「むぐむぐ・・・それにしても・・・」
「ん? どうした、ベル?」
「アレは大変な戦いだった」
「お前の【沼の王】戦のことか?」
「そっちじゃないよ? リダリさんが『消化不良だ、付き合え』とか言って輝夜さんと戦い始めたことだよ?」
「ああ、あれか。確かに大変な戦いだった」
旅館の中に併設されている団子屋にて、少年と黒髪の女は共に団子を食べながら語らっていた。女神とエルフ、狐人は足を休めたいらしく先に部屋へと行ってしまっている。思い返されるは帰る前にまるで『果たし状』でも投げつけてくるかのごとく盲目の剣士が【沼の王】を直接自らの手で倒せなかったことに対する変な消化不良を起こしていたがために起きてしまった戦いだった。盲目の剣士に極東の姫君。少年は眠たい頭ながらも『断るよね?断るんだよね?断るでしょ!?』と思っていたと言うのに、意外にも、あっさりと、『別にいいが』と承諾。【生命の泉】をあちらこちらと走り回り斬った張ったの立ち回りが始まってしまったのだ。
「盲目でありながらあそこまでの腕前・・・オラリオにいないのが勿体無い。『リダリ』と言ったか?私はその名を生涯忘れることはないだろう」
「ムッ」
「ん?嫉妬か?」
「別に。イインジャナイデスカ。」
「やめろやめろ、みっともない。格好悪いぞ?ほれほれ私はお前から離れることはないから安心しろ。ほーれ、お前の好きな乳房だぞ?」
「や、やめぇ!?」
パクリ。またパクリと串に刺さった団子を食べては茶を啜る2人。
狐人はというとあちらはあちらで何やらタルヴィと友情が芽生えたらしく『冬、遊びに行くから!』と約束をしてしまったらしい。箱入りだった彼女のことだ、そういうのもまた良い縁なのだろうと女神も姉達も微笑ましく思いつつも少年に少しばかり嫉妬心のようなものが芽生えつつあるのを認識してしまった。いや、まぁ、『とられる』ことに対してかなり敏感なところがあるから何ともいえないわけだが。盲目の剣士の話を、いい笑顔で語る姉のことがあまりよく思わなかったのかムスッと膨れてしまっていると姉はそれにすぐに気がついては頬をつつき、胸元を緩めて谷間を見せ付けては『私はお前のものだ』などと言ってからかって来る。
そうして再び、団子をおかわりする。
「新たにベルテーンに歴史が刻まれたね」
「そうなのか?」
「あれだけの大立ち回りをしたんだから当然だよ」
「まあ・・・そうか。首の皮1枚の戦いとはまさに、あのことを指すのだろう」
「輝夜さんのがLv上なのに・・・」
「お前に限って言えば、Lv差なんて絶対とは言えんだろう?まあそれでも2つ以上上のやつと戦うのは止めておけ」
「アイズさんとアリーゼさんは?」
「団長はやめておけ。加減できずにお前が治療院送りになるだけだ。剣姫は・・・どうなんだ?」
「僕が適当にリヴェリアさんのところに逃げてる」
「・・・・逃げる事ができるのがそもそもおかしいと思うんだがな」
「?」
「いや、なんでもない。脱線した。で、何の話だった?」
「ほら、リダリさんと輝夜さんの」
「ああ、そうだった」
ベルテーンの森、否、元沼を舞台にした大立ち回りの戦い。
時に水面を真っ二つに斬っては水底を走りぶつかり合い、リダリの居合いの間合いに入ったならばそれを輝夜が反射ともいえる速度で相殺する。常人には見えない戦いが、Lv差を感じさせない戦いが、そこにはあった。
「いやしかし、お前もアッサリと依頼を片付けたものだから私は誇らしいぞ?」
「僕はあの格好いい輝夜さんが見れて惚れ直したよ?」
「言うな言うな。しかしまあ、あのリダリ・・・盲目という条件でありながら、それを感じさせない実力者に打ち勝ったのだ。お前のその言葉を褒美に貰っておくのも悪くないかもしれないな?」
「頭、撫でる?」
「ああ、撫でろ撫でろ」
「よしよーし。それにしても、リダリさんから繰り出された数々の技には心の底から驚かされたよ。立会いの瞬間から見せたあの移動法『爆縮地』!あれにはびっくりした!」
