Prologue
「お義母さん!!お義母さんっ!!」
お義母さんがいなくなった。いつも手をつないで、寝るときは抱きしめてくれた灰色髪に黒いドレスを纏った大好きなお義母さんが眼が覚めるといなくなっていた。
目が覚めれば頭を撫でてくれていたその人が、いなくなっていた。
「アルフィアお義母さん!!どこ!?ザルド叔父さん!!どこにいるの!?」
家中を探し回ってもいなかった。
朝食を準備しているわけでも、洗濯をしているわけでもなく。
まるで[そもそもいなかった]かのように綺麗さっぱりいなくなっていた。
ある女神のエンブレムの入ったローブと手紙1通を残して、忽然と姿を消していた。
『―――お前との生活は、悪くは無かった。楽しかった。お前の声が心地よかった。
私たちは新たな英雄を生み出す生贄として悪に染まる。
だから―――さようならだ。ベル。お前が剣なんぞを握らずにすむ世界を願う』
「なんで・・・なんで!!」
『―――お前はきっとあの晩に現れたエレボスを、神を憎むし、黙っていなくなる俺たちのことを恨むだろう。許してくれとは言わん。
悪いが俺はアルフィアのようにローブだとかお前に与えられるようなものはない。だから、ありがとうとだけ残しておくことにする。
―――じゃあな、ベル。いつまでも泣いてないで前を向いて進んでくれることを願う』
「わからないよ!!悪って!?悪って何!?置いて行かないで!!お義母さん!!叔父さんっっ!!僕を1人にしないで!!!」
「ベル!落ち着け!もう2人はおらん!!おらんのだ!!」
少年の最後の家族となった老人は少年を抱きしめ2人がいないことを何度も伝える。その顔は少年の心を大きく傷つけてしまったと、取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと苦しくしわを寄せていた。
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「アストレア様、例の子供がいるのはもうすぐつく村であってますか?」
ゴトゴトと揺れる馬車の中で赤髪・緑の瞳の少女は目の前で座っている胡桃色の長い髪の女神に問う。
馬車の中には、金髪に空色の瞳のエルフ、極東の着物を着たヒューマンが乗っており[暗黒期]における最後の戦いの際、アルフィアの残した「心残り」に出会うためある村に向かっていた。
「ええ、間違いないはずよ。ヘルメスにも確認は取ったし。・・・3人ともごめんなさいね、1年とはいえまだゴタゴタしてて忙しいはずなのに。勝手に決めたことにつき合わせてしまって」
「―――いえ、謝らないでくださいアストレア様。アルフィアの最期の言葉・・・気にならなかったわけではありませんでしたし・・・。ですが、その・・・」
「どうしたのリュー?」
「―――私たちは少なからず、少年にとっては親の仇のはずです。どのような顔で会えばいいのか、接してやればいいのか・・・同行すると言ったはいいもののそれがわからないのです」
「どう接すればいいかも何もあるか、やらなければもっと酷い事になっていた。それだけだ。答えのないことを考えてもしかたなかろう?」
「―――それは、そうだが・・・・・」
少年にとっては親の仇。それでも、それでもあの大抗争の中で戦わなければそれ以上にもっと酷い惨劇が起きていたはずだ。もっと多くの死者が出ていたはずだ。それはわかる。わかるが・・・とリューも輝夜も何度も同じようなことを言い合っていた。
まあ、ほとんど罵り合いに近かったし、最初は話に混じっていたアリーゼも途中からは「その子って女の子好きなのかしら?」とか「可愛い子だと嬉しいわ!でもアルフィアって美人だったし血筋ならきっと容姿は良い筈よね!!」などとお気楽なことを言い始める始末で―――アストレアは村に着いたら眠らせて欲しいと少し思ったのだった。
そんなこんなで村に到着し、村人に少年のいる家があるという手書きの地図を見せ場所を聞いていると、村人が少し気まずそうに口を開いた。
「―――冒険者さん、あの子になにかするつもりかい?」
周囲にも畑仕事からの帰りだろうか、数人の村人がアリーゼたちを見ては「冒険者がこんなとこに来るなんていつぶりだ?」「だいぶ前にアルテミス様が来たくらいじゃないか」「・・・1,2年前くらいか?」などと話してはやはり気まずそうにしていた。少なくとも、『よそ者は出ていけ』などと言われる雰囲気ではなかったのは良かったというべきだろうか。
