僕と儀式屋さんの魔女結婚儀 作:ぺっぱーみとん
次は……夏が終わるまでに……
「『
「出たかったなぁ、僕らが出てたら優勝確定だったのに」
「そういう根拠のない自信はどこから来るんだい?」
「もちろん愛ですよ」
やばい後輩と一線交え、海竜の鱗を頂いてから数日後。僕たちは次なる魔導具を求めてジュエル・ラグーンから西へ魔法車を走らせていた。
「毎度直前になって聞いてますけど、次の目的地はどこなんです?」
「『
「……また危険地帯かぁ」
もちろん知っている。
「なるほど、確かにエグドラシルの木材なら僕たちの魔女結婚儀にも使えそうですね」
「いや、違うけど」
「あれー?」
この流れで違うことなんてあるのか? いや、ライラさんが言うのならその通りなのだが……ならこの森で何が必要となるのかわからない。
「詳しくは到着してから……って、もうすぐそこだけど」
「うーん……ま、いいか!」
「ひゅー、ひゅー……」
「前にも見ましたねこの光景」
巨大樹の森に到着してから約1時間。ライラさんはまたしても虫の息になっていた。
「ちゃんと言ったじゃないですか、体力無いんですから徒歩で進むのは無理ですよ」
「だからって……ハァ、魔法車も通れないじゃないか……ハァ……」
「そこはほら、僕がおぶりますよ」
「そんなお婆ちゃんみたいな扱いは嫌……」
わがままだなぁ、けれどそんな所も好きだなぁなんて思いつつ、景色を眺める。視界に映るのは巨大樹の幹と足首に届くくらいの雑草それと土、石ころ。あとは虫の息のライラさんのみ。それ以外は何もない。どこまでもどこまでも、同じ景色が続いている。
「獰猛な獣はいない、危険な植物もない。しかし食糧になる木の実も水場もない。巨大樹は半端な魔法じゃ燃えも傷つきもせず、雑草はすぐ伸びるから目印もつけられない……」
下手に迷えば餓死一択。話には聞いていたが、実際来てみるとかなり厳しい場所だ。王国軍が調査を諦めた理由もなんとなくわかる。地形が複雑で危険な魔獣がいても、食糧も水場は豊富だった悪魔の樹海に比べると、こちらの方が過酷かもしれない。
「この森特有の現象として、魔力が養分に変換されてしまうというものがある。だから弱い魔法は機能しなくなるし、そうでなくても消費が増えるんだよね」
「うーん、それはまずい」
「え? 私みたいな雑魚魔法使いならともかく、君ならそう問題にならないと思うけど……?」
「あっ、えと、疲れちゃうなーって」
「……?」
誤魔化せてないか? しかし今更言ったって仕方ないことだ。せめてここでの目的を果たすまでは秘密にしなければならない。もし言ってしまえば、
「君、なんか怪しくない?」
「な、何でもないですって! ほら、急ぎましょう!」
「うーん……」
これ以上怪しまれたらボロが出そうだ、騙すようで……というか実際騙しているのは申し訳ないが今は先へ進ませてもらおう。秘密があろうがなかろうが急いだ方がいいのは事実だし。
ライラさんの息も整ったところで、また一歩進んだその時。
「わはははは………」
「待てっ……ぅ……」
「……ん? 何か言いました?」
「いいや……けど、私にも聞こえたね」
突然聞こえたのは2人分の声。危険地帯には場違いなほどはしゃいだ声と、慌ててそれを止めようとしている声。姿はまだ見えないが、どうやら少女と男らしい。ついでにライラさんにも聞こえていることから、幻聴でないことは間違いない。
「かけっこするぞ! シオン、エマ!」
「ルーちゃん待ってぇーっ!」
「声が増えた……それに近づいてる?」
「それもそうだけど、ついさっき聞いた名前が出てたような……?」
3人目の声ははしゃいでいる子より少しだけ年上らしい女性の声。会話の内容からそれぞれの名前もわかった……って、もしかしてやばい?