「団子を2皿頼む」
『はーい!ただいま!』
「技というならば私はアレだな。刀の柄と鞘を使用しての『逆転夢斬』。盲目でありながらこの地で会得したと言うのだから恐ろしい。もし仮に奴がオラリオにいたならばそれこそ剣姫に匹敵するほどではないか?」
「いやいや、それなら輝夜さんの『脱げば脱ぐほど補正が入る』スキルもどうかしてるよ。すごいけど、全裸はやめてね」
「ぶぁーかめ、誰が全裸で戦うか!あと、お前は勘違いをしている!あれは、『装備重量が軽ければ軽いほど』だ。あの時は着ているものが濡れて重たくなっていたから下着になったにすぎん」
「それでも僕は嫌な気分だったよ」
「あー悪かった悪かった」
パクリ、パクリ、ごきゅっごきゅっ。
串が皿に転がり、椅子に湯のみが置かれる音が響き、さらに輝夜がそこで『ぜんざい』を2皿追加で注文。盛り上がった話は未だ止まることはなかった。
「どういうスキルなの?あれは?」
「あー・・・【剣乱舞闘】。効果はさっきも言ったように『装備重量が軽ければ軽いほど、器用と敏捷に補正』が入るというやつだ。」
「! それでリダリさんの間合いに入っても反射レベルで打ち返せてたの!?」
「ふっ、ようやく理解したか」
「お姉ちゃんすごい!」
「お前の姉は伊達ではないということだ」
豊かな胸を張るようにドヤ顔をして弟に『姉の凄さ』を教え込む、ちょっとイイ気分のお姉さんがそこにはいた。少年は目の前の姉に尊敬の念を抱きつつも『昔は男性がいてもお構いなしに下着姿になっていた』という話を聞いていたので、スキルの補正を得るために『全裸で戦う』ようなことがあれば、何が何でもとめてやろうと心に強く誓った。
「いやしかし、便利なスキルがあるからと言って油断はしてはならないぞベル?」
「?」
「奴は私よりも格下。が、こうも渡り合えたんだ、下手をすれば負けていたのは私だ。なんて言ったってあの時、奴の攻撃が繰り出された瞬間、私の足元が崩れていなければ危なかったのは私だったのだからな」
「む・・・確かに。決まるかと思った輝夜さんの一太刀を完全に見切ったあの受け太刀に刃取りも圧巻だった。あれかな、目が見えない代わりに耳にその分の力が回ってるとか?」
「恐らくはその類ではないか?お前は目が見えるが・・・いや、比べるものではないなこれは。こちらはスキルであちらは技術だ。それでもあの男剣士の恐ろしさ、確かに味合わせてもらった」
「僕じゃ勝てないなあ・・・」
「お前は技術面では中途半端だからな。仕方ないだろう。 すまない、団子を4皿頼む。あと茶を」
『はーい!』
追加がくるまでの間、少年は自然と隣に座る着物姿の姉の膝に体を横に倒して枕にする。それを姉もまた当然の様に受け入れて頭を撫でて話を再開。
「何よりもあの盲目が故に完成されたあの奥義。【静謐の太刀】。」
「あれは僕も怖かった。いや、僕が誰よりも怖いと感じた。まさか」
「ああ、そのまさかだ。周囲の音まで斬ってしまうのだからな。周囲から音の一切が消えうせ、まるで景色から『色』まで消えたような錯覚さえ覚えた。そして何より、音が消えたために斬撃を感知できずに本来ならばそこで首を叩っ斬られていたのだろうよ。僅かに水面が揺らいでくれて助かった」
「でもどうして静謐だったのかな?」
「【静寂】だとパクリだと主神に言われたらしい。技名一つ一つでも奴らは必死なのだろうよ、没個性にならないようにな。」
「没個性・・・」
「ほら、追加が来たぞ?食べたら部屋に行って、温泉だ。こっちは混浴はないらしいからな。一人で大丈夫か?」
「ん。平気だよ、壁の向こうにはいるんでしょ?」
「ああ、いる」
「じゃあ、大丈夫」
ゴジョウノ・輝夜
Lv.5
<<スキル>>
■【
装備重量が軽ければ軽いほど、器用と敏捷に高域補正。
■ ■ ■
( 困った・・・困ってしまった・・・ )
