兎は星乙女と共に   作:二ベル

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頭が回らないと文章が微妙になる


アーパー

 

 

 

 

夕日で黄金色に輝く河川敷に、私は座っていた。

 

はて?私は何をしていたのだろか?

 

目の前では水が静かに流れる川が存在し、川の向こう側には

 

「アルテミスにヘスティア? なんでそんなところにいるのよ」

 

川の向こうには友神が2神(ふたり)がいて、手を振っている。

 

 

『こいよ、こっち来いよー』

 

なんて言っている。

 

「いーやーよー」

 

 

私ことアフロディーテは最強究極無敵な美の女神である!!

フレイヤよりもすごいのだ!!

 

迷宮都市オラリオで白亜の巨塔から下々を見下ろし、従僕達に大きな団扇を扇がせ、シャンパンタワーをつくり、巨塔から下りては

 

『貴方達、この世で一番美しいのはだぁれ?』

 

『御身です!!』

 

『それじゃあ、この世で一番ゴージャスで尊くてエモエモのエモで男も女も神も跪かずにはいられない最強究極無敵な女神はだぁれ?』

 

『御身です!!』

 

なんてことをやるのだ。

 

んー最っ高!

 

「このオラリオは私のものよ!!」

 

褐色イシュタルを倒し、フレイヤを倒し、君臨するは私、アフロディーテである!!

良い感じの男がいればペロッと食べては『えっ、ちょっと待って拳大は無理よさすがに!?裂けちゃう、裂けちゃうからぁ!!え?エリクサーをぶち込めばいい?まあそれなら・・・・・いや、駄目よ!?』などとハプニングが起こりつつも楽しい逆ハー生活を満喫するのだ!!

 

 

そのはずが、何故私は今、河川敷に座っているのだろうか?

 

「というか下界に河川敷なんてあったかしら?」

 

目の前では静かに水が流れる音とともに川が流れており、耳を澄ませていれば眠ってしまいそうなほどだ。夕日によって河川敷は黄金に輝き、私はそこに座っている。

 

 

「眷族もいない・・・あら?私は何をしていたのかしら」

 

確か私はアルテミスに男ができたから『ちょっかい』だしていたはず・・・

 

そんなことを考えていると真後ろにザッザッと足音が聞こえて少しだけ振り返ってみるとアルテミスがいた。真面目な顔で。というかいつの間に?

 

 

(これはアレよね・・・このシチュエーションはあれよね?)

 

 

「今日は・・・・・・風が騒がしいわね・・・」

 

「でも少し・・・この風・・・泣いている・・・」

 

「急ぐわよアルテミス・・・どうやらプロメテウスが下界に良くないものを運んできてしまったみたい・・・」

 

「急ごう・・・風が止む前に・・・」

 

「待て!!!」

 

「「ヘスティア!?」」

 

「おい、ヤバイって!そこの屋台、じゃがまる君半額だよ、行こーぜ!」

 

 

行く行く~と立ち上がって、30ヴァリスを握り締めて河川敷を上ろうとして私は足を滑らせた。それはもう、世界がひっくり返るレベルで。

 

ひっくり返った私はそのまま川へと転がり落ちた!!

 

「ふぎゃっ!?」

 

そこまで深くないはずの川はいつの間にか激流と化し、私をあれよあれよと流していく!!

 

「ふぎゃあああああああっ!?アルテミス!? ヘスティア!? 助けてええええええええ!?」

 

激流に流される私を、2神(ふたり)は助けるわけでもなく、『じゃがまる君』を買いに行ってしまった。

30ヴァリスに負けた瞬間である。

もしここにヘラがいようものなら、『くっそウケる』などと言われ笑われていたに違いない。

 

しかし、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。誰かは分からないが、手が差し伸べられ私はそれをとった。

 

「た、助かったわ・・・ありが・・・と・・・あ、あぁ・・・」

 

私が手に取ったのは、かつての恋人であるところの鍛冶神、ヘファイストス。やだ、すっごいニッコリしているわ。

 

「アバ、アババババババババ!?」

 

これあれだ!!

下界の子供達がいう、『三途の川(リバー)』じゃない!?

うっそでしょ、私どっぷり浸かっちゃったわよ!?というか下界にはないはずよね!?

