それは遙かな過去であったり、あるいは未来であったり。
時には混線し、全然関係の無いハイパーエージェントの夢を見せたり。
つまり鎧の継承者であるライナーは、なんやかんやで色んなアニメの夢を見てしまうのであった。
「……太! 裕太!」
「うるさい……静かに……寝かせてくれ……」
「私はハイパーエージェント、グリッドマン! 思い出してくれ、君の使命を!」 *1
「使命……? 俺の使命は、始祖の巨人を……」
「急いでくれ。この世界に、危機が迫っている!」*2
その言葉を聞いて、まどろみの中にあったライナーの意識が覚醒していく。
そうだ。この世界に、危機が迫っている!
始祖の巨人を奪還せねばならない。エルディア人の、未来のために!
「ああ。よくわからんが、わかったぜ! 使命を果たすときが来たんだな?」
「その通りだ! 私と君は、覚醒しなければならない。説明は後だ、裕太!」*3
「……俺は裕太じゃないが?」
「目覚めてくれ、裕太。時が迫っている!」
「誰だよ裕太」
◇◇◇
練兵場の傍にある、今は使われていない物置小屋。
元は農具の保管庫だ。ライナーの目には遙か昔に打ち捨てられた建物にしか見えなかったが、信じられないことに、ウォール・マリアが突破されるまで──つまり、3年前までは現役で使われていたらしい。
開いた扉から差し込んだ朝日が、空中をキラキラと輝かせている。
見た目は綺麗だが、つまり部屋の中は埃まみれということだ。滅多に人が来ないため、立て付けが悪くなった扉を動かしただけで、部屋が白く染まった。
とても快適とはいえない場所だが、致し方がなかった。プライベートなど欠片も考慮されていない訓練兵同士で秘密の会話ができる場所など、そうそう無い。
「じゃあ、ベルトルトも見たのか。あの夢」
ライナーの密会相手は、同じくマーレの戦士であるベルトルトだ。
巨人の継承者にとって、夢は単なる"夢"で終わらない。ここではない時代、当時の継承者の"記憶"を垣間見た可能性がある以上、相談はしておくに超したことはない。
正確に言うとアニも継承者なのだが、彼女に相談してもろくな結果にならないのは目に見えているので、ライナーは秒で選択肢から外した。
「ああ。僕が見たのは、物語の第七話までかな。主人公の裕太が、世界の秘密──彼の生きる世界を作ったのが、新条アカネであると知る所までだよ」*4
「第七話? よくわからんが、同じ辺りまでか。お前も見たと言うことは、やはり巨人の継承者の記憶だな。グリッドマン……一体何者なんだ」
「ただのアニメだと思うけど……ライナー、聞いてる? あっ、ダメだ。思考モードに入ってる」
「怪獣とやらも気になるが、一番気にすべきは、やはりグリッドマンだな……あの装甲は、鎧の巨人? さらなる巨大化もできるなら、超大型の力も受け継いでいる? 複数の巨人を一人で持つのは非効率だ。なにか理由があったはず」
ベルトルトの言葉も耳に入らないほど集中し、ライナーは夢の内容を思い返す。
町の風景から類推できる技術レベルは、相当に高かったように思える。おそらく、過去ではない。あれは未来の話だ。まだ見ぬ時代の、巨人の物語。
しばらくして。
どうにか考えを整理できた所で、ライナーは顔を上げた。
「ベルトルト。お前は、あの夢を見てどう思った?」
「え? うーん。特に何も考えずに見てたけど……しいて言うなら」
迷いでもあるのか。ベルトルトは、視線を彷徨わせた。