女神達と共にやってきて、入り口の暖簾を前にして、『では、また』と言って入ってみれば1人で貸しきり状態。これはまだいいのだ。むしろラッキーだ。髪を洗い、体を洗い、いざ、湯船へと身を沈ませる。髪は勿論、団子状にして湯船で広がらないように。そういえば以前、温泉に入る時は、二礼二拍手一礼をしなくてはいけないのだと輝夜に言ったところきょとんとした顔をして『アホなのかお前は』と言われたなーつまり命さんはそういう人なのかーと、頭の中まで温まりはじめていたその時、チン・・・ならぬ、珍客がやってきてしまったのだ。
『おや? そこにいるのは、ベル君かい?』
『ふぇ?』
『フッ、こうして会うのは初めてだったね。我が名はアポロン。よろしく頼むよ』
『ベル・クラネル・・・何故貴様がここにいる?』
それはこっちの台詞だ。
とは言えなかった。神アポロンとは会った覚えがなかったなーなんて思っていたし、けれどそれ以前に
『確か・・・ヘラ様に殺されてたんじゃ・・・』
『ああ、飽きたから帰っていった』
飽きてしまったらしい。
まあ、仕方ないヨネ!
神だもの!!
『とりあえずその・・・目の前で腰に両手をついて立つのを止めてくれませんか。いやなんですその、揺れているものが目の前にあるの』
『フン・・・何を恥ずかしがっている?隠すほどのことか?』
『隠すために僕達は日々、服を着ているんですよ』
『ここは風呂場だ。ならば隠す意味等あるまい』
『目の前で揺らして立つ意味もないでしょう』
不服そうにしながらも、アポロンの同行者であり眷族であるところの青年、ヒュアキントスは湯船に浸かった。何故か、少年の正面で。少年は思った。
( 広いんだから、別に僕の前である必要ないじゃないか )
上がる時は壁の向こうから声をかけてくれると言ってくれているし、無心で湯につかっていよう、そうしよう。少年は無心になった・・・・なりたかった。
「あの、ヒュアキントスさん」
「・・・・なんだ」
「僕、アポロン様に会った覚えがないんですけど、あんな神様でしたっけ?」
「・・・・・アポロン様は日々繰り返される地獄の中、変わってしまわれたのだ。」
「え」
「頭につけていた月桂冠はいつの間にかどこかに落ち」
「え」
「それはまだいい。ご自身で適当に作られていたからな」
「え、いいんだ」
「頭を強く打ってしまわれたのか、髪型をオールバックに変えられてしまい・・・」
「え」
「『俯いては駄目だ。顔を上げるんだ。諦めなければ希望の光は必ず降り注ぐ!』と倒れゆく眷族達に手を差し伸べてくださっていたのだ」
「なんだ、よかったじゃないですか」
「良い訳がないだろう!? 神は不変なのだぞ!?」
「でもほら、『下界に降りた神は毒気が抜けた』とか言うじゃないですか。ロキ様とか天界じゃ酷かったらしいですよ」
「あの神は今でも酷いだろう!?主に酒方面で!!」
「それはまぁ・・・そうかもしれませんけど」
そんなにいやなのかなあ?とベルは小首を傾げるも、ヒュアキントスは『これはこれでアリかもしれんが』と、以前の様に戻ってほしいとどことなしに焦っていた。そこにアポロンがアポロンを揺らしながら近づいてきてヒュアキントスの隣に腰かけた。
「ベル君。君の活躍はオラリオの外でも聞いているよ。ついこの間買った『月刊オラリオ』では黒いミノタウロスと闘った後にLv.4になったとか」
「待ってください。『月刊』?『月刊』って言いました!?一体いくつあるんですかそれ!?」
「なんだ、オラリオにいて知らんのか貴様は。『日刊』『週間』『月刊』そして確か、定期購読系の『創刊号』があった。何とそちらは、『全シリーズ集めると完成する』というおまけつきだ」
「絶対そのおまけがメインですよ!?買ったんですか!?」
「確か白兎シリーズ・・・7週だったか。買っていたな。創刊号には『頭』がついていた。なんと夜には目が光るというギミック付きだ」
「嫌すぎる!?え、まさかとは思いますけど、等身大だったりしますか!?」