 

ニッコリとしていたヘファイストスは、私がキョロキョロとしている間に姿を消し、代わりに現れたのは白い兎だ。もっふもふだ。

 

「あらやだ、天使かしら?」

 

もっふもふでクリクリの赤い瞳。

それがあっちからもこっちからも、ぴょんぴょんと飛び回って集まってくる。

 

「ふふ、可愛い子ね。そういえばアルテミスの男も白くて赤いとかなんとか・・・・うっ頭がっ」

 

膝の上に座らせ撫でられる兎はぷるぷると震え、私は何とも言えない悪寒を感じつつも、何が起きたのか状況を確認。そうだ、確か私は・・・

 

 

『あれ、まさか・・・まだなの?もしかして未だに、貞潔を尊ぶとか永遠の純潔とかそんなこと言ってるのぉ?そんなんだから私より不細工なのよ、この処女神め!』

 

『は?』

 

『この鉄壁処女! もしかして膜まで鉄でできてんの?最硬金属(アダマンタイト)でできてたりするのぉ?』

 

『はぁ?』

 

『究極至高の美を司る私が宣言します!アンタは女神失格一直線!』

 

『ねぇねぇ、あんたの男に会わせなさいよぉ~。それともやっぱり、いないのぉ~?親にお見合いしろって言われたからとりあえず付き合ってる人がいますって言っちゃったパターンなのぉ?』

 

タタタ・・・

 

『・・・・』

 

タタタタ・・・

 

『! オリオン!?』

 

タタタタタ・・・!

 

『は?オリオン?何を言って――』

 

『【アルテミス様苛めないで(ゴスペル)】』

 

 

思い出した!!

急に白っこいのが走ってきて、私を、最強究極無敵のエモでエモエモの美の女神である私を!吹き飛ばしたのだ!!

 

それに気がついたとき、周りに、膝にいた白い兎たちは『グポォン』とでも交換音がつきそうな感じでその深紅(ルベライト)の瞳を輝かせ飛び掛ってきた!!

 

「あ・・・ああ・・・あばばばb――――」

 

 

■ ■ ■

 

「あばばばばばばばばばばばっ!?」

 

「なんだ起きたのかアフロディーテ」

 

「へ?」

 

謎の奇声とともに目を覚ました女神アフロディーテは、目の前にいるアルテミスの格好を確認。浴衣だ。

 

「何で浴衣?というか、ここどこよ」

 

「温泉施設が最近できたんだ。知らないのか?」

 

「へ、へぇ~知ってるわよ?もちろん」

 

(周囲を見渡すと、所謂極東風の室内で眷族達は別室で温泉に入るなり食事するなりと寛いでいるらしい。いや、主神をほったらかして寛ぐんじゃないわよ。苛めるわよ?)

 

「そ、そうだわ!?私、三途の川にいたのよ!?一体なんなのよ、あの白いのは!?」

「ほら、そこでアストレアに髪を梳かれているぞ?」

「あばばばばばばばばばばっ」

 

アルテミスが指差す方に視線を送るとそこには、アフロディーテを吹き飛ばした少年が胡桃色髪の女神、アストレアに髪を梳かれていた。2人とも浴衣を着ていて恐らく温泉にでも入っていたのだろう。

 

『よかったですね、アストレア様。温泉施設に寄り道できて』

『ベルは反省しなさい』

『はぁい』

『お願いだから、すぐに神を吹き飛ばそうとするのをやめて頂戴。フレイヤにそんなことしたら、間違いなく殺されるわよ?』

『フレイヤ様、この間ベンチに座ってたら飴玉くれました』

『・・・・何をしているのかしら彼女は』

『そんな裸みたいな格好してたら風邪引きますよって言ったら、ショック受けて帰っていきました』

『あなたよく無事だったわね!?』

猪人(ボアズ)の人が僕のこと、何とも言えない顔してみてました。たぶんあの人が叔父さんの言ってた【糞ガキ】の人なのかな』

『お願い、ベル、それを本人には言っては駄目よ?』

『? 当たり前じゃないですか?』

『ほんとーに、お願いよ?』

『大丈夫です! アストレア様は僕が守りますから!』

『そういうことじゃないのよ!?』

 

そんな会話が聞こえてくるも、アフロディーテは新たに植えつけられたトラウマを思い出し震え上がった。

 

