旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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Lv.6いたらゴライアスさんすぐ片付くやろ


英雄の一撃(アルヴァーナ・フレア)

アリーゼ・ローヴェルは、少年にとっての英雄である。

『道に迷った際にその手を引く』のが女神であるのなら、アリーゼは少年にとって『恐怖を追い払う』存在だ。

 

自分自身で『私は英雄だ』などとおこがましく言うつもりなどないが、少年が自分を英雄みたいだと言ってくれるのならばそれを否定するのは何か違う気がしたから、ならば少年の義母にかつて言われた言葉

 

『英雄となれ』

 

その言葉を忘れることなく、彼の前を歩きその在り方を示し続けるだろう。

女神が泣いている少年の手を引いて歩いていたり、仲睦まじくしているところを見ると少しムッとすることもないわけではないが、それでも少年がアリーゼから離れることはないし自分から近づいてきてその手を握ってくるのなら握り返すだろう。

 

 

『黒い神様? なにそれ?』

 

それはオラリオに来る前のいつかの回想。

満天の星空を見ようと提案するも、少年は女神の背後に隠れて嫌がるために『なぜそんなに怖がるのか』と聞いた時に聞いた言葉。帰ってくる言葉はいつも

 

『あそこにいるよ』

 

と、何もない灯りのついてない暗い場所を指差して言う。

2人がいなくなる前の晩に見てしまった『黒い神様』。その正体は、エレボスなのだが少年はその名前を知らなかった。夜分でよく見えず、唯一見えたのが冷たい瞳だったのだという。2人がいなくなってしまってから暗い場所で自分をあの日の晩のように見つめているとそういうのだ。冷たい瞳を持った黒い人型が。

 

『行かないで。』

 

小さい子供や動物は、何もない場所を見ていることがあるというがこれもその類かと思ったが女神の見解はそうではなく『小さい子供が神威にあてられたら何かしらの影響を受けるのではないか』ということらしく、それが少年の場合、幻覚なのだろう・・・と結論付けられた。暗い場所には行きたがらず、夜は決して外へは出ない。必ず女神か、その時家にいたアリーゼやリュー、もしくはファミリアの誰かの服を摘んで外にはいかないように縋って怯えていた。

 

『は~・・・ずっとそれだと面倒くさいわね、ほら、お姉ちゃんが抱っこしてあげるわ』

 

そう言ってアリーゼは少年を女神から取り上げ抱き上げ、お構いなしに家から飛び出した。

少年は震え、女神に助けを求めるがアリーゼは聞く耳を持たずに心地よい夜風を浴びながらスタスタと歩いた。格好としてはキャミソールにホットパンツで完全に寝るつもりの格好なわけで、けれど、

 

『今日はすっごく星が綺麗なのに・・・勿体無いわ』

 

そういって、アリーゼにしがみ付いて泣きじゃくる少年の頭を撫でながら、家の近くの小高い丘にたどり着く。少年を降ろしてやるもギュッとキャミソールの肩紐を掴んでいたがために、危くポロリをしかけたがそれでも降ろしアリーゼは腰かけその上に少年を座らせた。

 

『ほらベル・・・怖くないから、目を開けて』

『いや・・・帰りたい・・・』

『綺麗な瞳を持ってるのに、勿体無いじゃない』

『お義母さんは嫌いだって言ってた。だからいなくなったんだ』

『そんなことないわよ。』

 

アルフィアがいなくなった原因を自分なりに考えたのか、自分の瞳が原因のひとつなのだと思ったのか頑なに瞼を開けない。そんな少年の頭を優しく撫でながらアリーゼは後ろに倒れこんだ。

 

『――――っと』

『・・・うわぁっ!?』

 

少年を抱きしめた状態で後ろに倒れこんでアリーゼの上で少年は強制的に仰向けになって、瞼を開けてしまった。

 

『・・・・・』

 

瞼をあけて、固まっていた。

どんな顔をしているのか、少年の真下で同じく仰向けになるアリーゼには分からぬことだが、それでも『2人がいなくなってからまともに空を見ていないのは確か』だと思ったから目はこれでもかと泳いでいることは何となく想像がついていた。

