「―――ありがとうございます、2人とも。お陰で『
「まあ・・・貴方達が悪用するとは思わないけど、気をつけてよね」
「『
少年が顎に指を当て小首を傾げてなんとか思い出そうとしていると、アリーゼはアスフィから実物を借りてベルの前に見せた。
「私達、恩恵を持った冒険者のステイタスを見ることができるのは基本自分の主神のみなの。私達だとアストレア様ね。けど、裏技というか抜け道みたいなのがあってね?それがこの『
「いわゆる『ご禁制』アイテムです」
「大丈夫なの?」
「あら、アストレア様の部屋にもあるわよ?」
「えっ」
「じゃなきゃ、今保護している子の恩恵が誰のものか確認できなかったでしょう?」
「あっ、そっか」
「まぁ・・・非合法だから大っぴらには言えないけどねぇ。悪用しちゃ駄目よベル?」
「まず使い方を知らないよ・・・。」
「それならそれでいいのよ、ね、シャクティ?」
先ほどまでいなかったはずの人物の名を聞いて、アスフィ、ベル、ボールスは肩をビクゥッ!!と揺らして振り返った。そこにいたのは、【ガネーシャ・ファミリア】の団員服とも言えるオレンジ色の
「ご、ご機嫌麗しゅう?シャ、シャクティ・・・お、おねー、おねーさま」
「何でベルが怯えてるのよ」
「やめろ少年。普通にしてくれ」
「「な、なな、なにもやましいことなんてしてませんよ!?」」
「何であんたら2人がハモるのよ・・・」
シャクティに対してやけに怯えるベルに、『違法アイテムのやりとりなんてしてねえよ?』というていをつくろおうとしているも動揺しまくりのボールス。アリーゼはベルに何があったのかつめよると。
「ま、前にアーディさんのところにお泊りに行った時にその・・・シャクティさんが来て、アーディさんが『あ、お姉ちゃんねこう見えて38歳なんだよ!恩恵ってすごいよね~』っていうのを聞いて思わず『おばさん』って言いかけて殴られ・・・ました・・・」
ということらしい。
『武装したモンスターの一件』の後、暇をみては泊まりに行っていたらしく妹の様子を見に来ていたシャクティと出くわした際に・・・・と。恩恵を持った冒険者がランクアップすることによる『老化の遅延効果』を初めて知った瞬間だったそうな。
「それはまぁ・・・どんまいとしか・・・。あっ、ちなみにフィンさんは40代よ?」
「えっ!?」
「レベルの高い冒険者ほど、年齢などあてにならんということを覚えておけ」
「は、はひっ」
年齢については気をつけようと改めて学習した少年である。
アルフィアにも似たようなことで殴られたことをすっかり忘れていたのである。
「『非合法アイテム』のやりとりをしていたように見えたが?」
「気のせいよ、気のせい。ベルに社会勉強させてただけ」
「・・・・・はぁ。そういうことにしておこう」
「それより、どうして貴方がこんなところに?」
「我々もゴライアスの再出現にあわせてこちらに・・・というわけだ」
「ああ、なるほど。」
「お前も参加するのか?」
「いや、流石に過剰戦力でしょ。見てるだけにしておくわ」
「アリーゼさん、そろそろ宿探さないと・・・」
「どこも空きなんてねーぞ?」
「えっ」
ボールス曰く、どの宿もゴライアス討伐に参加する冒険者達が来ているために空きがないらしくそれを証明するように【タケミカヅチ・ファミリア】の冒険者達がトボトボとどんよりとした空気で合流してくる。さすがに人数が多くなってきたためにシャクティとは別れアスフィとベル、アリーゼ、そして【タケミカヅチ・ファミリア】の団員はどうしたものか・・・と頭を悩ませながら足を動かす。
「すまない・・・・」
「力及ばず・・・」
「あららー・・・どこか他にないかしら・・・」
「そういえば・・・1つ、『曰く付き』ではありますが」
「何よそれ」
「ほら、『ヴィリーの宿』ですよ」
「ああ・・・・『殺人事件の現場』かぁ。それは確かに曰く付きね。まあいいわ、行ってみましょ」
何やら不穏な言葉が聞こえた気がして顔を青くする年若い冒険者達を連れて、美女2人はその曰く付きの所謂『事故物件』へと足を進めるのだった。
■ ■ ■
「そ、そんな・・・ハシャーナさんが死んでたなんて・・・!」
「そしてその後は、『食人花』の怪物がこのリヴィラを襲ったと聞いています」
「ひっく・・・うぅ・・・」