「ねえ!?あの兎っ子があんたの男なの!?趣味悪くないかしら!?」

「おい、あの子は基本無害だぞ」

「私何もしてないわよ!?」

「私を侮辱しただろうに」

「判定そこなの!?」

「あとあの子の義母の教えで『美の女神には容赦するな』というのがあったな」

「あばばばばばばば」

 

いたって平常でアフロディーテの身に起きたハプニングの説明をアルテミスは行い、今度は食事の席に。大広間で食事を食べながらようやく頭が冷えてきたアフロディーテは突っ込んだ。

 

「いや!? なんで当たり前の様に一緒にご飯食べてるのよ!! ていうか何で温泉!?」

「近くにあったから。私の眷族(こども)達が入りたがっていたから。」

「あんた、あの兎っ子があんたの男だって言うなら、何で眷族にしないのよ!?」

「それは・・・・ほら、あれだ。私は劇場版ヒロインだから」

「だーまらっしゃい!! メタイのよ!?」

 

アフロディーテがぎゃーぎゃーと騒いでいると、近くに白髪を揺らして近づいてくる少年。

びくっと身構えるも、少年は頭を下げるだけ。

 

「あ、あら? この私に頭を垂れるの? 自分がしたことがよくわかったみたいじゃない。」

「・・・・・・」

「ふ、ふん! いいわ、今回は見逃してあげる。私は最強究極無敵の美の女神だし? 貴方ってあれでしょ?聞いたわよ?フレイヤでも攻略できない難易度なんでしょ?」

「?」

「私が貴方を魅了してしまえばフレイヤに勝ったも同然じゃない!ねぇ?フレイヤとアストレアより私を選ばない?」

「・・・・・」

「な、何とか言いなさいよ」

「アストレア様の方が良いです。あと、フレイヤ様の方がもっと大人っぽいです。」

「ぐはっ!?」

「アフロディーテ様は成長期の発展途中って感じで・・・」

「あ、あんたねぇ、神は不変なのよ!? 苛めるわよ!?」

 

アフロディーテは目の前の少年が全く魅了されないことに首を傾げるも、次にはアルテミスによって詰め寄られていた。

 

「おいアフロディーテ」

「な、なによ」

「私のオリオンに手を出すな」

「あ、あんたが眷族にしないのが悪いんじゃない。というかいいの?あんたは?アストレアと随分仲が良いみたいだけど?」

「・・・・それをどうこう言う資格を私は持たない。だからいいんだ、あの子が幸せなら」

「ふぅん」

 

聞けば少年は冒険者依頼(クエスト)に行く途中らしく、その道中、道のど真ん中で揉めている集団を見つけ・・・・結果、一晩寄り道するハメになったらしい。

 

冒険者依頼(クエスト)ってどこに行くのよ」

「ベルテーンです」

「へぇ・・・兎っ子1人で?」

「? 僕以外にも3人いますよ?」

「どうしてここにいないのよ?」

「美の女神様の側にいると、頭がアーパーになっちゃうらしいので別部屋です」

「アーパーって何よぉ!?」

 

美の女神の『魅了』を警戒してか、眷族達は眷族達で飲み食いしているらしく少年だけが『魅了』を受け付けないために女神達と食事をしていた。話しているうちにアフロディーテも少年と打ち解け、気がつけばどこから持ってきたのかわからない金色のアフロのカツラを女神の頭に装着し少年はアストレアのところやアルテミスのところを行ったりきたり。

 

 

「うえぇぇぇぇ・・・・!!あんだも苦労じでるのねぇぇぇぇ!?」

 

 

すっかりデキあがったアフロディーテはワシャワシャとアフロを揺らしながら酒の入ったグラスをダン!!と机に叩きつけては少年の身の上話で泣き出していた。

 

「気がついだらいなくなっでるなんでぇぇぇぇっ悲しすぎるわよぉぉぉぉ」

「うっ・・・女神様でも悲しいんですか?」

「あったりまえでしょおぉぉぉ、下界の住人(こども)達の一生なんて一瞬よ一瞬!私なんてねぇ!!『四天王最弱』とか言われるのよおぉ!?」

「えっと・・・面汚しってやつですか?」

「私こそが、エモでエモエモで最強究極無敵のグレートゴージャスな女神なのにいいいいい!!」

「エモ?」

「お義母ざんにあえるどいいわねぇぇぇぇぇ」

「う、うーん?」

「黒い神様とかよぐわがんないげどぉぉぉ、そんなのぶっ飛ばしちゃえばいいのよぉぉぉ」

「アフロディーテ様みたいにですか?」

「あばばばばばば」

 