先ほどまでは目を開けているのも辛かったが、舞い上がった埃も収まりつつある。
「──ヒロインが可愛かったね」
予想だにしていなかった回答に、ライナーは一瞬固まった。
が、すぐに笑い出す。
「ふ、ははっ! 気にするところはそこか」
きっとベルトルトなりの冗談だ。自分の緊張を和らげようとしてくれているのだろうと、ライナーは判断した。
たしかに、深刻に捉えすぎていた。自分の次の継承者という可能性すらあると考えていたが、しょせんは"今"ではない。もう少し気楽に考えてもいいのかもしれない。
夢で見た女の子について思い出す。
六花という名前だったか? 艶やかな黒髪、そして華奢な上半身に反するような、ちょっと太い脚を持つ美少女だ*5。気乗りしない様子を見せつつも、なんだかんだで主人公である裕太をサポートしてくれる、心優しい女の子。
「たしかに可愛かった。思わず天使かと疑ってしまったよ」
「あれは天使だよ。イラつくと物に当たってしまうけれど、そういう弱い所の描写も好きだなぁ僕は。彼女には親も、真の意味で友人と呼べる存在もいなかった。ひとりぼっちの彼女は、救いを求めていたんだ。だから彼女は、自分の理想の世界を作り上げようとしたんだと思う」
「うん?」
ライナーは、微妙に話のズレを感じた。
が、ベルトルトは観察力に優れているため、自分と見えている世界が違うのかもしれない。
「俺は、なんだかんだで世話焼きな所が気に入ったな。見捨てられた子に手を差し伸べてしまうシーンがあっただろ? あそこ、良かったぜ」
「え? そんなシーンあったっけ」
「えっ」
「えっ?」
互いに顔を見合わせ、声を漏らす。
一拍を置いてから、恐る恐るといった様子のベルトルトが「まさか」と続けた。
「なにを……言ってるんだ、ライナー。グリッドマンのヒロインは、アカネチャンだろう……?」*6
「いや、何を言ってるんだ。あいつは敵だろう?」
思わず反論したライナーに対し、ベルトルトは「はぁー」とクソでか溜め息を吐いた。
「ライナーは、何もわかってない」
「そ、そうなのか……?」
「古今東西、ヒロインとは戦って勝ち取るものだよ。戦わずに結ばれるなら、それはヒーローとヒロインの関係じゃない! つまり、戦わずとも共に居られるような女の子は、ヒロインとは呼べないんだ」
「お、おう……詳しいな、ベルトルト」
「僕たちに例えよう。グリッドマンが僕たちで、アカネチャンが始祖の巨人だ。敵地に少数で潜入! 目的は始祖の巨人! しかし彼らは、始祖を倒す事を良しとしなかった。殺すという安直な選択肢ではなく、始祖を救うことを選んだ。まさにヒーロー! ヒーローが救う女の子。これをヒロインと言わずして、なんと呼ぶんだ!?」
「えっ」
「え?」
なぜか表情を曇らせたライナーに、ベルトルトは戸惑いの目を向けた。
ライナーが、その大きな体を震わせている。尋常な様子ではなかった。
「殺すのが、安直な選択肢……?」
「あっ」
「俺は、ヒーローにはなれない……?」
この世の全てに絶望したかのような表情。いかにもタフガイな見た目に反し、ライナーは地雷モリモリのメンタル虚弱体質である。ベルトルトは、地雷原でのタップダンスに失敗した。
「ち、違うよライナー! 物語と現実を混同してはいけない!」
「いや、違わない。俺は、遙か遠い理想ばかりに目を向けて、現実を直視できていなかったんだ。その結果がこれだ。全部、俺が悪いんだよ」