「ベ、ベル・・・何もそこまで泣かなくても・・・」
「だ、だって・・・」
「あんた、面識あるって言ったってオラリオに来た頃の話よ?それで一々泣いてたら身が持たないわよ・・・」
「う・・・」
暗くなり始めた頃、宿の前で、何が起こったのかの説明をされて泣いてしまう少年とそれを宥める姉の姿がそこにはあった。事件の詳細はさすがに少年にも【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達にもショッキングな内容なため伏せられたが、その事件の直後に『謎のモンスターによる強襲』があったために『ヴィリーの宿』は事故物件扱いされていると聞かされていた。
「あ・・・中にアミッドさんがいるから、いってくるね」
「え? あ、うん・・・」
瞼をごしごしと擦って、『アミッドがいる』とはっきりと口にして宿の中にそそくさと入っていく少年の背中を見てアリーゼは『ん?あれ、ちょっと待って』と違和感を感じてその後を追った。
「もしかして客かぁああああああ!?」
「アミッドさぁあああああああん!!」
「え、ベルさん・・・・何故っ!?」
宿主のヴィリーを無視してアミッドのいる部屋にひょこっと顔を覗かせる少年に、突然顔が出現したことに少しばかり驚いて目を見開くアミッド。ヴィリーは無視されたことを少し悲しく思ったが、彼もまた立派な宿の主である。事故物件扱いされている自分の宿でも客になってくれる可能性があるのならば何としてでも泊めさせたい!逃したくない!そういう思いで涙を飲み込み、営業スマイルを取り繕う。
「おぉぉーっ! よく来てくれたなぁ、お前らぁ! 事故物件ってことを気にしてんなら、今だけは問題ないからな!」
「【
「あっはっは!【
「臨時治療院?」
「18階層以下の層域へ向かい、怪我を負って戻ってくる冒険者は後を絶たないので・・・せっかくの機会ですから、やらせて頂いています。傷に苦しむ声も少しは減るでしょう。」
「バベルに併設されている治療施設のようなものですね・・・【
「アリーゼさん、僕ここでいいよ」
「え、あ、うん。じゃあえっと、泊まるわここに。」
「よっしゃぁあああああっ!!」
ヴィリーは歓喜のあまり大声をあげ、スキップしながら店の外まで出て行ってしまう。よほど嬉しかったらしい。
「【
狂喜乱舞、宿の前で謎の儀式の如く駆け回る猫人の宿主を他所に、アリーゼは部屋割りを勝手に決めていく。
「私とベルは同部屋で、【タケミカヅチ・ファミリア】の貴方達は男女別でいいかしら?」
「ええ、問題ございません!」
「それじゃあ、貴方達が男女に別れて2部屋ずつ、アスフィで1部屋ね。扉があるわけじゃないから、布でも引っ掛けて仕切りにして頂戴」
「あー部屋割りなんだけどよぉー!」
「あんたが外を駆け回っている間に決めちゃったわよ!!」
「あの、アリーゼ?」
「な、なによアスフィ」
「ベル・クラネルが【
「えっ」
白銀の長髪の聖女様が腰かけているベッドに、それはもう安らかな顔をして眠る兎がいてアリーゼは頬をピクピクとさせて固まってしまう。宿に入る前といい、何か、そう、何かがおかしいのだ。
「・・・なんでベルは、アミッドちゃんを
「なんで、と言われましても・・・」
「ま、まさか貴方達・・・・シタの!?」
「何を仰っているのですか!?」
「じゃ、じゃあどうして!?」
「そんなことを仰られても・・・私も知ったのは最近ですし・・・黒歴史まで知られてしまいましたし」
「はぁ・・・とりあえず、私も座らせて頂戴」
「ええ、どうぞ」
もうすっかり暗くなってしまったので各々が部屋に向かっていった中、アミッドの部屋に何故かアリーゼまで居座っており、けれど特段それを咎めることもなくアミッドは平静とアリーゼからの視線を受け止めていた。
「ところで、どうして貴方はこの宿に?臨時の治療院とは言っても、他にもあったんじゃない?」
「・・・・事故の起こった宿を避けるのは験担ぎのようなものでしょうが、それも実害のない
「ちなみに、その服装は?」
「リヴィラに行くと伝えたら団員が用意してくれました。リヴィラで動き回るには、このような格好の方が適していると強く推されて。・・・初耳でしたが」
(彼女のそういう格好が見たかっただけなんだろうなぁ・・・)