「いきなりの訪問、ごめんなさい。驚かせるつもりだとか、子供を泣かせるつもりだとか、そういうつもりは一切ないの。・・・・ただ、あの子の義母親に頼まれて会いに来たの。」
アリーゼたちが村人にその言葉の意味を聞く前にアストレアは前に踏み出しそう答えて村人の警戒心を解く。
「ああ、アルフィアさんに言われて・・・か。アルフィアさんとは親交は無かったが、あの子が行商人が来たときに少ないお金を持ってきては薬を強請ってたりしてたから体が良くないことは知っていたよ。もう・・・・いないんだろ?」
「ザルドさんには大雨の後とかにモンスターが出たときとかに村の周囲の見回りを手伝ってもらってたよ。まあ、体はどこか悪そうだったから申し訳なったけど。」
でもやはり、その顔は気まずそうだった。
輝夜はもう聞いてみることにした。面倒だと思ったから。その顔をやめろと。その顔の意味を教えろと。そう言いたかったから。
「―――なぜ先ほどからそのような顔をされるのです?私たちが子供を訪ねに来ただけで何か問題があるのですか?是非、聞かせていただきたいのですが」
「――――そりゃあ、するだろうさ。この村じゃ子供なんてあの子ぐらいだ。あの子が笑ってるだけで毎日がんばろうって思えたくらいにはみんな大切にしてる。でもな、2人がいなくなってから、あの子は笑わなくなったし・・・その・・」
「―――その?」
「泣いてるんだよ、毎日。泣きながら2人の名前を呼んでは、決まった場所を毎日毎日歩いて、蹲って、そして自分の家の扉の前で座り込んですすり泣いてるんだ。帰ってこない2人を、ずっと待ってるんだよ。」
「―――ずっと?ずっとですか!?いなくなってからずっと!?」
3人と1柱は驚いたし、リューは一番動揺してしまって思わず声を上げてしまった。
おそらくは1年もの間、少年は親の帰りを待っているのだと、そう村人は言うのだから。
「―――確か、お爺さんと一緒に暮らしてると聞いたのだけれど、そのお爺さんは何も言わなかったの?」
「言っていたさ!!泣いてるあの子を抱きとめて『2人はもういない、現実を見ろ。前を向けでないと何も変わらないぞ』ってな!!でもそんな言葉を受け入れられないくらいあの子にとって2人の存在は大きすぎたんだよ!!」
つい大声を上げてしまい、はっとなって謝る村人に気にしないでと首を振り改めて村人に少年の家の場所を聞き、「せっかくだから持って行ってやってくれ」と食べ物を受け取り歩を進めていく。
3人と1柱はそれぞれ似たり寄ったりの顔をしつつもその歩を緩めることは無かった。
輝夜は表情こそ変えないが何か考えているし、リューは顔を暗くしているしアリーゼは少年のことを心配しつつも暗い表情だけはしないようにしていた。
アストレアももちろん、暗い顔はしてはいなかった。ただ、ただ少し、少年の「祖父」に思うところがあっただけで。
麦畑を進み、ちょっとした丘の上に例の少年の家があった。
大きくは無かったが小さくもなく4人で暮らすにはちょうど良さそうな家だった。
そこに、少年はいた。
泣き疲れたのか扉の横に横たわるようにして眠っていた。目元には涙が流れた後が残っていたし髪はボサボサで前髪を上げてあげなければ表情さえ見えないほど伸びきっていた。おそらく碌に手入れすらしていないのだろう。体も痩せ細って人目で見て「壊れてしまっている」と思ってしまうほどだった。
アリーゼが少年を抱き上げアストレアは扉をノックする。
扉が開き現れたのは一人の老神。
「お久しぶり・・・というべきかしら。ゼウス」
「――――そうじゃな。よく来たな。遠かったろう?とりあえずあがっとくれ」
家に入り、少年をカウチに寝かせ3人と2柱は座り、話を始めることにした。
「――――お爺様、あの子、連れて行くわね!!!フフン!!!」
――――女神はお茶を噴出した
いろんなのを読んでたら唐突に書いてみたいなと思ったので書いてみました。
ハーメルン自体初めてなのでちゃんとできてたらいいなと思います。
この話でのアルフィアとザルドは自爆攻撃をすることは知っていたけど、その中に子供がいたことを知ってエレボスにキレて子供を巻き込むことはやめさせています。(被害者の中に子供はいたかもしれませんが)
そしてそこで未練とか後悔が浮き上がってしまったためにアルフィアはそれをアストレアに見抜かれて頼み込んでいたためアストレアはそれを承諾して会いに行くことを決めました。
ザルドに関してはそれを言う相手がいなかったのでとある廃協会に自分の財産だとかを隠し置いてます。