「ライラさんこっち!」
「え?」
猛スピードで接近する敵かどうかもわからない少女、そしてそれを追いかける男女。僕たちはその軌道上に立っている。予想通りならあと数秒でここに来る……つまり激突する可能性大。
「よっしゃーーっ!!」
「わぁぁぁ!?」
どうにかライラさんを抱えて横に回避すると、次の瞬間魔法車より遥かに早い速度で少女が通過する。ピンク色の髪を後ろで三つ編みにした、声の通り元気そうな女の子だ。
「あたしの勝ちーっ! シオンは2位なっ!」
「ムチャクチャなルールで勝負するな! 全くお前は……」
「だ、大丈夫ですシオンさんっ! ビリはわだしですからっ!」
「そのフォロー意味あるかしら……?」
そして少女を追っていた2人も登場。銀髪で目つきの悪く、箒を持った少年と、茶髪のロングヘアーで、優しそうだがやや天然な少女だ。年齢はどちらも16かそこらだろうか? そして喋る黒猫……翻訳魔法かな、ここでよく使えるものだ。いや、
「ごほん、ちょっといいかな?」
「……何だ?」
「うわ態度悪っ」
「アラン君静かに」
そして驚きは隠しつつライラさんが声をかける。見るからに怪しい──実際1人は怪しいという次元じゃないが──3人と1匹にも友好的に話しかけるあたりさすが人ができている。なお僕はできていない。
「えーと、君はシオン・エリファス・レヴィくんだね? 初めまして、私はライラ・サクラーレ。こっちはアラン・ガントレット」
「そうか、じゃあな」
「待って待って」
挨拶すらまともに返さずに去ろうとする少年──シオン・エリファス・レヴィ。彼は西方三賢者の1人にしてお尋ね者。罪状を挙げればキリがなく、懲役刑なら8000年を超える大犯罪者だ。騎士ならばすぐにでも捕まえるべきなんだろうが、今の僕は元騎士なのでまだ様子見で。『ある程度の事情』も知っていることだし。
しかしこの犯罪者に仲間がいるなんて聞いたことがない。誰だ?
「ちょっとくらい話を聞いておくれよ、初対面だけど」
「断る。急いでるんだ、お前らなんかに構ってる暇は──」
「──わかった、じゃあ逆に質問しようかな」
「……は?」
ライラさんの様子が変わった。ほんの少し前まで慌てて引き止めようとしていたはずなのに、急に落ち着き、何かを見透かしたような態度でシオンの隣に立つ少女を指差す。
「その娘、『
「えっ!?」
「……っ!」
今何と言ったか、この少女『
「正解…ってことかな」
「何故、いやどこで知った」
「知ったんじゃない、
そしてライラさんは彼女の──僕たちの事情を語った。自身が『黒魔女』の模造品であること。その解呪を目指して旅をしていること。今日ここで出会ったのは偶然で、敵意はないこと……ざっとこんなところだが、話している間もシオンは警戒を解かなかった。
「というわけなんだが、信じてくれるかい?」
「え、ええと……」
「うん……まるっきり嘘ではなさそうね、シオン?」
「……ああ」
「ならよかった」
シオンと黒猫さん以外は理解が追いついていないようだが、何とか信じてもらえたようだ。これも本物の関係者だからこそだろう。
だが事情を説明しただけでさようならとはいかない。本物の『黒魔女』がここにいて、
「驚いたよ。まさか本物と偽物で儀式が被るなんて。……驚きついでに聞くけど、君たち
「……答える義理は「はい!」おいエマ!?」
「え? だってさっき『この森で一年に一本しか生えない木を探す』って……」
「全部言わなくていいっ!」
「あらら……」
……今の会話で大体わかった。僕たちの目的はこの森のどこかに一本だけ生えている樹で、それも年に一度、おそらくこの時期にしか無いものであること。それは本物の魔女結婚儀でも使われるものであること……要は被ってしまった訳だ。
「なら争奪戦は避けられませんよね、どうしますか?」
「拳は引っ込めて……向こうの強さは君の方が知ってるだろ。第一さっきまで魔法使うの渋ってたじゃないか」
「な、何のことですかねー」
痛い突っ込みにはすっとぼけつつ、本音を言えば戦いたくない。情けないことだが万全の状態でも僕1人では勝てると言い切れないし、魔法を使うのは控えたい今は尚更無理だ。下手に動けば瞬殺される。