「馬鹿が!! 1/7スケールに決まっているだろう!!考えても見ろ、『今なら女神フレイヤの等身大『頭』がついてくる!』なんて謳い文句、怖くて私なら言えんぞ!!」
「バラバラの神体がさらに怖い!! いやな商売するなあ。ちなみに、誰が書いてるんです?」
「「【ヘルメス・ファミリア】のルルネ・ルーイだ」」
少年は夜の星空に向かって、かの派閥の名前を叫んでしまった。
『貴方達、暇なの!?忙しいの!?』と。
日刊から月刊まで書いてたらさすがに内容ダブルでしょ!?と。
案の定、ヒュアキントスが言うには、ダブリまくっていたらしい。なお、お値段は150ヴァリスから。
「た、高いのか安いのかわからない・・・あの、ちなみにアストレア様のシリーズとか出てませんよね?」
「流石に女神シリーズはこのアポロンを持ってしても聞いたことがない」
「裸体の男神達が謎のポージングをしたシリーズはありましたが」
「需要、あるんですか?」
「神ガネーシャのは魔よけにされていたのを昔、見たぞ?」
「えぇ・・・」
オラリオに帰ったらアーディさんに聞いてみよ。
『ガネーシャ様のガネーシャ様には魔除け効果があるのか?』と。
まあ聞いたら顔を真っ赤にしてベッドに押し倒されるのが目に見えているので言わないけれど。
とんでもない情報を聞いてしまって驚いていると、また『ガララ・・・』と扉の開く音がして振り返ると、そこには屈強な、
「「なっ!? ば、馬鹿な!?」」
「へ?ど、どうしたんですか2人とも?」
「貴様、知らないのか!?あれは【猛者】だぞ!?」
「見たことはあると言えばあるけど・・・距離があったし・・・・」
「こ、コホン!ベ、ベベベ、ベル君。以前は君の母の墓を荒らすなどと失礼なことを眷族に言わせて済まなかった。心から謝罪を。だが信じてほしい、決して墓には近づいてはいないと」
「え、あ、はい」
そんなに怖がることないのに・・・。と思いつつも、そそくさと立ち去ろうとして武人に顎で『そのまま入っていろ』とでも言われたのかアポロンとヒュアキントスは縮こまったまま再び湯に深く浸かる姿を見て少年は、『え、これ、何?地獄かな?』などと思ってしまい、現実から逃げるために星空を眺めていると湯船が揺れ、再び正面に人が。先ほどの武人である。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙。
武人は何を考えているのかは知らないが、少年は若干キレそうだった。
何が楽しくて男のモノを目の前で揺らされる光景を見なくては、視界に入れられなければならないのだ?と。もしも、目の前の武人の裸体に音をつけるならば、『ぷりっ』ではなく『ゴリッ』である。そんなこと武人は全く持って気がついておらず
「・・・・お前が、ザルドの心残りk」
「目の前で仁王立ちをするなってどいつもこいつも何回言えば気が済むんですかぁああああああっ!?」
「落ち着くんだベル・クラネル!?」
「だ、駄目だ、早まるんじゃあない!!べるきゅん!!」
女湯の方から、少年の叫び声に驚いて転んでしまった狐人の少女の悲鳴が聞こえた気がした。
「ふぅー・・・ふぅー・・・!!」
「・・・・・・」
武人は静かに腰を下ろした。
(だから何で僕の正面に座るんだよ・・・・)
心なしか筋肉に憧れを持っている少年ではあったが、筋肉ダルマの全裸については想定外だったようだ。まるで自分の体が貧相なのではないだろうか?と少しばかり傷つき、けれど、『リューさんだって、アリーゼさん達と比べて自分は貧相な体をしている・・・っていつも言ってるし、似たようなものだよね』などと意味の分からないことを考え筋肉路線は止めようと思い至った。心の中で義母が微笑んだ気がした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかし。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
この武人、一行に喋らないのである!!