 

『綺麗ね』

『・・・・』

『ねえちょっとベル。』

『・・・何?』

『【アリーゼさんの方が綺麗だよ】とか言って欲しいんだけど?』

『・・・・綺麗だよ』

『はぁ・・・まだまだね、言わされてる感があるわ。せっかく私のおっぱいを枕にしてあげてるのに』

『・・・・』

 

感情の荒波は落ち着いたのか、静かに少年は星空を眺めていた。

胸のあたりでアリーゼは腕を交差し、それにそっと少年は手を乗せる。

 

『アストレア様ってね【星乙女】とも言うらしくてね』

『・・・・うん』

『つまり、この満天の星空全てが、アストレア様よ!ふふん、すごいでしょ!』

『?』

 

私たちのアストレア様ってすごいのよ!と自慢げに言うも少年にはよく伝わらなかったらしく、首を傾げられ豊かな胸は形を変えた。

 

『アストレア様のおっぱいって柔らかいのよ・・・そして大きいの』

『うん・・・』

『一緒にお風呂入ったからわかるでしょ?』

『うん・・・』

『でもね、アストレア様よりすっごいおっぱいを持った女神様もいるの』

『?』

『貴方のお爺さんがダイブするレベルでね。・・・・あれはすごいわ、マジで』

『お爺ちゃんは大体いつも女の人のお胸にダイブしてるよ?』

『そうね。私もついフッ飛ばしちゃったわ』

 

何故か女神のおっぱい談義になってしまっているが、アリーゼはペラペラと会話を途絶えさせない。

 

『私のもまだまだ成長予定よ』

『そうなんですか?』

『こら、敬語禁止。・・・っと、そうよ。これでもまだ育つ予定よ。あと輝夜も大きいわ。あとで触らせてもらいなさい』

『うーん?』

『まあ女神様には敵わない・・・・あ、いや、勝てる相手もいるか』

『いるの?』

『ま、まぁ・・・それは言わないほうがいいわ。うん。平和が一番だし?』

『?』

 

アリーゼは豊穣の女神と美の女神とを思い浮かべ、一番勝ち確な、糸目で朱色の髪の女神を思い浮かべたが、さすがに言わない事にした。

 

『ねぇ、アリーゼさん』

『んー?』

『帰ろうよ』

『怖いの?』

『うん』

『大丈夫よ、私達がいるもの』

『・・・・』

『ベル、ちょっと見てて』

 

そう言うとアリーゼはベルを自分の上から降ろし、ある程度感覚をあけて詠唱した。

 

『【アガリス・アルヴェシンス】』

 

彼女を包むように、炎が巻き起こる。

それに少年は目を見張りアリーゼを見つめる。

アリーゼはそのまま炎を弱めて、コントロールし腰に手を当てて渾身のドヤ顔を披露した。

それは少年にとっての初めて見る魔法ではないが、けれど、『目視』という意味では初めてだったのかもしれない。その炎は温かく、暗い夜闇の中、少年をしっかりと明るくし照らし続けていた。

 

それは、ある種、少年にとっての『聖火』だった。

 

『きれい・・・』

『ほらベル、暗いのにこんなに明るくなったわ!』

 

気がつけば、ただただアリーゼのことだけを見つめていた。

炎をなびかせ、くるりと回って見せたり、まるで踊っているかのように動いて見せたりとする彼女の動きに、炎に少年の恐怖心は胸の奥に仕舞われていた。

 

『ベルが怖いなら、私がちゃんと照らしてあげるわ! 常に前を歩いてあげる!貴方が怖いと思うものも、やっつけてあげる!』

『・・・』

『だから、貴方なりに追いつきなさい!【正義】がどうのと難しいことは貴方には聞かないわ!』

『え』

『あ、でも、悪いことしたら怒るわ!』

『正義の味方にならないといけないんじゃないの?アストレア様の眷族なら』

『そんなわけないじゃない。何言ってるのよ。いい?『正義』に答えは出ない。いいえ、進んだ分だけ複雑化する。人々が、時代が、世界が、唯一の『正義』なんて許しはしない。』

 