「ねぇ話のわかりそうな黒猫さん。せめて提案だけでも聞いてほしいんだけど」
「アニスよ。目的を譲れって提案じゃなきゃどうぞ」
「よかった。それで提案だけど、ここは一旦別れて、後はもう早い者勝ちってことにしないかい?」
「うーん……どう、シオン?」
「…………」
ライラさんの提案を聞いて考え込むシオン。気持ちはわかる。この短時間のやり取りでもこの2人が本当に愛し合っていることはわかるし、だからこそ
……かと言ってハイどうぞなんて選択肢は無い。この機会を逃せば次は来年、この先偽物の黒魔女がどう変質するかわからないし、追手の存在や結婚適齢期を考えるとそこまで待っていられないからだ。結婚適齢期以外は本物だってそうだろう。早い者勝ちが最大限の譲歩だ。
そして、シオンが口を開いた。
「ダメだ……今ここで、どちらが手に入れるか決める」
「シオンさんっ!」
「すまんエマ。ここは譲れない」
「だよなぁ……」
驚きは無く、寧ろ納得した。僕の知っているシオンはそういう選択をする。
「待ってくれ、もう少し話し合いを……」
「いやぁ無理ですよ。お互い不本意ですが、もう戦って決めるしかありません……だから、下がってください」
「っ……わかった。頼んだよ」
「任せてください」
シオンはもういつでも戦える状態だ。こちらの用意を待っているのは提案を蹴った罪悪感か、それとも実力を見定めているのか。
「ほらエマ、ルー。私たちも下がりましょ」
「あたしもたたか、むぐー!」
「ルーちゃんっ!」
向こうもシオンを残して距離を取った。これで戦いに巻き込まれることはないだろう。
あぁ、正直本当に嫌だけど、勝てる気はほとんどしないけど、負けられない理由はある。その思いだけは一緒のはずだ。
「
「来い」
鉄の拳と魔法の箒を構えて──いざ。
「はぁぁっ!」
「……ふっ!」
「うわっ!?」
鉄の拳を思い切り叩きつけた初撃は間に挟まれた壁で軽く防がれる。そして壁の後ろからは槍の様に尖らせた箒草が3本、襲いかかってきた。
「『
「チッ……」
1本は左の手甲で弾き、右から来るのは手甲を盾に変形して受け止め、その反動を利用して最後の1本を躱す。危なかった、やはりこの程度の攻撃はすぐカウンターされるか。
「王立図書館に襲撃した時以来だったか、また強くなってるな」
「知るかよ、お前が弱くなったんじゃねーの」
「言うなぁ……完全には否定できないけど」
シオンの戦い方はよく知ってる。箒魔法──魔力を通した箒草を自分の手のように自在に操る魔法をフル活用したもの。伸縮自在かつパワーも十分、今の僕では
その弱点は2つ、一方は炎だが生憎と鉄装魔法にそんなものはない。となると突くべきはもう一方の弱点──『切断』だ。
「『
「!」
「はさみーっ!?」
魔力を追加した盾を鋏に変換し、箒草を切断。並の刃物では歯が立たない強度だが僕の魔法なら十分切り裂ける……『
「一度切った程度で──」
「止まらないのはわかってる──『
「が……っ!」
普通の箒ならただの棒切れになるところだが、箒魔法の場合は魔力さえあれば直ぐに伸びるのでそうもいかない。だからその前に叩く。
左に残していた鉄の拳が鳩尾に突き刺さる。間髪入れずにもう一発入れようとして──また壁に阻まれてしまった。
「シオンっ!」
「心配すんなっ、平気だ!」
「後ろに跳んでたか……」
だから完全に威力が乗らなかった。それでもいい位置に入ったはずだがダメージは少ない。相当鍛えてるな。
「さて次はどうやって──「アランくん下!!」っとぉ!?」
「突っ立ってる暇があるのか?」
「その通りだなぁ!」
真下から突き出す攻撃を躱し、次の攻め手を考える。危うく捉えられるところだった、これからは絶えず動き続けないと不味い。
「うおおおっー!」
そして再び鋏を構え、荒ぶる箒の中へ飛び込んでいった。
「ぐっ、このっ!」
「……やっぱり変だ」
戦いが始まってから数分。彼──アランくんは未だシオンを相手に善戦している。
そう、善戦だ。優勢じゃない。最初の一発からまともに攻撃は入らず、逆に相手の攻めをギリギリのところで凌ぎ続けている。その状況に私は違和感を感じていた。