少年は心の中で必死に、『ベルー上がるわよー』とコールを出してと壁の向こうに叫んでいた。
けれど未だに彼女たちは彼女達でサウナやらなにやらご堪能中らしく、風呂についてそこまで詳しくない少年にとっては、目の前に座っておいて何も喋らない筋肉ダルマの存在が拷問でしかなかった。しかし、救わぬ神がいるのなら、救う神がいるのもまた事実。
「オッタル?貴方何をしているのかしら?その子と話がしてみたいと言うから私は先を譲ってあげたのに」
それはソプラノの声だった。
それは男湯にあってはならない声だった。
アポロンとヒュアキントスはまるで心臓を『きゅっ』と握られたようにピンッ!と背筋を伸ばした。
「すいません。フレイヤ様」
「ふふ、恥ずかしがりやなのかしら? 私、さすがに待てないから来ちゃったわよ?偶然とは言え、こんな巡りあわせ・・・接触しないなんて損よ」
「では、自分は先に上がっておきます」
「ええ、そうして頂戴。ああ、アポロンたちもいたのね?」
「や、やぁ・・・フレイヤ・・・」
「貴方達は貴方達で
瞳が怪しく輝いたかと思うと、フレイヤの瞳を見ていたアポロンが急にヒュアキントスの腕をひっつかみ、立たせ
「ア、アポロン様!?いかがされましたか!?」
「ヒュアキントス、お前は天井の染みを数えているだけでいいんだ」
「い、いえ、何を仰っているのですか!?天井などありません!あるのは星空です!!」
「ならば星を一つ一つ数えていればいい・・・大丈夫、優しくするさ。私とお前の仲だろう?」
「え、ちょっ、まっ・・・・あっ―――――!!!」
少年の目の前で、男神が青年を食い始めた瞬間である。
『仲良くする』って貴方達神はソレしかないの!?と思ったし、『男同士で!?』と混乱したし、少年の心の中のオラリオでは都市の中央に突如、グロテスクな
『いいかい、ベル君。アポロンってやつはね男だろうが女だろうが気に入った子ならホイホイ食っちゃうような奴なんだ。」
この日、少年に新たなトラウマが生まれた瞬間である。
「あら?私はそんなつもりで言ったのではないのだけれど?まあいいわ・・・ちょっとここでは汚れるから、外でやってくれないかしら?」
そう言われると、アポロンは魂が抜けたようなヒュアキントスを抱きかかえたまま立ち去っていってしまった。2人きりになれていい気分になったヤヴァイ女神が少年の正面どころかもう密着できちゃう距離で立止まり湯に浸かった。
「ふふっ、こんなところで会えるなんて偶然もいいものね。そうでしょう、ベル?」
「・・・・・・・・」
「刺激が強かったかしら?大丈夫よ、神と子で子供はできないから」
「・・・・・・・・」
「同性でも子はできないわ」
「・・・・・・・・」
「もうっ、いつもベンチで会った時はお話してくれるじゃない。どうして黙っているのかしら?」
「・・・・僕、美味しくないです。許してください」
「別に私は貴方を取って食べたりしないわよ・・・・食べたいけど」
フレイヤは半ば逃げようとして仰け反った格好の少年に密着する形で抱きつき、自分の体にもたれさせた。少年はさらに混乱。
( アストレア様、アルテミス様、ごめんなさい、僕、もう、死ぬかも・・・ )
なんだか外からすんごい殺気さえ感じる気がしたが、それどころではなかった。『飴玉をくれる女神様』と思っていたら、とんでもねえ獣だったのである。
「ふふっ、ベル、私の体、洗ってくれないかしら?」
「ひっぐ・・・許して・・・許じて・・・」
「泣かないで、怖がらないで。大丈夫、大丈夫よ。アストレアとだってしているのでしょう?」
「そ、それは・・・秘密!!」
「そう・・・・秘密なのね。じゃあ、私とのことも秘密ということにしておきましょう?」
救いの神かと思ったのに、とんでもねえ神だ。救いをよこせ!誰か僕を助けて!!と少年は心の中でおおいに叫びまくった。このままではまずい。何がまずいのかわからないけど、とにかくまずい気がしてならなかった。けれど、逃げ場すらないように感じて動けなかった。目の前では自分の胸板で大きな胸をフヨンフヨンと形を変えさせ、優しく微笑む美の女神。
ん?美の女神?