夜闇の中、丘の上で明るく燃える優しい炎は、アリーゼは少年の胸に刻むように大きな声で言う。

 

 

『それでも、追い続けるの!いくら笑われようとも、神様に馬鹿にされたって!だって、変わり続ける『正義』を追い求めることは、不変じゃない私達にしかできないことだから!』

『僕達にしか、できないこと・・・』

『私達が灰になって天に還った時、神様に叩きつけてやりましょう!これが私達の『正義』だって!悩んで、間違って、ボロボロになって、それでも辿りついた『答え』はこれだって、私達の生涯をもって証明するの!』

 

だから、聞かないけれど、考え続けなさいとアリーゼは言い、徐々に炎を消しながら

 

『だから前へ! 恐れずして、前へ!前進あるのみよ!』

 

そう言って、完全に炎を消して再びベルのもとに戻り、今度は横にピタリと密着して座る。

少年は横に座るアリーゼの顔を、瞳を揺らしながら見つめていた。

何を思ったのか、それはわからぬことだけれど、それでも、この夜闇の出来事を、はじめて見た『聖火』を少年は忘れはしない。

 

気がつけば少年はアリーゼにおぶられ、家に向かっていた。

うとうととしながら、けれど、すっかりアリーゼに絆された自分がいることに困惑しながらも自分の体を預けていた。

 

『いい、ベル?』

『?』

『ベルは私達にたいして、今はまだ複雑な思いだろうけど・・・覚えておいて』

『?』

 

彼女の顔は見えないが、彼女は彼女なりに、女神とは違って何かを少年に示そうとしていた。

当時の少年には理解できたかはわからないけれど、それでも、アリーゼは自分の背中を見せ続けた。

 

『何を好きになり、何を嫌いになり、何を尊いと思い、何を邪悪と思うか。それは貴方が決めること。他人の言いなりになることでも、周りに合わせて考えることでもない。人間は多種多様だし同じ価値観は1つもない。だからこそ、貴方なりの『答え』を見つけなさい』

 

『・・・・アリーゼさん』

 

『ん?何?格好いいこと言われて、お姉ちゃんのこと好きになっちゃった?』

 

『何言ってるのか、わからないよ・・・』

 

『がーんっ!?』

 

 

まぁ話としては少年には理解が難しすぎたし、アリーゼは

 

『アリーゼ、寝巻きの格好で外に出ないで頂戴』

『アリーゼ、こんなところで魔法を使って、火事でも起こすつもりですか?』

『団長様?なにやら随分盛っておられたようでございますが・・・野外プレイも結構ですがもう少し声を抑えていただけますか?近所迷惑でございます』

 

などと散々な言われようで、しくしくと汗を流しに風呂場に行ってしまうが

 

『アリーゼさん』

『ん?どうしたの、ベル。一緒に入る?』

『それはまた今度』

『えー・・・じゃあ、どうしたの?』

 

自分でも何を言おうとしたのか、わからなくなったのかモジモジとしてそれを年上の女性達は微笑ましく眺めていて少年はシャツをぎゅっと掴んで顔を真っ赤にして

 

『アリーゼさん達を、恨んでいたりは・・・してない、よ』

 

それだけ言って、少年は女神のもとに駆け寄ってベッドに潜り込んだ。

ぽかん、とするアリーゼではあったけれど、彼女は少し遅れてニコニコとしながら衣服を脱ぎ捨て風呂場に行くのだった。

 

その日の出来事、その炎を見たときから、別に命を救われたというわけでもないけれど、確かに少年は温もりを得た。故に、それは少年にとってアリーゼは

 

 

紛れもなく、英雄になったのだ。

 

少年の道を明るく照らし続ける英雄に。

 

 

■ ■ ■

 

 

「ベル・・・付与魔法(アガリス・アルヴェシンス)を展開して、構えなさい。」

「!」

「たぶん、魔石ごと破壊できるかわからないから・・・・ベルがトドメを刺して」

「・・・わかった。」

 

剣を下段で構えたままのアリーゼは少年に指示を出す。

それを素直に聞いて、付与魔法を展開し槍を構え『黒いミノタウロス』との最後の突撃のように片手を地に着け、いつでも疾走できるように構えた。

 

