィ
おてんばシスター。詳しくは原作2巻参照。
プラリネの祝福で偽黒魔女が解呪されなかった理由は、呪いの影響が表に出ていないため反応しなかったため。仮に効いても溜め込まれた魔力が多すぎて弾かれる。
カーバンクル
護石獣。かわいくて賢い。もしもライラさんが美しくお願いしていたら宝石を差し出していた。
バンク
ボンバヘッな男。3日後に目が覚め、さらに2日後に『回収』された。
放出した魔力を起爆する魔法。就活で役に立つらしい。
浄化の炎
とても清らかな炎。火種となった護石獣の紅石を除けば穢れたもののみを燃やす。熱はない。
今回の錬鉄魔法
『
杭が出る。テントを張る時に便利。
『
拘束用の鎖と枷。常人には壊せないけど爆発には耐えられなかった。
『
魔力を通常の数倍消費して強度(とついでに重量)を飛躍的に高める。疲れる。
謎の女
だ、だれの後輩なんだー。
後書きが長すぎるので次回からはもっと短くします!