【ディアンケヒト・ファミリア】には、こじらせているやつがいる。とアリーゼは確信した。誰かはわからないが、団員の中にいるのは間違いないのだ。全体的に黒な色合いに、短いスカートに長ブーツでふとももが唯一、露出されておりその魅力を引き立てているし胸の部分だけは白い布が使われており、所謂北半球から鎖骨にかけて露出され肌の色がなお一層目立ち胸の大きさがはっきりとする。アリーゼは心の中で『男の子ってこういう、【絶対領域】とかそういうのが好きだったりするのかしら?』と考え、眠っている少年を起こさないように優しく抱き上げてアミッドの膝にその頭を落とした。
「あの」
「何?やだ、肌スベスベ」
「何故、私の膝なのですか?ご自身のを提供してあげればよいのでは?」
「その割には嫌がってないじゃない」
「・・・・・・」
「大方、治療院の手伝いに行ったこの子が休憩中眠っていたら、膝を貸したり、添い寝をしたり、背中合わせで座りあったりしていたんでしょう?」
「!?」
アミッドは戦慄した。
何故何も喋ってはいないのに、こうも当ててしまうのか!?と。
図星である。
そんなこんなをしていたら、いつの間にやら少年はアミッドの心音を把握。特定できるようになってしまっていた。
「ずばり、恋愛感情はあるのかしら?」
「・・・・いえ、さすがにそこまでは」
「ほーう?」
「・・・・放っておけないと言いますか」
「続けて?」
「彼と初めて会った時から思っていましたが・・・精神面で不安定だと思います。いえ、今でこそ安定してはいますが・・・それでも目を離せない弟のようなものといいますか」
待ってください、なぜ、私は、少年を膝枕させられながら尋問のようなことをされているのでしょうか・・・?と聖女は焦りに焦った。変な汗が頬を伝い、胸の谷間へと吸い込まれていく。
彼女達は忘れてしまっているが、この宿には扉はない。つまり、ばっちりくっきりしっかりと彼女たちの話は聞かれてしまっているのだ。【タケミカヅチ・ファミリア】の少女達はそれはもうドキドキと胸を高鳴らせながら、そしてアスフィは『え?興味ありませんが?』風に装いながら眼鏡をくいっと直しては聞き耳を立てている。かの【
「私、ベル好きよ。弟としても男の子としても。」
「そうですか」
「たまに見せる、男の子の顔がいいのよ」
「・・・はぁ」
「貴方はベルのどこが好きなの?」
「・・・素直なところでしょうか」
「ほほう」
「っ! わ、私は何をっ!?アリーゼさん?嵌めましたね!?」
「何のことかしら?あ、ちなみにベルの初恋はアストレア様よ」
「聞いていませんが!?」
「出会った頃のこの子ったら荒れててね~死にかけてアストレア様に怒られて、自分の中でスっきりしちゃったんでしょうね、次の日からアストレア様を見てはおどおどしたり可愛い反応するようになったのよ?」
「当時といえば・・・アリーゼさんもだいぶお疲れだったのでは?」
「そうね!精神的にも見た目的にもボロボロな子に一目惚れするなんて狂気染みてると今にして思うわ!ファミリアの皆に言われたけど無理しすぎたみたいねベルに会うために!でも、私の目に狂いはなかったわ!だって今こうして笑ってくれるんですもの!」
大抗争が終わり、その後処理を大急ぎで行っていた【アストレア・ファミリア】。結果として『急速に力をつけた派閥』などと言われてはいるが、復興やらを急ピッチで行えるだけの資材の確保やらをしたというだけで力がついたのは結果でしかない。レベル的な意味で強くなったのはアリーゼと輝夜だしその中でもLv6にまで至ったアリーゼはダンジョン探索と都市の復興、巡回と『いつ眠っているの?』と心配される程度には常に動いており最終的にアミッドによってドクターストップがかけられたほどだ。それがちょうどベルに会いに行った時のアリーゼの状態であり、オラリオを離れたことによる『普段見ない光景』もあいまって、拗らせてしまっていた。
「ベルに出会えたことに後悔はないわ。だって、ベルに出会ってなかったら私達はきっと死んでいるもの」
「それは・・・どういうことですか?」
「んー・・・まあ言えないんだけど、昔ダンジョンで大規模な爆発があったらしくてね。その少し前に冒険者依頼というか情報が来てたのよ。それを、無視したわ。その結果が今よ」