( 美の女神は ギルティなのでは? いやでもフレイヤ様に何かされたことってないし・・・ )
アフロディーテの一件もある。
実はお酒を飲むと、所謂『スナックのママ』的なノリになる感じの神なのかもしれない。だとしたら益々持って吹き飛ばせない。
( くそっ、アフロディーテ様に出会ってしまったばかりに!! )
謎の非難が、アフロディーテを襲い、そのアフロディーテは二日酔いに襲われていた。
どうする?どうする?といつの間にか、湯から上げられ、フレイヤはシャワーのあるほうへ少年の手を引いて歩き、座り、洗うようにお願いをしてきて、少年は『どうしようどうしよう』と涙目になりながら無心で言うことを素直に聞いてしまっていた。その時
『ベルーそろそろ出るから、貴方もでなさーい。のぼせちゃうわよー』
「!」
愛しの女神の声が聞こえ、少年はぱぱっとフレイヤの泡をシャワーで洗い流して、頭をぽんぽんとして
「えっと、『ばいばい子猫ちゃん』でいいんだっけ・・・・」
などと意味不明なことを血走って去っていってしまった。
キョトンとしたフレイヤは『男湯に突撃作戦』を行ったというのにこれで終わってしまって、けれど『子猫ちゃん』と言われて若干嬉しかったのか、なんともいえない表情で数分固まった。少年は碌に水気を拭ききれてもいないのに浴衣を着て外にでて同じく出てきたであろう女神達の姿を見て、浴衣姿の女神に抱きついて咽び泣いた。
「うえええええええええアズドレア様ぁあああああああああああ」
「え、えぇぇぇぇ!?」
「ベ、ベル様!?びしょ濡れではないですか!?」
「お、男湯で何があった!?」
「ま、まさか襲われた!?」
「はぁ!?」「コンッ!?お、お尻はご無事でございますか!?」
「お、男の、男の人のが、そ、そんな、ああ、有り得ない、あっちゃいけないそんな、リューさんじゃないんだからぁ!?」
「な、何故私!?」
何が何やらわからず仕舞いで、びしょ濡れで浴衣まで透けてしまっている少年を大慌てで部屋まで運び込み水気を拭き取り、別の浴衣を棚から取り出し大き目のものしかなかったのかそれを着替えさせ落ち着かせながら少年はそれでも女神の胸に顔を埋めるようにしながら『じ、地獄絵図を見ました』だの『筋肉怖い』だの『女の人やばい』だの『やっぱりアストレア様こそ絶対』だのと言い、最後に『フレイヤ様は素敵なお胸をしているのに実は男だったんです』と発言したところでアストレアは真顔になり、少年を輝夜達にあずけ、部屋を立ち去りフレイヤの部屋を見つけ出し、その夜、女神二柱による『枕投げ大会』が行われるのだった。
ちなみにベルのお尻の純潔を確認しようとした春姫は輝夜とリューにきつく怒られた。