 

アルテミスとアストレアは『何アレ』的な目でそんな残念な女神とぽんこつな少年のやりとりを見て、最終的にお眠な少年がアストレアのもとに戻ってきてそのままお開きとなった。翌日、二日酔いになったアフロディーテは頭にアフロのカツラを被ったまま宿を出たという。少年たちもまた、本来の目的地に。少年は少しだけアフロディーテの評価を上げた。

 

 

 

■ ■ ■

 

「ここが・・・ベルテーン?」

「【生命の泉】を擁する国とお聞きしましたが・・・・」

「【毒沼の森】とはよく言ったものだ。」

「建造物も人が沼に接するのを避けるように造形されている。根元のほうは腐っている部分もあるようです」

 

 

【ベルテーン】に到着した一同は、その様に驚いた。

本来は綺麗な水が、【生命の泉】から湧き出る水が循環しているだろうはずが沼へと変わり異臭を放ち、霧のように瘴気が漂っていた。

 

「ベル、何か感じる?」

「んー・・・ごめんなさい、ちょっとよくわからないです」

「怪物の反応は?」

「そこら中?」

「沼か」

「沼でしょう」

 

沼に近づかないようにして進んで行き、依頼主の元に向かう。道中、国民達まで武装しているのを見かけ、国中が臨戦状態とでも言わんばかりに物々しい雰囲気に包まれていた。

少年の魔法で沼を吹き飛ばす・・・という手もないではないが、飛び散るだろうために即座に却下。進んでいた先の建物の前に騎士が2人立っており事情を説明して中に入れてもらう。中には、鹿のような角にヒツジのような角、オッドアイの少女、エルフ、目元を布で覆ったヒューマン、騎士が複数に女神がいた。

 

 

「あん? 思ってたより早かったじゃねーか」

「おや、リオン殿?」

「ウスカリ殿、大賭博場(カジノ)以来ですね。お変わりないようで」

「いやはや、その節はご迷惑を」

「ヴェーラ、冒険者依頼(クエスト)を受けてここに来たわ。それで、話を聞かせてくれるのかしら?」

「あー・・・いいぜ、というかウスカリ達がしてくれるだろ」

 

席に案内され、国の現状と『そもそも何故生贄をやめる』に至ったのかをウスカリや騎士たちが説明を始めていた。きっかけは、いつも通りの食事の最中だったという。

それは何気ない少女がこぼした言葉。

 

『来年もみんなといられたらなー。でも今更生贄やめたいみたいなこと言ったらみんな怒るよねぇ』

 

その言葉が聞こえてしまった時、わずかな沈黙の後、

 

『お嬢の好きにすればいいじゃねえか』

 

と盲目の剣士がそう言ったそうだ。結局のところ、少女を犠牲にしたところで国を脅かす【沼の王】が消えるわけでもなく時間稼ぎにしかならない。ならいっそ、終止符を打つのも手ではないのか?と彼等は考えたらしい。

 

 

「私の中の片目目隠れ少女(ゴースト)が囁くのです。『女の子1人に全てを背負わせて貴方はそれでいいの?』と・・・・。私は思ったのです!タルヴィ様に全てを背負わせのうのうと生きるくらいならば、戦って死んだほうがまだマシだと!!」

 

なにやらよくわからないことを騎士Aが言うが、いつの間にやらヴェーラの知らない間に【沼の王】と戦う気になった彼等は国中にもその話をした。その結果が、国民までが武装しているという光景だった。

 

 

「ところで、オラリオには片目目隠れの少女はおられますか?」

「え?」

「いえその・・・夢の中にでてくる彼女は、おどおどしているけれどそんなところもよくて・・・」

「・・・・・片目が隠れてる人・・・・カサンドラさんかなぁ」

「おお、そのような名なのですね!? 」

 

 

その日、オラリオにてカサンドラは『謎の騎士に愛を囁かれる』夢を見た。


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