「そういえば昔・・・何やら25階層あたりで階層間を巻き込んだ爆発があったとかなんとか聞いたような・・・」
「そのあたりの詳細は悪いけど教えられないわ。ウラノス様から『知ること事態がタブー』て言われていて、知ってるのは有力派閥の中でもそれこそ一部しか知らないわ」
「幹部ですら知らない方もいると?」
「ええ、いるわ。【ロキ・ファミリア】だと・・・ロキ様を除いたらフィンさん達3人だけじゃないかしら?まぁ、馬鹿な真似する輩を生み出さないためって意味もあるんだけどね」
「なるほど・・・」
「まあ、そんなことはいいのよ」
少しだかり重い話になりかけたが、アリーゼがパンっと手を叩いて話題を戻す。
自然と表情を変えることもなく仰向けになって眠る少年の頭を撫でる聖女をニヤッとした顔で見て
「ベルに『好き』って言われたことあるでしょ」
「ブフッ!?」
そのアリーゼの質問に、各部屋からゴンッ!と何かをぶつける音が複数。
そこで漸く盗み聞きされているのでは?といぶかしんだアミッドに、『確認してくるから』と立ち上がるアリーゼ。しかし、どいつもこいつも狸寝入りを決め込んでいた。しっかりとベッドに顔を潜らせる者、壁に顔をぶつけたまま器用に寝たふりをしている者、眼鏡をつけたまま胸の上で手を組んでいる者。それを確認したあと、『まぁ・・・いっか』と再びアミッドの横に座る。
「ベルったらね、朝起きた時に家族がいなくなってたことが相当応えてるみたいでね~私達とオラリオに来る前に一緒に暮らしてる時も眠る時も手を離さないものだから『後悔しないように自分の気持ちはちゃんと伝えなさい』って教えたのよ」
「その結果がアレですか!?」
アンナ・クレーズの一件の前、豊穣の女主人で食事をしている際にアイズに『アミッドが好きなのか』と聞かれたら、ごくごく普通に『好きですよ?』と答えていたことを思い出し赤面するアミッド。
『言わずに気がついたらいなくなってたら嫌じゃないですか』
その言葉も追加で言われていたことを思い出すも、だがしかし
「あれでは勘違いを誘発させるだけですよ!?」
「あら、『好き』か『嫌い』かに2択以外の答えがいるのかしら」
「言い方の問題です!」
「『いい体してるじゃねえか姉ちゃん・・・好きだぜ?』って顎クイされながら言われたい?」
「すいません、今、すごく背筋が震えました。却下で」
「『アミッドお姉ちゃん・・・ぎゅってして?』とかどう?貴方の方が年上なんだし、こう、上目使いされて・・・」
「・・・・待ってください、この話はやめましょう。薮蛇ですよアリーゼさん。」
「そう?私は楽しいわ!」
「おやめください・・・あの、そろそろ眠ったほうがよいのでは?明日らしいですよ、ゴライアスの再出現は」
「あー・・・まぁ、そうね。私は戦うつもりはないけど、そろそろ寝ましょうか。よいしょっと」
ゴソゴソと当然の様にアミッドのベッドに潜り込むアリーゼ。
そして、掛け布団をずらしてトントンっと手で叩いて『早く入りなさいな』と促してくる。
「あの・・・ここ、私の部屋なのですが?」
「いいじゃない、別に。可愛い弟の女事情ぐらい知っておきたいわ」
「彼は別に誰彼構わず手を出すような方ではありませんよ?」
「知ってるわ。だから気になるんじゃない、この子がそこまで心を許してるのが。特定できるほど懐いてる子って少ないのよ?意外と」
「他にはいないと?」
「んー・・・私達ファミリアは除外したら、貴方にアーディでしょ・・・・他、いたかしら?ああ、でも、特定できないから信頼してないとか嫌いってことではないのよ?」
「存じていますよ。アイズさんとも仲がいいようですし」
「まあそういうことだから、3人で寝ましょうよ。」
「はぁ・・・仕方ありません。ベルさんは眠ってしまっていますし」
「そそ、仕方ないの。ほら、ベルを真ん中にして」
諦め、ベルを真ん中にし決して大きいわけでもないベッドを3人でつめて眠ることになるもアミッドはこの後もアリーゼによる『ベルにどういうことされてみたい?』『キスならこの子、それなりに上手いわよ。だって私達としてるんですもの』『この子の髪、アストレア様こだわりの一品なのよ?』『貴方達2人並ぶと姉弟感あって羨ましいわ』などと赤面させられるのであった。