「何というか、勢いがない? いつもならもっと強い技で攻めてるのに……」
「そうなんですか?」
「えっ? あ、うん」
違和感の正体について考えていると、
「いっつもはもっとこう……どかーん、ずしーんって感じで……派手なんだ」
「へぇー、前にシオンさんがやってた感じみたいだべか……」
「前に……あ、
「あ、あはは……」
あれはアランくんと旅に出る少し前だったか、趣味の悪い富豪どもが集まる国──招待状も入場料もないから行ったことないけど──が壊滅させられる事件が起きた。確か報道にはシオンが映っていて、側に認識阻害魔法のかけられた女の子もいたはずだ。あれも魔女結婚儀の一環だったのかもしれないな。
「別に彼を悪く言うつもりはないんだけどさ、結構大変じゃないかい? ほら、彼の素性とか」
「驚いたこともありますけど……今は全然。悪く言われることも、誰かのためだって知ってますから、えへへ」
「……そっか」
「よくこのタイミングで惚気られるわね……」
要はベタ惚れしてるってことかな。好意が自分に向いてるせいでピンとこないが、側から見たらアランくんもこんな感じなのかもしれない。……いや、彼はもっとおかしいな。
「ぐあっ!」
「あっ!」
そんなことを考えていると、彼の苦しそうな声が聞こえる。慌てて目で追うと箒でできた巨大な拳が直撃していた。
やはり回避や受け流しには限界があったようで、よく見ると細かい擦り傷も増えている。
「まだまだ! ……っぐ!」
「……」
もちろんその程度で勝負は終わらない。シオンは攻撃の手を緩めず、アランくんも体制を立て直そうとしている……そして、違和感は増していく。
「やっぱり変だ、使ってるのは普通の盾と手甲と鋏だけ、『重装式』どころか鎧すら着込んでない……」
身軽な状態で戦いたいのだろうか、しかし鎧を出せば無効化できる様なダメージを負ってまですること? 攻撃も彼にしては弱いものばかりで、何か強力な技を狙っている様子もない。
「まるで、無いものを出し惜しむような……あぁっ!?」
そこまで口にして、漸く気がついた。魔法使い、特に儀式屋なら当然頭に入れておかなければいけないはずのこと、それを完全に忘れていた。
慌てて
『ギョギョギョ……ギョギ……』
「やっぱり……!」
魔眼計は懐中時計の文字盤の代わりに目玉がついた様な魔導具で、その目玉を向けた相手の持つ魔法の残量──あとどれだけ使えるかを知ることが出来る。
そしてアランくんに向けられた魔眼計の目玉は三日月の形に変わった。つまり、彼の鉄装魔法はもうすぐ使えなくなるってことだ。
「そりゃあなー……」
シオンの猛攻を躱しながら──半分は当たってるけど──ライラさんの方を様子を確認すると、魔眼計を持ってこちらを見ている。その魔眼計の目玉は見るまでもなく三日月の表示。なら僕の秘密もバレたと言うことだろう。
「ちょっと、どういうことだいこれはっ!?」
「いやーははは、こないだの戦いで使いすぎちゃって……」
儀式をクリアして得た魔法は永遠に使えるわけじゃない。使えば使うほどに超常の源は通じる力は減っていき、最終的には使えなくなる。もう一度使えるようにするにはまた儀式からやり直しだ。
当然、魔法使いにとって魔法の使用可否は死活問題なので、そうなる前に儀式で延長したり、最悪すぐ再習得できるように用意をしておくものだ。王国軍にいた時は僕もそうしていたが、軍を抜けた僕にそんなことができるはずもなく。実は旅をする前から微妙であった魔法はついに枯渇していた。
「前より魔法使わないと思ったけどよ、切れかけとはな」
「儀式に行く暇もなかったんでね、お前だってそういう経験あるだろ?」
「……ねぇよ?」
「あるんだ……」
「ね、ねぇって!」
この反応は絶対にあるな、それが今でないことが残念でならないが……とにかくどうにかしなければならない。でもできない。
「お前それでよく喧嘩売ろうとしたな……」
「上手くいけば退いてもらえることをきたいしたんだよっ! この有様だけどな!」