ブツブツと呟き、うなだれるライナー。
こうなっては、もはや止まらない。ライナーの繊細な心は再生できないのだ。
「俺を殺してくれ……もう消えたい……貝になりたい」
膝を抱えて、貝のように座り込むライナー。
もしここに大きな巻き貝があったのならば、ヤドカリのごとくその中に潜り込もうとしていたことだろう。相当に気持ち悪い絵面だが、今のライナーに他者からの視線を気にする余裕など無かった。
ベルトルトは思った。
こいつ、めんどくせぇな。
「ベルトルトチョップ!」
「ぐべっ」
脳天のリセットボタンに、強烈な打撃を叩き込む。
ライナーの心は再生できないが、体はいくらでも再生できるので、こういう物理的な記憶消去法は非常に効果的だ。
「はっ、俺は一体なにを……?」
「少し呆けていたようだね。疲れてたんじゃないか?」
ライナーは、目を白黒させながら周りを見渡す。
目ん玉が飛び出てもおかしくないほどの一撃だったが、ライナーは頑丈なので、どうという事もなかったようだ。
再起動を果たしたライナーの意識が、徐々に覚醒していく。
自分は、何をしていたのだったか……そう、ヒロインの話をしていたのだった。
ベルトルトによると、ヒーローが救う者、その人こそがヒロインである。救われる必要のない者は、ヒロインではない。
同じような話は、ライナーも聞いたことがあった。物語の法則、この世の摂理として。
「なるほど。いわゆる"幼なじみは負けヒロイン"というやつだな? たしかに、幼なじみとの恋は成就しないと聞く」
「えっ」
「えっ?」
今度は、ベルトルトが絶望の表情を浮かべる。
先ほどのライナーのように、この世の終わりを迎えたかのような表情。
「僕とアニは……結ばれない……?」
「あっ」
膝を抱えて、その場に座り込むベルトルト。
ライナーは思った。
こいつ、めんどくせぇな。
「ベルトルト・デストロイヤー!」
「あべっ」
ライナーはラリアットをかました。
ベルトルトは頑丈な上に、巨人の再生能力を持つので、こうして脊髄に強い衝撃を与えても問題は無い。なにかはみ出してはいけない物まで飛び出てしまった気もするが、彼なら大丈夫だろう。少なくとも、今までは大丈夫だった。
「はっ、僕は一体なにを……?」
「少し呆けていたようだな。疲れてたんじゃないか?」
「うーん、そうかもしれない……なんだか、首にラリアットを受けたような気がするんだけれど」
「きっちり覚えてるじゃねぇか」
「まぁ、僕とアニの間には熱い絆が結ばれているからね。冷静に考えてみたら、全然大丈夫だったよ」
「そうか……そうだといいな」
踏み込むとまた面倒なことになりそうだったので、ライナーは話を戻す。
といっても、もう話は大体終わった気もするが……いや。一つだけ、気になる事が残っていた。
「さっきのお前のたとえ話。何かひっかかるな」
先ほどのベルトルトは、グリッドマンを自分たち、新条アカネを始祖の巨人に例えた。
確かに、状況が似ている。
「いや、あまりにも似すぎている……これはいったい……?」
そこまで口にして、ライナーの脳に電撃が走る。
「人々の記憶を書き換え、怪獣と呼ばれる巨人を生み出し操る……悪魔と呼んで差し支えない力。そして、町と外は霧で断絶されており、外の世界は存在しない……?」
「っ!? ライナー、まさか彼女は!」
「ああ、間違いない。始祖の巨人だ!」
なんのことはない。あれは、例え話などではなかった。真実を言い表していたのだ!