階層主の行動を止めようと、あるいはその巨体を地に落としてやろうと、執拗なまでに二本の脚が狙われていく。想像を絶する鉄壁振りよって歩みこそ完全に止められないものの、前衛攻役(アタッカー)の波状攻撃によってゴライアスの動きは確実に鈍っていた。そして彼等が奮闘するなか、とうとう魔導士達の詠唱が完了する。

 

 

「前衛、引けえぇっ! でかいのぶち込むぞ! 蒸発したくなかったら引きやがれえぇっ!」

 

 

前線に号令が飛ぶと同時、アスフィや桜花、他の前衛攻役(アタッカー)達はただちにゴライアスのもとから離れた。ちょうど包囲網の中心に誘導されていたモンスターは、周囲で高まっている魔力の塊にその赤眼を見開く。もう遅いとばかりに魔導士達はそれぞれの杖を振り上げた。魔法円(マジックサークル)の輝きが弾け、次の瞬間、怒涛のような一斉射撃が火蓋を切る。

 

『―――――――ッッ!?』

 

連続で見舞われる多属性の攻撃魔法。

火炎弾が着弾すれば雷の槍が突き刺さり、氷柱の雨と風の渦が炸裂する。一部『魔剣』の攻撃も加わり、階層主の巨躯が砲火の光に塗りつぶされた。

 

やがて魔導士達の一斉射撃が止み聴覚を麻痺させるほどの爆音が途切れ、全ての冒険者達が固唾を呑んで砲撃中心地を見守る中、立ちこめた煙が薄れるとともに、どんっとゴライアスの片膝が地に着いた。顔面部分を始めとした黒い体皮は傷つき、抉れ、赤い血肉を晒しており口からは蒸気のような白い呼気が、消耗の深さを物語るように大量に吐き出されていた。

 

そこに、さらに追い討ちをかけるように

 

神武闘征(しんぶとうせい)――【フツノミタマ】ッッ!!」

 

頭を垂れるゴライアスに、極東の少女が重力の結界で押さえつけた。

半径10Mに及ぶ巨大なドーム状の力場。それを確認したアリーゼが、動く。

 

ブーツに収束された白い炎は、通常よりもはるかに高威力で地面を抉り、1歩1歩が速い。

そして、全身に纏わせていた白い炎を一気に剣に収束。剣はその炎の熱で伸長し、真っ白に発光。ボトボトと地面に、液状化した鉄が零れ落ちる。

 

そのまま白く発光する炎の塊と化した剣を、アリーゼは下段から斜めに切り上げて解き放った。それは、アリーゼにしかできない、紛れもなく『英雄の一撃』。

 

「―――【全開炎力(アルヴァーナ)光炎(フレア)】ッッ!!」

 

集束された炎が光炎(フレア)となり、甲高い音と共にゴライアスの右横腹からそのまま左上斜めに焼き斬り、蒸発させ、ゴライアスの遥か背後の壁面にまで傷を生んだ。重力の結果が消失し、ゴライアスの下半身はただ巨大な魔石を露出させて自己治癒を行おうとしているのか、肉をブクブクと言わせていた。

 

アリーゼはスキルと魔法を同時に解除し、柄しか残らなかった剣を手放し、地面に両手両膝をついて大量の汗を流し後方のベルに大声で指示を出した。

 

 

「ごめんベル、ズレたッ!! そのまま魔石を砕きなさい!!」

 

その大声と共に、少年は低い姿勢のまま疾走。

最も信頼している姉の炎を纏い、真似事をするようにブーツに炎を収束させて真っ直ぐ、一直線にゴライアスへと接近。重力の結界のせいで崖のようになってしまったところで飛び上がり、【狩人の矢(ヴェロス・キニゴス)】に炎を集め、炎の槍を投擲した。

 

「ぁあああああああああああっ!!」

 

火災旋風(かさいせんぷう)のように炎を渦巻かせた銀の槍が、再生しようとする肉ごと魔石を焼き砕く。

 

 

巨人がいた場所には、大量の灰と火の粉が宙を舞っていた。




ビームサーベルというか、バーナーぶん回して焼き斬る感じ。


13kや
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