当然それを知ったところでシオンは手を緩めない。寧ろ魔法を使わなければ防げない攻撃を増やしてきた。まったくあと少しで丸腰になる相手にこれは性格の悪い追い詰め方だ……正解だよ。
「『
「無茶だ! そんな壁1枚じゃとてもっ……!」
「知ってますよ。けど、これ以上防御に使える力が残ってないんです……」
もしペースを維持したとして戦えば、持って精々5分。当然その程度の時間で、それも節約して倒せる相手ではない。『敗北』の一言が頭をよぎる。
「ぐ、くそ……」
「アランくん……」
「終わりだっ!」
いよいよ動きが鈍くなってきた僕に、箒で編まれた拳が降りかかる。これ以上のダメージは受けられない。何としてでもこの身を守らなければ。
休むな、動け、重いだけ、僕は何のために戦っているのか──
「ライラさぁーーんっっ!!!」
「なっ!?」
「えぇ!?」
愛する人の名を雄叫びにして自身に喝を入れ、全力で後ろに跳ぶ。これで拳は回避できた……その代わり、変な目で見られた。
だがそんなことは知ったことか。もう吹っ切れたぞ、どうせチマチマ戦ったって勝ち目は無いんだ、思い切ってぶち撒けてやる。
「勝負だシオン! 僕は、この一撃に全てを込める!」
「何っ!?」
「」
残った魔法の力と僕自身の魔力をかき集め、この戦いを決める一撃を作り上げる。通れば勝ち、防がれれば負け。危険な賭けだが1%でも勝ちの目が出るならそれでいい。
「『
「「「でっかぁ!?」」」
そうして創り上げたのは『
「さぁどうするっ! こいつはその箒じゃ受けられないだろう!」
「……だったら
「何!?」
そう叫ぶと同時に空へ飛んでいった箒は、落下しながら剣へと変わり、シオンの手に収まる。漆黒の夜空を思わせる刀身に、星々の光の様な輝き。見ただけでとびきりの業物だとわかる。同時に、その剣が本来の箒魔法とは別物であることも。
「編み出したのか、自分で儀式をっ!」
「『魔剣"箒星"』──やるぞ、エマ」
「はいっ!」
さらにシオンとエマが身につけた指輪が赤い糸で結ばれ、出力が爆発的に上昇していく。その姿は運命を共にする証の様で、今の僕たちには慣れないもの……。
「はっ、それがどうしたぁ!」
「……アランくん。」
例え赤い糸で繋がれなくとも、思いの強さなら負けちゃいない。
「ぜぇぇぇぇいっっっ!!!」
「はぁぁぁぁぁっっっ!!!」
振り下ろした巨剣と夜空の剣がぶつかり合う。その衝撃は巨大樹の森を揺らし、全身が悲鳴を上げる。
「ぐおおぉぉぉぉっ……」
「あああぁぁぁぁっ……」
拮抗する時間は僅かだった。
ぴし。
「ぐうぅっ!」
ぴし、びき、びきり。金属にヒビが入った時の、嫌な音が耳に入る。後の発生源は──僕の剣。
「あ、ああ……っ!」
この大質量に全力を上乗せして尚シオンには届かず。少しずつ剣は砕け、少しずつ押し返される。そして、限界が訪れた。
────フッ
「──あ」
一瞬の脱力感と共に巨剣が消える。僕の全力を込めた、まだ完全には砕かれていなかったはずの剣が消えた──つまり、鉄装魔法が切れたってこと。
「いっけぇぇーーーーっ!!」
「くそーーーっ!!!!」
そして、阻むものの無くなった魔剣の一撃が襲い掛かる。気を失う直前に見えた刀身はとても綺麗で──それが余計に悔しかった。
「ん……ぐ……?」
「あ、起きた」
「おはようござ……いだだだ」
目覚めて最初に知覚したのはライラさんの姿。そして全身の痛み。一体どれほど経過しただろうか。日は高いが、まさか1日寝てたなんてことはないだろうか。
「1時間も経ってないよ。ほら、これで回復して」
「どうも……ウワー沁みる!」
手渡された神泉ルナの水(謎の石入り)を浴びる。傷口に染みるわ水自体の刺激で思わず声が出てしまったが、とりあえず傷は塞がった。
残ったのは疲労感と、それを遥かに超える敗北感。……負けたんだ、僕は。負けてはいけない戦いに。
「負けてごめんなさい。年に一度のチャンス、無駄にしてしまいました」
「あー……うん、そのことなんだけど……」
「?」
いくら謝っても謝り切れない失態……なのに、ライラさんは別のことを気にしている様子。よく見ると勝者のシオンたちも気まずそうな顔をでこちらを見ている。どういうこと?