「つまりあの夢は、地ならしによって世界が滅んだ、未来の世界の記憶だったんだよ!」
「な、なんだってー!」
ライナーは考える。
なぜ巨人の力は、あんな未来を見せたのか。
答えは一つのように思われた。
「これは、警鐘だな……俺たちは、あんな未来を変えるためにここにいるんだ」
「そうだったのか……僕はただのアニメだと思うけど、そういう解釈もあるのか……」
世界を、あのような恐ろしい場所にしてしまってはいけない。
ライナーは、始祖の巨人を奪還する任務に対し、より一層の思いを固めた。
「やはりエルディア帝国は悪魔の末裔……一刻も早く、始祖の巨人を奪還しないと……」
「ああ、うん。そうだね。僕は、早くグリッドマンの続きを見たいな」
日が高くなってきた。
もう時間だ。話を切り上げねばならない。
時間は、いつだって待ってはくれない。
「よし、ベルトルト。最後に"アレ"をやるか!」
「……っ! ライナー、やるんだな!? 今、ここで!」
「ああ!」
力強い返答。
今日は訓練兵団で、ちょっとしたお祝いがあるのだ。第104期訓練兵団、その訓練開始の一周年記念。二人はそこで、ある出し物をすることになっていた。
場を盛り上げるための任務。失敗は許されない。責任は、最後まで果たすもの。ライナーは、強くそう思っている。
「なにごとも、全力を尽くさないとな。最後の練習だ」
「今日は大事な日だからね。おかしいな、恐怖もあまり感じないし、いつもより周りがよく見える……きっと、どんな結果になっても受け入れられる気がする。僕はコレに成功したら、アニに告白するよ」
「えっ、重……いや、それぐらいの気概が必要ということか」
ライナーとベルトルトは目を閉じ、深呼吸をした。緊張を和らげ、体から余計な力を抜く。
大事なのは"間"だ。焦らず、慎重に。だが、機は逃さず。最適な"間"を作り出さねばならない。
二人は、長年共に過ごした"戦友"だ。どんな困難も、巧みな連携で乗り越えられる。二人はそう信じている。
今回も、乗り越えられる"試練"のはずだ。
二人は、同時に目を見開いた。
そして、高らかに口上を述べる。
「ショートコント」
「入隊式でイモ食ってるサシャに、度肝を抜かれるシャーディス教官」
お祝いの後。
二人は、シャーディス教官の熱い折檻を受けた。
■次回予告
ベルトルトが、魔法少女まどか☆マギカにハマった。
「ライナー、今回の夢はいい感じだね。ほのぼのしてるし」
「ああ、そうだな」
「何より、女の子が可愛いのがいい」
「ああ。確かに」
「ペロペロしたくなるよね」
「ああ……そう、だな?」
「可愛いなぁ、まどかは! 自己主張がうまくできない所に共感を覚えるよ! 押しの強いサヤカとはいいコンビだ。友情のわかりみが深い。サヤカもいいキャラだよね。辛いときに必要なのは、彼女のような友人だよ。きっと彼女は沢山の人を救うことができる。僕にはわかるんだ。彼女は、自身が傷つく事もいとわず戦う。もしかすると、誰かを救うためにその身を投げ出す、なんて辛い展開も……ははっ、さすがに無いか! 魔法少女は、夢と希望を叶える存在だからね。そんな展開なんて、あるはずない! あと、なんといってもマミさんだ! 孤独に戦っていた彼女は、共に戦ってくれる仲間を求めていた。でも、戦いに友達を巻き込む事を恐れていて、とても一緒に戦ってくれなんて言えなくて……だから、マミさんは二人に魔法少女の世界を見せて、彼女たち自身に決断をゆだねたんだ。ここに、彼女の心の弱さが見て取れるよ。マミさんが恐れを捨てて、親友となった二人にワガママを言えるようになる未来が待ち遠しいね! ライナーもそう思うだろう?」
「そう………………だな………………」
「ああでも、ほむほむだけはまだ分からないんだよね……きっと何か事情があるんだろうけど、この先の展開に期待って感じかな。僕、ツンツンしてる人って苦手なんだよね」
「そう……えっ(アニは?)」
2018年に放映されたテレビアニメ。怪獣が存在する世界で、主人公である響裕太とグリッドマンが町を守るために戦ったり、女の子を救ったりするお話。ヒロインの脚が太いのが特徴。
オタクの空想を具現化したかのような美少女。おっぱいが大きい。怪獣オタクトークで数時間を過ごせるほど怪獣が大好き。
SSSS.GRIDMANの舞台である町を創造したのは彼女である。普段は普通の高校生として生活しているが、自分の気に入らないことが起こると、怪獣を作って町ごと破壊してしまうほどの癇癪持ち。彼女の怪獣を倒すのが、主人公である響裕太、およびグリッドマンの役割。