「それは私から説明するわ。えっとね……」
「ほうほう……え゛」
代表して黒猫さん──アニスが語った内容はあまりに衝撃的なものだったが、極限まで要約するとこうだ。
『目的被ってませんでした』
そもそもいま初めて聞いたことだが、全員が求めていたものは『巨大樹に寄生する木』だった。その寄生植物はこの森に一本しか生えない代わりに、森中から栄養を集めて成長、年に一度巨大な果実をつける。だ、本当の魔女結婚儀に必要なのはこの果実。対して僕たちの魔女結婚儀に必要なのは……
「そういうことかよぉ……」
「ごめんなさいね、まさか枝だけ欲しいと思わなくて……」
「いいやこちらこそ、普通果実の方が欲しいことに気がつくべきだった」
お互い出会いに驚きすぎて、目的をしっかり確認できていなかったのが勘違いの原因。何のために戦ったんだ僕は……。
なお、寄生植物は気絶している間にシオンの娘が発見していた。そこで勘違いも発覚したらしい……虚無感すら湧いてくる。
「はぁー、でもよかった。お互い儀式を進められて」
「…………」
「あ、シオン。今回は負けだが、次は負けないからな!」
「ふんっ、今度はもっと楽勝だ」
「腹立つなぁ!」
調子に乗りやがってこいつ……だが、今日のところは完敗したことだし受け入れてやろう。やっぱり腹立つけど。
「じゃあな行っちまえ、……あと、嫁さん守れよ」
「言われなくても守るに決まってる……お前も守れよ」
「ああ」
「何か仲良くなってない君ら?」
「「いや全然」」
去っていく彼らを見送りながら、軍にいた頃シオンと戦ったことを思い出す。あの時は最後まで戦ったことはなく、大体向こうの目的を達成されては取り逃がしていたな。けど、あまり本気で捕まえる気にもならなかった。
あいつが何かしでかす時は、大抵裏があった。違法な奴隷を飼う悪徳貴族だったり、危険な魔導具を悪用する輩だったり……そういった悪党どもをシオンは気に入らない様で、軍が動く前に潰していた。それがもっと気に入らない国は丸ごとシオンのせいにしていたけど、僕はちゃんと知っていた。
「ま、それ抜いても大犯罪者だけどな……」
「やっぱり仲良いだろ君ら」
「マジでないです」
でもやっぱり嫌いだ。今日は負けたし尚更に。
「……あのさ、私からも話があるんだけど」
「う、やっぱり忘れてませんか」
「そりゃそうだとも」
今の流れで誤魔化せると思ったんだけどなぁ、魔法切れ寸前だったことを黙っていた罪は消えてないらしい。
まぁ、こうなった以上どんな処分が下されようと仕方がない。……用済みとか言われたら泣くが。
「私はね、すごく弱いんだ」
「え、あ、はい……知ってます」
そりゃ体力ないし、しょぼい魔法しかないし……何の話?
「だから戦闘は君に頼り切ってたし、当然だと思ってたんだ。要は甘えだね」
「いやそんな……頼られて嫌じゃなかったし」
「君ならそう言ってくれるだろうね。でもさ、今日は特に見ているだけでさ、
「ライラさん……」
『そんなことない』という言葉は求めちゃいないだろう。僕が言われたって嬉しくない。
ライラさんはこういう人だ。ルナに行ったあの時も責任を感じていて……優しい人だ。だから僕も応えたかったんだ。
「ライラさん。僕の使命はあなたを守ることです」
「アランくん。私はこれ以上君に甘えられない」
相手が話すのも構わずに思いをぶつける。それでもちゃんと伝わる、伝わってくる。
「「けど、今のままじゃそれができない」」
言葉が重なった。そう、今の僕たちは無力だ。だから……
「だから僕は、
「だから私は、
悔しさをバネにして、僕たちの関係を進める時だ。
四つ目の収集完了。僕と
「何かと思えば『儀式を頼む』ねぇ……」
巨大樹の森から遠く、遠くの山の上。鉄と岩に囲まれた家の中で、ニヤリと笑う男が1人。
「8年ぶりか……馬鹿息子め」
その顔はどこかアランに似ていた……
アラン・ガントレット
負け犬(自称)。
ライラ・サクラーレ
役立たず(自称)。
シオン・エリファス・レヴィ
原作主人公。エミュレートがむずい一号。
アクセス無しだったら思い出の掃討使わないと負けてた。
エマ
原作ヒロイン。エミュレートがむずい二号。
ライラと連絡先を交換した。
ルー
原作娘。かわいいし成長するとすごい。
たぶん今回のMVP。
アニス
喋る黒猫。原作だとすごい秘密があるが本作で触れられることはない。
寄生植物
果実はまずい。枝は巨大樹ほどではないがでかいのでシオンが切り分けてくれた。
箒魔法・箒星・赤い糸
原作を読もう!
一打粉砕に怒渇の心力を込め、万物を叩き割る剛剣の刃を生み出さん!!!
謎の男
アランの親父(驚きのネタバレ)